愛と言う名の下に…… E

愛と言う名の下に…… 11

 「ま、待ってくれ!」


 キョースケの唇が止まった。


 「そ、そのだな……僕と君は、今日会ったばかりなんだ! だからその、キスって言うのは、早くないかな……? なんて!」

 「ゴメン……。 だって俺、アカネが好きすぎてさ……。 早く俺のモノにしたくなっちゃってさ……」

 「そ、そうかい……、そ、その気持ちは嬉しいよ……」


 や、止めろぉぉぉぉぉぉ、そんな急に弱気なところを見せながら熱い思いをぶつけないでくれ!

 ぼ、僕を戸惑わせるつもりか、キョースケ!?

 僕はコータローが浮気してないと考えたら、申し訳なくて……。

 そう僕が冷静さを失っていると。


 「じゃあ、今から俺、その気持ちを伝える為、アカネを食べて良い?」

 「ふにゃ!?」


 僕の冷静さを欠かせる言葉をかけつつ、僕に迫ってくる。

 つ、つ、つ、つまりアレかい!? アレなのかい、食べるって言うのは、その襲うって感じの……。

 あ、キョースケの唇が近づいて……その、カッコいい顔が近づいて……。


 あぁ僕はもう駄目な様だ……。

 心も、身体も、きっと彼を受け入れようとしているんだ。

 だって、僕の手が彼を拒む様動いてくれない。

 僕の身体が逃げようともしない。

 そして、僕の胸はドキドキと音を奏でて、頬を熱くする。

 あぁもういいさ……、キョースケ、僕は君の物になるよ……。


 …………。


 (あのさ、その……お前、寂しかったんだよな。 その……俺はバカで鈍いから察するのが遅れたと言うか……すまん……)

 「やっぱりダメだ!」


 何故かキョースケの寂しげな顔が浮かんだと共に、砂のトレジャーハントのお金でケーキを買ってくれた時の言葉が、僕の脳内に流れ、そして僕はキョースケに手を伸ばし、その動きを止めた。

 分からない、自分でも、何で思い出したか分からない。

 でも、思い出してみて僕は、一つの事を理解した。


 何だかんだ僕はコータローを心から愛しているんだと……。



 「どうして……どうしてなんだいアカネ!? 俺は君を愛しているのに……」


 キョースケも予想外だったのだろうか?

 僕に戸惑った顔でそう言ってくる。

 だけどそんなキョースケに。


 「あのね、コータローはね、自分で『俺はバカで鈍い』って僕に言ったことがあるんだ。 でもさ、僕もバカなんだよ。 君といる時も、コータローの事を無意識に考えてしまっていたんだ……。 はは、僕はそれだけバカなんだよ、浮気されても頭から離れない位、バカみたいに好きなんだよ僕は! だから、だから……ゴメン! でも君の気持ち、とっても嬉しかったよ……ありがとう。 君なら僕より良い女性に出会えるハズさ……」

 「あ……」


 僕は自分の感情を吐き出す様にキョースケにそう伝え、プールを後にした。

 でも、ありがとうキョースケ、君と会えたのは本当に良かった。

 出来る事なら、僕より素敵な女生と出会えることを願っているよ……。


 …………。


 僕は水着から着替えると、僕は部屋に戻った。

 ベットの上に座り、ただ外を眺める僕。


 僕はホントバカだな……。

 冷静に考えてみれば、離婚届とあんな手紙を置いてきているのにどうやって戻れば……ん?

 僕がふとスマホを見ると、着信アリ、相手はモミジからだ。

 ……もしかしたら……。

 僕はもしかしたらに期待を持ちつつ、モミジに電話をかける。


 「…………」ガチャ

 「何やってるのアナタは!」

 「!?」


 電話がつながると同時に、モミジのバカが大声で僕を怒鳴る。

 いきなり何なんだい!? 全く失礼な奴だな!


 「何だいモミジ! 君に怒られるような真似はした事無いんだが!?」

 「いつも悪口を言うその口が何を言ってますの!?」

 「あれは悪口で無くて、挨拶さ! 君の怒った顔をみるととてもすっきりしてね、いつもありがとうございます!」

 「もっとタチが悪いですわよ! ホント貧相な胸を持っていると失礼な事を言いますわね!」

 「げ、下品な胸に言われたくないんだけど僕は!」


 まったく、ホントまったく!

 人の悪口を言うなんて失礼だと思うけどね、僕は挨拶だから悪くないもん!


 「……それで、一体何の様だい?」

 「……戻ってきなさいアカネ、コータローが心配してますわよ。 あと今、アナタのいるホテルに向かっているハズですわ、家出した最愛の人を迎えに行く為に……。」

 「そ、そうか、そうか、良かった……」


 良かった。

 それが僕の気持ちを表している様な気がした。

 だって、ホントに浮気しているのだったら僕を心配する訳もない。

 ここに迎えに来ようとする訳もない。

 だけど、コータローはやって来た、僕を迎えにやって来たんだ!


 「……ホント、アナタが居ないとコータローはダメですわね。 冷静に判断も出来ない位になって……」

 「ほ、本当かい!?」

 「ええ、本当ですわ」

 「そ、そうかい!? ま、まったくしょうがないなぁコータローったら……。 僕が居ないと何もできないのだから……」

 「それを主婦力0のアナタが言っているのは滑稽ですわね!」

 「うるさい! 牛乳女!」

 「し、失礼ですわよ! まったく助け船を出してあげている相手に!」


 そうやって僕とモミジが話していた時、部屋の電話が鳴りだす。

 僕は「ちょっと待ってくれ」とモミジに言うと、部屋の電話を取り。


 「はい」


 と電話の向こうに声をかける。

 正直、何の電話か予想もついていたし、それは予想通りの電話であった。


 「モミジ様、旦那様が一階受付にいらしていますが、いかがいたしますか?」

 「当然会うさ……、だから少し待たせておいてくれ……」

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