第69話

「アルト様、農業地区より担当者が来られてます」

「農業地区から?何だろ?」


「あぁ、アルト様!良かった……やっと会えた……」

「ど、とうしたの?担当者自ら来るのは珍しいんだけど?」

「そ、それが……」


 担当者の話によると、農作物の成長速度が早すぎて、作物が余り始めていて備蓄やアディ等に輸送分と多量へ販売する分以上の農作物が収穫されているらしい。


 農業地区も作業員だけで1000人と多く、それ以外の家族や衛兵に職人等を入れると2000人は越してしまう。

 ただの農村にしたら多い人数だが、作物が育つスピードが尋常じゃない程早く、その人数が居てもまだ足りないくらいなのだ。


 畑も畑で、毎日何処かで収穫を行っているのだ。

 しかも、農業地区で栽培されているのは何も野菜だけではなく、果樹園や香辛料の元となる植物も育てられている。


 のだが、この中で野菜や穀物類があまり始めているらしい。

 最悪は、肥料として使ったりしているらしいが、どうしたものかと悩んでいると。


「なら、余剰分はうちの従魔の食糧として、新しく倉庫を建てるように話を職人達にするよ」


 現在莫大な数になった従魔が住んでいるところは、領主ビルの横に広い牧場っぽい庭が広がっていて、その場所で寝ている。

 その面積は広く、今の従魔数を入れてもまだ有り余るのだが、クナイが仲間になってからは従魔の一部が自己を鍛える為、ダンジョンに頻繁に潜っている。

 クナイはそんな従魔のために専用の寝泊り専用のフロアーを作ってくれ、ダンジョン組はそちらで過ごすことが多い。


 その他にも、王都近くのゴミ山組はそこで寝泊りしているし、スパローだけは領主ビルの俺の部屋に専用の巣箱があるため、いつもそこに帰ってきている。

 現在は食糧も問題なく専用の人を雇い、食事はとっているし、足りないとかは無い。


 ただ、問題ないはあるのだ。

 この領地では潤沢に野菜や果実、穀物に調味料はある程度揃うのだが、ゲーラ領ではまだまだ足りてはいないのだ。


 だが、現状はミッチェル商会を通じて食料品の配布は行っているが、人手不足によりその配布もギリギリの状態であった。


 ましてやゲーラ領はアルトの領地と違い、魔物も出るため、気軽には食料品の輸送が出来ないでいる。


 その為のキャラバン部隊なんだが、まだまだ輸送車と操縦者の人数が足りていない。

 それも、前回行われたゲーラ領を受領式で、キャラバン部隊とミッチェル商会の行動範囲が増えたのが原因だった。


 火急でミッチェル商会は先日王都で、戦闘や体力があり、性格も問題ない奴隷を何十人と購入して来たが、それでもまだ足りてないと言える。


 運転や商会の立ち回り方や、道等を覚えさせているが、まだまだ時間は掛かるだろう。


 で、その人員と輸送車が揃えばその食糧が溢れる事は無いだろうが、現在は有り余っていてどうしようも無いので、とりあえず倉庫を建て従魔の食事に使ったり、それても余るならクナイのダンジョンに吸収させることにした。


 問題も解決したので、執務室から出ては自室に戻ろうとしたら、メイドの1人から声を掛けられる。


「アルト様、生産地区の件で担当者の方が来られてます」

「分かった、通してくれ」


 そう言って出たばかりの執務室に戻る。

 少し待っていると、生産地区をアディの町少し離れた所にこれから作る計画書を持ってきた担当者が入ってくる。


「失礼致します」


 担当者に席をすすめ、メイドが邪魔にならないように2人に紅茶とお茶請けを用意し、部屋のすみで待機する。


「アルト様。生産地区の計画書を御確認お願い致します」


 そう言って差し出されたものは、軽く週刊誌並みの枚数の計画書だ。


「……分厚くない?」

「そうでございますね。何分職人が作る生産品の種類が多いもので……」

「今から読むにしても、時間が掛かりそうだね……」


 図等が多いといってもこれは読むのに時間がかかるんじゃないか?


「……そうでございますね」

「よし、じっくりは時間を開けて読むにして、この中で早期に見ないといけない所を教えてくれるかな?」

「かしこまりました。では、このページからです」


 担当者はそう言って、紙をめくっていく。

 ご丁寧にバラバラになっても良いように、ページ数まで書いてある。

 紙単体ではなく、本にした方が良いんじゃないかと思う。

 で、担当者が出したページに書いてあったのは、生産地区全体の完成予想図だ。


「これは、生産地区の完成予想図だね。これがどうしたの?」

「はい、こちらの完成予想図は完璧に組んでみたのですが、完全に忘れていたことがありまして」


 この完成予想図は職人達と担当者が会議を重ね、完成させたものだ。

 以前父上に手紙で報告する際にも、既にこの完成予想図は出来ていた。

 あれから完成予想図は変更が無いようだけど?


「忘れていたこと?」

「はい、生産工房を区分けし書いたものが、完成予想図ですが……職人のお食事処や、風呂や食料品に生活雑貨を買う所が1件もありません……」

「あ……」


 それは盲点だった。

 生産地区で働くのは人である。

 人である以上必要なものが抜けていた。

 今更だが俺も今気が付いたが、そうなると計画書もかなりのページをやり直さないといけなくなる。


「生産地区だから完全に抜けておりました」


 ん?なら、この計画書再度変更をした時点で読めばいいんじゃないのか?


「また、こちらが訂正が終わりました計画書でございます。変わるところがありますので、新旧共に目を通して頂くようお願い致します」


 ふ、増えた……。

 楽しようと考えた瞬間に……。


「えっと……職人達と話し合ったならそれで進めよう」

「アルト様なら、私共に無い案があるかと思い、目を通して頂けるよう毎晩遅くまで、皆計画書を……」

「分かった、分かった!読むよ。何かあったら連絡するよ」

「ありがとうございます!では、私はこれで!」


 つ、疲れた……。

 とりあえず自室に戻ってウィードに水をあげなきゃ。


「アルト様、クルオラ様が……」

「通して」


「どうされたのですか?何かお疲れの様子ですが?」


 そう俺の様子を見て、話をかけてくる。


「何でもないよ。クルオラさんどうしたの?」

「急用な訳では無いのですが、今度の武闘大会の事でお話がありまして」


 武闘大会の事?武闘大会の件は、会議の時にあらかた話し合ったけど、何かあったのだろうか?


「武闘大会の事?どっか資材かなんか足りてないの?」

「いえいえ、そうではございません。今回の武闘大会で賭けをいたしませんか?」

「賭け?僕とクルオラさんが?」


 誰が勝つかとかかな?参加選手が決まっていないから難しくないか?


「いえいえ、観客が出場選手にでございます」

「あー、なるほど……それは面白そうだね。で、誰が元締を?」


 一般の人がどの選手が勝つかかけるやつか。

 やり方次第ではかなり稼げるかもしれないし、やってみたいな。


「流石はアルト様。もしよろしければ、元締はアルト様で商業ギルドが執り行いをと思いまして。取り分は7対3で如何でしょうか?」


 それは美味しいんじゃないか?

 お金だけ出せば、後の事はクルオラさん達がやってくれるんだから。


「良いよ。必要な金額は?」

「ありがとうございます。金額は後ほど報告致します」


 そう言って、過去の武闘大会の賭けをした際に、どれ程の準備金や必要経費等が発生したか、各地の商業ギルドを通して調べてまた報告をするようで、クルオラさんはそのまま出ていった。


 さて、今度こそ自室でウィードに会いに行くか。


「アルト様、ハンス様が来られております」


 今日も来客が多いが、ある意味何時もこんな感じで、誰かしら俺に会いに来る。


「ハンスさんが?通して」


 執務室の椅子に座り直し、少しするとハンスさんが入ってきた。


「よぉ!アルトおはよう!ちょっと相談なんだが」

「はい、おはようございます、ハンスさん。で、どうしたの?」


 元気良く挨拶してくるハンスを見ると、何処かいつもと雰囲気が違う様に見える。

 そこに疑問を感じながら、アルトは挨拶をする。


「いゃーな。最近、キャラバンに着いている護衛兵の部下達から、妙な噂を聞いてな」

「妙な噂?」

「あぁ、うちのキャラバンが有名になり過ぎたのか、野盗の襲撃回数が増えつつあるようなんだ」


 ルェリアとの戦争の後、暫くは輸送関連が襲われる事は少なくなったが、また最近増えてきているようだ。


「野盗が?ルェリアの件で近場の夜盗は、ほぼ壊滅したと思ったけど?」

「だろ?俺もそう思うが、実際に増えているんだ。で、まだ噂程度だが他領から野盗達が縄張りの移動をして、ゲーラ領やアルトの領に隠れ住んでいるかもって話を、アディの冒険者が言っているんだ」


 この町の冒険者は町中の依頼か、クナイのダンジョンに潜っては、お金を稼いでいる人が殆どで、その他の少ない人数でこの領地で取れる、素材の採取クエストを受けている。

 今回のその噂をしているのは、どうやら素材の採取クエストをしている冒険者だと思う。


「ふむ。無い話ではなさそうですね。この領地は魔物の被害がないから、野盗にしてみれば隠れ放題だし、ゲーラ領にしても討伐された奴らのアジトが丸々そのまま使えるからね……」

「だろ?で、キャラバンの護衛兵の増員と、アルトのとこの従魔も増やして欲しいんだわ」


 今のキャラバンについている護衛兵と従魔は居るが、念の為に人数を増やした方が安全の様だ。

 何しろキャラバン1つ襲えば、かなりの大金に大量の食糧やインテリア等の他、生活雑貨から武器防具まで手に入る宝の山なのだから。

 自信がある野盗からすれば、成功せれば一攫千金は間違いない。


「うん、それなら問題ないよ。従魔には伝えとくから連れて行っていいよ。野盗の件はゼロスに話をしてみるよ」


 とりあえず、そう言った調べ物はゼロスが得意だからお願いしてみることにした。


「おぅ!頼む。にしても、ゼロスのおやっさんは、執事何だよな?有能過ぎねぇか?」

「ははははっ、確かにね。だけど、頼りになるからね」


 ゼロスが暗部なのは周りの人には秘密にしているから、皆万能執事と認識されて周りの人からも頼りにされている。

 まぁ、そのおかげで彼の仕事の1つでもある、メインの仕事と言える俺の執事の仕事は、彼の部下の暗部メイドが行ってくれている。


 さて、結局ウィードの所には行けなくなったなぁと思いながら、ゼロスが今居る場所に移動するアルトだった。




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