愛と言う名の下に…… 前編

愛と言う名の下に…… A

愛と言う名の下に…… 1

 9月……。

 俺は最近、夫婦でクリスマスを迎えるにあたり、アカネをどう驚かすか? という事をアカネに内緒で考えている。


 何故俺がこんな事を考えているかと言えば、出張の時にホテルでたまたま見た地域の番組の中で。


 『新婚1年目のクリスマス、結婚記念日、パートナーの誕生日は大切にすべき!』


 と言っていたのが事の始まりだ。


 以前のキス云々の話の時は、嘘だろ?と疑った俺は、今回も『またまた』と思っていた訳だが。

 ・1年目のクリスマス、結婚記念日、パートナーの誕生日と言うのは、相手の事をどれだけ思っているか?というのを証明する日でもある。

 ・それを1年目から怠るという事は、相手に愛を持って結婚していないと言っている様なモノ。

 と言う二つの言葉が俺に突き刺さった結果、その事実に納得してしまった。

 

 なので俺は、いつ仕事が忙しくなっても行動できるように、早めに計画を練り、クリスマスにサプライズとして驚かそうと思っているのだが、どのようなサプライズが良いか分からない。


 「うーん……」

 「あれ? コータローさん、どうしたんスか? 悩み事っスか?」


 そう昼休みの机で悩む俺に、タツヤが少し心配そうに声をかけてきてくれる。

 うーむ、ここはタツヤに正直に言うか?

 いや、しかしなるべく内密にしたいんだが……うーむ……。

 ……まぁ相談した方が良いか、答えが出なくてクリスマスを迎えたら、それこそ最悪な結果だからな。


 そう思った俺は、早速タツヤに内密に相談をするのであった。


 「内緒の話なんだが……、実はこっそりアカネが喜ぶような、クリスマスプレゼントを考えているんだが、なかなか浮かばないんだ……」

 「なるほど〜……。 我が家は新婚の頃、外食が多かったので、クリスマスの時くらいって思って、自分で料理を作りましたよ。 その頃は正直、料理をあまりやってこなかったので、スマホで調べながら頑張りましたが、まぁ出来た物はあまり……。 ですけど、モミジさんは褒めてくれましたね『タツヤが頑張ったのだから、その気持ちだけで十分ですわ!』って! それから料理を作る楽しみに目覚めましたね~」

 「うちは料理を良く作っているからその手は使えないな……。 何か、他に手は無いか?」

 「ん~……。 あ、それなら、新人の水島ノアちゃんなんかどうですか?」

 「ん? ノアにか?」

 「ええ。 やっぱり若い子の方が流行に敏感ですし、何より女性の意見を聞いた方が良いサプライズが用意できると思いますからね」

 「なるほど……」


 確かにタツヤの言う通りだと俺も思った。

 となると、仕事終わりにでも、ノアに相談するとするか……。


 「ありがとうタツヤ。 礼はいずれするからな!」

 「いえいえ、良いですよそれ位。 いつもコータローさんには助けてもらっている訳ですし……。 それに、前にお願いして焼き肉屋に連れて行ってもらったりしていますからね」

 「そう言えばそうだったな。 まぁそのうち食事にでも行くか?」

 「それは、クリスマスが成功してからにしましょう! せっかくですからアカネさんに使ってあげないと!」

 「ふふ、すまんな……。 っとそろそろ仕事再開の時間だぞ、お前も戻れ」

 「はい!」


 しかし、俺も良い後輩を持ったと思う。

 仕事の事では相談される俺だが、結婚生活についての経験は、間違いなくあちらが上だしな。

 ホント、頼れる良い後輩だよ、タツヤ……。


 …………。


 さて夕方の5時になり、仕事が終わった俺は、新人のノアの下へと向かう。


 ノアは、大学卒業と同時にこの会社に入った新人の一人だ。

 正直入ってまだ一年も経たないので、まだ仕事を出来るとは言えないが、それでも素直で一生懸命で気遣い屋で、会社を明るくしてくれるムードメーカーの様な存在。

 また、短い髪の活発そうな美人という事で、社内でもちょっとしたファンクラブがあるとか?

 ただ、社内では許されているとはいえ、年上にも幼い感じの口調で話す為、他社と話す時に素の口調が出ないか?とちょっと心配にはなるが……。

 まぁそれでも、総合的には一番評価の高い新入社員だ。


 「ノア、ちょっと良いか?」

 「あ、コーさん! 私、また一歩前に進んだよ~! これでまた一人前に近づいたよ~!」

 「おぉ、そりゃ良かったな! ところで、ちょっとお前に相談があるんだ」

 「相談? 相談!? わ、私に相談って何何〜!?」


 そして俺は、椅子に座り、目を輝かせ、無邪気で嬉しそうな顔のノアに、クリスマスプレゼントをどうするべきか?について聞き始めるのであった。

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