第44話
「な、輸送期限まで荷物が揃わなく違約金だとぉ!何だ、この違約金請求書は!」
「も、申し訳ございません!」
今回の輸送でおこった事は全て報告した。
それによりゲーラ伯爵様は案の定、大激怒である。
「せっかく、わし自ら人選し、選りすぐりの者を預け、しかも、衛兵を引き連れていったのに失敗だと?サイマラ!何をふざけているんだ!」
選りすぐり……寄せ集めではなかったのか……。
今回の失敗の原因は仲間内の裏切りによるものだ……うぅ、そのせいで衛兵も少なくない人数失ってしまった……。
「今回の失敗は仲間内の裏切りによる盗賊行為が原因で、次のゆそ……」
次は人員の見直しを徹底的に行うしかない。
足りなくなった荷馬車は、またあの商会で購入するしかないな……。
「何を!わしが揃えた人員が悪いと言うのか!それに、お前に次はないわ!お前には今回の損失を全額払ってもらい、尚且つ違約金も払ってもらう!」
ぜ、全額!それは無理だ!私に損失額を払うお金等あるわけない!
「そ、そんな無茶な!その様な大金払えません!」
「五月蝿いわ!金がなければ、私財から土地に家族に売るものがあろう!まぁ、それで足りなければ、お前自信が借金奴隷となるのだ!……ふむ、そうだな……お前だけじゃない、今回の護衛やその他の人員も同じようにするのだ!」
なんて非道な!私はこうなるために働いていたんではない!少しでも領民が暮らしやすくと思って頑張って来たのだ!
「なっ!ま、待ってください!そ、それは!」
「五月蝿い!下がらせろ!」
その後、今回の輸送を行った者は全員一度牢屋に囚われ、全員の私財に土地だけではなく、家族まで売られるはめになってしまった。
◇◇◇
時はさかのぼり。
ここバルムの町のあるところで
「はぁ、本当にこの町は死んでるわね……活気がないわ」
そう言っては、バルムの町並みを眺める女性。
「仕方がないっすよ、姉御。ったく、この町の伯爵様は何を考えてるんだか……」
その横ではそう言いながらも、腰に手をやり、頭をかく男性。
「何も考えて無いでしょうね。……もし、考えてこうなっているなら……最悪じゃないかしら?」
「そうっすね……でも、姉御?ここで商会を立ち上げたっすけど……この税金じゃ利益が出ないっすよ?それに、住民が余り居ないっすから、食料品も日用品も売れないんじゃないっすか?」
男は周りを見るが、それほど人が居るようには見えない。
人が居ないなら、物を売ると言った商売は成り立たない。
「何言っているのかしら?このミッチェル・ロータスに掛かれば関係ないわ。それに、今回はかなりのお膳立てもしてもらったから楽勝よ」
この女性ミッチェル・ロータスは、過酷な条件のはずのこの状態でも、少しも不安がってはいない。
「そ、そうっすよね!心強い、護衛も居るっすから大丈夫っすね! 」
その様子に男性も気持ちがかなり楽になる。
そう言いながら二人は購入したばかりの店の屋根の梁を見る。
「そう言うことよ。よろしく頼むわ、可愛い護衛さん達」
「「「チューィ!」」」
と、いうやり取りがあった。
◇◇◇
「はぁーっ……上手くは行かないとは思っていたが、初めから失敗したか……しかも、理由が仲間の裏切りとは……」
そうアルトは溜め息をついた。
「女狐が大分手助けをしたのにも関わらずな。しかも、大分足元を見て値段もバカ高く、荷馬車も品物も販売したんだよな?」
そうハンスも聞いてくる。
「しかもバルムだけではなく、他の村や地領の商人達と話をし、そこでも値段を吊り上げたらしいですよ……」
それに対しクルオラは追加でハンスに対してミッチエルの事を教える。
「流石女狐……恐ろし過ぎる……アルトも気を付けろよ?有り金持っていかれるぞ」
ハンスもミッチェルとは昔からの付き合いで、お互いのことは分かっていたが、今回の件でその恐さを再確認出来たようだ。
「ははははっ……大丈夫だよハンスさん。その利益の一部はこの町の運営費として送られてきましたから。何でも残りは、次の商いに使うとか……」
ミッチェルに渡したお金の何割かは、町の運営費に使える分として戻ってきたが、この勢いだと普通に全額戻ってきたりして……。
「……アルト様のご指示ではなかったのですか?」
「いやいや、クルオラさん。僕にそんな商才は無いよ……しかも、ミッチェルさんには、バルムでの諜報活動をお願いしたんだけどなぁ……」
どおりで、この町で余った荷馬車とキャラバンの一部に、少なくない軍資金を依頼されたはずだよ。
俺も俺で、ミッチェルを信じてお金を渡したんだけど、もう既に利益がかなりでたらしい。
「で、先日輸送の失敗のせいで一部商品が値上がりしたもようで、これが続くなら各住民から商業ギルドにクレームが入るでしょう」
このまま、ゲーラ伯爵が輸送に失敗し続けたら、品物が不足し値段の高騰がおき、下手したら騒ぎ立て良からぬ事をおこす者も出てくるだろう。
「まっ、そのまま行けばな。失敗を考えてキャラバンの大多数は動いているんだろ?」
そう、そうならないためにミッチェルに貸したキャラバン以外は、もう購入や輸送を開始している。
ただ、今回はゲーラ伯爵達と被らない村や町でだが。
そのお陰もあって、ゲーラ伯爵の輸送期限より2週間は遅れてしまったが、キャラバン隊は戻ってきた……。
……戻ってきたんだが。
ゲーラ伯爵を裏切った者達と荷物等を載せ……。
何でも、元バルムや近隣の村の元民で何故今回このようなことを行ったかなのだが、それはゲーラ伯爵が行った政策のせいで、お金も食べるものもギリギリ以下で、他領に出ていく事が出来なかった者達の犯行だった。
他領に出ていける人は、ある程度お金がある者で、直ぐに家なりを手に入れられるか、宿屋に止まり続けられ、直ぐにお金を稼ぐ術がある者達……それかお金はなく、そのまま無策で領から出ていく者達だった。
もし、町の外に出て魔物に出くわすなら、下手したら死を覚悟はしないといけない。
一般人の多くはあまり戦闘力はなく、倒せても低ランクの魔物がせいぜい。
もし、低ランクでも群れで出てくれば最悪な状況に陥る。
そのせいもあって、バルムや村から出ていった領民の中で、いくらかは数の魔物によって亡くなった人はいる。
今回のこの犯罪を犯した者達は強さ的にはそこまでなく、一人でもなんとか低ランクの魔物を倒せる位の強さしかなかったらしい。
しかも、今回の行動は商隊を裏切り追手を恐れ、衛兵まで手にかけてしまっているのが問題だ。
犯罪を犯していなければ、こちらからも救済の余地があったかもしれないが、今回の件は殺人窃盗。
この国では犯罪奴隷として罰せられる。
で、盗んだものは商品含め、荷馬車もほぼ戻ってきた。
当然、ゲーラ伯爵領では商業ギルドが撤退したため、物を売ることは出来ない。
そこで、隣の他領で販売を考えていた犯罪者達はそこでも商品の販売を断られたらしい。
で、俺の領に向かいこちらに来る前に魔物の群れと遭遇し、倒すのに難航していたらトラックのキャラバンが来て魔物を一掃し、ゲーラ伯爵領での殺人窃盗がバレ現在に至る……と。
ミッチェルが売った荷馬車が馬付きで、しかも商品も無償で手に入り財務担当者は密かに喜んでいた。
それから数日後、犯罪者達の処遇が決まった。
処罰は鉱山にて命が尽きるまで採掘してもらう。
言わば鉱山奴隷。
現在は犯罪者区分の奴隷としてこの町で奴隷商に契約させ、本日より鉱山にて作業が開始される。
本来ならもっと重罪の人等が鉱山奴隷となるが、この町なら鉱山奴隷でも優しい方だ。
冒険者等も鉱山のクエストを受けるぐらいに。
ただ、1日のノルマは設定し、毎日ずっと時間帯を決め鉱山で働くだけなのでそこまで難しいものでもない。
他に最近あったことは、バルムの町に行っているミッチェルから大量の奴隷が送られてきたことだ。
どんな奴隷が来たかチェックをしていて驚いた。
何故驚いたかと言うと、バルムの代官を勤めていたサイマラ・フェルサスさんだったのだ。
サイマラさんに聞くと、今回の奴隷として送られてきたのは、輸送を担当した衛兵にその家族達等だった……。
どうやらゲーラ伯爵は今回の件で、輸送をした者に責任を擦り付けたみたいだが、流石に許せることではない。
だって彼等は真面目に職務に就いただけなのだから。
この者達は他の奴隷商に買われる前に、何とかミッチェルが全員購入し、こちらに保護を頼んできた。
ふむ……この事は父上にも要報告の案件だな。
次の輸送も恐らく失敗するだろう。
そしてまた、同じことの繰り返しなんだと思う。
ここで、問題が1つ発生した。
送られてきた家族の奴隷の中には、あの鉱山奴隷になった家族が居た。
その家族に現状を話すと泣き崩れるものが続出したのだった。
それは仕方がないのかもしれない、今回鉱山奴隷になった者達は、家族のためとゲーラ伯爵の仕返しが目的だった。
だが、可哀想だからと言って罪を許すことは出来ない以上は、鉱山奴隷で無くすことは出来ない。
そう言えば、鉱山奴隷になった者も最低限の生活はさせないと生きてはいけない。
直ぐ潰れるようなら勿体無い。
そうだな……長期間働かせるのだから、衣・食・住は与えないといけないだろう。
今、手が空いている者は居ないから、新たに鉱山奴隷を世話する者を雇わないといけないが、残念な事に皆手が一杯の様子。
なので、今回送られてきた家事等の経験がある一部の奴隷達に任せることにした。
で、今回送られてきた奴隷達は犯罪者ではない、奴隷なので働いた分には給金を設定した。
勿論、犯罪奴隷が住む場所は残念な事に今はこの町には無いので、残念だがその世話係と一緒にマンションに無理やり詰め込む事にする。
鉱山から少し遠い町の端に勝手に決めたが、その区画はまだ誰も住んで居ない区画なので問題は無い。
それに、荷馬車はまだまだこの町にも在庫があるので幾つか貸し与え、鉱山までの乗り物代わりにするだろう。
まぁ、俺が彼等に出来ることはそれくらいだろう。
父上も、俺の奴隷達にそれをしたことに対して注意や文句は言ってくることがないはずである。
それから数日後、鉱山でどういう風に作業しているか、確認がてら見に行くと彼等からお礼の言葉や態度を貰ったが、余り嬉しくはなかった。
が、どこかホッとした自分がいた。
嬉しくない理由は、ゲーラ伯爵にあの領地に任命したのは父上であるカインドのお父様。
俺にしたらお祖父さんなのだから、任命した本人はもう亡くなっていて居ないが……。
それまで、バルムの町や村、領地を任せてきてそこまで大きな問題もなかったので、解任も出来なかったのが駄目であった。
今の俺は、開拓町に集中しすぎて他領の事は他人に任せっきりになっていた。
……少し、町が落ち着いたら他領を回るのも良いかもしれない。
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