第37話


 コンコン


 ここはカインドの執務室。

 カインドはアルトに対して考えていた最中に、執務室のドアがノックされる。


「陛下!アルト王子お付きのゼロス様がいらっしゃいました!」


 そうドアの向こう側から声をかけてきたのはカインドを警備している、城の騎士だ。


 ゼロスが?何かあったのか?今日はゼロスが来る予定は無かった筈だが……。


「通せ」

「はっ!」


 執務室の前を警備している騎士にそう告げ、扉からゼロスが入ってくる。


「陛下御無沙汰しております」

「うむ……。で、どうしたのだ突然……アルトか?アルトが何やら、やらかしおったのか?」


 こうやってゼロスが突然にやってくることは時々ある。

 まぁ、決まってそういった時はアルトが開拓しておる町で何かあった時だ。

 ……前回来たときは、ダンジョンでスタンピードが収まった後だったか……。

 まぁ、それもアルトやあの町で何かあれば直ぐに連絡をよこせと指示を出しているから仕方がない。

 ただ、毎度部下ではなく、暗部の師団長総括自ら来るとは……だが、それほどの重代案件だったからな……。

 何だ、ほとんどの報告書が良い方向にだが、おいそれと気軽に出せる内容じゃなかったような……。


「……アルト様より報告書を預り、お持ち致しました……」


 ああっ……また何やらやらかしたんだな……。


「アルトから……寄越せ……何か、あったのか?」

「ある意味良かったことで、ある意味大変かと……」


 そう言われゼロスから報告書を受け取り、カインドは恐る恐る目を通す。


「ふむ、農業地区は順調とな!」

「……はい、今や更に広く田や畑を開墾しております」


 初めに書かれていたのは農業地区の田や畑を拡張するとある。

 人口が増えつつあって更に食糧を作りたくなるのは分かるな。


「ふむ、商業モールは開店し他領からも商人が来ては繁盛とな!」

「……はい、特に今は開店セールなる事をして通常価格より幾らか安くしているお陰かと」


 ふむ、商業モールの店舗は前の報告書であった通りに、テナント?と言われるやり方でモールの中に小規模の店を出店出来るやり方だったな…。

 今は安く売っておるようだが、通常価格に戻した時にどうなる事やら……。

 もし、うまくいけば他所の町でも各領主が始めるであろうな……。


「ふむ、ダンジョンからの資源も採掘可能になって、人員を更に集めておるのか!」

「……ダンジョンマスターのクナイ殿が鉱山エリアを作り、金属の採掘が可能になりました」


 こ、これはデカい!わが国でも金属の取れる鉱山は幾つかあるが、他国からの買い付けをするほど足りていなかったからな!

 何だ!ゼロスのやつめ!良い事尽くしではないか!よし!次はなんだ?


「ふむ、町の開発も大詰めとな!もう、完成間近とな!」

「……はい、後は各地域後との商店や宿屋を再度出店を考えるだけとか……最悪は住民が増えたら町を更に広くする案も出ておりますが、それはまだまだ先の事かと思われます」


 むぅ……早い、早すぎる……。

 あの町並みは今の文化の何倍…いや、何百倍も先に進んでいるような気がする……。

 作業が早く終わるのは、アルトが開発した様々な道具と、あいつの従魔の存在がかなり大きいな……。

 もう一つはあいつの異常な魔法か。

 あいつの魔法で整地から、堀の作成まで終わっていたのも関係があったな‥‥‥。

 アルトよ…どこでそんな魔法を覚えたんだい…?


「…ふむ、手が空いた作業員達はスキルに応じだ職業に就かせたようだな。お陰で商業ギルドに売る品が増え、利益が出ているみたいだな」

「……はい、アルト様の考案なさった道具が、町や他の領地にも大変人気でそれでも生産が間に合っておりません」


 ふむ、借金奴隷達は自分の返済が出来るまで商業モールで販売する物の作成に、町の警備に何?鍛冶に錬金や他様々な職業に就かせたのか‥‥‥。

 ここには、借金奴隷達の解放後の未来と町の利益を考え実行らしいことが、書いてあるが‥‥‥。

 最早子供の域を超えておるな、アルトのやつ…。


「ふむ、来年武道大会を開く予定とな?」

「……その頃には町開発も終わり、完成記念として開いてはと会議で議題として上がり、陛下にもそのお話をと……こちらが立案書です」


 武道大会だと!我が国でも王都にしか行っていなかったが、あれはいい!実に楽しみだ!どれ、騎士団からも選出しなければな‥‥‥。

 何名まで良いのだろうか‥‥‥。

 よし、近々視察に行きその時に直接話してみようではないか!


「ふむ、そうか。で、農業地区以外にも生産地区を開拓するのか?」

「……はい、開拓町から出て西に農業地区同様に村……もう町でしょうか……作られる予定です」


 もう、次なる村の建設も始めるのか‥‥‥。

 農業村を見てみるが、あれも相当凄いからな‥‥‥。

 一体何処の砦なのかと思うぐらいしっかりした城壁があったんだが‥‥‥。

 確かに規模は村だったが、あれは砦と言っても良いんだぞ?アルトよ?


「あの新種のウイードはアルトの従魔のウイードが原因だったか!そうかそうか、はっはっは!」

「…………」


 いかん、砦を村と勘違いしたのは、幼い頃から城の中で城壁に囲まれた生活のせいなのか‥‥‥。

 だが、そういった常識は教育担当に教わっていたはずだが‥‥‥。

 いかん!集中せねば!次はどれどれ‥‥‥。



「ふむ、この城に作業員の手配は完了し、明後日には電化製品とか言うやつの取り付ける準備工事が始まるのだな!」

「……はい、これで城も快適に、尚且つ経費の削減が出来ると思われます」


 ほうほう!やっと我が城にも電化製品が!やるではないか!あの照明も素晴らしいが、冷蔵庫や洗濯機なんかは城の各担当が喜ぶであろうな!ましてはあのウォシュレットなる道具は便利だ!それに付随したトイレットペーパーも家電ではないが、素晴らしいものだな!やっとか!完成が待ち遠しいな!


「なんだ!ゼロス!!良いことだらけではないか!何をそんなに畏まっておるのだ?」


 この報告書からしてゼロスの態度が気になりはするが、一体どうしたのだ?


「はっ‥‥‥陛下‥‥‥私は陛下が読むまでその報告書に何て書かれていたか、存じておりませんでした。が、陛下?良くもう一度ご確認を御願い致します」

「むぅ、何だゼロス。何度読んでも同じだと思うが、まぁ良い。もう一度目を通すか」


 ふむ、何度やっても変わりはせぬが、ゼロスが言うなら何かあるのか?


「はっ、有難うございます」

「ふむ、ほれ!何度目を通しても、良い事しかかい、て‥‥‥おらん…で‥はあぁっ!何だと!あのウィードの新種はアルトの従魔が原因だと!」


 うぉい!普通こんな重代案件は先に書くだろ普通!しかもなんだ!普通に読み流ししていたぞ!くっ‥‥‥アルトめやりおる。

 ゼロスの指摘がなかったら危なかったわ!そのまま確認の印を押す所であったわ!!


「‥‥‥はい。陛下がその文に反応したらこの報告書も提出するように預かっております」

「何?報告書だと?」


 ふむ、この報告書にはアルトの従魔のウィードの情報が書かれているのか‥‥‥。

 って!これは新種のウィードではないか!だが、こんなに最詳に書かれてあるとは、しかもウィードの姿まで描かれておる…。

 何?冒険者ギルドに国に提出されたウィードは、従魔のウィードから生れた言わば分体みたいな存在だと‥‥‥。

 本体のウィードの指示を受け行動するのが分体の役割で、本体と分体の繋がりを切れば枯れるとな‥‥‥。

 で、もう繋がりは切ったので1週間位で枯れると‥‥‥。


「ゼロス‥‥‥」

「‥‥‥陛下」

「俺は疲れた。しばらく休暇を取るぞ‥‥‥」

「ちょっとお待ちくだされ!今陛下が居られなくなったら、この騒ぎはどうなるんですか!」

「離せ!俺はソイダール領の温泉に行くんだ!」

「まだ、まだ!報告は終わっておりませぬ!!」

「‥‥‥何だ、申してみよ」

「私が暗部だったこと、前からバレていたみたいです。‥‥‥部下共々‥‥‥」

「もうやだ‥‥‥」



 そんな事が王城の某執務室で行われていた。

 で、今回のウィードの新種の件は父上である、カインド王がもみ消…頑張って事なき得た。

 そもそも新種のウィードの事は、今となっては枯れてしまって調査出来なくなった。

 山の洞窟前に居たウィードも全部枯れていたという事で迷宮入りし、次第に話題さえ出なくなっていた。


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