第6話

 誘拐事件は無事に解決した。

 ザイール村の住人は今は全員が死刑だったり、罪人奴隷となり無人化した。

 今はザイール村は騎士団の演習場として使われることが決定した。


 ザイール村の村長に依頼をしたのは、それなりに大きい貴族や、その下に付いていた貴族達が主犯格だった。

 貴族の称号は剥奪され大半は死刑となり、財産は国に没収されたらしい。


 そして、幾日幾年も過ぎ俺は五歳になり、王子として新たに意識付けと、色んな勉強や特訓が始まった。


「アルト王子には程々驚かせられます……」


 ここはカインドの執務室。

 王子達の教育を任されている者がアルトについてカインドに愚痴を溢す。


「今日は何があったのだ?」


 書類確認の手を止め顔を上げながらそう言うカインドは何処か嬉しそうに尋ねる。


「五歳になり、新しい一般業務や礼儀作法に剣術に魔法訓練を始めたのですが、どれも素晴らしい成績で……特に一般業務や礼儀作法と魔法訓練は完璧でした……」


 対して教育を任されている者は呆れた表情でカインドに報告をしている。


「ほう?それはどのくらいだ?」

「教え始めた日に、教える事が無いくらいにです……」

「物心がついたときには本を読み始め、図書室に入り浸っていたからなあいつは……」


 そう思い出すように天井を見ながらカインドは言う。


「どうされます?更に上…今第2、3王子と同じ内容を始めても宜しいかと」


 ここに来て悩む、年の差が一回り違う者と同じ教育でいいのか……と。

 だが、カインドはある意味ここでアルトを試すために


「其ほどか…うむ、お主が言うのだ間違いないだろう。直ぐにでも開始してよい」

「はっ!」


 そして、アルトが知らぬとこで勉強が追加された。


 カインドと教育を任されている者が、アルトの教育方針を決めた数時間後、アルトの姿はアルトの私室にあった。


「あの…この内容は五歳児がする内容と違う気が……」


 机に突っ伏しながら、だらけてそう言うアルトに対し教育を任されている者は


「陛下には許可を貰ってます。で、アルト王子。領地経営にはですな……」


 うぉぉぉぉっ!

 出来る子をアピールして、自分の時間を増やす計画がぁぁぁっ!

 俺専用の特別魔物部隊の夢がぁぁっ!


 本日の勉強や訓練が終わり時刻は夕暮れ時。


 やっと解放された……。

 クインズめあからさまに次々に難しい授業しやがって……。

 改めて、神書を見といて正解だったな。

 あの神書は一般常識と言いながら、グイグイ専門知識も覚えれるからな……あれがなかったら、かなり大変だったな。


 転生する前に手に入れた一般常識の本…アルトは神書と名付けているが、知りたい内容が全て記載されているので、ついつい今もまだ読み続け莫大な知識量となっていた。

 それでもまだ、読み終わらない神書なのだが、不思議なことに分厚さは変わらない。


「アルト居るかい?」


 アルトの私室に誰か来たようだ。

 神書をアイテムボックスに直しドアへと向かう。


「その声はオーウェン兄様?」


 オーウェン兄様はオーウェン第1王子のことで、アルトの実の兄となる。


「そうだよ」

「今開けます!っと、どうされたんですか?」


 俺達兄弟は派遣争いもなく、普通に仲が良い。

 仲が良いのだが、この時間にオーウェン兄様が訪ねて来るのは余り無いことだ。


「ちょっと相談なんだけどね。来月の第13王子か第8王女の出産予定で、兄弟が少しお金を出しあって御祝いをするんだけど、アルトも五歳だから参加をしてもらわないといけないんだ。お小遣いに余裕はあるかい?」


 俺達は月に一度少なからず陛下…父上からお小遣いが貰える。

 金額は年齢に応じて違うのだが、俺の場合は月に金貨二枚は貰えるようになった。


「確か……私が生まれた際は兄様や姉様方から洋服を頂いたと聞いてます。分かりました。大丈夫ですよ」


 俺担当のメイド長から聞いた話だが、そうらしい。


「本当かい!助かるよ!」

「兄様……ただ初めての事なので金額が分からないんですが……」


 お小遣いが貰えたのはこれが始めてで、貰えた額以上は渡せないので、恐る恐るオーウェン兄様に聞く。


「ああ、すまない。アルトはまだ五歳だから金貨1枚で大丈夫だよ」


 良かった…何とか足りるな。


「1枚ですか?……だったら…あった!はい、兄様」


 ポケットに手を入れ、アイテムボックスから金貨を取り出す。


「……金貨を服に入れていたのかい?」

「たまたま持ってましたので」


 俺がアイテムボックスを使えるのは内緒なので、そう誤魔化す。


「そうなのか。ありがとうアルト、では」

「はいです、兄様」


 そして又一人になる俺。

 それにしても金貨か…


 そう言って何枚もの金貨を取り出す。


 俺、五歳児。

 城以外、外出許可が降りてない、五歳児。

 買うとしたら普通、自分の部屋に飾るインテリアを買いにメイドや執事にお願いするのみ。

 城下町には何が有るのかも分からないのに。

 全てのインテリアのデザインは他人任せ。

 うん、無理だな。

 気に入らないかもしれないのに、頼めないな。


 さて、本当に何に使おう。

 無理に使わなくてよいのだが、最低今月は金貨を1枚使わないといけない。


 何故なら陛下曰く、何かに使えばその分国が豊かになるとの事だ。

 元日本人の俺は重々承知済みなのだ。が、転生する前に色んなアイテムを手に入れたから本気で買うものがない……。

 うぅむ……。


 困った。そんな困った時には


 チリーン


 俺は部屋に備え付けているベルを鳴らす。

 このベルは二つあり一つは執事、一つはメイドを呼ぶものだ。

 そう時間もかからずドアをノックされ、入室の許可を出し入ってきた。


「アルト様お呼びですか?」


 黒の執事服を着た男性。

 この男性は俺が産まれた際に専属の執事となった者で名はゼロスという。


「すまない、ゼロス。呼んだのは他でもなくお小遣いの件だ」

「お小遣いですか?」

「そう。欲しいものがなく、父上…陛下決められた金貨1枚の使用方法が分からないんだ。せめて城下町に行けたら欲しい物が出てくるかもしれないけど、今のままだと使うことが出来ないんだ」

「そうですか…インテリア等には興味はありませんか?」

「そうなんだが、自分の見た物以外だと置くつもりはないな…」

「なら、従魔のために何かを取り寄せるとかはどうです?」

「スパロー達か……それも大丈夫みたいだ、あいつ等はあのままでも十分みたいだ」


 そうスパローが居る窓際に視線を送るも、今は運動のため、城の回りを飛び回っている。


「そうですか…なら、寄付なんてどうですか?」

「寄付?何処にだ?」

「はい、孤児院です。もう少し金額があれば月1の炊き出し等が上げられますが、金貨1枚なら寄付が良しいかと」

「孤児院?王都に孤児院があるのか?」

「はい、戦争や冒険者業で親を無くした子供に、財政困難で弾かれる子供達が居ますので……」


 戦争は最近はないって聞いていたが、冒険者ね…やはり冒険者があるから冒険者ギルドも、あるんだろうな。


「孤児院は何処が管理してるんだ?」

「国の援助で何とか成り立ってますが、基本は孤児院を作った者達本人です」


 国や各町の領主が管理してないのか……。


「個人で孤児院を…それって、成り立っているのか?」

「正直、ギリギリです。ある程度国に申請したら、一月に人数分が養える金額が補助されますが、それは食事代のみでその他経費は含まれないのです」

「それって、無理だろ?」

「……実際にはそこに居る子供達が、ゴミ拾いや除草作業等の簡単な仕事をして、定期的に少ない収入を得て、何とかやりくりしてますね」

「子供も働いているのか!」

「左様です」


 流石異世界。

 現代日本では考えられないな、地球にはそう言った国もまだあっただろうが……この、城下町に存在するとなっては、無視はできないか……。


「成る程な、働くと言ってもいくつから働いているのだ?」

「五歳からとか…」


 同い年でこの差とは……


「……そうか…ならゼロス、俺の毎月のお小遣いで、余った額は孤児院に寄付をお願いする。いくつも孤児院があるなら、財務状況が厳しい場所にな」

「はっ、承りました」


 ◇◇◇


「父上、アルトです。入ってもよろしいですか?」


 俺が来たのはカインド王…父上の職務室だ。


「うむ?アルトか、入れ」

「失礼します」


 実際にここに来たのは数えるほどだ。

 スパローに新しい鳥籠をねだった時と、変な感じがするインテリアの処分をお願いした時位などだな。


「珍しいな、俺のとこに来るなんて。どうしたのだ?」

「城下に出て、町並みを見聞したく思います。どうか、場外の外出許可を貰えないでしょうか?」


 カインド王は俺の言葉で何やら考える素振りを見せ


「……ならん。特にアルトは物心がつく前に誘拐をされておるのだ。未だに未熟なお前には許可は出来ん」


 と言うが、完璧に拒絶しているようには見えない。


「未熟…ですか…なら、未熟では無くなるのはどうなったときですか?」

「剣術も魔術も上達する十歳が適正年齢だ」

「適正年齢?もし、剣術も魔術も上達するのが早かったらもっと早く出れると?」

「出来ればな。だが、片方なら早めに出来るだろうが、両方だと難しいぞ?十歳を過ぎて十五歳の学園生活の時に始めて外出許可を得られる兄弟が多いのだぞ?」

「…頑張ります。父上、ありがとうございます!」

「うむ、頑張れよ」


 外出許可を得られる可能性に俺は、職務室を出ていく。


「ゼロス」

「はっ!」

「お主のお陰でアルトが城下に興味が出たようだな……」

「はて?元からのような気もしますが?」


 職務室ではカインド王と俺専属の執事であるゼロスがそんな会話を行っていた。


 ◇◇◇


 部屋に戻ってきた俺は改めて自分のステータスを見た。


 名前 アルト・ディオング・ミルフェルト

 年齢 5 種族 人間 レベル 2

 職業 魔物使い 5 見習い魔法使い 8

 見習い僧侶 3 見習い戦士 4 料理人 4

 錬金術師 1 鍛冶師 1 農家 1 調教師 1

 遊び人 4 王子2

 犯罪履歴 無し

 スキル

 農業 X 料理 Ⅸ 建築 X

 設計 X 裁縫 Ⅶ 調教X

 剣術 Ⅳ 光魔法 Ⅵ 火魔法 Ⅴ

 土魔法 Ⅳ 水魔法 Ⅴ 風魔法 Ⅵ

 耐性

 属性耐性 Ⅷ 状態異常耐性 Ⅵ

 魔法耐性 Ⅴ 物理耐性 Ⅲ

 加護

 運命神 製作神 創造神

 体力 C 魔力 C スタミナB 力 B

 防御力 D 器用 EX 素早さ C

 運 EX 精神力 C 魅力 E


 ふむ、定期的にステータスは確認しているが、鑑定の儀から変わっているのは年齢に職業とスキル位か、やはり体力等はレベルが上がらないと変化しないんだろうな。

 何気にスパロー達も見てみる。



 名前 無し レベル 1

 年齢 8 種族 スパロー

 職業 無し

 犯罪履歴 無し

 スキル

 雀の目 Ⅱ

 体力G 魔力G スタミナG 力G

 防御力G 器用G 素早さF

 運G 精神力G 魅力G

 称号

 従魔契約

(アルト・ディオング・ミルフェルト)


 こちらも変わらずの状態か……。

 さて、父上が出した課題で剣術と魔術も合格したなら外出許可を貰えるんだったな。

 ちょっと気は引けるがやるしかないか。


 そう思い、俺はベルを鳴らす。


 チリーン


 相も変わらず速攻来たゼロスに、読書をするから誰も入れないようにお願いし、ゼロスも退出させる。


「スパロー!」


 そして、スパローを呼ぶ。

 呼ばれたスパローは自分で鳥籠を開け俺の所まで飛んできた。


「ちょっと、外出をするから付き合ってくれ」

「「「「~~~♪」」」」


 そうスパローから返事を貰い、俺はスパロー達と飛ぶ。

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