第36話

「何?あの領地に新種の魔物……しかも、ウイード種の……ふむ……」


 ここはカインドの私室。

 そこで1人この国の王であるカインドは、冒険者ギルドからの緊急報告書を読んでいた。

 報告書には見た目がウイードなのだが、そこら辺を歩き回っていたと書いてある。

 冒険者がそのウイードを何匹か捕獲した模様で、冒険者ギルドとこの城まで連れて帰っているらしい。

 既に冒険者ギルドでは生体検査等を開始したとある。


「ふむ、あの山で新種……その新種は昔からその山に生息していたのか?それとも、最近進化したか?……どちらにしても考えにくいな……」


 そもそも魔物の進化する条件について詳しく分かっていないのだが、進化するには魔物のレベルが関係あることだけは分かっている。

 その進化の条件の一つであるレベルなのだが、ウイードの進化したことでカインドやギルドの調査機関は悩む事になる。


 何せこの世界で最弱とされていたあのウイードがレベルを上げ、尚且つ進化したのだから……それも何匹も進化個体が見つかっているのだ。


 ウイード達は何をどうやってレベルを上げたのか一つカインドは引っかかる。

 アルトの領地では他所の領地に比べて野生の魔物が居ないのだから……。

 その魔物が減ったことによって、さまざまな動物が繁殖しまくってはいるが、仮にウイードがその動物達を倒し、レベルが上がったと一瞬考えてみたが、その考えも直ぐに違うと思い直す。


 何度も言うが、ウイードと言う魔物は最弱なのだ。

 そこらの動物や子供にまで倒されるほどに……。


「うぅむ……分からん……まっ、分からんが今のところ好戦的な魔物ではないのが分かっているか……」


 新種のウイードを捕まえた冒険者は、ウイードを見たときには警戒はしたが、近付いても無害だったらしく、ウイードを捕獲する際に何匹も紐でくくりバックに入れて連れ帰ったと書かれてあるのだ。

 しかも、その間も暴れることなくウイードは捕獲されていったらしい。


「これは鑑定結果待ちだな」


 結局カインドは考えても分からず、報告書を机に置き、鑑定官の鑑定結果を待つのだった。


「アルトか……」


 そんなカインドは実はアルトに対して、他の王子や王女達と比べ、どこか一線をを置き接していた。

 その原因は初め、アルトが一歳になったときに行った鑑定の儀での出来事や、アルトが城で生活していた時の出来事が原因である。


 名前 アルト・ディオング・ミルフェルト

 年齢 1 種族 人間 レベル 2

 職業 王子 1

 犯罪履歴 無し

 スキル

 従属魔法 Ⅰ

 加護

 運命神 製作神

 体力 G 魔力 F スタミナG 力 F

 防御力 G 器用 C 素早さ G

 運 C 精神力 G 魅力 E


 アルトのステータスが書かれた紙を取り出し、溜め息をつく。


「神の使徒……か……」


 鑑定の儀で起こった事を再度思い返していた。


 あのときアルトは、物心がつく前に大の男が抑えきれない程の力を出してグズっていた。

 その後は数人掛かりで抑え付け、何とか鑑定の儀を進めようとしたら、スパローに対して従属魔法が発動した。


 当初は神がその時に乗り移っていたんではないかとなったが、カインドはこれまでのアルトを見ていて、本当にそうだったのか?と思うようになっていた。


 アルトが誘拐された時には、かなり冷や汗がででは物凄く心配したが、騎士団に魔術師団と、鑑定の儀で従魔になったスパロー達5匹のおかげでアルトは無事に戻ってきた。


 あの時は冷静ではなかったが、今思えば不思議な事がある。

 そもそも従魔になったスパロー5匹なのだが、何故あんなにおとなしいのだ?


 従魔がいる冒険者や魔術師達も育てるのに苦労をしているのにだ。

 何が苦労するのかは、それは従属となった魔物の躾が原因である。

 元々野生の魔物を従魔にするのだ、初めはそれは気性が荒いのだ。

 主人を襲う事は余りないが、他人に対しては物凄く警戒するのが当たり前……だったのだが、当時はスパローを世話するメイド達の癒しの存在であったみたいで、それほど大人しかったのだ。


 で、物心がつき1人で城内を動くようになった頃に、教育を開始させたのだが他の兄弟達を遥かに上回る才能があったようで、教育担当の者達が全員熱が入り、過剰とも言う内容を行っていた。


 ……俺だったら、あの年齢なら逃げ出していると思うほど異常だった。

 それは勉強だけではなく、剣術や魔法を勉強しているときもだ……。

 そう言えば、執事に付けていたゼロスも不思議な事を言っていた事があったな。


 確か、時々アルトの気配が城内から消え、いくら探しても見付けれない時間帯があったとか……。

 何度も続いた時に直接聞いたときには、「かくれんぼをしていた」だった。

 それを聞いたゼロスは驚愕する程の状態だった。


 そして、アルトの執事のゼロスと言えば、この国のもう一つの師団の団長総括だ。

 なんの師団かと言うと暗部の師団だ、暗部と言えば、情報収集から表では裁けない者を密かに裁いたりと忙しい所だ。


 で、その暗部師団総括処か、団員達の監視を抜けアルトは誰にも見つからず、城の何処かに隠れていたとか……本当にあり得るのだろうか?

 アルトが誘拐された後から、暗部だけではなく、騎士団に魔術師団の警備も強化したのにだぞ?


 しかも、ちょくちょく厨房に行っては新しい料理をいくつも開発する能力には、料理長も脱帽していた。

 ……しかもどれも美味であったな……。

 アルトが城を出て行ってからは、料理長はアルトにもらったレシピで作ってはくれるが、この前に視察に行った時に食べた料理も美味であったな……。

 いったい何処から料理への知識を覚えたのか謎ではあるが、それで我らの食卓が笑顔で溢れたのは感謝している。


 次に驚いたのは外出許可を求めてきたことだ。

 一度アルトは誘拐されているから、余り良い傾向ではなかったが、これは我が城の習わしだから駄目とは言えん。

 そこで、騎士団の中でも優秀な者を相手に模擬試験をさせ、一度挫折を味わわせ更に精進と外出許可の延期をさせようと思う。

 城下町には危険が数多く存在している。

 そんな場所に5歳のアルトをまだ出すわけにはいかない。

 よって、今回のアルトに宛がった対戦相手は

 騎士団隊長候補に騎士団隊長に騎士団大隊長と我が騎士団のエリート達だ。



 そう、エリート達だったのだがここで問題が発生してしまった。

 今回の騎士団に対して、アルトはこの3人に勝ちよったのだ……5歳の子供に負けるとは何事か!と、言いたくなったが、残念なことにアルトの実力はそれ以上だったのだ……。

 あの年齢で、大隊長以上の実力とは……剣術だけでも外出するにあたって、危険などないのではないか?

 そう思ったが、魔法の存在がある以上それだけでは許可を許すわけにはいかない。


 何せ、運が悪ければ剣の達人も油断をすれば魔術師に負ける場合があるからな。

 そこで、魔法の試験に移った時にはアルトのやつ派手にやらかしおったわ……。


 試験に使われた魔法吸収水晶を初めてみる魔法で壊し、その余波が危険なものであったらしく魔術師師団長のセルゲが咄嗟に防御魔法を展開してくれた。

 だが、観客があまりにも多く、その防御魔法は薄くなり、アルト放った魔法の余波で破られるかと思ったらしいが、アルトの奴はまた見たこともない防御魔法を展開し皆を守ってくれた……。


 もう、合格にするしかないだろう。

 ここまで実力を隠していたとは……。

 これ程までに実力があるなら城下町に出しても大丈夫だろう。

 最悪は暗部と騎士団を変装させ、陰ながら護衛はさせるからな。



 ……で、そのアルトだが……いきなり行方不明になってしまたらしい。

 確かに城の城門を出て貴族街に入った所まで確認出来たらしいが、しかも、追跡していたゼロスや暗部達は、目をはずさないようにしていたはずだが、忽然と行方をくらましたとか……誘拐か!と思ったがどうもそうではないらしい、暗部達を衛兵の格好をさせた結果、あろうことかいつの間にかその変装した暗部に薬屋は何処か聞いてきたらしい。


 何故に薬屋なのか……アルトが出ていった薬屋に何をしていたか聞いたらしいが、薬草などを大量に買い取っただけだと言われたみたいで……ちょっと待て!何処からその薬草をアルトは手に入れたのだ?……もしや、城に保管してある薬草か!直ぐに調べろ!



 ……城の保管数は大丈夫であった……。

 どの薬草も減ってはいなかった。

 安心はしたが、違う意味で安心出来ん……いったい何処から手に入れたのだ……。


 ぬ、次は商業ギルドの場所だと……?

 何故に衛兵に変装した暗部にばかり聞いてくるのか……たまたまだよな?その暗部より近くに普通の衛兵が居るのに……。


 で、その後は城に戻ってきたアルトは何やら、買ってきた錬金道具を使いポーション造りに挑戦しているとゼロスから連絡を受けた。


 しかも、あのゼロスの監視はアルトにバレていたようだ……。

 その後も凄まじかった、顕微鏡に一輪車を作り商業ギルドに委託販売まで始めるわ、6等級のハイポーションを錬金してしまうなんて誰が予想できようか……。


 その後はアルト発案で王都の清掃が国ぐるみで行い、その功績から領地をアルトに渡したが、ここでも誤算があった。

 廃墟とかした村を含めた領地をアルトに渡したが、前あった村を潰し好きなように領地経営の勉強をさせるつもりが、王都にひけをとらない町を造るとは……。


 何もかもが異常だった。

 新しい技術で作られた町は今もなお、進化を遂げている。

 何度も直接視察に行くが、ここよりも上のレベルで誰もが暮らすことが出来ておるとは……。


 ……しかも、あの町で開発された新しい技術は他所で流用も出来ない……もし、他国にあの技術を知られたら大変だ。

 下手をすれば戦争が起きかねん……それほとまで進んだ技術なのだから……。


 しかも、あの町にダンジョンが出来ていた。

 ダンジョンマスター付きのだ……。

 普通にそのダンジョンマスターは町でフラフラ飛んでいるのを発見されとる。

 ……屋台や店で食料を食べまくっているとか……。


 一時はスタンピードが発生したと、全員が緊張していたのにな……。

 物凄く好意的なダンジョンマスターであるらしく、町の発展を助けてくれるらしい。

 もし、それが本当ならある意味大変な出来事なんだけど、アルトの功績のお陰でそれさえも霞んどるわ……。

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