第52話
「「「「「かんぱーい!」」」」」
その声で始められた、今回のパーティー。
その中でアルトはまだ未成年なため、お酒を飲めず果実を搾って作られた飲み物を飲んでいる。
ここには形式的なパーティーの幹事で、進行役に選ばれたクルオラさんが仕切っているのだが、ただ飲んで食べてのお祭り騒ぎであるため実は乾杯の音頭をとっただけというお仕事だ。
因みにこのパーティーの終わりは、念の為明日の昼前までとロングな仕様だ。
聞いた話によると、2~3日ぶっ通しでお祭りがあるところもあるみたいだが、流石にそこまでは良いだろうと、明日の昼前までとした。
今回の主役はやはり戦争に参加した兵や冒険者達等である。
そのためか、その者等の回りには自然と人だかりが出来つつ、今回の戦争はどんな感じであったか聞き出そうとしている風景があちらこちらで伺える。
住民等からしたら、重傷者・死者共に0という完封戦と聞いていて、どんなことをしたのかかなり興味があるらしい。
だが、等の本人達は何処か苦笑いをしている様子だが、少しずつ今回の戦の内容を語る。
今回の戦の内容はこちらとしても規制をかけておらずそれはいいんだが、取り敢えず話の節々でこちらを驚いたように見つめるのだけは止めて欲しい。
せっかくの食事が進まなくなってきているから。
因みに、俺の従魔達は殆どダンジョンのパーティーに参加しているので、ここには数匹の従魔しかいない。
その従魔達も今俺の目の前で、食事をとっては俺にすり寄ってきたりと忙しそうだ。
「なぁ、スパロー達。先に食事をゆっくり楽しもう」
「「~~♪」」
そう、ここに来ているのは俺の初めての従魔のスパロー達5羽だ。
身体は小さいので、余り大量の食事は必要としないのでスパロー達の食事は直ぐに終わるのだが、俺はまだ食い始めたばかりなので、何処か物足りない。
「まぁまぁ、アルトよ。スパロー達も今回頑張ったんだ。そりゃご主人様に甘えたくもなるさ」
俺の席の隣で、俺の食べ物の量の3倍は確保しながら、お酒を飲んでいるハンスが声をかけてくる。
「ん、そうだね。スパロー達おいで」
「「~~♪」」
ハンスに言われてそう思い、アルトはスパローにスキンシップを取り始めた。
「……そうしていると、アルトはただの子供に見えるんだがなぁ……」
「それもそうじゃな。普段のアルト様は常に気を張られておられるから、実年齢通りには見えんの……何故か、時々同年代と勘違いをしてしまう時があるからのう……」
同じ席に座っては、静に食事をしていたセバスチャンはアルトを見て、そう呟く。
「本当に不思議よね……」
その呟きを聞いたミッチェルは、頬杖をつきアルトを見つめていた。
「だが、そのお陰で町も発展しておる」
セバスチャンの横でこちらも静に酒を飲んでいたアウグは、エールが入ったジョッキを置き、アルトを見る。
「違いねぇが……」
◇◇◇
ハンスは何処か考え込むようにそう言う。
そんなハンスの頭の中ではこう考えていた。
まだ子供でありながら、アディの町を0から開拓し、短い期間でここまで発展させてきた。
正直、領内にはまだ空きの土地や建物も数多くあるが、他領からの住民の受け入れは行っているので、ここも数年もしたらそんな場所は無くなるだろう。
だが、他の領には無い建物……アパートやマンション等が中心となっているこのアディの町は同じ面積の他の町に比べ、何倍もの住民を詰め込むことができる。
そうなると、その住民達が行う仕事があるのか?と疑問に思うが、それも問題ないようだ。
現在どの職場も人が足りていなく、逆に今も他の町から人員を増やしている最中だ。
人が増えれば勿論食料品等の消化率も増えるのだが、農業地区での作物がこれまた日に日に収穫量が増え、今の人口くらいだったら補える位だ……。
その他の食料品にしても、商業ギルドから大量に購入しているので問題もなく、今住んでいる住民達は十分に生活が出来ている。
しかも、町で作った武器防具にポーションに家具や雑貨等いろんな物も作れる余裕も出て来て、それを販売しアディの町は利益も出始めている。
それに加え、余るだろうと思われる作物も販売しているのだが、購入先は他領の町等でかなりの人気があるらしい。
そういった政策の大半は、会議で何をどうするのかみんなで考えてきたのだが、そのきっかけはいつもアルトだ。
いつも設計図を会議に持ってきては、新に魔道具みたいな機械を提案してくる。
それが、どう使われこれからどんなことをするのか議題に上げ、参加者全員で話し合う。
だが、アルトの作る機械は今まで俺達が知らないような物ばかりで、それらをこの領地に導入することによってどうなるのか、どう変わるのか全く分からないときが殆どだが、そんな時はアルトが全員に、実際にその機械が稼働している所を確認し、会議を進める。
ここで何時も皆が思うことは「もう作ってるんだ……」だったが、この機械達が本格的にこの領地だけではなく、王都に世界に広がれば間違いなく革命が起こる。
そんくらいは俺の頭でも分かるくらいに。
本当にこの小さな体に何処にそんな知識が詰まっているのかは不明だ。
人を惹き付ける魅力もあり、この町は無論だが王都でもアルトのためならって気合い入っている者までいるらしい。
あの時、そう町の清掃の時か。
そん時にもし、アルトに会わなかったら。
この町を開拓するときスラムにアルトが来なかったら。
そう考えると、何処か不思議な縁を感じてしまう。
◇◇◇
「……ハンスさん、どうしたの?人の顔をじっと見て」
スパローを一通り指で撫でまくり、ふと隣を見たらハンスさんが見つめていたんだが……。
「ふっ、何もねぇよ」
そう言って酒を飲む。
「あら、ハンスあなたまさか……アルト様に……」
ミッチェルはそう言っては女を細めた。
「ぶっ!そっちの気はねぇからな!女狐、何てこと言いやがるんだ!」
何を思ったのか、ハンスは口に含んだエールを豪快に飛ばしながら、ミッチェルに対して抗議をする。
「……汚いですわね……わたくしはそこまで言ってませんわよ?」
「ハンスさん……」
「ちょっ!アルトてめぇまで!だーっ!ほらあれだ!……アディの町はここまで発展してきたが、もし、アルトがスラム街にあの時来なかったら、俺と事前に会わなかったらどうなっていたのか考えていたんだよ!」
「まぁ……」「うーむ……」「……」
どうやらハンスさんは俺達の出会いについて、人の顔を見ながら考えていたようだ。
「何だその事か。それはないよ、清掃の時もそうだけどハンスさんが南のスラム街においての管理者ってのは知ってて話し掛けたから 」
だけど、俺達の出会いは決まっていたもの何だよ?
「はっ?まじか!」
「まじだよ。初めはどんな人か分かんなかったけど、話していくうちにハンスさんの人の良さが分かったからね 」
まぁ、ハンスさん達が全うにスラムを管理していたから、アディの開発に引き抜いたのだ。
「……もし、犯罪に手を染めまくっていたらどうしていたんだよ」
「そんときは……ねぇ、粛清の元正義の裁きを執行?」
その時は、証拠と一緒に衛兵さんが捕縛に向かっていたんじゃないかな?
「よし!ナイス俺!真面目に管理していて良かった!」
「わたしもですわ」「わしも……」「……」
俺はそれ以上手は出さなかったと思うよ?その時外出許可が出たばかりだったから、あまり無茶は出来なかったしね。
「まっ、昔の話は流して今日は折角のパーティー何だから、楽しもうよ!」
「……それもそうだな。よし、飲むぞ!酒のおかわりだ!」
そうしてアルト、ハンス、ミッチェル、セバスチャン達は飲んで騒いで大いにパーティーを楽しんだ。
一方アウグというと、ハンスが吹き出したエールによってあの後席を離れ、汚れを拭き席に戻ると元居た席にはクルオラが座っては、アルトと何やら話し込んでいるみたいだった。
「……俺の席が……」
そんなアウグは人見知りで、寡黙な性格もあって知らない相手や、部下に対して話し掛けに行く方ではない。
結局、1人酒をとパーティー会場の端に来ては、何処か料理を置けるところを探していた。
そんな時間が少しあり、やっとその場所を見つけて料理を置いて、一息付いたとき。
「だんな!やっと見付けましたよ!」
「……お前は…」
1人の青年が声をかけてきた。
その青年も手には料理にエールを持っている。
アウグは俺に話し掛ける青年が初め誰だかわからなく。
少し考えていた。
……何処かで見たことはある。
だが何処で?……いや、このパーティーに参加しているから、間違いなく戦争の参加者かここの住民だろう。
……ふむ、分からんな。
が、アルコールも入っていたことにより、少し思考回路も回っていない状況で、アウグはこの青年が本当に誰だか分からなかった。
責めて、アウグと一緒に働いたことがある者だったら違っていたが、アウグにはこの青年とアディで働いたことがない。
「その反応……誰だか分かってないみたい……と。……もぉいやだなぁ、やっと見っけたのにそりゃ無いですよ!」
青年はまだ20かそこらだろう。
青年の容姿は悪くはない。
ただ言葉遣いはくだけている印象だ。
特徴と言ったらそれくらいで、後は普通に感じられる。
やはり、アウグはまじまじと青年を見るが、やはり知り合いではない。
「……すまぬが。誰だ?」
「ははははっ、俺っすよ。ほら、軍にいてアウグの旦那が軍に入るとき、打ちのめした盗賊団のしたっぱ……思い出しました?」
くっ、盗賊の生き残りか!
アウグはそう思い、青年…いや盗賊に向かい、拳を構える。
「ちょ!旦那、旦那待って!誤解っすよ!たんま、たんま!」
「ぬ、誤解だと?戯れ言を、盗賊団のしたっぱだったんだろう」
焦る盗賊に対して、睨みを効かすアウグ。
「あの時は確かに盗賊団のしたっぱだったっすが、俺は業と盗賊団に入ってバルムの住民を守っていたんすよ。ほら、現にあの時の鑑定官の間も何もなかったっしょ?」
盗賊団に入り、バルムの住民を影から守ってきた青年に対し、全てを信じきれていないアウグは、この者を軽く押さえ込む事を了承させ、アルトの所まで連れていく事にした。
何故アルトの場所かというと、アルトが他の鑑定官よりも高ランクな鑑定のスキルを持っているかだ。
後はアルトを信じ、アウグは青年をアルトの所まで連れていき、簡単な説明をした。
「成る程。で、ここに連れてきたわけか。どれどれ……」
内容を把握したアルトは、手に肉を刺したフォークを持ち、青年を見る。
「……名前はクリスで、年齢は19才……若いのに、バルムの住民を守っていたんだ。……おぉ、その年で剣術と水魔法が使えるのか、優秀じゃないか。身体能力のランクもいい方だが、特に知力が高いな……へぇ、称号的に見ても彼は大丈夫。悪い履歴は無いよ。スキルには幾つか変わったのが有るけど……。アウグ、離してやってくれ」
「はっ!」
アルトは青年……クリスのステータスを見終えクリスと目を合わせる。
「で、クリスさん。大変失礼致しました」
「い、いえ。アルト殿下。経歴が経歴ですので、問題ありません」
お互いそう言っては頭を下げる。
「よし、じゃぁ、クリスさん。ちょっとお願いがあるんだけど。別室で話さない?皆もちょっと時間貰ってもいいかな?」
「は、はぁ」
「何だ、何だ?アルト何かあったのか?」
唐突のアルトの言葉に、ハンス達は首をかしげたのだった。
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