夫達と妻達の時間 3

 「と、ともかくどう誘ったのか、大人しく吐くんだモミジ!」


 す、少し回り道をしてしまったが、モミジがどう誘ったのか問い詰めねば。

 そう思いながら僕はそう言ったのだが、僕の質問に対するモミジの答えは僕の想像を上回るモノだった。


 「……ワタクシはシンプルですわ。 『タツヤ、私を抱きなさい!』っと言ったのです!」

 「な、ななななな……も、モミジは痴女なのか!?」

 「違いますわ! 年上として当然の事をしたまでですわ! あ……吐き気が……」

 「ほら、洗面器……」


 まったく、こう所々吐かれたら流石に僕も心配だよ……。

 しかし、年上として当然? 僕は良く分からないのだけど?


 「ふふ……、分からないと言いたげな顔をしてますわね……」

 「あ、当たり前じゃないか! 自分から誘うのが年上として当然と言う意見は僕には理解できない! だって、だってそんな事したらビッチって思われかねないじゃないか!」

 「まったくアナタは……」


 そして上に人差し指を向けて、得意げな顔のモミジは僕に向けてその理由を述べる。


 「年下にモテる年上って、積極的でそして頼れる存在だとワタクシは認識していますし、そんな年上の女性を好きな男性って、消極的で優柔不断な方が多いと思っていますわ。 勿論、タツヤもそうですわよ!」

 「へ? でもタツヤ君って明るく良い子じゃないか? まったくそうは見えないけどなぁ」

 「あの子と前の会社で出会った時、自己主張の少ない子で、もじもじしていて、それは腹立たしい感じでしたわよ。 なので、ワタクシ自ら、彼の性格をアメとムチで変えて行く事にしたのです。 せっかく会社に入ったのですから、会社に貢献できる人間にならないと本人が後々困ると思って……」


 うーん、タツヤ君ってドMなのかな……。


 「まぁアメとムチと言うよりは、誉めると言うアメに、叱りつつ励ますムチって感じですわね。 褒める時は『よく出来ましたわね、アナタなら出来ると思ってましたわ!』といって頭を撫で、叱る時は叱っている理由と失敗する理由を手短に説明し、そして『アナタは出来る子なのですわ……、だからワタクシの為にも頑張って……』と言って泣きながら抱きしめる。 まぁ時と場合によって色々使い分けますけど。 そして2年ほどで、私に順応で素直な良い子に生まれ変わった訳ですわ」


 タツヤ君のイメージが崩れていくなぁ……、明るい好青年ってイメージだったのに、何だか忠犬ってイメージが……。


 「ただ、タツヤが立派に育ってから数カ月したある日の事でしたわ」

 「ある時?」

 「そう、それは人事で別の部署からセクハラで有名な方が移ってきて、事もあろうに、移ってきたその日からワタクシのお尻を触ってきましたの……。 ホントならビンタでもしたいところでしたが、立場としてはあちらが上でしたし、何より相手は社長の友人の子供だとか。 だから、生活の為にも逆らう訳にはいきませんでしたわ……。 そして、そんなセクハラを受けながら夕方になった頃、その男は遂に『良い胸してるね、グヘヘ……』と言って私の胸を揉みだしたのです! その時、タツヤが静かにその男を殴り飛ばしてくれまして……。 その時ですわね、一人の後輩から一人の男として意識してしまったのは……」


 訂正、意外とタツヤ君男らしいじゃないか!

 うんうん、確かに困ったとき助けてくれる男って良いと思うよ、僕も〜!


 「そしてその後、夜の居酒屋で二人で話したのです。 そこで「あぁこのままだとアナタがクビになりかねないですわ……」なんてワタクシが心配していたら、タツヤが『そ、その! 自分はココに入社した時からモミジさんが好きでした! でも当時は勇気がなくて自分は何もできませんでしたけど、今はモミジさんのおかげで堂々とした男になれました。 だからこそ言います! 俺と結婚を前提に付き合って下さい、そして、モミジさんを守らせてください!』と告白してくれましたの〜」


 また訂正、タツヤ君、その告白は凄い重いんじゃないかい……。

 と言うか……。


 「僕はどうして君ののろけ話を聞かなければいけないんだい! 僕は夜のお誘いについて聞ければ十分なんだ!」

 「ワタクシ寂しいんですの! つわりが酷くなって家にいるから寂しいんですの! あ……洗面器……」

 「はいはい……」


 僕とあろうものが、ついモミジの話なんかに聞き入ってしまった……。

 ……でも、ちょっと素敵だと思ったけどさ、のろけ話……。

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