第66話
「申し訳ございません!アルト殿下!日取りを伝えて貰えたら、こちらから伺いましたのに!」
領主邸に着くなりソウエル騎士団団長と玄関でばったりと出くわし、一瞬驚き固まっていたが、焦る様にそう言ってきた。
「いや、早いに越したことがないからね。それに、宿も先程決めて来たから伝言も残せ無かっただろうし、僕を探して時間も経ってそうだったから」
「宿……ですか?アディに戻ってお休みになり、こちらに朝来られているかと……」
ソウエル騎士団団長はてっきり、アディへ転移を行い向こうで休んでいると思っていた。
実際今のバルムの現状は、王族が泊まれるような宿など無かったはずだ。と、考える。
それに、このバルムにアルト殿下が来ている目的は町の視察。
これからアルト殿下の領地になるのだから、事前に見に来て尚且つ、騎士団に援助しに来てくれていると思っている。
「え?それはそれでありだけど、冒険者として来てるんだし、冒険しているって実感も感じないしな……」
「冒険者……?」
ここで、ソウエル騎士団団長の頭の中は
(え、視察に援助じゃ……)だった。
「そっ。町中の清掃系のクエストをしているんだよ」
「……では、唐突に町が綺麗になっていると部下達が言っていたのは……」
部下達が報告してくる内容に、不思議なことがあった。
町を巡回中に通った道なんだが、領主邸へと帰ろうと同じ道を通ったらいつの間にか、キレイになっていたとか……。
目の前で町がキレイに……ゴミ等が消えて行く光景を見て、若干怖がりながら報告しに来た部下もいた。
あまりにもそういった報告が多かったため、
自身も町の中を歩けば、少し前に見た町中のゴミが散乱した風景は見当たらなかった。
「……まぁ、周りから見ればそう見えるかも?」
「騎士団招集!!」
俺の言葉を聞いたソウエル騎士団団長は、バルムに居る騎士団を招集させようとしている。
「え?ソウエル騎士団団長何を?」
正直、彼の行動が意味わからん。
「アルト殿下自ら清掃を行って居られて、わたくし共が何もしない訳にはいきません!」
よし、ちょっと待とうか。
今ギリギリで統治しているのに、それをやったら駄目なのは分かりきっている。
「いやいや、僕は冒険者ギルドのクエストでしているだけだよ?」
「……分かりました。冒険者ギルドを殿下に対しての侮辱罪とし、潰して来ます」
分かってない!
そして、ソウエル騎士団団長怖い、考え方!
「どうしてそうなる……冒険者ギルドが無くなれば、バルムはどうなるか分かるよね?」
「で、ですが…」
「ギルドのクエストは、僕が選んだんだよ?ソウエル騎士団団長はその僕に文句があるの?」
「め、滅相もございません。わたくしは……」
心のメモ……ソウエル騎士団団長面倒臭い。
で、その後ソウエル騎士団団長に頼んでいた、クエストでも受けた病人を集めてもらった。
その際に、やはり1人で来ることが出来なかったらしく、騎士団が連れてくるといったやり方だった。
ただ、バルムの病人をいきなり全員連れて来るのは流石に無理だっため、3日にわたり集めてもらい、俺が日毎にまとめて治療してまわった。
だが、治療を終えた人達にその家族、また知り合いに治療を見ていた人達から様々な感情が向けられる。
それは、感謝だったり驚きだったり……中には逆に睨むような怒りの感情を持つ人がちらほら居た。
まぁ、負の感情を向けた相手には、ミッチェル商会がこの町に来た時に連れて来た俺の従魔を使い、監視することにしてみたんだが、多分ルェリアの悪行をもっと早く処理しなかった感情だとは思う。
もし、その考えがあっていたのなら、少し考えてしまう。
後⒌年、いや10年は早く産まれて来たかったと……。
現在6歳で、もうすぐ7歳にはなるが、周りから見れば子供だ。
そんな子供が一体何が出来るんだ?と、今までの経験からもそんな感情が向けられた事もある。
実際、この向けられた視線の中にも、こんな子供が?と、思われているかもしれない。
だが、俺のやらないと行けない事は変わりはしない。
少しでも、みんなが笑顔で暮らせる領地にする事が取り敢えず目標だ。
だが、俺一人の力では限界がある。
だからゼロスやハンスにミッチェル等の部下達それに、従魔達が俺の手足となって動いてくれている事は、非常に助かっている。
ただ、ミッチェルみたいに予想を上回る結果を出してくれている人も居るので、嬉しくもある。
住民の治療が終わり、治療をまだ受けていない人がいないか、治療した人にお願いし探してもらう。
ただ、全員にお願いはしていない。
俺に対して、対価として何かしたいと言ってきた人達だけだ。
だが、そのおかげか、騎士団が見落としていた住民が居たみたいで、治療をしまわっている。
それから何日間か治療をしまわり、もう大丈夫と言うことで、騎士団より今回の病気の原因が住民に伝えられ、町の清掃作業を住民が始めてくれた。
勿論冒険者ギルドのクエストとして、依頼に出していたものなので、終了したらお金は貰える。
ただ、全員が冒険者ではなかったため今回だけ特例としてクエストの受領は誰でも出来るように、冒険者ギルドマスターがしてくれたのだ。
それを聞いた住民は、お金が貰える事に嬉しさを顕にし、張り切って清掃をしていく。
途中の病気対策として、終わったら領主邸に来ては俺の治療を受けることとしていたが、それがかなりの反響があった。
その反響とは、実際に治療を受けた人達が言っていたことだが、腰痛が治っただの動かなかった手足が動く様になっただの……。
魔法をかけていって気付いたんだが、俺が面倒くさがって、毒や病気、それに怪我に対してそれぞれ別々に使用しなければならなかった魔法を、それが手間だと思いひとつの魔法に集約したのが原因みたいで、毒や病気はもちろんの事、古傷まで癒してしまいその話の内容が町全体に広がり、怪我で冒険が出来なくなったものや、仕事が出来なくなった住民が、町の清掃のクエストを受け、治療を完了させていた。
内心やり過ぎたとは思っていたが、一度始めたから最後まで魔法を使っていた俺も悪い。
それが原因で起きた内容に俺は気まずくなり、町中に出れなくなってしまった。
俺とすれ違う人の殆どの人が、急に拝み始めたり、身体を触って来たりと物凄く大変だった。
そのおかげで、領主邸での治療にも支障が出始め、今は俺の変わりに従魔の中で、回復魔法が使える者が変わりに治療を行っている。
ただ、俺みたいに古傷まで癒す効果は無いので、俺が屋敷内から古傷などに効く回復魔法を飛ばしてはいる。
その効果で、俺の従魔のスライムやラットラットを拝み始める人が居た……。
ま、まぁ、町中もキレイになっているので良しとしよう。
その夜アディに戻って見れば、王都から使いが来て、登城の要請が書かれた手紙を受け取り、次の日早速王都へ行くアルト。
領地を貰うのはまだ少し先だと聞いていたが、案外にも早くなったようで今王城ではその準備をしていた。
なまじ転移魔法があるから早く着きすぎたが、領地の授与式があるのは1週間後らしく、その間は父上であるカインドから王都に居てくれと言われ、久々に王城でまったりと過ごす。
アルトとしては久々に王城に泊まることが出来るのだが、自室でウィードに水をあげたり、魔石をあげたりしていたら、扉がノックされる。
「アルト居るか?」
その声は、兄様のオーウェン第1王子だった。
オーウェンを部屋に入れてどうしたのか聞いてみる。
「兄様?どうしたんですか?」
「久しぶりにアルトが戻って来たって聞いてね、それで来たんだが忙しくなかったか?」
「今は、仕事も持ち込んでないし、ゆっくり休暇をしていました」
「忙しいもんな…あの領地は……」
オーウェンは遠い目をしてそういう。
実際にオーウェンがアディで働いていた時は、人も居なく本当に大変な時期ではあった。
「だが、あの経験のお陰で王都で仕事をしているよ。因みに他の兄弟もな 」
領地の開拓の経験を生かし、成人した兄弟達はどうやら王城で役職に着いたようだ。
ただ、アディの時の担当していた内容と、王城での仕事の内容は違うので、仕事の覚え直しを行いながら、先輩である担当官に仕事を教わっているらしい。
第1王子のオーウェン兄様や、第1王女のシャルラ姐様は婚約者もおり、いつかは結婚をするだろう。
オーウェン兄様は現在22歳で遅めの結婚になるのだが、どうやら相手の女性がまだ未成年な為、成人するのを待っている。
シャルラ姐様は20歳となっているが、オーウェン兄様より早く結婚することは、例外が無い限り出来ないので、オーウェン兄様の結婚待ちだ。
第2王子のケビン兄様も21歳、第2王女のカエラ姐様は19歳、そして第3王子のアルベルト兄様18歳と順番待ちがいる。
ただ、オーウェン兄様とシャルラ姐様以外の婚約相手はまだ決まっていないようで、兄弟達の間ではあまりこの話題はしたがらない。
王族の俺達はほぼ政略的結婚が多く、好きな相手とは結婚することが出来ない。
出来ても側室扱いみたいだ……。
だから、俺達兄弟が一緒に居れる時期は今だけだったりもする。
それは第2王子、王女以降は下手したら他所の国に行くかもしれないからだ。
寂しくもあるが、小さい頃からそういう風に教育されて来たので、ケビン兄様やカエラ姐様達はその事を受け入れている。
で、わざわざオーウェン兄様が俺に会いに来たのだろうか?
世間話をするため?それなら朝食や昼食それに、晩御飯の時間に話す事が出来るのにどうしたのだろうか?
「ほら、来年俺の婚約者が成人するんで、そろそろ2人の屋敷を建てる計画があるんだが……」
ほう、そろそろとは思っていたが、来年にオーウェン兄様ら結婚するのか。
「結婚ですか!兄様おめでとうございます!そうですか〜、結婚ですか〜、御祝いのお品飛びっきりいい物にしないとですね!」
俺のアイテムボックスに入っている、鑑定で見た感じ物凄く凄そうな装備一色に、ダンジョンマスターのクナイに言って、珍しい宝石なんかも良いよな。
よし、ゲーラ領の授与式が終わったら早速品定めしないとな。
「あ、いや、本来ならその祝いの品はこっちから指定するものじゃないけど、良かったらアディの領主ビルに常備している、家電や生活用品が欲しいんだ。買おうにも父上が国家機密扱いにしているから、アディ以外では王城の一部しか設置されてないからね。1度あの生活を送ったら、どうしても欲しくってね」
あ、そっちですか……。
装備一色に宝石の方が良さそうなんだけどな……。
それに、俺はいいんだけど。
「えっと、父上のお許しさえあれば、勿論大丈夫何ですが……許してくれますかね?」
「それを今から言いに行くのだけど、その前にアルトに了承を貰わないと話が進まなかったからね」
「なるほど…なら、僕も一緒に行きます。一緒に説得しましょう!」
「良いのかい?」
「はい!勿論です!兄様のためなら頑張ります!」
「はははっ、嬉しいけど程々にね?」
兄様、何です?その苦笑いは?
そうしてアルトとオーウェンは、カインド王がいる執務室へとやって来た。
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