第70話

「さて、今日は何から始めようか?」


 領地運営やオーウェンの屋敷建設に生産地区の開拓も順調に進んでいる中で、今日のやる事を考えるアルト。


「今日の予定は、国家機密区域で試作品の実験が朝一で入っています。その後、オーウェン殿下の屋敷の進捗状況確認があり、その後に申請書類の承認作業を昼前までに終わらせ、昼食をした後、ゲーラ領村の視察が本日の予定でございます」


 この暗部メイド鬼過ぎない?

 普通に考えても、アディからゲーラ領の村まで何日も馬車でかかるんだが?


「鬼ではありません。アルト様は転移出来ますので、可能でございます」

「何故、思考が読める……」

「読めません。口に出されているだけでございます」

「そうですか……行ってきます…」


「おぉ!旦那、来たきた!試作機と言っても、エンジン?だったか?これ、まぁ、この可動実験なんだがな!幾つか用意してみて、少しづつ改良されているんで、1つづつ可動チェックしていく、旦那が見てみて問題あったら教えてくれ」


 そう言って、飛行機のエンジンを置いてある建物に移動する。


「へぇ、もう試作の段階から改良されているんだ?」

「まぁな。農耕機の時にノウハウは学んだからな」

「い、いや、農耕機と飛行機のエンジンは全く違うだろ……大丈夫か?」


 建物に入ると、農耕機とは比べられない程の大きなエンジンが並んでいた。

 一つ一つが誰よりも大きく、よくこの短期間でこれだけの物を作れたな……。と、苦笑いをする。


「まぁ、なるようになるだろ。おい、1号機を可動させてくれ!」

「へぇ!」


 早速エンジンを可動させていく。

 エンジンの正面や後方は危険なため誰も居ないが、エンジンから出てくる熱風と音でアルトは少し後退りをする。

 後退りして気付いたのだが、何もアルトだけではなかった。

 他の作業員や職人もアルトと同じく後退りをしていたようだ。

 ここの現場を仕切っている者を除いてだが。


「……思っていたより凄い音だな」

「まぁ、剥き出しのエンジンだし、この大きさならこんなモンだろ?」

「それもそうか」


 現場を仕切っている者と話していると、作業員が声を出す。


「あっ、お頭!」

「どうした!」

「燃料魔石の消費量が半端じゃないくらい多いみたいですぜ」

「なるほど……よし、止めろ。今のはメモしとけ。その他にも細部点検だ。他に問題箇所があればメモしとけよ!」

「へい!」


 どうやら1号機は燃料を思っていたよりも消費するみたいだ。

 現場を仕切っている者の指示に従い、1号機を何処かに持って行って点検をする様で、複数の職人が1号機を押し運んでいる。


「よし、次は2号機やれ!」

「へぇ!」

「ん?どっか擦れている音がするぞ!離れるんだ!」

「へ、へぇ!」

「……スレている音はするが、エンジン音はさっきより大人しめだな……何だ?」


 2号機はエンジンを可動させた瞬間に1号機にはなかった、異音が聞こえ始めた。


「2号機の設計図はあるのか?」

「もちろん。おい、設計図を持ってきてくれ」

「こちらです!」

「ふーん、確かに僕が渡した設計図と若干違うね。……ん?ここの寸法間違ってないか?」


 設計図を見ていくと、寸法なんかが書かれているが、若干おかしな所に気付いた。


「マジですかい?……本当だ……これから歪みがでて馬力も落ちたのか……よし、止めろ!次は3号機行くぞ!」

「へぇ!」


 すぐさま3号機を可動させていく。


「ん?これはマトモだな」

「これは改良してない試作機で、試運転も問題ないようだな。よし、3号機は一旦止めて、向こうの方で稼働させてくれ。各部磨耗のチェックを行う。点検後に報告してくれ。次、4号機を可動させろ!」


 3号機は俺が渡した設計図の通りに作った物らしく、何事も無く可動してくれた。

 それを確認したら3号機を移動させ、4号機の可動チェックに入る。


「へぇ!」

「ん?他の試作機に比べ、色々パーツがついてない?」


 4号機に目をやると、今までに無いパーツがついていたり、大きさも先程の3号機より大きく見える。


「この試作機はエンジン音を下げ、出力を上げまくった奴だな。正直、出力を上げまくった試作機にしようとしたが、組み上げ時のテスト後に可動確認したら、ハデに壊れてしまってな……で、このエンジンもそうだが、他のエンジンにもアルト様から貰った、ミスリルを混ぜてあって、強度は上がっているはずだ。しかも4号機の外装も部品もミスリルが混ぜてある強化パーツをふんだんに使っているんだ。まぁ、俺達の自信作と呼べる代物よ」


 よくもまぁ、試作の段階でここまでの物が作れた職人達はかなり優秀なんだろう。

 ただ、1つ引っかかる点もある。


「流石ですね!……ただ、惜しいのはこのエンジンは空で使うもの何で、目指して欲しいのは、安全性は勿論だけど、軽量化と力だよ?」

「むぅ……そうだった。じゃあ使えないのか俺達の自信作?」

「使えないことは無いかな。とりあえず、防音に使っている部品をとっぱらって、軽量化は出来るしね」

「それだと、他のもそうだがうるさ過ぎないか?」

「まぁ、そういう乗り物何だよ。気になるなら、防音の付与魔法をかければ良いだけだしね」


 現代の技術者なら喉から手がてるほど欲しがる、魔法があるからそれを頼らない方法はない。


「その手があったか!おい!誰か、付与魔術師を探して来てくれ!」

「そ、そんな無理ですぜ……そんな貴重な人材なんて今直ぐには……とりあえず、アルト様に許可書は出しますが……」


 おーい、許可も何もここに居るのだけど?

 まぁ、許可書を書いてもらったら、履歴が残るから助かるのは助かるのだけどね。


「ぐっ…居ないのか……」

「まぁ、出来る範囲なら僕が付与していくよ」

「良いんですかい!流石アルト様だ!」


 ◇◇◇


「やぁ」

「おおっ!旦那来てくれたんですね」

「まぁ、設計者だからね、気になるんだよ。で、こうやって作業を見ていくと、次のため何処をどう改善したらいいのか見えてくるしね」


 そう言って建設予定の屋敷を見ていく。

 この屋敷の主な建材は、ある特殊な石ブロックだ。

 木造よりもコンクリートよりも頑丈にするために、わざわざ開発したのがこの石ブロック。


 その為、石ブロック1つで高額な品になっている。が、その性能はやはり高額な品だけあって今ある普通のブロックより遥かに良い品になっている。


「相変わらず、その若さで凄すぎだな」

「ははははっ、で、何か問題はない?」

「屋敷の設計も建築も問題はないけどよ?ここに住むのはオーウェン殿下だよな?」

「ん?そうだけど?」

「にしたら、警備が兵士や騎士だけって、かなり危なくないか?」

「確かに……よし、今日は一旦帰って考えておくよ」


 早めに切上げ、アディの自室にてオーウェン兄様の屋敷に対して防犯を考える。


「ウィード、兄様の屋敷の防犯どうしようか?」


 前世であれば、防犯センサーやカメラ何かがあるがこの世界には無いので、この世界で出来る防犯対策を考える事にしたが、なかなかいい案も出てこない。


 物は試しに神書を開いてみるが、何処ぞの遺跡を守護しそうなゴーレム何かが書かれていたが、流石に屋敷には大き過ぎて断念したアルト。


 考えに考えて何気に自室にいるウィードに声を掛けてみた。

 そうすると、鉢から根っこを抜き出し、自信満々に任せてと自己主張をするウィード。


「えっと……ウィードが屋敷を守るの?」


 ゆさゆさ〜♪


「危なくない?危険な魔物は居ないけど、もしかしたら人攫い何かが出るかもしれないんだよ?」


 それは小さい頃の経験から話すアルトだったが、どうしてもとウィードは自己主張を強めるばかり。


 実際に従魔の中でも魔物との戦闘経験も乏しく、あまりレベルが上がっていないウィードなので心配するアルトだったが、ウィードの熱意に負け屋敷の警備(庭)を任せることにした。


 そうなると、戦力の強化が必要かな?



 ◇◇◇


「ってな訳で、君らにはウィードを護りつつ、ウィードのレベル上げをお願いする」

「グギ!」

「「「ガウ!」」」


 早速クナイのダンジョン前まで来て、従魔のゴブリンとコボルトを呼出し、ウィードの護衛とレベルリングの手伝いをさせるようにした。


 ウィードが入っている植木鉢をゴブリンに渡し、中に入って行く従魔達を見送るアルトだった。


「さて、早く昼飯を食べて次はゲーラ領の村周りか……」



 ◇◇◇


「で、殿下!わざわざ辺鄙な所まで……」

「あぁ、いいよ大丈夫。普段通りにして欲しい」


 突然現れたアルトに驚きながらも、腰を低くする老人にとりあえず普段通りにと、お願いをするアルトだったが、更に村人は腰を低くするばかりだった。


「そ、そんな!殿下は我々の希望なのです!そんな失礼な態度はとれません!」

「はぁ、そうなんだ……で、何か困った事は無い?」


 子供の俺と同じ視線ってキツくないのか?

 知らない人が見たら、ただの変な人だぞ?


 村人は態度も本人自身も低くなっていた。


「困った事……ですか…。村の統合も終わり、農業や林業に、細々と生産の仕事をしておりますが、魔物を討伐出来る人が少なく、村人に被害が出始めてるくらいしか……」

「くらいしかって、それは問題なのでは?」

「そうなんですが、それは村の宿命と言いますか、冒険者を雇える貯えもないので、村人もそれは昔から諦めております。力が弱い魔物は自分達で討伐するしか無く、その時怪我をしたら、暫く仕事も出来ないので大変なのです……」


 村人の中にはある程度戦える者がいて、弱い魔物や食料となる動物を倒し生活しているが、その人が怪我をしたら村を守る人が少なくなる。


 もし、そこに魔物等に村が襲われたらと思うととても不安になる。



「よく今まで村が助かっていたな……分かった。なら、最低限の防衛が出来るように手配はするよ」

「ほ、本当ですか!」

「えぇ、準備があるのでまた来ますね。とりあえず、食糧も持ってきたので渡しても?」

「うぅ…ありがたや…ありがたや……」


 姿勢を低くしていた村人は、結局地面に膝をつけ拝み始める。


 おい……何なんだ……食糧どうすればいいんだよ、ここに置いていくよ?いいんだよね?



 そう思って、アイテムボックスに入っている、食糧を出し次の村へと移動する。


「ありがたや……はっ!で、殿下?……一体どちらに…オラの夢だったのだろうか……。って!食糧がこんなに沢山……。もしや、殿下は……ありがたや…ありがたや……」


 アルトが去った後の村にて、村人によるアルトに対しての感謝の祈りがされていた。

 初めは1人だったのが、段々と人も増え仕舞いには村全体での感謝の祈りが始まっているのを、アルトは知るよしもなかった。


 そんな光景が視察をした、各村でおこっていたのだった。

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