女子ゲーム交流会 6

 「よし! 今こそ僕の戦略で毛利家を一気に……」

 「…………」


 情けない話だが、クッションに座る俺は、ゲームに夢中なアカネの姿を静かに眺めるだけだ。

 いつもであれば、アカネがベタベタして来たり、世間話をしたりして、まぁ明るい声が部屋に響いているハズだ。

 だが、今はアカネがブツブツ言葉を呟くだけだ。


 情けない話だが、家庭ではやや受け身だった俺は、自分から何を話せばいいか分からない。

 妻であるアカネに、どのような話をすればいいのか分からない。

 今のアカネとどのような距離で話せばいいのか分からない。


 ただ考え事が増えるだけだ。

 俺は一体どうすれば……。


 「ふふ、後は一気に攻めて……」


 待て、そう言えばアカネはゲームをしているんだ。

 ここは話を合わせるべきだな!

 そして俺はアカネが顔を近づけるノートパソコンの横にクッションを置き、画面を見ながら話しかける。


 「アカネ、面白いか?」

 「ん~」

 「調子はどうだ?」

 「ん~」

 「…………」


 どうも俺はお邪魔なのかもしれない。

 ここはおとなしく、家事でも終えて、早く寝るかな?


 …………。


 プルルル、プルルル、プルルル……。


 結局俺は眠る事も出来ず、落ち着かない気持ちを解消するためベランダに出て星空の下、電話をかけている。

 その相手は。


 「あら、コータロー。 こんな時間に一体どうしたのかしら?」

 「すまないな、モミジ……。 ちょっと相談があってな」

 「あら、一体なんですの?」


 アカネの天敵のモミジだ。

 正直、電話をかける時間も、妊娠している相手にかけるのも、問題ばかりなのは理解している。

 だが、俺の携帯の中で、女性の、それも妻としても気持ちが分かりそうな相手、つまり結婚している女性の連絡先となるとモミジしかいないのだ。

 その、氷菓先輩の連絡先でも知っていればよかったのだろうが、どうもあまり会話が発展しないと言うか、ちょっと苦手意識があると言うか……。

 まぁその為、俺はモミジに相談する事にしたのだ。


 「実はな、アカネの奴がゲームに負けた事で落ち込んでいたんだ。 それで事情を聴いた俺は『落ち込んでいるのはお前らしくない、負けず嫌いなんだから練習したらどうだ?』って言ったら、ずーっとゲームにのめり込んでしまっていてな。 その、情けない話だが、話がないと、その、さ、寂しいと言うか……」

 「こ、コータロー!? アナタが寂しいですって!? オホホホホホ、面白い事を言いますわね!」

 「わ、笑うなよモミジ! ……お、俺だって真剣に悩んでいるんだ……」


 まったくモミジの奴……、俺が寂しいって言ったらおかしいのか?

 俺を何だと思ってるんだ全く……。


 「ふふ、この前車に乗せてもらいましたし、私が何とかしてあげますわ! フフ、でもコータローったら、意外とアカネを愛しているのですわね」

 「い、意外は余計だぞ……」

 「では、本気で……って事ですわね?」

 「……の、ノーコメントだ!」

 「まぁ答えは受け取ったと答えておきましょう、ではワタクシが何とかしてあげましょう!」


 電話はガチャっと切れた。

 そして……。


 「な、何だって!? 僕が妻として失格だって!? バカを言ってはいけないな、僕が、フニャ? 食後何を話したかって? それはその……アレだ、アレを話したんだ僕たちは! あ、アレアレ詐欺だって、な、何を言うんだ牛乳は!? ぼ、僕が嘘をついている訳が、アレって? その、アレは、アレさ! その〜……」


 室内から聞こえるアカネの声、どうやらモミジが電話をかけてくれたらしい。

 ふふ、すまないアカネ、モミジ。

 それとモミジ、今日は本当にありがとう、アカネ、ワガママな事をしてすまない。

 でも、それほど大切だと分かったんだ。

 だからいつかそれを、口に出来たら……。

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