第62話

「依頼お疲れ様です。ギルドカードの提示をお願いします」


 依頼の完了を報告に来た俺は何事も無く受付嬢に依頼書の束を渡し、ギルドカードを提出をした。


 受付嬢はチラチラと依頼書の束を見ているが、俺は気にしない。

 目の当たりがピクピクしているが、アデイで揉まれた俺は気にしない。


 その後報酬を準備してくると言ってはバタバタと奥に消えて行く受付嬢だったが、かれこれ1時間くらいは待っているが、戻ってくる様子はない。


 全く、何やっていてどこ行ったんだか分からないが、時間が掛かり過ぎだと思う。

 他の受付嬢に聞こうにも、この時間になると1人しか居ないようで、聞くことが出来ない。


 確か、併設された酒場もギルドの職員だったよな?


 と、思いそちらの方に移動する。


「ん?貴方もお食事ですか?」


 酒場の方に来ると、声をかける前にギルド員の方から声をかけられた。


「いえ、依頼の報告をしたのですが、かなり時間が経っても受付嬢さんが戻ってこなくって……」


 そう少し困ったように伝えると、ギルド員は驚きながらも、顔は怒っている。


「えぇっ!何やってんのよあの子は……ごめんなさいね。あの子入ったばかりの新人だから、何かあったのかも知れないわね。見てくるからちょっと待っててね」


 酒場で働くギルド員は受付カウンターの奥に入っていくが、少ししたら直ぐに1人だけで戻ってきた。


「……おかしいわね……何処にもいなかったわ……ねぇ、私が依頼の処理をするから、依頼書を借りてもいい?」


 本当にどこに行ったのだろうか…依頼書も持って行かれてるので、報酬さえこのままでは貰えないし、あの依頼書の中で治癒が間に合わなかった人達の報告も出来ない。


「あの……依頼書もその受付嬢に持ってかれたのですが……」

「……まじ?」

「……まじです」

「本当にごめんなさい!あの子を直ぐに探させるわ!ねぇ、ちょっと!」


 ギルド員は大きな声を出し、厨房の奥に声をかける。

 流石にここまでの大きな声を出したギルド員に対して、周りに居た冒険者達は何事か?というふうにこっちを見る。


「大きな声なんか出して…ミルどうしたのよ」


 何か疲れた様な感じの受付嬢が厨房の奥から出てくるが、手には誰かが注文したのか軽食が乗った皿を片手に持っている。


「新人のサァスがこの子の依頼書を持って消えたみたいなの。探して来てくれない?」


 どうやらあの受付嬢は新人でサァスと言うらしい。

 呼ばれたギルド員はため息をつきながら、持ってきた軽食を1口食べる。


「えーっ、何やってんのよ…あの子…ねぇ、キミ名前は?」

「あ、アルトです」

「そう、アルトさんね。で、アルトさんはお食事は取られました?」


 確かにお腹は先程から空いている。

 それもこれも食べる暇さえなく動いていたからで、パッと依頼を報告して宿を見つけそこで食事を…と、思っていたが大分予定がズレている。


「いえ、まだです」

「そぅ!なら、待ってる間食事をどうぞ、料金はいらないので」


 食事をってその皿じゃないよね?


「えっと……」

「この皿は私のよ……休憩中だったんだから…」


 休憩中だったらしい。

 で、食べ物を持って来るって、どんだけ食意地があるんだよ……。


「なるほど……では、いただきます 。で、食糧は大丈夫何ですか?」



 ここがアディだったら、酒とともにガッツリ系な食事を騒いでは飲んで食べている冒険者達が多いが、周りのテーブルを見ると冒険者達は水と軽食ばかりで、寂しく食事をしている。


「まぁ、食糧が少なく軽食程度になりますが、でも今のバルムなら何処も同じよ。食堂自体が閉まっていて、営業しているところは僅かなの……」

「そっか…ミッチェル商店の食糧が町を支えているって依頼主達も言っていたしな……」


 これもルェリアの迷惑な政策と行動のせいだ。

 もっと早目に事が終われば良かったんだろうが……と、落ち込むアルト。


「って言うか、ここの仕入もミッチェル商店頼みなの。いくつか商会はバルムに来ているけど、かなり割高で町の人は手を出せないのよね……」


 いくらミッチェルでも人員も不足しているし、いきなり町全体が潤う備蓄もない。

 アディで採れた作物に、周りの領地から購入した食糧をマジックバックに入れているだけなので、その補充がギリギリみたいだし……。


 まぁ、何かあった時のために少しなら俺も食糧は持っているので、少しなら販売してもいいな。


「そうなんですか……なら、ボクが食糧の販売しましょうか?」

「販売って……何処に持っているのよ……そ、それはマジックバック?」


 流石はギルド員と言える。

 直ぐにアルトが持っているバックをマジックバックだと思っている。


「正解です。肉に野菜に魚、調味料にお酒なん……」

「「「酒だと!」」」


 で、俺が何が入っているのか言っていると、周りの冒険者達が急に席を立ち、騒ぎ出しだ。


「えっ……」


 冒険者達の変わり様に対して呆気にとられていると、1人の冒険者に肩に手を置かれ、物凄く真剣な顔で「なぁ、酒を持っているのか?」と聞かれた。


 ので、持ってはいると答えると


「……よっしゃぁぁぁあ!」

「おい!まじか!」

「か、神だ!」

「うぉぉぉっ!酒が飲めるぞ!」

「ち、ちょっと待って!ほら、お酒を持ってるって言っても、問題は量よ、量!」

「フルムちゃん流石だぜ!で、量はどの位あったりするんだ!」


 どうやら冒険者だけじゃなく、ギルド員も目の色を変えてきている。

 どんだけ酒に飢えていたのか……。

 冒険者は血の気が多い人達集まりだが、今のこのギルド内は有り得ないくらいの熱気に包まれる。


「種類ではなく量ですか?まぁ、かなり沢山?樽で何十?位ですね」

「どうなっているのよ、あなたのマジックバック……よし、売ってちょうだい。あぁ、私はサァスを探しに行くから、ミル後はお願いね」


 どうなっているって言われても、このバックの容量なんて俺も知らないんだよ?

 それに、お酒はアディで働く人に時々振舞っていたり、父上達や挨拶に来た貴族や各ギルドのお偉いさん等のお土産用だったりと結構持ってないと困るのだ。


 それに、保存庫に入れるよりバックに入れていたら、すぐ出せるし、商品劣化も無いからね。


 で、フルムはそう言ってギルドを猛ダッシュで出ていった。


「えぇ、任せて…」


 ミルの返事は多分聞こえていないだろう。

 それは本人も分かっていて、途中で言葉を止め、俺との商談に移ったのだった。


 ◇◇◇


「何だ?この状態は……酒だと……それに何だこの料理は…。お、おい、ミルどうなってやがる!」


 1人の厳つい男がギルドに入ってくるなり、通常のギルドでは有り得ない光景を見てそう叫ぶ。


「あら、ギルド長。今日は会議では?」

「サァスが呼びに来たんだよ……で、何だこの騒ぎは?」


 どうやらここのギルド長らしい。

 で、何故か俺が探していたサァスはどうやらギルドを放置して、ギルド長を呼びに行っていたみたいだ。


「サァスが?何やっているのよ。業務を投げ出し、ギルドを抜け出して何処に居るのかと思えば、領主邸に行っていたのですね……まったく」

「それもそうだが、この状況はなんなのだと聞いているんだが?」


 サァスが呼びに来た内容は、領主邸からここまでの間に聞いていて、これでも慌ててきたらしいが、ギルドに着いたら着いたで状況がわからず、それを確認するが何故かミルに話をはぐらかされる。


「あら、でもフルムには会わなかったの?サァスがギルドから業務中に消えたから、探させに行ったのだけど?」

「いや、会わなかったな。で、この状況は?」


 ふむ、フルムさんはどうやら行き違いになったみたいだ。

 フルムさんには何か申し訳ないな。


「そう…ま、そのうち戻って……」

「ミルー居なかったわよ。……って、居るじゃない。サァス、わたしがどんだけ探したと思っているのよ……」


 って、良かった。

 フルムさんも戻って来たみたいだ。


「す、す、すみません!」

「フルムか。で、この状況は?」


 フルムが戻ってきて視線を向けるが、何度も話を流されイライラし出す。


「この状況?あぁ、凄いわね。こんなに食糧も持っていたんだ……」

「えぇ、大助かりよ」


 ミルは喜ぶ様に、フルムは呆れた様子でこの原因を作った本人に視線を向ける。


「何だ?俺の声が聞こえないのか?お前ら」


 大概に流され、無視されていたギルド長はその表情を険しくさせ、ミルとフルムにそう言う。


「あら、ギルド長。随分お顔が赤いようだけど?」

「うっ…気のせいだ」


 だが、ミルの一言でギルド長は何かバツが悪いのか若干慌て出す。


「ふーん、アルコールの匂いもするみたいだけど?」

「…さ、酒場からじゃないのか?」


 フルムの一言に対して誤魔化しているようだ。


「へー。で、なに?」

「…すまん。この状況を詳しくお教え下さい」


 で、ミルに冷たく言われ、さっきのギルド長から有り得ないくらいの丁寧お辞儀とともにそう言ってきた。


「よろしい。で、この状況?簡単に言うと、ある冒険者所有のマジックバックの食糧等を格安で売ってもらい、他の冒険者がそれを見ていて、急に飲み会を始めたのよ。……まぁ、気持ちはわかるけど、まさか酒がある事を聞きつけた、他の冒険者や住民が集まったのよね」


 まぁ、こうなったのは確かにその通り。

 まさか俺もここまで冒険者が騒ぎ出すとは思いもよらなかった。


「そうか。簡単で分かりやすいが、意味が分かんねぇ」


 まっ、口で説明しても確かに見ていなければ分からないだろう。


 そもそもマジックバック自体がかなり希少で、冒険者が持っていることもあるが、こんなに食糧品だけを詰めたりはしない。


 そうすると活動に必要な物が入らなくなるし、魔物の素材やら、その他の換金出来る素材等入らなくなるからだ。


 マジックバックをこういう風に使うのは、商人等であるが、その商人なら格安?で販売などしないだろう。……ミッチェル商会は別だが。


 金や名誉に飢えている者が多い、冒険者がわざわざどっかの町で通常で仕入れ、ここで放出する意味が分からない。

 それに、販売する時に金額がある一定を超えると、商業ギルドに加入していないと罰則まであるのだ。


 そんな危険を犯すだろうか?

 または、赤字が覚悟でそれ以下の金額で販売したのか全く分からない。


 と考えるギルド長だった。


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