第68話
「……の功績にて、第11王子であるアルト・ディオング・アルベルトにゲーラ領を与えます」
母上でもある宰相のローザが、王座の横に立ち、カインドが決めた内容の文章を読んでいく。
「はっ」
そう短く返事をし、ローザは次に書いてある文章を読んでいく。
ここに集まっているのは、近くの領主や貴族達とその護衛に騎士である。
「次に、逆賊の討伐で白金貨300枚を褒美とし、くれぐれも逆賊と同じ道を歩まんように」
「はっ!」
何故か、ついでに少なくないお金も貰えたようだ。
事前にお金が貰えるのは知らなかったんだが良かったのだろうか?
と、思っていたら俺の気配察知には、貴族が立ち並ぶ方で誰かが苛立っている気配を幾つも感じる。
やはり周りからしてみればイメージはあまりよろしくなかったようだ。
貰うにしても白金貨300枚は多すぎだからな。
父上に何か別の意図があるにしても、やりすぎであろう。
だが、この感情を他にも感じた人がいて、瞼を閉じる位の一瞬で、悪感情を抱いたであろう人に向け、殺気を飛ばしていているのを感じ、アルトは王座の前から自分の並ぶ位置に戻りながら、その人物を見る。
やっぱ今のギルツがやったのか。
位置からしてもそうだと思ったが、その技術は流石騎士団団長総括なだけはあるな。
そして、その殺気に当てられた悪感情を抱いていたであろう貴族は、脂汗を顔中にかき少し震えていた。
殺気を飛ばすのも相当に難しいのに、それほどコントロール出来るギルツに対して凄いと思ったアルトはギルツの方をもう一度何気に見たら、互いに視線があったので、震えている貴族を見てギルツに視線を戻し軽く頭を下げ、お礼をする。
すると、目を見開き固まってしまったギルツを見たアルトは。
あれ?どうした?あの怖い形相はなんだ?元々厳ついのにその表情はないんじゃない?
……いや、マジで怖いんだが……。
それからなるべく視線を合わさないようにするアルトだった。
そして、あの後はあまり何事もなく終わったのは良いが、面倒なことはあったのはあったのだ。
あの戦いに参加した冒険者や鑑定官の誰かだろうとは思うが、どうやらその誰かがここに集まった貴族の1人と繋がりがあったようで、貴族の1人が近付いてきた。
その貴族はどうやって無傷で戦いを収めたのか気になる様だった。
いや、無傷では無いんだが?転んだり凡ミスで軽傷になった人いるし。
どうやらその位は負傷したと言えないらしく、戦争では常に出るらしい。
何故そこまで内容を聞きたいのか聞いてみたら、幾つか理由があった。
1つ目はここは中立国だが、隣の国との間に少なくない小競り合いが続いているらしい。
で、今回の戦闘方法を取り入れたいと言ってきた。
2つ目はどうやら周りのいくつかの貴族から、ルェリアの反乱は国王のお膳立てで、お零れを貰った王子が、新たな領地…おもちゃを与えられた……と、噂があるらしい。
その証拠に騎士団が動いたからだと言っていると……。
だれだよ?そんな変なデマを流したのは……。
今回の戦争はほぼ無傷で勝てたけど、準備もそれまでも案外大変だったんだよ?
で、それを分かってくれない貴族は幾人も居て、その説得を目の前の貴族がしてくれるらしい。
諜報を疎かにしていた貴族は、今回の戦争の理由も分からないと、目の前の貴族は嘆いてくれた。
まぁ、悪い人ではないみたいなので、今回の戦術とは言えないかもしれないが、戦闘内容を伝えると、それはそれは……と、言いながら絶句された。
そして、自分の辺境地でも試してみたいが、そこまで優秀なテイマーも従魔は居ないと落ち込んでいた。
なら、俺の従魔を貸し出すと軽く行ってみたら、驚くほどに反応したのだ。
その後ラットラットを100匹お試しに貸し出す事になり、領地に帰る際にアディで一泊して帰るらしい。
そこでもし、辺境地でも対応できるなら追加の貸出もお願いされた。
勿論、初めの100匹も1匹につき銀貨30枚と破格で貸し出すことになった。
また、他の貴族達からは主にアディのキャラバンを自分の領地にも来てくれないか?や大量の物資を望んでいる領地もあるとかで、その話は一旦持ち帰り、アディで決めると言ったら皆アディに来て、回答を待ちたいとの事で、少くない領地持ちの貴族達がアディにやって来ることが決定したのだった。
「はっはっは!皆アルトのキャラバンや、従魔に興味が出たのだろう」
場所は変わり、夕食を両親や兄弟達達と食べてい時、式の後あったことを話したらカインドは笑いながらそう言った。
「父上……大変だったんですからね?いろんな人にひっきりなしに捕まり流石に疲れました」
体力的には全然問題ないが、精神的に疲れたのだ。
「だが、そのおかげで国の経済に、過酷な辺境地で少しゆとりが生まれるなら、国王として嬉しいぞ」
笑顔の父上だが、母上は心配そうな顔をしている。
「それにしてもあなた白金貨300枚は多すぎではなかったのかしら?」
「「「ぶっ!」」」
式に参加していない兄弟達は、その報酬の高さから吹き出していた。
「ほんとですか父上!そんな大金を報酬として……」
その金額に皆驚く。
「そうだな。ルェリアの討伐だけでは精々金貨10000枚位が普通だが、あの金額にはそれ以外にも意味はあるのだ」
「意味……ねぇ…」
「うむ、ローザよ。例えばこの国にドラゴンライダー部隊が出来たらどうする?」
「その例えは、物凄く凄いことだけど無理なのではない?今から飛竜を飼い慣らす事も、騎士を育てるのにも物凄く時間は掛かるもの」
「うむ、そうだな。では、一般兵や騎士達の中で、ドラゴンライダーと同等かそれ以上の部隊がその期間掛からず作れたらどうだ?」
「はっ!」
カインドの言葉で、オーウェン兄様が気付き俺を見る。
そんな事可能なのかと目で訴えているようだ。
なので、取り敢えずオーウェン兄様に向かって頷く。
そうすると、目を輝かせ俺にも作ってと欲望めいた眼差しで見詰めてくる。
が、流石に1機作るにしても高額になるため、アルトは謝りを目で訴える。
「何をやっているの貴方たち……まぁでも、それなら白金貨300枚以上の価値はあるわね……何?話からすると、アルトがその部隊を用意出来るの?」
オーウェンとアルトのやり取りはローザにバレバレで呆れたように見られるが、ローザはカインドとの話に集中し始める。
「部隊は無理だが、乗物は用意出来る見通しがある。ただ、それはオーウェンの結婚式の後になるらしいがな」
それは仕方が無い、流石にオーウェンの屋敷と同時進行になるのだから、時間も無い。
その前には武道大会もあるしな。
「なるほどね……カインド?せめて宰相の私にも話は事前に聞かせて貰えない?貴族の中でも不安等の悪感情が出ているわよ」
アルトも宰相の母上に伝えていなかったとは知らず、カインドを見る。
「それは知っている。わざとの部分もあるがな。今頃は王城の城門内にある掲示板に何故その額になったのかボカシながら用意してある」
カインドは1度俺を見て、そうした理由があるような雰囲気で、話を進める。
多分、父上は何か考えがあるんだと思う。
「いつの間に……」
「式の最中に騎士に貼らせたのだよ」
城門内の掲示板には緊急を要しない通達等が書かれているが、今回の内容もそこに書いてあるそうだ。
因みに、何故かアルトの武道大会の事や、これから行う開拓の事も書かれているのだが、なんのために俺の領地の事を書いてあるのかは謎であった。
その後アルトは王城にて一夜を過ごし、オーウェンの屋敷建設へと作業は移っていった。
それから何日も日にちが経ち、アルトはアディと王都の行ったりきたりで、毎日が忙しい日々の中、屋敷の所有者となるオーウェンは暇な時間があれば心配なのか、ちょくちょく建設現場に訪れていた。
たまにアルトと会うこともあったが、忙しさからあまり会話という会話は行っていない。
あれからバルムでは、代官候補生達が奮闘し少しづつ元の町並みを取り戻しているらしい。
また、ミッチェル商会も今回の式の件で商業範囲が広がり、かなりの額のお金を稼ぎ俺の領地の資金源となっている。
ただ、バルムで働く人が少ないせいで政策に支障が出ていたので、候補生達には新たに部下として働く者達を募集したと報告を受けた。
まぁ、ルェリアの息がかかった奴はあまり信用したくないから、それはいい判断だったと思うが、他領の国家機密を狙う間者かどうかの確認はさせて欲しかったと思う。
いつか視察に行かないと…と思いながら屋敷建設現場で作業を始める。
「若様、ちょっと来てくれ!」
そうするとここの建設現場を指揮させている職人に呼ばれる。
「どうしたの?」
職人はオーウェンが書いた屋敷の外観が描かれた紙を見せてきた。
「いやー、オーウェンさんから新しい要望だとよ」
「どれどれ、あぁ。屋敷の玄関は更に広く入口のホールも広くしたいみたいだね」
どうして玄関ホールを広くしたいのかは謎だが、どうにかしてでも兄様のためにやらないといけない。
「そうなんだよ。だがそうすると、他の部屋を狭くするしかねぇんだ。それはそれでありあまる広さの屋敷だから問題はねぇが、それだと屋敷のバランスが狂っちまって、なんかモヤモヤするんだ」
まぁ、気持ち悪いと言うか部屋の間取りが、全体的に多少くずれてしまう。
職人や俺からしてみては、それは気になる。
このまま言われたまま変更してしまっては、気にし過ぎてしまい、違うところでミスをおこすかもしれない。
そうならないように考えないといけないのが、俺や職人のリーダーだ。
「それはそうですよ。でも、この要望を通すなら、完璧に図面を用意したのに変更しないといけないね」
「時間や日数的には問題はないが、作業が遅れるのは目に見えているが?」
「ん……。武道大会が控えているので、あまり遅れたくないんだよね。……仕方ない、この案件はこのままでいこう。で、兄様の要望を叶えるため、ホールの正面に地下を掘るしかないね」
「若様……要望と地下増設は何も繋がってないし、解決にもなってないようだが?」
「まぁ、任せてよ。ここで、俺の新しい技術のお披露目といくからさ」
「マジですかい!そりゃあすげぇ!おい!みな集まれ!ホール部分に集合だ!」
新しい技術が見れるとなった職人は、やる気が出て全体の作業効率が上がっていったのだった。
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