第35話
「うん、今日も紅茶がうまい!それに良い天気だ。なぁ、ウィード!」
ユサユサ
俺は朝から椅子に優雅に座り、暖かい紅茶を飲み、窓辺にあるスパロー達の鳥籠の横に置いてある、植木鉢の方を見てそう言った。
植木鉢の横に置いてあるスパロー達の鳥籠からは、スパロー達の嬉しそうな鳴き声も聞こえる。
植木鉢の中には一見雑草が植わっているようにも見えるが、アルトの呼び掛けにユサユサと揺れているのが分かる。
この揺れていて一見雑草に見えるのも実は魔物である。
この魔物はウィードと言って魔物の中でも最弱に近い能力しかない魔物だ。
そのおかげで魔物の中でも数が最も多い魔物であるが、子供にも討伐?が出来る位に弱いのだ。
討伐しても錬金素材や薬の素材にもならず、魔物特有の魔石は根の部分にあるが、砂ほどに小さく売れもしない。
塵も積もればの言葉通りにかき集めても、砂ほどの魔石は使い所はこの町の電気発電の燃料として位で、他の町では取引も断られる。
俺が置いた要石の結界による効果だと思うが、魔物の繁殖率はかなり激減し、今は野性動物の方が多い。
そしてウィードも残念ながらその野性動物の中の草食系によってこの領地から姿を消し始めている。
因みに今更だが、俺の領地はこの町から半径馬車により約一時間の距離が俺の領地とされている。
この領地の回りには王都が管理する領地だったり、他の町の領主達が管理する領地に周りを囲まれている……まぁ、それは当たり前なのだが……。
では馬車で半径一時間ってどのくらい広いかと言うと、約125㎞2だ。
距離を測る道具などないが、大体広さはこのくらい。
他の領主からしたらかなり小さい。
で、話しは戻るがこのウイードは、従魔のゴブリンやコボルトと仲間になった期間は大体近い。
そんなウイードは今まで何処で何をしていたかと言うと、今この町が出来る前はここにザイールって言う村があった。
残念なことにその村は、余りの貧しさからか人道を外れた盗賊行為を行っており、村人全員処罰され、犯罪奴隷となってしまった。
その村人達が密かに盗賊をしていた際に使用していた山の中の洞窟の前で、このウイードは従魔契約しその場で過ごしていた。
それは仕方がない事で、従魔のコボルトやゴブリンとは違いその場から移動することが出来ないからだった。
「うん、やはり朝の紅茶は素晴らしい!なぁ、スパロー達!」
チチチチチチッ!
アルトの呼び掛けで鳥籠の中のスパローは元気に返事をする。
「……それはようございましたなアルト様。で、アルト様?先の件は如何様に致しますか?」
そう執事のゼロスは訪ねてくる。
「うん、今日も紅茶がおいしかった!よし、一息着けたし今日も頑張るかな!」
朝から美味しい紅茶を飲み、今日の仕事も頑張ろうと意気込む。
「アルト様…もしや……裏山……」
「あっ、その前にスパローの籠を開けないとな!」
「……増殖……」
「んっ、ゴブリン達は準備出来たのかな?」
「……新種……」
「今日は何処から手をつけようか……」
「……ウィード……」
「ブファッ!ゴホッ!!ゴホッ!ゴホッ!」
「なるほどでございますか……犯人はアルト第11王子、あなた様でございますね?」
「いや、ちが、いやちがくない!だ、だけど態とじゃないんだ!たまたまなんだよ!ゼロス!!」
「はぁ……まさかとは思いましたが、アルト様でしたか……」
「ウィード……すまない……バレてしまった……」
ユサユサ……。
◇◇◇
その後は執事のゼロスに山の洞窟前であったことを伝えた。
「こちらのウィードがですか……」
ゼロスはそう言って、ウィードに近付きまじまじと観察する用に見る。
今回の騒ぎは、冒険者のギルド長から報告書が朝一で届いた事から始まった。
手紙の内容は定常分の社交辞令を抜きにして、裏の山に人為的な洞窟があり、その付近において新種と思われるウィード系の魔物だろうと思われる存在が多数生息していたと書いてあった。
そこで、俺は【洞窟】と【ウィード】という単語を読み、直ぐ様洞窟前に転移した。
結果、新種のウィード系の魔物は俺の従魔のウィードで間違いがなかった。
そこで、俺は従魔のウィードを私室へ連れて来て、その後はその話がギルド経由で執事のゼロスに伝わり先程のやり取りになったのだった。
「……アルト様、私には一見普通のウィードにしか見えませんが……」
話を聞き、まじまじとウィードを見ていたゼロスがそう言う。
「実際にこのウイードはどうやら進化をしたらしいんだ」
「し、進化ですか!」
魔物は稀に進化をする。
魔物を研究する国の調査団等から出ている研究結果によると、魔物が進化に値するレベルな到達後、稀に急激に進化をする個体が現れる。
同一の魔物から進化する種類は多岐にわたり、職業の調教師やらその上位職の魔物使い達が従魔を日々進化するように奮闘しているらしいが、その成果は著しくないらしい。
まぁ、それは理由があるみたいで 魔物を従魔にするならば必然的に食事やその他の経費が掛かる。
国に雇われている者なら良いが、個人で魔物を従魔にするならばその費用は自分で捻出しなければならず、何匹も従魔に出来ない。
それから進化させるために従魔事態のレベルも上げるとなると、冒険者等の仕事に付かないといけなく、思うように従魔を育てることが出来ないらしい。
まぁ、冒険者も魔物の討伐ばかりがクエストに有るわけではないらしいしな。
それこそ、レベル上げには魔物集団や集落を作りやすい種類にって話しになるが、そうなるとそれ相応の危険も伴う。
「ウィード、この人は俺の執事のゼロスだよ。挨拶出来るかな?」
呼ばれたウィードは植木鉢の縁に葉っぱを押しやり、何やら根を抜くしぐさをする。
「おぉっ、ウィードがここまで動く事も珍しいのに……ま、まさか!!」
普通のウィードは地面に生え、そこまで機敏に葉の部分を動かすことは出来ない。
従魔にした当初もこのウイードはそうだったから、これだけでも進化している事がうかがえる。
だが、やはり魔物であっても植物だからだろう、植木鉢から出たウイードは根である足らしきもので立ち、ゼロスに向かって一生懸命
葉を左右に揺らしている。
「ぶっ!……か、かわ……んんっ!ア、アルト様……確かに進化しているのは確認しましたが……なんともはや…こう、胸にささる仕草でございますな……」
あぁ、うん。
確かに、一生懸命動く仕草は可愛らしいものはあるが、問題もあるみたいだ。
その問題は進化して動けるようになったのは良いが、長時間は動けないようでウイードは挨拶が終わると、ヨロヨロしながらも土の中に根を戻そうとしている。
何故長時間動けないのかは今は全く分からず、おいおい調べてみるしかない。
まぁ、と言っても何でも書いてある神書を読んだら分かると思うが、ゼロスの前では読むことが出来ないから、今は我慢するしかない。
「あぁ、戻って……」
ゼロスはウィードに魅了されたようで、植木鉢の中に戻る姿に、少し残念がっている様子だ。
だが、更にもう一つ問題もある。
「で、ゼロス。進化したのは確認出来たけど問題がある」
「……問題ですか……?」
そう、今回は冒険者の人がウィードの新種を発見してしまった事だ。
俺が洞窟前に行ってみた時も、ギルドの報告書通りに洞窟前には多数のウィードが進化していた。
冒険者も何体か安全を確認し、検体として何体かウィードを連れていった事も書かれてあり、ギルドと国の魔物調査機関に送られいろいろな検査をされるとか……。
それは、新種がどんな魔物か調査される。
そこまでは良いのだけど……。
「どうもウィードの新種は、従魔のウィードの分体みたいなんだよなぁ……」
「……はい?」
検査の中には好戦的かどうかの問題も有るのは知っているが、どうも従魔のウィードから産まれた新種達もどうやら俺の従魔に近い存在らしい。
幸いに鑑定では俺の従魔とは鑑定できなかった事が良かったが、だけど自然発生した進化種が好戦的だった場合は今回の検査の内容と異なる事になる。
もし、危険度が高い魔物なら命に関わる問題で、軽視には出来ない。
「まだまだ調べないといけないけど、ウイードとの感覚共有が他の新種まで出来ちゃうんだよね……」
「……はい?」
「困った……本当に困った……」
そう、ゼロスをチラチラと見ては困った様子をだす。
「な、何でございますか、アルト様……そんなにチラチラと……」
父上であるカインド王への連絡は俺自身が行けば良いだけだが、何分今日は各代表達との会食を含めた会議がある。
ただの会議なら日にちをずらせばいいが、何分重要な話し合いをする日なので、それも出来ない。
「いやぁ、どっかに父上様と気軽に会えて、きちんと報告出来る人物が居ないかと思ってね」
もし、そんな中カインド王に直通で話が持っていけるとしたら、俺達兄弟の王族か国の重鎮達等くらいだ。
確かにこの町に兄弟達である王族は居るのだが、残念なことに皆も会議に参加するのでお願いは出来ない。
「ははははっ、そんな、ただの執事が陛下に気軽に会えるわけないでございましょう。陛下の担当執事ならいざ知らず、ははははっ……」
ただ、目の前の執事であるゼロスを除いては。と、なんにせよ目の前のゼロスはカインド王に直で会う手段があり、それはアルトにも秘密にしていた事でもあり、ゼロスやカインド王もその事はアルトにバレていないと思っていた内容であった。
「ははははっ!そうだよね?無理かなぁ?そっか……で、本題なんだけど、行ってくれるかい?」
だが、【鑑定】を持つアルトの前ではそんな秘密は等の昔にバレていた内容であった。
アルト自体もその事には不都合がなく、逆にいつでもカインド王にアポが取れるというメリットしかなかったのだ。
会話をしながらもアルトは1枚の紙をゼロスに渡し、ゼロスも恐る恐る紙を受け取る。
「何をそんな…………っつ!……分かりました……行って参ります……」
その紙の内容を読み、ゼロスは戦慄してしまった。
今までアルトに隠してきた内容が、全てとは思わぬが筒抜けであったと思ったからだ。
「いやぁ、うちの暗部……いや、執事は有能で助かるよ!ははははっ!」
ゼロスの秘密とは国の暗部だったことだ。
しかもその団長という役職にふまえ、俺の執事をこなす超有能な人物だった。
「ははははは……で……何時お気付きに……?」
「それは秘密だよ」
気付いたのは初めから、アルトが産まれゼロスが執事としてあてがわれ、初めて会った時にだった。
それを言えるはずもなく、アルトもお返しに秘密とすることにしたのだった。
「人が悪うございます……アルト様……」
その時のゼロスのは、苦笑いをするしかなかった。
その後、アルトからカインド王への手紙をもらい、ゼロスは王都へと出発した。
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