第42話
「は、ゲーラ伯爵様!」
ゲーラ伯爵は護衛の制止を振り切り、作業員に向かっては剣を手に近付いているが、作業員も騎士も動じてはいなく、体勢を変える様子も怖がる様子もない。
そんな中、必死に護衛達はゲーラ伯爵を引き止めようとしているが、相手に対して何処か違和感が出てくる。が、ゲーラ伯爵の行動に対してヤバイと思う気持ちが勝ちそれどころではない。
そんな時「キュ、キュイ!」と小さな声が聞こえたようなと思うが、ゲーラ伯爵の様子もそれからおかしくなった。
と、言ってもゲーラ伯爵は手に剣を持ったまま、急に眠ってしまったのだ。
「げ、ゲーラ伯爵様!」
ゲーラ伯爵の身体を押さえていた護衛は、急にゲーラ伯爵の体に力が抜け倒れようかしているのを、何とか支えることが出来た。
「な、何だ一体……」
突然の睡眠。
目の前の騎士も奴隷もおかしな行動は取っていない。
辺りを見回しても誰もおらず、ただ困惑するばかりだった。
その後も護衛は揺すって起こそうとするが、中々起きずどうすることも出来ない。
その時騎士から護衛に向け言葉を発する。
「おや?どうやらゲーラ伯爵様はお眠りのご様子。護衛の方々このままお引き取りをお願いします」
ゲーラ伯爵の護衛達はそれが何処か不気味で、ただただ返事するしかなかった。
その後はゲーラ伯爵が持っていた剣を鞘に納め、ゲーラ伯爵を馬車に何とか移動させ逃げるように去っていった。
騎士や作業員は去っていったゲーラ伯爵を見ていて、視界から消えると空を見上げ。
「アルト様、ありがとうございました。無事にお引き取りをされました」
と騎士が言う。
◇◇◇
「で、どうなったのだ?」
ここは工場内で、カインドはアルトにそう質問をする。
「はい、ゲーラ伯爵は護衛の所持していた剣を手に脅しをかけていたので、眠らせそのままお引き取りを護衛に伝え帰っていただきました 」
「そうか……」
カインドは何処か考えることがあったのか、腕を組そう言う。
この後は問題が起きることはなく。
一日は普通に過ぎ去っていった。
次の日カインドが見守る中、朝から領主ビルでは恒例の会議が行われていた。
「アルト様、商業モールにてテナントで新たに出店したいと言ってきている、商会主が73件程申請がありました」
今報告しているのは、商業ギルドのクルオラだ。
「73件ですか……その中でこの町の住民登録があり、住む場所が決まっている商会主様はどの位いらっしゃいますか?」
クルオラの報告に、住民登録を主に担当している責任者の女性がそう問い掛ける。
「21件ですね」
「それでも21件か。それくらいならモール内部ではなく前の広場にどうだ?……待てよ、そうすると逆に21件は少ないな……モール内のテナントと商品が被っていないところを選んで、全部で先の21件を含め40件はいけるんじゃないか?」
クルオラが答えると直ぐ様、違う部署の責任者がそう言う。
「露天や屋台みたいにですか?」
「そう出来るところは少ないだろう。開拓で使ったプレハブ小屋を簡易店舗に使えるなら、1日いくらで貸し何日出店っていう風にし、売上が高いところはモール内部にねじ込んで。モール内の売上を上げれば良いんじゃないか?」
「良いね。それならプレハブ小屋の貸出し料は、クルオラさんに任せるよ。商業ギルドがプレハブ小屋を今後管理するなら料金はギルドに入金して下さい」
「良いんですか!ありがとうございます!」
うん、人数が揃えば1人では考えれないところも、解決案が出て来て会議も町の経営も、良い方向に進むな。
「次は鍛冶ギルドどうぞ」
「おぅ!最近は武器も鶴嘴も良く売れているようだが、材料の金属が間に合ってねぇんだ……ダンジョンで鉱山が出来たのに金属の買取りが余り無いみたいだがどうなっているんだ?」
「ん?どうなっているの?買取は冒険者ギルド担当だよね?」
「はっ、確かに冒険者ギルドの管轄ですが、クエスト分の鉱石は確かに冒険者から回収はされてますが、それ以外の鉱石はどうも違う所で販売をしているみたいなんです。……もともと何処の町の冒険者もそうしていて、この町で強制するわけにもいかないんです」
「何処かに売却ね……?買い取っているところは商業ギルドですかね?」
「いえ、滅相もございません。私達もこの町の商会主もそれは行っていません」
「どうして他の商会主もって言えるの?」
「はい、少し前に鍛冶ギルドと冒険者ギルドより調査依頼が来て確認しておりました」
「なるほど。なら、他領から来たこの町で商業権を持たない何処の商会だろうね。分かった。引き継ぎこちらの方でも調査をしてみるよ。ハンスさんお願いね」
「あぁ、了解だ」
通信機器が一般には出回っていないこの会議は、半月に一回は行うようにしている。
そうしないと、重大な見落としがあるやもしれないからだ。
一応、定期報告書は毎日貰っているのだけど、それに書かれていない事も会議では発言がある。
「会議中失礼致します。申し訳ございません!」
その会議中にメイドの1人が会議室に入ってきた。
「どうしたの ?」
「はい、申し訳ございません。ロビーにゲーラ伯爵が来られ、アルト様に取り次ぐよう騒いで、他のお客様にご迷惑が出ております……」
ほんとに毎日暇だなゲーラ伯爵。
そもそも、ゲーラ伯爵との約束の日はまだ先だぞ?
「……またか、諦めないね。ゲーラ伯爵は……。ゼロス言ったよね俺?来月の8日にって……」
「間違いなく」
やはり勘違いではなく、ゲーラ伯爵がそれを無視しているみたいだな。
「はぁ、今は会議中だ。仕方がない……陛下夕方の話し合いの時間割いても宜しかったでしょうか……」
「……ゲーラめ……よし、ちぃっと懲らしめようではないか。良いぞアルト。で、俺も立ち会うからな」
二人の時はもうちょっとラフに話すことが出来るが、流石に皆の前では父上に対して言葉遣いも気を付けなければならない。
で、緊急に入ったゲーラ伯爵との話し合いになにやら父上も参加するみたいだ。
「……陛下も、でしょうか?……なるほど、分かりました。ゲーラ伯爵にはその様に伝えてください 」
「か、畏まりました 」
メイドが出ていき会議を再開させる。
会議自体はやはり昼食を挟み、夕方まで続いた。
で、メイドに聞いた話によるとゲーラ伯爵はあの後怒りながらも、一端帰っていっては夕方になって、やって来てまた騒ぎだした。
夕方と言ってもまだ約束の時間にはなっておらず、会議もまだ続いていたが仕方がなくゲーラ伯爵をこの会議室に通すように伝え、少し経ち会議室にゲーラ伯爵がやって来た。
「殿下!どういう事ですかな!わしをこんなに待たせてから!重大な話があると言いますのに!それに、わしに椅子もないとは……この対応は全て陛下に伝えてしまいますぞ!」
まだ続いていた会議が行われている会議室にやって来たゲーラ伯爵は開口一番にそう言ってきた。
おいおいおい、伯爵とは言えここには父上まで居るんだぞ?先に挨拶なり、急な来訪すみませんみたいな言葉は無いのか?……いや、父上は他の担当者の後ろに隠れているな……。
「……ゲーラ伯爵、貴方は何を言っているのですか?挨拶もなしに失礼では?重大な話?それなら手紙にその内容を書いて出すべきでしょう。それに、貴方との話し合いは来月の8日にお伝えしてますが?」
正直ムカムカする人物だが、相手は伯爵とあってこちらよりも下のものだ。
けど、一応は少し嫌みを込め、少し丁寧に話す。
「それでは遅すぎるのですよ!」
あぁ、これは嫌み言ったの聞いてないのか?
本当に図太い性格だこと。
「あの手紙の内容からは、重大な話が一切書かれていなかったからですね。それに、こちらも予定が埋まっているんですよ?急に来ても会えるわけないじゃないですか」
そもそも今も会議中なんだよな。
案外重要な取組を決めていた最中だったんだよな……。まじで。
「そこを調整するのが普通ですぞ!そもそも殿下は領主に成るのに若すぎるとおもうのですが。……ふむ、それも陛下に伝えねばならぬな 」
「へー、そうですか。では、ご勝手にどうぞ。おい、ゲーラ伯爵のお帰りだ。案内を」
うむ、ゲーラ伯爵の言葉が流石にイラッとしたので、そのまま帰ってもらおう。
「なっ!まだ話をしていないではないですか!」
「話?今したではないですか?」
駄目だったらしい。
「くっ、(コケにしおって若僧が……)話とは領地間の特産品や品の買取りから、各ギルド話で……」
と思ったら、ようやくその重大な話をしているようだが、はて?うちと関係あるか?
「それがどうしたんです?何かあったんですか?」
「どうもこうもありません。領地での利益が低迷するどころではなく、商業ギルド自体が撤退し、物の売り買いが激減し領民までかなり減り始めておるのです。このままでは私の領地は潰れてしまうのですよ」
全く関係無いな。
「商業ギルドが撤退?クルオラさん何か知ってますか?」
「はい、伺っております。ゲーラ伯爵領では重税に重税を重ね、利益が出る処か赤字の経営に陥り撤退を余儀なくされたとか……そこの従業員の解雇や他領への移動を行ったみたいです」
「だそうだけど?ゲーラ伯爵、この話のために僕に会いに来たの?」
ゲーラ伯爵領の事は先日知り合った冒険者や、各ギルドにゲーラ伯爵領から来た移住希望者から話を聞いていたので知っている。
初めは工業スパイやらと疑っていたが、普通にゲーラ伯爵の政策のせいだった。
「そうですな。アルト殿下の領地からの物の買取りが無くなったお陰でこうなったんですぞ?どう責任を取られるか」
ゲーラ伯爵……もうこいつでいいか。
こいつは自分の失敗をこっちに責任転嫁しているだけか。
……全く図々しい性格だな。
「責任?取らないけど?そもそも、ゲーラ伯爵の領地から購入していたのは主に塩ですよね?で、塩の購入目的で王都やこの町で生産した物をそっちの領で販売していたけど、塩の値段が有り得ないほど高くなったんで、隣の領から購入するようにしただけで、何か問題でも?」
「大有りですな。王都からのわしの領の販売も無くなったのですぞ?」
当たり前だ、そっちで塩を購入目的の上で商人も動いているんだから。
「はい、そうでしょうね。値段が高いし税金まで高いから、商人も旨味が無いんでしょう」
「聞いた話によると、王都商業ギルドもこの町から代理で物を売り買いしているのも原因じゃないですかな?」
「?……それがいけないんですか?」
「分かって居られない様子ですな。これからは殿下の代わりにゲーラ領でそれを行うと言うことですよ」
こいつがキャラバンをね……しかも、今この領で行っている販売も購入もこいつが行うと……出来るのか?
もし、失敗をすれば相当の赤字になる事業なのに。
まぁ、ゲーラ伯爵に対しての罰はこの件で良いかもしれないな。
「ふーん、出来るならどうぞ?こちらはそれで良いですか、本当に任せても大丈夫ですか?」
「おぉっ、アルト殿下は分かって居られますな!当然である。この領が出来るなら、わしの領で行うなど容易いことですな。はっはっは!」
……こいつ、気持ちが悪いように対応を変えてきて……。
もしかして、それで相当な利益が出ていると思っているのか?
「では、その件はゲーラ伯爵が責任もって代わりに行うと言う契約書を作成しても?」
「そうですな!口約束は宛にならないですからな!」
「では用意するのでお待ちを。クルオラさん、すみません契約書作成をお願いします。それと、ゼロス。王都の商業ギルドと作成した契約書も持ってきてくれ。これにゲーラ伯爵が次回より引き継ぐ内容を書くから。で、見届け人に……陛下、お願い致します」
本当に口約束は信用できないからな。
特にこいつとなると。
「へ、陛下!いつの間に!す、すみません!御挨拶が遅れまして!」
ゲーラ伯爵は今カインドの存在に気が付いたようで、更に態度が変わった。
「よい。ゲーラよ、購入に輸送は本当に大丈夫なのか?大丈夫なら見届けるが 」
「も、勿論でございます!お任せくだされ!私めが責任をもって執り行う所存でございます!」
「うむ」
「では、こちらにアルト王子、ゲーラ伯爵様両名の署名と指印をお願いします」
これで、各書類も作成は完成した。
これをこいつと俺、商業ギルド、王都商業ギルド、父上のそれぞれにコピーを渡し、この話は終了した。
原本は更に父上に渡し、国で管理してもらう。
その後は上機嫌に帰っていくゲーラ伯爵だった。
「で、アルトよどうだと思うか?」
「先ず、無理でしょう。この政策は輸送トラックがあって、さらにキャラバンとして10台用意することで初めて出来る話ですから」
そう、移動コストを下げるにはどうしても荷馬車ではダメだったのだ。
輸送トラック並みの積載量がないと正直、王都分までとはいかないだろう。
もし、それをするなら何十台の荷馬車が必要になるのか……。
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