第25話
今の開拓町は慌ただしく人々が動いている。
住民は領主ビルに警備兵はある地点を目指して移動していた。
建設中もこんなに慌ただしかったことなどなかった。
しかも、まだ朝日が出ていない時間に……。
「こちらが、ダンジョンにて分かっている現状を取り纏めました書類になります」
そんな町中が慌ただしい中、領主ビルの会議室にてそう言いながら、ゼロスがメイド達に書類を配らせている。
現在、開拓町の責任者と町での主要の人物に、各ギルドのギルド長が集まっている。
「皆様、緊急召集にお集まりいただき、誠に申し訳ない」
俺はそう切り出し、今回みんなに集まってもらった内容を話す。
「現在の町に出来たダンジョンは、冒険者ギルドの報告から行います」
「あー、まず、現在は調査パーティーを派遣し、分かったことを報告します。冒険者からの報告があったパーティーは冒険者パーティーランクCの【野獣】のみです。ダンジョンに入ってまず、広い部屋に転移魔石を多数発見。奥にどでかい扉が有るみたいだが、何やっても開かなかったもよう。現在はその扉を別のパーティーに調査は依頼中で、その件は追って報告致します……」
その扉は僕もラットラットの視界を借りて見たが、本当に大きかったな……ラットラットの視界から見たから余計に大きく感じたけどね……。
「で次に、転移魔石先ですが全て異なるダンジョンフィールドに繋がっていると予想されます。御丁寧に其々の転移魔石には【草原】【洞窟】【湖】【森】【神殿】と書かれており、【野獣】がいる【草原】とアルト様が独断で従魔を放った【洞窟】は間違いなくフィールドの確認をしています」
うっ……ギルド長……その件は先日謝りましたよね?本当に申し訳ございませんでした。
「ちょっと待ってくれ、俺はダンジョンの事はあまり詳しくないが、フィールドって何なんだ?」
元南スラムの管理者で、作業員達を纏めてもらっているハンス・ハウテンが、手を上げながらそう言うと、元西のスラムの管理者で、現在女性達の纏めてもらっている ミッチェル・ロータスが、勢い良くハンスに注意する。
「ちょ!ハンス!相手は王族よ!言葉使いを!」
「いいじゃないか、アルトは敬語は不用って言っているんだしよ」
あぁっ、俺が王子ってバレたときですね?
「あなたね……それは、個人で会いに来る場合よ……こういった会議は言葉遣いに気を付けるべきなのよ……」
まぁ確かに、そうしてくれると有難い時もあるんだよな……。
特に父上に会っている時なんかは……ね。
「なに?そうなのか?……すまねぇ……いや、申し訳ないでございます?」
「……あなた……まさか……敬語分からないの?」
「しょうがないだろ!スラムで使った試しなんかないからな!」
成る程……ハンスさんも苦手な事があったのか。
何でも出来るイメージはあったんだが、盲点だったよ。
……俺の教育係余っているみたいですよ?
王都にだけど?呼び寄せますか?
まぁ、スラム住民を受け入れる際は、最低限の礼儀さえ守って貰えれば、問題ないんだけどね。
この町に現在住んでいる人達は、元スラム住民の働きに感謝しているから、会議参加者も苦笑いだけど文句を言う人は居ない。
何故苦笑いなのかは、ハンスさんとミッチェルさんの掛け合いがこの町の名物で、まさかこの会議でもやるとは思わなかったためだ。
「まぁ、楽にで良いんじゃないかな?ほら、僕も敬語じゃないし」
「「「「領主で王族、しかもこの町の最高責任者だからだよ!」」」」
あらやだ……兄弟の王子・王女から突っ込みが来るとは……へこみますよ?本当に……
「ファファファファファ!いやー相変わらずじゃ、アルト様。この町の住人は大変面白い」
「……何だよジジィいきなり」
いきなり笑い出す元北のスラムの管理者で、財務の責任者となっているセバスチャン・ブイエ。
「だってのー、ここまでゆるい会議は聞いたことがないからの……しかも、町の将来に関わる重要な会議でじゃぞ?普通は有り得んわい。じゃが、ワシはこっちの会議の方がええのう。気になったことや、疑問点を言いやすいからな」
あっ、僕も苦手だなぁ。
ガッチガチにお堅い会議は肩も首もこるからね。
「何だ、そんなことか……俺も会議のイメージが変わったぜ」
「崩したのはお主なんじゃがな……」
「うぐっ!」
ハンスが自滅した所で冒険者ギルド長が話し出す。
「……で、ハンス様が言われましたフィールドの事なんですが、ダンジョン内部に森や草原等があり、それこそ外に居るのと変わらない階層もあります。一般的に多いのは【洞窟】のフィールドですが、大きいダンジョンになると、下層に様々な環境のフィールドが、確認されています」
「なるほど……じゃあこの町に出来たダンジョンは、大きいダンジョンになるわけか……ですか?」
「とは言い切れません。初めから各フィールドがあるダンジョンは、全世界確認されているダンジョンでは、初めての事ですので……まず、各フィールドが何階層あるのか確認出来れば良いのですが……。現在調査パーティーの【野獣】が一番進んでいる状態で今2階層で、朝には3階層に行くと昨夜連絡が入りました」
「そうなのか……」
何やらハンスさんはここで、何やら考え込むように黙ってしまった。
「つきまして、今回緊急でお集まりいただいた内容ですが、そのダンジョンで問題が発生したことが原因です」
「問題だと?」
次に、冒険者のギルド長の言葉に反応したのは、第1王子のオーウェン兄様だった。
「他のフィールドは連絡がありませんが、【野獣】によるとダンジョン内から魔物が一切出てこなくなったと報告がありました。そして、【野獣】が調査しているのは【草原】のフィールドです」
「なに?」
「また、アルト様からですが、アルト様の従魔達は【洞窟】のフィールドを調査されていまして、現在も多種多様な魔物と交戦中で、危険と考えられ昨晩には追加で従魔を投入されております」
「おい、それは本当かアルト?」
席を勢い良くたち、俺を見てくるオーウェン第1王子。
その様子は何処か焦っているようにも見えた。
「はい、初めはラットラットの調査部隊を投入していましたが、途中からラットラットでは対処しきれない魔物が現れました。そこで、直ぐに追加部隊を投入しましたが、しばらくして、ダンジョン内に出てくる魔物の種類が大幅に変わりました」
「……どのように変わったのだ?」
「調査初めは、スライムにコボルトでしたが、突然シャドーがかなりの数現れ、現在は全47種類の魔物を確認しています」
「……多くないか?」
「はい、多いです」
そうなのだ。
【洞窟】のフィールドでは元々、その様な仕様と言われたらお仕舞いだが、これは明らかにおかしい。
初めは、かなり分散していたラットラット達は、追加で潜っていったスパローやゴブリンにコボルト達は部隊の回収をしながら反撃に出るように指示していた。
流石にどうやって進むかは逐一念話を飛ばし、道案内をしたので目的地には最短距離で着くことが出来ていた。
で、現在は一ヶ所に全ての従魔を集めても戦いにくいだけなので、何部隊かに別けて魔物を食い止めてもらっている。
……足の遅いスライムは、今やっと戦闘に参加したようだが……。
「……アルトの従魔達は、かなり下の階層まで、調査しているのか?」
下に行くほどダンジョンの難易度は上がる。
それは、俺の地球で見たアニメや小説に漫画の知識と同じで、この世界でも冒険者達の中で当たり前の常識だった。
多種多様な魔物……47種類の魔物と言われたら、かなり下の階層を想像するのは当たり前の事なんだが。
残念な事にまだ1階層しか従魔は探索していない。
俺はその事を会議参加者に伝えると、ほぼ全員が動揺したのが分かる。
ハンスさんみたいにダンジョンに疎い人達の為、冒険者ギルド長は常識の擦り合わせとして、俺の報告に合わせ話してくれた。
結果……
「やべーじゃないか!流石にダンジョンの氾濫……スタンピードは俺も知っている!アルト、これからどうするんだ?」
そう、浅い階層に多種多様な魔物が数多く集まるのはスタンピードの予兆だ。
そのスタンピードで今まで幾つもの村や町が壊滅する事は有名な話だ。
「現在は町に居る、警備兵の集結に住民の避難。それに、父上…陛下に報告が最優先にし、冒険者の雇い入れを開始しています。ダンジョンには準備が整い次第に、各フィールドに部隊の投入を考えております」
「通りで、町中が慌ただしかったわけだ……」
ハンスさん、何だと思われたのですか?
「……その報告は今聞いたんだが?」
オーウェン兄様?あなた熟睡中でしたよ?仕方なかったんですよ?早く兵を動かすためには……。
「で、ハンスさん達と王子、王女達は住民の移動の指揮と手伝いに回ってください。各ギルド長は冒険者ギルド長に従い行動をお願いします。……オーウェン兄様とケビン兄様は僕と兵士の指揮をお願いします。王都への報告はゼロス、お願い……」
その後、住民の避難だの食糧の手配だのその他もろもろ指示を出していった。
それからバタバタと全員行動を開始して、アルトはオーウェンとケビンを連れダンジョン前に警備兵を集め待機していた。
いきなりダンジョンに入るのではなく、今は冒険者達の合流を待っている状況だ。
ただ待っているだけではなく、仮設テントを張ったりと色んな作業をしていた。
冒険者のギルド長は一旦ギルドに戻り、冒険者達に内容を伝え、後程合流になる流れだが、数は余り期待はできないみたいだ。
「本陣の設置完了致しました!」
警備兵からそう報告を受け、アルト・オーウェン・ケビンの他にも元南のスラムの管理者のハンスと元東のスラムの管理者だったアウグ達が本陣に移動していった。
何故この二人が来たかは、現在ハンスとアウグは警備兵の総隊長を勤めてもらっている。
で、その上司が第2王子のケビンで、警備兵の総責任者をしてもらっている。
まぁ、実際にケビンは期間限定のポジションになっているが……。
中々優秀で、今はそっちの方面で頼りっきりになっている。
初めは、馴れておらずただオロオロしていたが、時間が経つにつれハンスやアウグ含め部下達の信頼も勝ち取り、役職に恥じないものとなった。
一方、俺達の一番上の兄弟である第1王子のオーウェンは警備兵の指揮権はないが、代官
として勤め、各署に指示をしたり町の開発の責任者のトップをしてもらっている。
その他にも重要な各担当には、その他の兄弟を期間限定であるが其々が役職に就いてもらっている。
……まぁ、全員が全員じゃないが。
まだ、子供な王子に王女達は兄様や姉様の補佐をして
……僕ですか?
空いた時間を使って建物の設計図を書いたり、農業村に行っては作物の確認したり、その他の俺にしか出来ない決済の書類やら相変わらず物凄く忙しい。
ただ、兄弟が来る前に比べるとそれはかなり楽にはなっているんだけどね。
そこは父上のカインド王には感謝している。
そして今回もだ。
王族である俺達兄弟が開発町にいるということで、町に居る警備兵とは別に騎士団も兄弟の護衛を名目に町に滞在しているのだ。
流石に俺の町だからと言って、兄弟達には一人で町中を彷徨くことは出来ず、一定の騎士団を引き連れ兄弟達は仕事を行っている。
その数200名
実際にはその半分でいいんじゃないか?とは思ったが、今となってはそれも有難い。
騎士団も護衛がメインだが、護衛だけだったらこの町に居る兄弟全員につけても50人で事足りる。
カインド王の狙いは町の外で部隊訓練が出来るからだと言う。
まぁ、開拓する前のこの村……ザイールだったか?そう、そんな名前の村の跡地を一時騎士団の演習の場所に使っていたが、町開発をすることになったため、現在はこの町の外で演習をしている。
その為、定期的に王都に居る騎士団や魔術師団の半数は交代しこの町に滞在していたんだが、残念な事に今は王都に戻っているから、護衛の騎士団しかいない。
それでも200名は居るので心強いものだ。
で、先程警備兵達が本陣の設置をしている間に、俺は俺専用の天幕に一人だけいて、あることをしていた。
ゴミ山でラットラット達が魔物を討伐を毎日行ってたので、従魔の主人の俺は遠く離れていても、少なからず経験値が入ってきていた。
そのお陰で、戦闘職の職業がレベル上限になっていた。
職業を選んだばかりは【見習い~】ってなっている職業も今では、その上位の職業に就いていた。
今ではその職業も幾つかはレベル上限となり、更に上位の職業に変更をしていたが、今の選んでいる職業は、戦闘職以外にも生産職等も選択していたため、ダンジョンに入る事になるから、全て戦闘職に変更していた。
因に職業レベルもそうだが、個人のレベルもダンジョンに潜っている従魔のお陰で、現在進行形でレベルが上がっているのは嬉しい誤算だった。
本当に【調教師】の職業様々だ。
いや、今は【魔物使い】もレベル上限になり【統魔師】なる職業だったな。
【統魔師】って言う職業は聞いたことがなかったが【魔物使い】がレベル上限になった際に、選択出来るようになった職業のため【魔物使い】の上級職だと思うが……まぁ、大丈夫だろう。
「騎士団及び、警備兵の集合完了致しました」
そう、報告があり俺は意識を現実に戻す。
そうだった。
本陣に移動した後暇すぎて、色々考えたが準備が出来たのか。
「冒険者はどのくらい集まっている?」
そうオーウェン兄様が警備兵に確認した。
「はっ。まだ集まっている最中のようで、現状は5パーティー……18名程でございます」
「そうか……少ないな……」
「仕方がありませんよ、兄様。こんな朝早くにその人数集まっただけでも、有難いです」
「それもそうか……」
その後、冒険者ギルドのギルド長が本陣に到着し、冒険者達も追加で60名ほど連れてきてくれた。
何でも、今回は緊急依頼をかけてもらい、尚且つギルドランク制限をかけたため、この人数になったとか……今集まっている冒険者達はDランクより上の冒険者達で、それより下の冒険者は今回のスタンピードでは実力が不足しているらしい。
まぁこれで、やっとスタンピードに向け戦える人数が揃ったと言える。
ここに集まった者は、
騎士団約200名
警備兵約900名
冒険者約80名 合計1180名だ。
ただ、警備兵と言っても魔物に対する戦闘力 は個人差があり、それこそ冒険者ランクがFやE位の者が多い、定期的に武術訓練はしないといけないが、実質開拓の忙しさから行えていなかったのが悔い改められた。
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