第43話

 ワッハッハッハ!あの若造殿下め!まんまとあやつから、王都分からあやつの領地を含めた塩を初めとする全ての必需品の仕入れ販売の権利をぶんどってやったわ!


 ふん、これで我が領は利益が鰻登り間違いなし!おい!代官、代官を呼べ!



 ◇◇◇


 バルムの代官を勤めさせていただいてます、サイマラ・フェルサスと申します。


 あぁ、この前はアルト殿下に大変失礼な事をやっしまった。

 殿下にはゲーラ伯爵様と会う日を決めていただいたのに、それさえ聞かずまさかゲーラ伯爵は直ぐ様飛び出してしまうとは……。


 あの日に殿下に使者として、会いに行くのに何故かついてきたゲーラ伯爵様に対して、何やってんだろう?とは言えずにいたのが駄目だった。


 それにしても、この領はもうおしまいだ。

 領民の大半は何処かへ出ていってしまった……。

 ゲーラ伯爵様は秘策があると言う話らしいが、もうこれは難しいだろう。


 残りの領民と言えば、盗賊崩れな格好の人達や、身体が少し不自由だったり、それこそ不自由だったり、それを支えるものだったり、教会の関係者位だと聞いている。


 秘策……この状態でどんな秘策があるのやら……正直不安で一杯だ。

 いっそのこと、私も考えねばならないのかもしれない。


 そう考えていると、ゲーラ伯爵様からお呼びが掛かったみたいだ……。



 ◇◇◇


「おぉ、来たかサイマラ。先ずはこれを見よ」


 ゲーラ伯爵様に呼ばれ執務室にやって来た。

 今日のゲーラ伯爵様はかなり機嫌が良いようで、何やら嫌な予感しかしない。

 普段なら、「おい」だの「お前」に「代官」って言う風にしか呼ばれないが、今日に限って名前で呼ばれるとは……。


「…拝見致します。輸送代理契約書……こ、これは、王都の商業ギルドからの契約書……もう一枚は、アルト殿下の領地の契約書……」


 拝見したのは輸送代理契約書……契約書によれば、各領地の必要な品を代わりに購入し、販売をすると言った内容だ。

 で、本来なら購入した品はアルト殿下の開拓している町の倉庫が王都分の納入場所になっている。が、どうやらこの政策は殿下の領地で行っていたが、何を考えたかゲーラ伯爵様がそれを引き継いだ……と。


 こ、これは問題がかなりある。


 まず、王都分に殿下領地分の品だけで相当な数を用意しなければならず、ましてやその2つの領地から販売する品を受け取り、こちらの領地や隣の領地で売らなければならない。


 次に荷馬車が何台、いや、何十台必要なのか……人も馬も荷馬車も足らない。

 今から揃えるとなると、この町に住む貴族や商人が使う分を買い上げてもそんな数は無理だ。


 更に、護衛はどうするのだ?輸送にかかる食費や人件費は?


 はっきり言って、今のこの領地の経費では実行するのはギリギリだろう。

 他にはそういった経費がかかると言う事は、商品を販売する際に物の値段を高くするしかない。

 王都が用意して欲しい商品リストを見てみるが、横に前回の販売した価格が過去2回分書かれてある……はっきり言って、この値段では集めきれない。

 最低でも3倍…いや、それ以上ではないと赤字になってしまう。


 この値段で輸送していたアルト殿下の手腕には絶句である。

 実際に、普通の商人が王都に販売するのだって、我々と同じくらいになるだろう。

 一体どの様な手を使っていたのか分かれば良いのだが……。


 で、一番最悪な文章がこの契約書には書かれていた。


《以下に書いてある品は切らす事を禁ずる》


 と……。

 そして、またその下の切らしてはならないとされている品は、生活をする上で重要な食料品等であった。

 それ以外には嗜好品の酒や紅茶の茶葉等や布だったりとずらっと書かれている。


 これは駄目だ。

 今ある荷馬車だけでは全然足りない……け、計算を!馬車の台数を割り出さなければ!



 ……だ、駄目だ……。

 必要な荷馬車の数が、最低100台は必要だろう。

 こんな出鱈目の数何て集めれるわけがない。

 領民や商人が減る前なら大丈夫だったが……。


 こ、これはいかん!

 直ぐにゲーラ伯爵様にこの事を報告せねば!



 ◇◇◇


「どうしたと言うのだ代官。代理輸送の件は大丈夫なんだろうな」


 その代理輸送の件でやってきたゲーラ伯爵様の執務室だったが、承認が必要な書類は壁側の机に乗せられ見る気がないように手付かずのまま置かれている。


 この書類は後日こちらにそのまま回って来るだろうと考えながら、代理輸送の件を話す。


 そうすると次第にゲーラ伯爵様の顔色が変わってくるのが分かる。

 これは不味い、癇癪を起こす寸前なのが直ぐに分かる。


 案の定「あの領地で出来た事が、何故ここで出来ないんだ!」と言われたが、正直話を聞いていたのかと疑いたくなるがしょうがない。

 この領地でゲーラ伯爵様に逆らっては生きていけない。


「では、近隣の村からや地領の町から荷馬車を集めてくるしかないのですが……人員も護衛も足りません……」

「うぬぬぬぬ……っ。よい!なら、荷馬車の手配はお前がやるのだ!わしが人員の手配をする!」


 ……。

 ゲーラ伯爵様はそう言ってくるが、一体何処からそんな大勢の人員を連れてくるのやら……。

 最悪、この町の衛兵達を使うはめになるだろう。

 そうすれば、治安も悪くなるし魔物の脅威度も格段に……いえ、ここは一度ゲーラ伯爵様を信じて荷馬車を確保せねば!




 それから一週間後、何とか荷馬車を確保出来た。

 本当に町や村からかき集め、出ていった領民や商人が残した荷馬車を拝借し、なんとかなった。

 輸送期限までまだ少しは余裕がある。

 これから品をかき集め何とか間に合うだろう。


 それにしてもゲーラ伯爵様が雇った者達は本当に大丈夫なのか?

 案の定、衛兵が全体の3分の1程居るのはやはり、人員がそれだけ集まらなかったんだろう。

 それ以外の御者や護衛を担当する人などは、この町の領民……その、柄が悪い人達みたいだが……。


 と、取り敢えず、この集まった人数を3つに分け、商品をかき集め指定されている場所まで行くように指示をするしかない。

 それぞれに衛兵を振り分け、いざ実行開始だ!


 ◇◇◇


 ……。

 何とか私が荷馬車担当する商隊は、アルト殿下の指定されている倉庫までたどり着き、納品を終わらせることが出来た。

 実際に私の商隊が一番の難所だった。

 遠い村を寄り、荷物を購入し長い道のりだった。

 幾度となく襲ってくる魔物には肝を冷やされたが、何とか納品を完了することが出来た。


 そう、出来たのだが……やはり無謀であった。

 この人件費をかけてまで品を届ける意味は余りない。

 契約書と一緒にあった前回、前々回の価格は出せなかったのだ。

 どうやってあの金額を出していたのかが……せめて、ダンジョンから手に入るマジックバックがあれば……いや、あんな高価な魔法道具はゲーラ伯爵様と言えど、1つ所持しているだけだ。

 それに、容量もそれほどないしな。

 もし、貸し出されても余り意味がなかっただろう。


 だが、値段は高くはなったがそれは商人が仕入れるくらいの金額と同等、次はもう少し値段が下げれるように注意されたが、どう下げればよいのか……。


 後は納品期限までに残りの2商隊が到着を待つだけだ。

 これで、少しは肩の荷が降りると思うと良かったと思う。


 ◇◇◇


 おかしい、おかしい!

 いくら待っても、残りの後続がやってこない……。

 ど、どうなっているのか分からない……。


 考えても見たが、一番遠くまで仕入れに行っていたのは私の商隊だったのだ、だから私の商隊より早く着かなければならない……が、まだ着いてないとは……。


 期限まで後4日と迫っているのに!えぇい!仕方がない、衛兵皆手分けして、他の商隊が来るルートをたどり確認して来るのだ!急げ!馬を飛ばすのだ!



 ◇◇◇


 お、終わった……先ほど商隊を探しに行っていた衛兵が到着した。

 その衛兵に連れられ、違う商隊を護衛していた衛兵が運ばれてきた。

 ボロボロの姿で……発見した時には虫の息で、ポーションを飲ませながらここにたどり着いたみたいだが、あの傷では正直助からないだろう。が、その衛兵が教えてくれた。


 この傷をおった衛兵が居た商隊がどうなったのか……正直聞きたくはなかった。

 考えたくはなかった。


 その後も探しに行っていた衛兵が続々と戻ってきたが、結果は生存者のこの1名を除いて衛兵達は全滅してしまっていた。


 こうなった犯人は、他の寄せ集めした人員が原因で、荷物等を購入後こちらに来る際に衛兵が油断をした隙に皆襲われたのだとか……。


 あの集められた人達はゲーラ伯爵様のお膝元の町の住人で、その住民が今回盗賊行為を行ったのだ。


 最悪だ。

 最悪の展開になってしまった。

 せめて、まともな人員が居ればこうはならなかったことが悔やまれるが、もうどうしようもない。



 その後はこの事を、輸送先に報告し残念だが、輸送が出来なかったことによる違約金を払わざる得ない状況になってしまった。


 怪我を追った衛兵はアルト殿下の治療院に預け、残っている荷馬車にゲーラ伯爵領で販売する品を購入し、我々はゲーラ伯爵領へと戻っていく。



 ◇◇◇


 何とかゲーラ伯爵領のお膝元であり、私が代官を務める、バルムにたどり着くことが出来た。


 私、サイマラ・フェルサスが生涯をかけ長年管理してきた町は日々過疎化が進み、今は人影が余り見えない。


 ……寂しいものだ、以前のバルムはお世辞にも良い町ではなかったが、今となっては懐かしい思いだ。


 ことの顛末をゲーラ伯爵様に報告するのが、物凄く憂鬱になってくる。


 この町のために仕入れた品物は、衛兵に言って販売してきてもらう。

 この町に唯一残った、商会にだ。

 この商会のお陰で、荷馬車を確保するときに助かったのだ。


 ……はて?だが、この商会以前はあっただろうか?他の商会に隠れて目立たなかったのかもしれないな……。


 さて、私の残りの人生をかけた報告に行くとしよう。

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