第61話
ここは、バルムの町の平民が暮らす家の中。
冒険者ギルドから、クエストや期間が過ぎたり、クエストとして登録出来なかった依頼を貰い、そのクエストを完了するために依頼主の家を回っていた。
そのクエストとは、ポーションや回復魔法に病気や怪我などの依頼だった。
受付嬢から話を聞くと、今バルムにあるポーションや回復魔法が使える教会の人やそれ以外の人等当たってみたが、誰もこの依頼は達成出来なかったらしい。
依頼主も最後の希望として、冒険者ギルドにクエストという形で依頼し、何組かの冒険者が挑戦するも、結果は全て同じだった。
冒険者も失敗するとわかっている依頼は当然受けたがらず、この類のクエストは掲示板のインテリアと化し、依頼期限が過ぎるまで貼り出されるだけとなっていた。
その貼り替えの作業はギルドの受付嬢が担当しており、受付嬢も本来なら依頼主を助けたい。と、そう思っていた。
実際に、そこのギルドのトップであるギルドマスターに幾度となく相談したが、この問題は解決出来ず、ギルドマスターも望みをかけ、商業ギルドに相談をしポーションや薬を探してもらっていた。
探してもらっていたが、唐突にこの町から商業ギルドが撤退の報告をギルドマスターが受け、それから執務室で頭を悩ませる姿が何度も見受けられたらしい。
商業ギルドの撤退の原因は前領主である。
ルェリア・ドドルカ・ゲーラ伯爵のせいだった。
暴利を貪るように、何に対しても重税をし、住民やこの領に入ってくる者を苦しめた。
で、当の本人達一族は贅沢三昧の毎日で、日々民心は離れていったが、暴動が起きなかったのは代官のお陰と、噂でしかないが解放軍のお陰らしい。
その解放軍と代官は繋がっており、残った住民に食料を配布してくれていた。
商業ギルドが撤退したいく日か前に、中規模な個人商店がオープンしたのも大分大きい、が、そこは怪しくも謎の店だった。
店主らしきは美しい女性みたいだが、何処にそんな商品が?と思うような量を、領主である伯爵に売っていたのを見ると、所詮は金にしか興味が無い商人かと住民は思っていた。
だが、そうでもなかった。
正直バルムの住民は、食糧を買うお金が尽きている者が大半だった。が、その商店では店を手伝う事を条件に、食糧や生活雑貨に衣類が手に入っていた。
そう、労働力が対価だった。
ゲーラ伯爵の政策により生きる希望が無くなっていたバルムの住民は、その日から変わり始めたのだ。
ただ、中には動けない者や幼すぎて労働の対価を払えない者も多く居る。
それらの人達はどうしたのかというと、その商店で労働力と言えば、動けない者や幼すぎて労働力とならない人達の世話だったり、食事を運ぶ事で解決はしたが本当にどのようにして儲けを出しているのかは不明だった。
確かにバルムの住民からすれば、救世主とも言えた商店だったが、その商店について住民は色んな噂話をする。
曰く、何処かの豪商が自らの商会名を隠し、慈善事業をしている。
曰く、その商店はバルム領主の座を狙い、民心を掴んで、反乱の気を伺っている。
曰く、かげで後ろめたい事を…例えば、住民を誘拐し奴隷として何処に連れ出している。
ただ、この他にも噂話はあるが、この商店があるおかげで、バルムの住民は生きれているのだ。
暗い噂もあるが、現時点でこの商店はこの町の救世主なのだ。
だが事件はいく日も経った時に起きた。
何を考えたのか、領主のゲーラ伯爵の息子のゲーボがその商店へ、領主が集めた盗賊とも見える兵士を連れ襲撃をした。
何の力もない住民は、それを止めることも出来ずに、かげながら助けることさえ出来ずにただ、ただ、顔を真っ青にし見ているだけだった。
だが、ゲーボや兵士が襲撃する前に店主や従業員はこの町を出ていく。
誰も傷付かず良かったと思うが、これでバルムは終わったのだ。
1日2日ならなんとかなるが、バルムでそれ以上の生活をするのは難しい。
この襲撃を知った住民は、領主への怒りと、商店を失ったことによる絶望を抱えることとなった。
しかしその後日、希望が出来た。
襲撃され、ボロボロになった店から1人の男性が出てきた。
その男性は、商店で働いていた人の1人。
ボロボロになった商店を見上げ、頭をかいていた。
住民が恐る恐る近付き声をかけると、その男性は「明日、ミッチェル商店再開します。場所は……」と、新たな店舗を出す場所を住民に伝え、どこかに移動していった。
1人の男性が商店を再開?と不安だったが、次の日指定された所に何人も伺うと、1人で確かに商店を行っていた。
と、言っても相変わらず対価は労働力。
そのミッチェル商店の名は住民のみに広まる。
もし領主達にバレ、兵士が来ても直ぐに何処か違う場所で開店する。
ここで初めて、ミッチェル商店は戦っている、ゲーラ伯爵と戦っている。と住民は思い込む。
それから何日も過ぎ、ゲーラ伯爵は大軍を引連れこの町から出陣して行った。
町で戦えるものを強制的に従えて……。
更にいく日が過ぎ、国の騎士団がバルムにやって来ては、領主の屋敷を襲撃しバルムを解放してくれた。
その次の日、騎士団からゲーラ伯爵は敗退した事が伝えられ、住民は歓喜した。
そして、騎士団よりこの日から次の領主が来るまで税の取立ては無しにと通達があり、あのミッチェル商店は元のボロボロだった店舗を修繕するため、住民に労働力を雇い何日かで修繕は終わり、そこで定員は1人だが店を開店させていた。
聞いた話によると、店舗を広くする計画があるらしいが、これはただの噂話なので確実ではない。
また、騎士団がこの町を統治し始めて治安も良くなってきている。
町をうろつく盗賊っぽい人達が居なくなったのだ。
何処に行ったのかは知らないが……。
あと、騎士団の人とミッチェル商店の店員は仲が良く、時折店で何かのやり取りをしているのを見かける人も居て、住民のミッチェル商店の不安要素だった、謎の店のイメージは改善された。
その後は徐々に町を出ていったものが戻ってきてはいるが、家を売り払って出ていったおかげで、住む家がなく。
買おうにも家を売った商業ギルドが居ないので、住むことが出来ないらしいが、その問題が解決するのは早かった。
その土地は商業ギルドからなんとミッチェル商店がひとつ残らず買い占めていたとか……しかも、将来性がないバルムの土地と言うことで格安で……それでも莫大なお金が掛かるはずで、どこからそのお金が出てきたのかはやはり謎である。
で、土地物件の事ならミッチェル商店!らしいが、そろそろ従業員の男性はやつれ始め、もうフラフラとしているのを見掛けるようになった時、なんと出ていったそれ以外の店員が戻ってきた。
バルムの住民からは歓迎され、働いていた従業員の男性は泣きながら喜んでいたらしい。
……。
まぁ、以上がクエストを消化しながら聞いた話を、繋ぎ合わせた内容だ。
依頼書を頼りに病人や怪我人の家に足を運び、新たに開発した魔法を使っては対価として、情報を仕入れて来たアルト。
何故に対価が情報かと言うと、病気や怪我で傷が癒えても直ぐには動かない方がいい人が居たからだ。
動ける人にはその人の身の回りの世話をお願いしたりと、対価はバラバラだったが最終的に、バルムの住民は何を考えて生活しているのか気になって話を持ち掛けたのだ。
やはり最近あったルェリア元伯爵の事が1番多かった。
ルェリアがこの町から居なくなり、残った住民は歓喜し雰囲気も明るくなったみたいだ。
手に職がある職人はそれから販売する分を必死に作り、農地でもクワを持ち田畑を耕している人も増えたらしい。
で、次に多かったのはミッチェル商店……。
まぁ、大量にアデイから定期的に物資を運ぶ許可をし、実際に持っていったがミッチェルには感謝している。
ミッチェルが居なかったら、このバルムは早々にもっと酷い惨状になっていただろう。
で、このクエストを受注してきたが、依頼の登録日が若い方にも、助けるのが遅くなった人が居た。
しかも、こうなった原因も分かりアルトは元伯爵のルェリアに再度怒りの念を燃やす事になる。
原因は町中に放置されていたゴミだ。
それらが腐敗し、病原菌を発生させていた。
アルトは王都にいる際にこうならないように、父上であるカインドにお願いし、無理矢理王都のごみ拾いや掃除を住民達と行った。
顕微鏡の作成から 病原菌の恐ろしさを知ったカインドは、直ちに専用の研究機関を立ち上げ、商業ギルドを通じ各町に顕微鏡の販売を初め、各領主に町や村の美化を指示出していた。
が、どうやらその指示もルェリアは無視をしており町中は、アルトが見た王都よりも酷いゴミの量に深い溜息を吐いた。
現在は騎士団も巡回時にごみ拾いをしているが、焼け石に水といった状況だ。
何せ、至る所にゴミが山を形成しているからごみ拾いをしていたら、町中を巡回出来なくなるからだ。
「リプリケース」
アルトはそう言っては魔法陣を展開し、病人に向けて魔法を行使する。
もう何十も使ってきた魔法で、アルト自身も慣れたようで、初めほど緊張はない。
「お、おぉ……か、体が楽に……何処も痛くない…」
「お父さん!」
病気が治った事が嬉しかったのか、20歳前の女性は父に抱き着く。
「リプリケース」
そこで、アルトはその女性に向けても魔法を行使した。
「えっ……あれ?…倦怠感が…」
まぁ、今治した病気の原因だった病原菌はこの女性も感染していた。
「では、依頼はこれで完了しましたので、すみませんサインをお願いします」
「は、はい…」
まだ頭が真っ白な女性はサインをした。
これで冒険者ギルドから依頼されたクエストは全部完了出来た。
ので、冒険者ギルドへと報告しに戻っていく。
ただ、この依頼を受けている最中に思ったが、この依頼主達の原因は町が不衛生だった事が原因だ。
なら、依頼主のとこに行くついでに町中を綺麗にしながら訪問すれば?と思い、なるべく新しい道を通りながらアルトは爆走し依頼主の家から依頼主の家へと移動して行った。
で、先程の家でクエスト受注分が終わり、今度はゆっくりと冒険者ギルドに戻って行った。
◇◇◇
「クエスト完了の報告です」
流石に夜になり、冒険者ギルドでは数多くの人が居たが、併設された酒場には時折店員に酒をねだる冒険者がちらほら居る。
あれは多分商業ギルドが撤退し、食料や酒も仕入れることが出来なく販売は中止しているんだろうが、そのおかげで冒険者達のテンションはただ下がりしているようだ。
そんな冒険者達を横目で見ながら、受付嬢に依頼書の束を渡す。
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