夫達と妻達の時間 5

 あれは焼き肉の食べ放題に行きたいと言った時の事だ。


 俺はその頃野球部だったから、肉を良く食べに行っていたんだが、ある日アカネとモミジが。


 「焼き肉の食べ放題に行きたいけど、行ったことがないからついてきて欲しいんだ!」

 「そうなんですの……。 ちょっと訳あってアカネさんと行かなければいけませんので……」


 って言われてな。

 その時は『1年かかって、やっと仲直りするんだろうな』と思って安心していたんだ。

 だが、現実は……。


 「僕は今日、君以上に大食いだと言うのを証明してあげるんだ。 だから大人しく『私の負けですわ、アカネ様……、ワタクシが愚かでございました』と僕に謝るんだ!」

 「何を言うのです! ワタクシが体格的にも大きいので、良く食べるに決まってますわ! そちらこそ『モミジ様、小柄で小さな心の僕を許してください』って言うのが先ですわ!」


 肉をどっちが多く食べれるか?って言い争いの末に焼き肉の食べ放題に行くことになったが、二人ともそんな店に行くのが初めてでどうすれば良いか悩んだ挙句に俺に頼むことになったらしい。

 しかし、今振り返ってみると、あの頃からあの二人は、なんだかんだで一緒に行動している事が多かったから、もしかしたら腐れ縁なのか、ライバル関係なのか、はたまた一種の友情なのか断言しにくい部分もある訳だが……まぁそれは置いておいくとしよう。


 正直この頃になると、二人の言い合いに慣れてしまって『いつもの事』と思っていてな、以前のようには割って入らず、軽く制止する様になっていたんだ。

 その為、俺は二人の争いを無視してガンガン、カルビを食べていたんだが。


 「う、ううう……僕はまだ……」

 「ワタクシは……まだ……」


 あの二人、頼みまくった挙句、残すと言う暴挙を行ってな。

 おかげで俺が頼んだ分を全部食べるハメになってな……。


 …………。


 「俺は初めてあの二人を優しく叱ったぞ。 『競争するのはいいが、迷惑をかけてはいけないと思うぞ』って。 それからは過度な競争はしなくなったな」

 「つまり、今がまだマトモって事ですか……。 モミジさん達、当時凄かったんですね……」

 「あの頃の二人は、学級委員の選挙や生徒会選挙でも色々やらかしているからな。 生徒の買収や、派閥の拡大とかな。 まぁ二大派閥と呼ばれて盛り上がっていたな、あの頃は……」

 「モミジさんに人望があったのが良く分かるような……」


 確かにアカネにしてもモミジにしても、カリスマ性はあったと俺は思う。


 アカネは実家が料理屋なのを生かして、安くて美味しい女子会メニューとか、安くて量のあるスポーツマンの為のメニューなんて言うのをお義父さんに提案し、それを宣伝し多くの学生を呼び込んで、徐々に支持を集めていった。


 それとは違い、モミジは男子生徒の人気を利用して、ファンクラブを作ると、そのファンたちにお願いし、徐々に男子たちの支持を得ながらも、女子生徒たちへ向けてファッションの情報を提供し、女性の支持を同時に得る手法を取っていた。


 結果的にはアカネの方が僅かに多い支持を集めた訳だが、まぁ今考えたらあの頃が一番楽しかったかもしれないな。

 ……あぁ、昔が懐かしいな……。


 「コータローさん、昔を思い出しているんです?」

 「ん? あぁまぁな……」


 しかし、昔の話を話すだけでも、こう面白く感じるものなんだな。

 いや、これが年を取ったって事なのかもしれないな……。

 ……しかし、ふと思ったがタツヤとモミジの馴れ初めを聞いたことがないな。

 まぁせっかくだし聞いてみるか。


 「なぁタツヤ、お前とモミジの馴れ初めってどんな感じだったんだ? ふと気になってな」

 「じ、自分とモミジさんの馴れ初めっすか!? ……な、内緒にしてくださいよ、ちょっと恥ずかしいんですから……」

 「分かった、言わないと約束するぞ」

 「……なら、話しますよ。 モミジさんとの馴れ初めを……」

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