休日に幼馴染とデートを! B
休日に幼馴染とデートを! 3
「モグモグモグモグ……」
僕は、あの忌まわしい歩くわいせつ物との口論に勝ち、今勝利の美味しい焼き肉を堪能している訳だ。
あぁ実に美味しい!
この塩気の利いたカルビが、アイツの敗北の涙の様で、ふふ、ふふふ……。
「ふふふ……。 所詮、牛女では天才の僕に口論で勝つ事なんか、不可能だったのさ、あっはっは〜!」
「周囲から冷たい目で見られていた時点で、お前ら2人とも負けだからな?」
「…………」
そんな事言わなくても良いじゃないか……。
僕もこんな時は、一緒に『そうだな』って言ってほしいんだけどさ……。
…………。
ここは焼き肉屋の中にある、白い大理石の床の個室。
真ん中にはテーブルとイスが置かれ、そこに肉を焼く網があり、そして煙を出すダクトの様なモノがその上に備え付けられている。
それだけなら、どこかにありそうな焼き肉屋だが、この店はプライベートな空間を演出する為か、完全防音になっており、元気な子供を連れてきても周りにあまり迷惑ではないという事から、子供連れにも好評だ。
「ほら、カルビが焼けてるぞ? どんどん食べろ」
「あ、ありがとう……。 ところでウーロン茶が無くなったから僕は追加注文したいのだけど、コータローは何か頼むかい?」
「スマン、なら俺もウーロン茶を頼む」
「ふふ、任せたまえ! では早速この注文パネルで注文しておくよ!」
しかしまぁ、そんな空間でせっかく僕とコータローの二人っきりで食事をしているのだから、こう見合う形でなく、隣り合う形で……その、誰にも迷惑は掛からない訳だし……。
それもできれば、ベッタリ体を寄り添ってだね……は!
ふふふ、ならば今、僕の纏う香水の匂いで、魅了してしまえばきっとコータローは僕を押し倒してくれるかもしれないね。
そうすれば、お泊りフラグがもう一度立って……ふふ……。
ならば、天才的な僕の頭脳で、コータローが匂いをかがざるを得ない状況に持ち込むまでだね……。
「コータロー、どうせだったら隣り合って座らないかい? そうすれば、君も僕の皿に肉を入れやす……」
「そういう前に、お前は少しは自分で焼け」
「…………」
ま、まぁこれくらいは想定していたさ、決してこんな展開になるとは思っていなかったとか、黙々と肉を焼きながら言わなくても良いじゃないかとか、決して思っていないさ僕は……。
だ、だから次の作戦だ!
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 足をつってしまったあぁぁぁぁぁぁ! コータロー、僕の足を見てくれないだろ……」
「お前は2時間座っても足をつらないんだから嘘だろ」
「…………」
ふ、ふ、ふ、不満何て思ってないさ……。
『と言うか何だい、さっきからそっけない態度は!?』とか『何だい、何か僕に不満でもあるのかい!?』とか思ってないさ……決して思ってないんだ僕は!
こうなれば……。
「…………」
「いた! お前いきなり人の足を蹴るな! 一体何が不満なんだ!?」
「ふふふ、僕は君の嫌がる顔を見たくてやっているんだ。 ほら、僕を叩くがいいさ! ほら……ほら……」
「…………」
ふっふっふ、こうなれば僕を叩く為に僕に近づかざるを得ないだろう。
そうなれば僕の匂いを嫌でも嗅いで……、ズズーって何の音だい? あ!
「椅子を引くなんて卑怯だぞ! 僕の攻撃が届かないではないか!」
「何で大人しく蹴られなきゃならんのだ、俺が……?」
く、くそ……僕の作戦をことごとく……。
も、もしやコータローは僕の行動を読んでそんな行動を取っているのか!?
だからそんな険しい顔を浮かべているのかい!?
なら、この行動にも頷ける。
ふふ……ふふふ……
それなら僕は回避不能の反則コンボを使おうではないか……。
「おっとすまない、少し席を外すよ」
「そうか、分かった」
そして僕は席を立つと、ゆっくりとトイレに向かい、そして中へと入る。
「ふふふ……、ここまで追い詰めたコータローが悪いのさ……。 大人しく僕の匂いを嗅いでいればいいものの……」
僕は悪い笑みを浮かべながら、ポケットから例の香水『獣たちの挽歌』を取り出し、そしてそれを遠慮なく、エキスが無くなるまで身体に振りかけ続ける。
そうさ、室内を僕のフェロモンで満たしてしまえば、どこにいようが逃げられないさ……。
「はは、ははは、あははははは!」
僕は確信した勝利の高揚感で笑いが止まらなくなっていた。
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