幼馴染は何年たっても素直でない 5

 「帰ったぞ」


 暗い玄関で靴を脱いだ俺は、俺はアカネの寝ている寝室へと向かう。

 すると。


 「ふふ……ゲホ……、随分急いで帰って来たみたいだね。 いつもより少し汗をかいている様だ……」

 「お前な……、寝てろって……」

 「イヤだね……。 今日一日君の顔を見なければ寂しくてたまら……ゲホ……」


 寝室へと続く階段から、ふらつきながら顔を赤くしたアカネが俺を出迎える。

 どうも朝出た時よりも顔色が悪い、悪化した様だ。


 「全く、世話が焼ける……」


 俺はアカネの目の前に立ち。


 「ほら、寝室に行くぞ」


 そう言うのだが。


 「イヤだ……」


 アカネは首を弱弱しく振る。

 コイツ、体が弱っているんだから、無理しないでいいだろうに……。


 「お前な、子供じゃないんだからな、早く寝て……」

 「お願いだ……」

 「…………」


 アカネの弱弱しい言葉……。

 そしてその右手は俺のスーツの袖を握っている。

 ……はぁ、全くコイツは……。


 「俺は家事をするが……一緒にいるか?」

 「…………」コクリ

 「それと……明日休みだから一緒に病院に行くか?」

 「ゲホ……」コクリ

 「……なら、おぶってやるから乗れ」


 俺は体を低くすると、アカネが背中に静かに乗る。

 首に絡みつく腕、胸を押し付ける感覚、ハァハァと言う息遣い、そしてアカネが発する甘い香り。

 アカネの全てが背中から感じられる。

 だから分かる、アカネの苦しみを……。


 絡みつく腕は弱弱しく、そして胸を強く俺に押し付けている。

 きっと身体がだるく、力が入らないのだろう。

 ハァハァ言うアカネの息遣いは苦しそう、なのにこの甘い匂いは俺が以前『いい香りする』と照れながら褒めた時の香水の匂い。

 コイツ、自分を大切にすればいいのに、俺を気にしやがって……。

 そして、俺はアカネをおぶると、家事を放棄して階段を上ろうとする。


 「…………」

 「ど、どうして階段を上ろうとしてるんだい……? 家事をやるのだろう……?」

 「家事はお前をおぶっていたら終わった、だから後はお前を世話するだけだ……」

 「嘘つき……」


 そして、俺の首にアカネが噛みつく。

 弱弱しい……。

 それは甘噛みをしているのか、かむ力が出ないのか分からない。

 ただ俺は前を向いたまま口にする……。


 「嘘でいい。 そんな姿のお前を流石にほっとけるか」


 


 …………。


 「寝汗でベタベタするんだ……」

 「そうか、ならちょっとタオルとお前の着替えを取って来るぞ」


 俺はそう言ってアカネがいる寝室から出ると、一階の浴室に向かいながら、懐からスマホを取り出し、電話をかけ始める。

 相手は佐々木イツカ室長。

 俺の部署の責任者で、俺が入社した時からお世話になっているアカネの姉。

 性格は明るくお茶目、そして懐が深い為、多くの部下から好かれている。

 まぁ、おしゃべり好きすぎるのが、たまに傷だけど……。


 プルルル、プルルル、プルルル、ガチャ。


 「もしもし、お義姉さん、今いいですか?」

 「おー何何コーちゃん? あ~分かった! とにかくガソリンを入れに行きたい気分なんでしょ〜? それならね~南三道にある店で『みつ子』って店があるんだけど、そこで一緒に一杯をいっぱい飲んで……」

 「あ~そうじゃなくてですね……」

 「へ? 飲みの誘いじゃないの?」


 お義姉さん、俺そんなに飲みの誘いしてないぞ……。


 「あ~あれか、ベットへのお誘いか! でも私、15の娘がいるから〜……でも、そういう誘い、乗るのも嫌いじゃないわね~。 大好きな妹の家庭の平和をぶち壊しにして、私の心も壊してしまって、ふっふっふ……」

 「お義姉さん、それ洒落になってないですよ……」

 「あはは、流石に冗談よ~。 んで、何の用かしら?」

 「実はアカネが風邪を引いてまして、ちょっと明日休みを貰いたいんですよ」

 「あ、アカネちゃんが!? 分かったわ、それなら仕方ないわね。 でも、1つ条件があるわ!」

 「はい?」

 「アカネちゃんの胸を自由に揉ませる権利を要求する!」

 「アイツの嫌がる顔が目に浮かびますよ……」


 だからアカネが嫌ってるんですよ、会うたびに胸を揉んだりベタベタ触ったりするから……。

 まぁ可愛がっているのは大変分かりますけど……。

 しかし、これ以上長話する訳にはいかないな。


 「お義姉さん、すいませんがそろそろ……」

 「あ、もうちょっと喋りたいんだけど! あ、ちょ……」


 俺は無理やり電話を切った、ホントおしゃべり好きだな、あの人……。

 っと、早くアカネにタオルと着替えを持って行かないとな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る