第65話
「それにしても、アルト殿下は他の殿下達とは違い、凄いものですね」
「それはどういう?」
ここは、バルムの領主邸だ。
今アルトは領主邸の接待室にて、騎士団団長と2人話している。
「領地を任され、それをこなし、悪徳領主からの領地も解放……正しく、あの英雄王伝説 に出てくる、主人公さながら……わたくしはもう、アルト殿下の熱烈なファンとなりました」
騎士団団長はそんな話を笑いながら話す。
が、俺が聞いた事ない様な話だ。
「えっ?英雄王…伝説?」
「殿下知らないのですか?子供向けの絵本で、小さい頃に読んだりして興奮したものです。因みに、王都ではその演劇が定期的に行われているほど、人気なのです」
小さい頃にって、俺は今が小さい頃だぞ?
父上のお陰で、子供ならではの青春は領地開発だからな。
「へぇ、知らなかったな。…今度どちらか見てみるよ」
「どちらと言わず、両方観るべきです!それに憧れがれた領主様達もいらっしゃるほどですから」
「英雄王伝説ね……因みにどんな話し?」
「ええ、話したいのは山々ですが、内容を知らない方がより楽しめますから、ここでは秘密です。申し訳ございません」
娯楽があまり無いこの世界で、そう言われると気になるじゃないか……。
◇◇◇
あの後、ソウエル騎士団団長の英雄王伝説の内容は話してくれなかったが、「あの町が〜」や「あのダンジョンで〜」等見どころを語られ、かなり時間が長くなってしまった。
結局、俺がここに来た本題に入れたのは夕方近くになってからだった。
「病気が……ですか。確かに町を巡回時に表に出れない人は居ましたが、わたくし達を警戒してではなく、病気だったため出れなかったのかも知れません。分かりました。アルト殿下の依頼はしかとお受けし、すぐ行動に移りたいと思います!」
何やらソウエル騎士団団長にもどこか思う所があったらしいが、それが病気だった事までは分かっていなかったようだ。
だが、それは仕方ないのかもしれない。
何せ、代理でバルムを統治し、そんなに日にちも経っていないし、初めての事で余裕もないのだろう。
「はい、助かります。では、用件は以上で……あっ、あとそう言えば、騎士団の食料品や雑貨はミッチェル商会に預けてますので、何時でも受け取りが出来ますよ」
危ないな、頼まれていた事すっかり忘れていた。
今伝えなかったら、ミッチェル商会と騎士団に迷惑がかかる所だったよ。
「本当に助かります…何から何まで。アルト殿下とアルト殿下の部下達が居なかったらと思うと、正直どうやってゲーラ領を統治出来るのか分かりませんでした。ですが、いい経験に成りました。他領の領主達の苦労も今なら分かる気が致します」
「苦労を掛けるな。だけど僕もソウエル騎士団団長が救援に来なかったら大変でした。その点は父上…陛下に感謝してますよ」
それは本当だな。
今ここの統治をするにしても、食糧の補給等だけで済んでいるのは、間違いなく騎士団のおかげだからな。
騎士団を派遣してくれたことに対しては、本当に感謝しないとな。
「その点とは?」
「それは、アディでの新開発した物を作れば作るだけ、国家機密にして開発費に、自分とこの領地だけしか使えなく、利益が出ていないことですね……ほんと…。うちの利益は職人が作った物が店に売る時の税金に、農作物の売上と、代理輸送で儲けたお金にミッチェル商会の利益しかないんだよね。個人としては商品登録している売上があるけど、領地の資金に補填しすぎるのもいけないからなぁ……どうやって、稼いでいこうかな…」
いや、本当に切実な思いなんだよな……。
これを売れば、大量の人が職を失いかねない。と、言われれば仕方ないが、うちの新開発品が増えれば便利だったり、作業効率が上がるんだよ?
「……その話は、護衛として陛下に着いてきた時に、愚痴られましたが、確かにあれらは世に出すのはまだ早計なのかも知れません。だだ、アルト殿下の領地での領民に税収制は取り入れていないんでしたね。……逆に、よく統治出来ますね」
早計ね……ちゃんと下地が出来たら出しても大丈夫って事かな?
「まぁ、財務管理がしっかりしていれば何とかなるよ。あと、家や土地の賃貸や販売分の利益もあったか……だけどまだ微々たる収益かな。商業モールも徐々に利益は上がっているから期待は出来るんですけどね」
まだ、他領からの集客もそこまで無いように思う。
更に増えれば良いのだけどな。
「そう言えば、ダンジョンでの利益があったと思いますが…」
「ダンジョン?あぁ、クナイのダンジョンで取れる素材は、ほぼ領地で使っているから、素材販売の利益は無いんだ」
クナイのダンジョンは、入るのに制限も入場料も設けていないし、俺の部下以外は素材はそのままその人の物としているし、大体が冒険者ギルドか商業ギルドで売るんだよな。
まぁ、雀の涙程の税収はそこであるんどけどね。
「職人が素材を買って、作った物を売っているんじゃないんですね」
「うちの部下扱いの元ドレイや元スラムだった職人には素材の提供をし、税金以外の利益の何割かは領地に収めさせはいるが、素材を買うより安い金額だから、頑張れば頑張るほどお金は貯まっているはずだよ」
貯蓄をするより、宵越しの金は持たない派が多すぎるんだよ。
「殿下お抱えの職人達は、本当に羨ましいですな 」
「そうか?職人達が貯めたお金を飲み会等をし、金の循環は出来ている。って事は、あった分を考え無しに使っているから、逆に心配なんだよ……」
本当に老後はどうするんだろうか?老後も働くのかな?
……まぁ、まだ、働き口はまだまだいっぱいあるけどね。まだね。
「ははは。いい悩みですな。私も老後はアディで見てもらいたいですな」
「ソウエル騎士団団長はまだまだ若いし、現役で居てもらわないと」
何十年先の話なんだよ。
ソウエル騎士団団長なら、まだまだ大丈夫だよな?
「ははは、そうですな。ですが、後何年働けるかは分かりませんよ」
「それはどういう?」
「騎士団の中で、腕の立つ者が出始めてきているので、団長の座を譲って見ても良いかと思っているのですよ」
「ええっ、そしたらソウエルさん騎士団…辞めちゃうの?」
えっと…騎士団の役職って、実力等なければならなかったよな?
しかも、誠実さもね。
で、それ等が認められ、試験や模擬試合をし役職に付くのだよな。
でも、なんで辞める話し何だろうか?
「ええ、部下を団長に上げたら、元上司に遠慮をし、的確な指示が出来ませんからね。そうですね…私たちは騎士団を抜けても、警備兵や、門兵等に着くことが出来るんですよ」
「はぁ…なるほど……」
なるほど…部下のためを思ってか。
だけど、実力がある人で、まだまだ現役なのにそれはそれで国の損失になるんじゃないのかな?
今までも、俺が知らないだけでそんな事があったのかな?
ふむ…これは1度詳しそうなゼロスに聞いてみるか。
◇◇◇
「という事なんたけど、どうなんだろうか?」
「これはまた、いきなりですな……」
ソウエル騎士団団長との話をアディにいるゼロスに持ち帰り、質問をしてみると意外な事が分かった。
だがその前に、バルムに行って毎日の様にゼロスと顔を合わせているので、ゼロスからしてみたら異常な事だと小言を言われたが、騎士団を辞めた団長等については、王都に居たり、他の領地に行ったりしてはいるが、いるらしい。
で、何を今しているかは本当に辞めた人の自由で、居酒屋をやっていたり、冒険者をしていたり、自由に旅をしていたりと様々だそうだ。
中には貴族の当主として領地を統治している人もいるみたいだが、騎士団に入るのは貴族の次席以降の人なので、なかなか居ないらしい。
何故その話が気になったのかゼロスに聞かれたので、アディでもちゃんとした私兵……騎士団を作りたいとゼロスに言った。
先の戦争でも俺の兵と言ったら、従魔に雇われ冒険者と、警備兵や衛兵の寄せ集めだった。
警備兵は普段輸送の護衛があるし、衛兵は町の警備に巡回がある。
で、騎士団とは魔物に対人戦の戦いが出来、人や領地を守るのが仕事なのだが、今はこの役割を従魔がしている。
それはそれで良いのだろうが、周りから見ればそれは常識がないことだ。
そもそも従魔を何千と個人で契約しているのが異常なのだから……。
それをゼロスに伝えたアルトは。
「アルト様が…やっと常識を…」
目には涙をためそう呟いた。
おい!どんだけ常識知らずって思っているんだ!
まぁその後は、何故かゼロスのやる気に火がつき、父上に報告た後知り合いの騎士団を辞めた人を当たってくれるらしいので、騎士団の設立は任せようと思う。
その人の返答次第で、未来のアルト第11王子騎士団の団員募集を開始するらしい。
ただ、募集の際はしっかりと俺も同席して欲しいとお願いされたが、代官候補生の時の苦労があったので、普通に断わ……れなかった。
何故かと言うと。
ねぇ、ゼロス君。
いくら目を潤ませ、両手を祈る様に組んでも、オジサンなんだから可愛くないんだよ?
……だから止めてくれない?
え、了承するまで会う度にするの?
えぇ……それはそれで嫌だな……。
でも、この前大変だったんだよ?
え、1人では無理だから、ハンスさんやアウグさんも手伝わせ、3人でそのおねがいポーズを?
止めて、それただの嫌がらせだから……。
分かったよ……もし、時間があったら…ね。
ということがあったのだ。
その後重い足取りで、バルムに行き宿を探し、しばらくの宿泊場所を確保出来たアルトは、冒険者ギルドに行き町の清掃系のクエストを受けるのだった。
それから何日もすぎる頃には、町中は見違えるほどキレイになってきてはいるが、今までの週間でゴミを捨てていた者が居る以上は、少しづつゴミが落ちているところを見つけ
はぁ、領地を貰ったら住民の意識改善をしないといけないな。
と、考えつつ今日も町を清掃していく。
ただ、少し変わったことがあるとすれば、冒険者達が町の清掃クエストを受ける人が増えているということは、少し嬉しかった。
そしてある日、町を巡回している騎士団の人からソウエル騎士団団長がお話があるらしく、時間が空く日を聞かれた。
多分お願いした事の準備が整ったのだろう。と、思いそのままソウエル騎士団団長が居る領主邸へと向かっていった。
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