第5話
「むっ!全軍方向を変える。向こうの方に進路を取れ!」
騎士団長はそう言って方向を変える。
「アジム殿これは一体…」
アジムは魔術師団団長の一人である。
「…あの山に賊が潜伏してたんでしょうが、こちらの部隊に気付き慌てて逃げた可能性が有りますね。ソウエル殿、部隊をスパローが示す方向と、元々示した方向に分け挟み撃ちを!」
ソウエルは騎士団団長の一人。
「成る程な…よし、各部隊に連絡!一から三は新たな進路に!四から五は今までの進路に!四から五の指揮権は四の騎士団長・魔術師師団長に委ねる!」
そうして混戦部隊は二手に別れ、道を進む。
◇◇◇
「おい!急げ!馬車を隠しているところまでもう少しだ!」
お、おい、もっと大事に運んでくれ……。
籠が、籠が揺れまくって、て。
「へ、へい!」
「あ、あなた!ち、ちょっと早いわよ!」
その意見に賛成ですお頭?
もう少しゆっくり行けませんか?
「急ぐんだ!」
駄目なんですね…。
「でも…、もう…きゃあ!」
「おい!大丈夫か!…おい、馬車は何台使える?」
へえ、この世界の盗賊は馬車を何台も持っているのか……。
それか思ったよりも大きな盗賊団なのか?
「一台は今日乗り潰したんで、残り五台でさぁ」
「一台に無理やり詰めれば何とか全員いけるな……」
「お頭、馬が潰れるのが早くなる!」
「仕方がないだろう!」
今思えば部下を大事にしてるんだな……。
俺が思ってた盗賊とはちょっと違うようだ……。
「でも、お頭……」
「分かってるよ!俺達の村まで行けば何とかなるさ!」
んっ?俺達の村?んっ?ええ!村だと!!
「んっ?」
「どうしたんで?お頭?」
「いや、今こいつが今まで大人しかったんだが、急に動きやがったもんでな……」
「赤子なら当然じゃ?」
「…それもそうか……。おい、急ぐぞ!」
「「へい!」」
◇◇◇
その頃第4・5混戦部隊は。
「くっ!森じゃ馬や馬車は使えぬか…よし、第5混戦部隊はこのまま山の中を探索だ!第4混戦部隊は山沿いを行き、強襲をかけるぞ!急げ!」
◇◇◇
第1・2・3混戦部隊は。
「まだ、賊は見つからないのか!」
「未だに連絡はありません!」
「急げ!スピードを上げるのだ!」
「団長!」
「どうした?見つかったか!」
「い、いえ、ですが、この進路近くに村があるみたいです!」
「村だと?……いや、あの村か…よし、第3混戦部隊はザイール村に進路を取り、着き次第警戒体制をとるんだ!」
「良いのですか?部隊を更に別けても」
「あぁ、仕方がないですよ。賊が逃げ込み村人まで襲い出したら目も当てられないですからな…」
「そうですな…むっ、そろそろ馬がバテそうですな。回復魔法の準備を!」
「はっ!」
「それにしても、賊は移動中みたいですな……」
「みたいですね……この方向ならもう少し右を進行したら賊の前に行けませんかね?」
「それもそうですね。よし、進路を変更!目標!賊の前方に出るぞ!」
◇◇◇
「お頭!やっぱり無理ですぜ!馬が何時もよりも遅いですぜ!」
「くっ、よし!なら俺を含め何名かは馬車から降り村近くの隠れ家の小屋に移動だ!アルト王子もこっちに預かる!誰か他に降りるやつはいないか!」
「お、お頭!俺も着いていきやす!」
「よし!他の馬車にも伝えろ!」
「へい!」
◇◇◇
「団長!賊のアジトらしき洞穴を発見しました!」
「でかした!中はどうだ?」
「それが、荷物はあるんですがもぬけの殻でした!」
「くっ、やはり察知されてたのか……よし、半数は荷物の確保にあたり、王都に帰還。内容を陛下に伝えるのだ!」
「おや?この足跡は…」
「どうされましたか?……成る程、やはりこの足跡は…」
「ええ、スパローの指し示す方向ですな。数は…30強といった具合ですな」
「流石です。よし!混戦部隊は、賊の追跡に入るぞ!」
「おぉ!」
◇◇◇
「不自然な広場と、馬車の後を見つけました!後、馬が一頭と馬車が一つ有りました」
「くっ、賊は馬車持ちか!…よし、馬車に馬は押収する」
「了解致しました……ですが、スパローの指し示す方とは少し違うようです!」
「……何?」
「どうやら二手に別れたみたいですね」
「よし!こちらも二手に別れるぞ!本体はスパローの指す方へ。もう一部隊は賊の馬車を追うのだ!」
「はっ!」
◇◇◇
「と、止まってください!騎士様方!」
「むっ、警備の村人か」
「どうしたんですか?いきなり…本日来られる予定は無かったはずですが……」
「すまぬ、急ぎなのだ!村長は在宅か?」
「そ、村長は居られますが……」
「では、案内してもらえないでしょうか?その間の警備は我々が引き受けますので。…おい」
「はっ!」
◇◇◇
「大変です!遠方に砂煙を発見しました!間違いなく騎士団の奴らかと!」
「何!くっ…お頭が居れば…なら、各人、普段着に着替え、馬車を散開させザイールを目指す!もし、騎士団に会っても狩りをしてたと伝えるんだ!」
「へ、へい!」
◇◇◇
「そこの馬車止まれ~!」
「こ、これは騎士様方…ど、どうされたんで?」
「…村人か?諸君らは何処の村の者か?」
「…ザイール村でさぁ」
「ザイール村か、馬車二台で何処に行かれるか?」
「狩りをしようと魔物を探してたんですが、中々見つからず…」
「……村の食料調達か…すまないが、中を拝見しても?」
「へ、へい」
「…うむ、問題ないようだな。ここいらで賊が出た可能性がある。出来るなら村に帰還してほしいのだが?」
「ぞ、賊がですか…なら、村に帰還いたしやす」
「うむ、なら村まで護衛をしよう」
「ご、護衛ですか?そ、そんな騎士様に…勿体のうございます!」
「大丈夫だ。気にするな」
「あわわわ」
◇◇◇
「そこの馬車止まれ!」
「!村に騎士様が?こ、これは一体……」
「賊が近くに潜んでいる可能性があり、このザイール村の警護にあたっています。して、君らは?……この村の住人か?」
「へ、へい…そうでさぁ、昨日から狩りをしてたんですが…魔物一匹と捕まえられませんでさぁ……」
「ふむ、魔物狩り…ですか…良かったら馬車三台の確認をしても宜しいか?」
「へえ…大丈夫だども…」
◇◇◇
「で、村長殿。急で申し訳ないが、我々騎士・魔法師団が村の警護に当たっても問題ないか?」
「騎士様方にですか?……我々の村は何にもないからつまらないですが……」
「そこは気にしないで大丈夫だ。では、警護に取りかかります」
「は、はあ…」
◇◇◇
「お頭!小屋が見えて来やした!」
「急ぐぞ!」
小屋に入り
「いつ騎士団が来ても良いように、偽装を開始する!」
「へい!」
◇◇◇
「ソウエル殿小屋のようですな」
「そのようです。アジム殿、人数は分かりますか?」
「【魔力探知】……ふむ、中には七名は居るみたいですが、アルト王子の反応は無いようですな……」
「アルト王子の反応は無いですと?魔道具かあるいは亡くなっているか、スパローの案内間違いと?」
「そうですな。ただ、殺害はないでしょうな。スパローの契約が生きているので」
「そうですか……よし、小屋の包囲を行う!」
「はっ!」
「突撃されたくなければ、小屋から出てくるのだ!」
「ひ、ひーっ!き、騎士様方!オラ達はただの村人でさぁ!」
「出てきたな!…おい!お前中には後六名居る筈だ!全員出てこい!」
「くっ!人数までバレているのか…魔法師団まで派遣されているとは……とりあえず、村人を装い全員出るぞ」
「へ、へい!」
「うむ、全員出てきたな……アジム殿念のためもう一度お願いします」
「そうですな【魔力探知】……ふむ、全員揃っているみたいですね。魔法師団は警戒体制!」
「はっ!」
「すみません。おい、お前達。お前達にはアルト第11王子誘拐の疑いがある。抵抗無く縄に付くのだ!」
「そんな騎士様!俺達はただの村人だ!アルト第11王子様誘拐なんて知らねぇよ!何が根拠にそんな事が言えるんだ!俺達はここで村の為に狩りをしなくちゃならないんだ!」
「村とな…何処の村だ?」
「俺達はザイールの者だ!」
「ザイールとな?ここで狩りをしている…それは村長承認の行動か?」
「当たり前だ!」
「成る程…村長の承認済みか、それは確実なんだな?」
「…あ、ああ」
「成る程、成る程。で、それがどうした?よし、全員コイツらを縛り上げろ!」
「はっ!」
「なっ!何もしてない村人を縛り上げる事はいくら騎士様でも許されることじゃない!」
「何もしてない村人ならな。……スパローを放せ!スパローよお前の主人の所に行くのだ」
「~~~♪」
「ス、スパローだと?何故騎士様が魔物を……」
「団長!スパローが小屋に入っていきました!」
「うむ、よし。二名は小屋を探しアルト第11王子を保護するのだ!」
「はっ!」
「くっ……そんな…」
「団長!アルト第11王子を保護致しました!ただ、魔道具を抱き抱えている見たいです」
「アジム殿」
「ふむ、任せてもらいます。……やはり、隠蔽の魔道具みたいですな。それなりに高価な魔道具ですが、何故こ奴等が?」
「背後に魔道具を融通した者が居るかもしれませんな。おい、魔道具はどうやって手に入れた!」
「……」
「黙りか…ザイール村に向け出発する!賊は縛ったまま歩かせろ!」
「はっ!」
◇◇◇
「団長!御無事で!」
「うむ、こちらは無事アルト第11王子を保護いたした。全員に村の包囲網を!村長を呼んでくるのだ!」
「はっ!」
「き、騎士団長様!こ、これは一体……?」
「お主は?」
「わ、私はここの村長でございます」
「お主がの…よし、引っ捕らえろ!」
「はっ!」
「ひ、ひーっ!そ、そんな横暴な!」
「黙れ!賊が!」
「ひーっ!」
「団長!」
「どうした?」
「別経由の混戦部隊がこのザイールに集まってます」
「スパローを連れた部隊は既に到着してるから、分隊達か。よし、点呼を取り報告があるならこっちに来させろ」
「はっ!」
◇◇◇
凄いな、俺一人誘拐されただけで千人を超える騎士達が捜索に来るとは……。
改めて王子なのを分からされるな。
それにしても従魔契約は便利だな。
離れていても、何となくだがスパロー達に指示が出来るなんて……色んな魔物と契約を交わし俺だけの軍隊も夢じゃないな。
将来が楽しみだ。
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