第53話


「さて、移動も済んだことだし、早速本題に移るよ?」

「は、はぁ……」


 アルトは商業モールの接待室に来ていた。

 そこで皆が座った所で話をしだす。

 クリスは何の話があるのか分からず、ただ返事をするだけであった。


「単刀直入に言うと、君が欲しい。僕の配下にならない?君にピッタリな仕事があるんだよ」

「……へっ?」


 アルトに言われ思考が固まったクリス。


「いや、俺……私は、やりたい事があってですね…」

「それは、君を鑑定したから、何となく分かるよ?バルムを助けたいんでしよ?」

「なっ…どうして、それを……」

「称号に【バルムのプチ守護者】ってあったからね」


 って言うか、こういった称号がつく人物は本当に希だ。

 同じことをしても称号が手にはいる人、入らない人はいる。

 疑問に思い、神書で確認するとどうも称号を得るには心から行動した結果と実績等が必要とのこと。


「わ、私にそんな称号があったなんて…」

「称号は高ランクな鑑定の魔道具が必要だからね」


 高ランクな間道具というは、鑑定石の事だ。

 この二つは転成前に使った後は、鑑定の義で使われた時に使用しただけだが、鑑定のスキルを持っていない人からしたら、貴重な魔道具である。


「…私を配下にしたい理由を伺ってもよろしいですか?」

「いま、バルムは王都の騎士団にルエリアの残党を処理してもらっているんだけど、そうなるとバルムを誰かが統治しなければならない。で、白羽の矢が立ったのは、ルエリア討伐を終わらせた僕で、少し困っていたんだよ。この町を開拓の最中で、あの領地を貰っても管理するのは難しい……住民に負担を強いることになるしね。誰かを代官にし、領地を統括するよう父…陛下から事前に話があったんだが、どうかな?」

「いやいやいやいやいや!無理ですよ!私は貴族でもなければただの平民ですよ!」


 カインドにそう言われた時俺も忙しすぎて一度断ったが、バルムの住民のためと半ば押しきられなくなく受けたのだが、人員が全く足りていない。


「あっ、そこは考えているよ?バルムの代官だったサイマラ・フェルサスと言う男は知っているかい?」

「サイマラ…様…し、知っております。私も以前サイマラ様に助けられ……その、余り役には立たなかったですが、それからサイマラ様のお返しで、バルムの住民を密かに守っていた…のです。ですが、そのサイマラ様も奴隷に落とされ、商人に買われ今は行方が分かりません……」


 で、本当に都合よくミッチェルからサイマラさんが送られてきた時は本当に助かった。

 それがなかったらバルムの領地は中途半端にしか復興の目処がたたないところだった。


「サイマラを購入した商人はそこに居るし、結果サイマラは今僕の奴隷としてここにいるよ。現在は、このアディの代官候補の育成をしてもらうことになっている」


 で、代官候補生はアディには来ていないが、ゼロスに頼み貴族の次男や三男など家名を継げない人達の募集を開始はしている。


 何人集まるか分からないが、いい人材が来ることを祈っている。

 もし来なかったら、別に考えはあるがそれは本人次第だろう。


「そ、それは本当ですか!」

「ああ、もし配下になったらサイマラと会えるし、君が立派な代官に成れるよう彼も補佐に付ける。で、初めは心細いなら募集した代官候補の人もバルムに送る。どうかな?賃金もそれなりに出すから、バルムの為に」


 本当にサイマラは能力的に指導者向きで、奴隷に落とされていなければ、即バルムを任せたのに……そんな彼を奴隷に落とすなんて何処までもルエリアは人を見る目がない。


「殿下……殿下はズルいです。バルムのためと言われたら断れません。……わかりました、精一杯やらさせていただきます!」

「よし、決まった!じやぁ、パーティーの続きだ、クリスの歓迎会も兼ねて楽しもう!」


 断られる事も考えたが、無事に受けてくれてこっちも安心した。


「あ、ありがとうございます!」

「で、ミッチェルは明日クリスの制服の用意を頼む」

「あら、そこでお声が掛かるのね。分かったわ、任せてちょうだい」

「何でぇ、男なら俺らじゃないのかよ?」

「え?彼女は女性だよ?」


 接待室に集まった人……まぁ、クリス本人とミッチェル以外はだが、俺の言葉でクリスをガン見している。

 あの普段は寡黙なアウグまで……。


「「「えっ…え、なんだとー!」」」


 うむ、男どもは仲が良いな。

 見事なハモり具合だ。


「鑑定持ちには敵わないですね」


 当のクリスはそう言っては苦笑いをする。


「そうなんです……私はバルムに居た盗賊やゲーラの私兵に舐められないように、男装をしておりました……すみません」

「い、いや。謝るこたぁねーぞ、それも生きる上で必要なこったからな。……それにしてもよ……ただのひょろい青年かと思いきや、驚いたな……女狐んとこの部下みたいだぞ」


 クリスは生きていく上で男装を選んだことをハンスがフォローするが、まだ全身を観察するように見ている。


「そうね。変装じゃなく男装だけれど、独学でここまで出来るのは大したものだわ。その胸はサラシかしら?」


 ミッチェルは初めから気が付いていたみたいで、ハンスがフォローに入った時も今もクリスの男装をチェックしている。

 ミッチェルも普段部下に変装を教えているが、クリスの変装の何処かに訂正する場所があったのだろう。


「……い、いえ。自前です……」

「あら……」


 だが、その一言でミッチェルは優しい目付きでクリスを見つめる。


「わっはっははは!何だちっぱいだったのか!」

「ちょっと!クリスさん。ごめんなさいね、悪気はないわ。もし、サラシだったら巻き方で、胸の形が崩れると思って…本当にごめんなさい」


 ハンスの失礼な物言いに誰もツッコミを入れず、ミッチェルは言葉を続けた。


「い、いえ。大丈夫ですよ。まだまだ大きくなる余地はありますから……」


 クリスは何処か遠くに目を向けそう言う。


「そりゃぁ楽しみだな!」

「ハンスさん。失礼な事ばかり言わない」


 流石に、新しく配下に加わったクリスが、ハンスの失礼な物言いでいきなり居なくなるのは勿体無い。

 そう思いアルトはハンスに注意する。


「何だよ?普段は大人ぶっているが、アルトはまだお子ちゃまだな」


 だが、ハンスはふざけているようだが、実は本気で言っている。

 それは付き合い始めてもう長いので、それは分かっている。

 だが、それで傷付く人は見たことはない。

 それはその後のフォローや優しさがハンスにはあるからだ。


「で、殿下に向かって……」

「良いのよハンスは何時もの事だから。それにアルト様は場所さえ弁えれば、そのくらい何とも思ってないわよ。逆に敬語ばかりの人が少し苦手みたいね」

「あわわわっ……殿下なのに…」

「うん、クリスさんも気にしなくて、普段通りで話して良いからね」


 まぁ、クリスが困惑するのは仕方がない。

 こんなやり取りをずっと俺達は楽しみながら行っているのだから。


 そして、その後もパーティーは続きクリスは新しく出来た上司である、アルト第11王子に戸惑いハンスの行動に驚き戸惑っていた。


 翌日になると、ミッチェルがクリスを領主ビルに連れ制服の支度をする。

 初めはこの町独自の政策を学び、立ち入り禁止区域のことも聞く。

 言葉で教えてもらってから、実際に町の様子をミッチェルとまわり、夕方になるとクリスの念願だったサイマラと合流を果たせた。


 サイマラもそれまで代官候補のカリキュラムを作成したり、実際にこの領地の事を分析したりで、とれる時間はこの時間だったのだ。


「クリス!本当にクリスなのか!」


 サイマラには時間が空き次第に人と会ってくれと伝えていたため、クリスを見た瞬間に驚くように話しかける。


「はい!サイマラ様!」

「よくぞ無事でいてくれた!……いや、そうか。ここにいるってクリスもゲーラに…そして、奴隷に…」


 サイマラは未だにバルムで住民のために働いていたクリスを思い浮かべ、クリスもルエリアに奴隷にされたと思い込み、その表情は暗くなる。


「い、いえ。私はハンス殿下の部下の方に助けられました。……すみません、私が不甲斐ない事でバルムがあんなことに……」

「そうか!クリスは助かったのだな!だがバルムのことは仕方ない。もう、あの時は誰もゲーラを止めるものが居なくなってしまったからな……こちらもすまない。苦労をかけてしまって」


 クリスはサイマラと違い、奴隷に落とされていない事が分かり顔をほころばせ、自分の不甲斐なさに頭を下げる。


「そんな!頭を下げないでくださいサイマラ様!」

「いや、良いのだ。私はもう貴族でもなければ代官でもないのだから。今のわたしがあるのはアルト殿下のお陰だ。アルト殿下が部下を使って助けてもらえなかったら、私を含め今回奴隷に落とされたもの達の未来はなかった。アルト殿下には返しきれない恩を与えられた」


 ただ、サイマラ達を助けたのミッチェルだ。

 彼女が動かなかったら、サイマラ達を助けれていなかった。

 だが、元バルムの奴隷達はそんなことを知らず、ルエリアの反乱とも言える内紛終結の手腕を聞き、アルトを主人として良かったと思ったり、変に神格化をし熱烈な信徒になるものまでいた。


 その後サイマラに与えられているマンションの部屋へ移動し、サイマラの奥さんと感動の再開をしては3人は夜遅くまで話し合った。

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