たまには夫同士で会話を…… 2

 「酒が回ってきたところでオメェら、せっかくだし、このアプリを使ってそれぞれの家庭の話ををしねぇか?」

 「アプリ? 話? どういう事だ?」

 「それは、これだ……」


 そしてシンはスマホを取り出し、何かアプリを開き、並んで座る俺とタツヤに画面を見せてくる。

 一言でいうならただのルーレット。

 ん? 一体何を考えているんだ、シンの奴は……。


 「コイツはトークルーレットってアプリでな。 スタートボタンをタッチすると、ルーレットが回りだし、玉が入った番号のトークテーマが表示されるって訳だ! そしてその後、誰が話すか表示されるって寸法だ。 なに、既に名前は登録してある!」

 「なるほどな……。 しかし準備の良い奴め……」

 「なんか面白そうっすね!」


 タツヤは目を輝かせ、身を乗り出す勢いでシンの話に食いついた。

 まぁ俺個人としても、こういう運任せのゲームは悪い訳ではないし、何よりコイツ等を信頼できる、だから。


 「やるか?」


 俺はその言葉で自分の意思表示をする。

 そして、そんな俺たちの賛同の空気を感じ取ったであろうシンは。


 「では早速、始めようじゃねぇか!」


 楽し気な笑みを浮かべ、ゲームの開始を宣言するのだった。


 …………。


 「さて、最初のテーマは……喧嘩、それで話すのは……俺ちゃんか」


 さて早速回りだしたルーレット、そして画面に現れたのは『トークテーマ、喧嘩した話』それにに続くように『話す人物、シン』と言う文字。

 そして選ばれたシンは、雪代家の独独な家庭内風景を口にしだす事になった。


 …………。


 俺様のカミさん、氷菓のあねさんとの喧嘩、今まで何回もあるんだが、その中でも未だに理解できない事を一つ。


 オイラは、株で儲けてるモンだから、まぁ殆ど一日姐さんとデート気分を味わえるってるってンは知ってるよなぁ?

 まぁ普通だったら、こう、カミさんの性格とか、カミさんの好きなモノとか、カミさんの癖とか、んな事がわかってしかるべきなンだろうが、ありゃ全く分かんねぇ。

 知ろうとすればするほど、分からなくなる、まるで霧の海の中だ。


 んで、そんな霧の海の様な存在の姐さんの最も謎だった事、それがだな……。


 突然リビングで寝転がって、な……。


 いや、俺様もトイレから帰っての突然の出来事だったから、一体何かと思ったんだがな、名探偵を自称するオイラも無表情でビッタンビッタンする姐さんの目的は分かんなかった訳よ!

 だから俺ちゃんは。


 「氷菓の姐さん、名探偵俺ちゃんでも、そのビッタンビッタン大作戦が何主張したいのか分かんねぇよ! ヒント頂戴って、ヒント〜」


 なんて言ったらよ。


 「ヒント、そのまんま!」


 なんて淡々と言った訳よ。

 俺様必死に考えた訳よ、そのまんま、ビッタンビッタン、まぁ色々な!

 そして俺は閃いた! そして口にしたのさ。


 「分かった、それは漢字の大を表しているんだな! つまり俺様がピクニック感覚でトイレに行っていたから、大きい方をトライするタイミングを残念ながら逃しちゃって……ぎゃ!」

 「シン、愚か、制裁……」


 …………。


 「そしたら、めちゃめちゃ怖い目つきで首掴まれて、俺様死ぬかと思った……」

 「シン、そりゃ命知らずの発言をするお前が悪い……」

 「ははは、そりゃシンさんが全面的に悪いっスわ~」

 「何だよ冷たいなぁお2人ちゃん……。 俺様、正の直に事実を言っただけなンだぜ〜」


 俺はたまに思う、シンの奴はやっぱバカなんじゃないかと……。

 まぁ、シンの言いたい事も分かるが、最後の発言が悪すぎる、デリカシーが無さすぎると言うか……。


 「まぁ、とりあえず俺の晩は終わったわけだし、次に行こうぜ!」


 そう言ってスマホをタッチしルーレットを回し始める。

 その結果は。


 「俺か……」


 どうやら俺の様子。

 そして話す内容は『夫、妻の好きなとこ』と言う俺の苦手な話だった。


 …………。


 その、何だ……。

 俺はアイツと結婚してそんな長く経っていないが、付き合いは長い訳だな。


 小さいころ、アイツは負けず嫌いでな、その、根の部分は変わらないと俺は思っていてな。

 例えば最近も、タツヤの嫁であるモミジと料理の腕で喧嘩したらしくてな。

 今、一生懸命に料理の勉強をしているんだ。

 だけどな、アイツはなんだ、取り組むと決めたら一生懸命でな。

 とにかく数をこなして覚えようとすると言うかだな……


 えーっと、そのだな、つまり、その、えー……。

 まぁ、俺はアイツの一生懸命な所が好きと言うかだな……。


 …………。


 「こ、これで俺の話は終わりだ」

 「あはは。 ホント、コータローさんは不器用ですよね、奥さんについて口にする時〜」

 「ダメダメ。 もっとカミさんに『今日は君のたまんねぇ魅力に魅了されていてな、一発やらないか?』とか言わないと〜」

 「お前みたいに、変人じゃないから言えないんだよ、んな事を!」


 全くこのバカは何を考えているんだ、恥ずかしくないのか!?

 だがまぁ、アイツに素直に言えたら、アイツは嬉しがるのだろうか? それとも……。

 俺の脳内は一瞬、そんな不安に覆われたが。


 「さーて次に行ってみようか! 俺様そろそろ従者君の話を聞きたいなぁ〜」

 「ははは、選ばれたらいいっスけどね~」


 この3人での空気を吸っていると、そんな湿り気は明るさによってかき消された。

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