第20話

 この前のスラムの管理者達との話し合いにて、住民と労働力を確保出来たアルトは、王都からスラム住人を受け入れるための家を建てている最中だ。


 だが、いきなり全員分の家を造るのは今の作業員の人数ではかなり時間が掛かりそうで、どのくらいのスラム住人が来るのか分からなかったが、先日人数が確定したとハンスさんから報告があった。


 その数を見て俺は、かなりの人数が居たもんだと、密かに冷や汗を流していた。

 だが、セバスチャン・ブイエの管理していた北の住人達には昔職人だった人が多く居た。


 手に職をつけていても、怪我や病気や競争に負けスラムに流れていた人達だが誰も自分の夢は諦めていなかった。


 その他のスラムにも少なからずそういった元職人が居たのは助かった。

 早速建設関係の仕事に就いてもらおう。


 そこで気になったんだが、セバスチャンの所は職人が多く居たが、他の管理者の所はどうなのかハンスに聞いたら。

 南のハンスさんの所は何でも屋や情報に長けていて、ある程度戦闘が出来る人は多いが、子供の数は4地区の中でも一番多いそうだ。


 東のノロマさんことアウグさんの所は戦闘に特化した人達が多く、後は元農民の人も多く居るとか……。


 西の女ギツネことミッチエルさんの所は、女性が多く、女性の生産者だった方が居たり商人だったり、夜のお仕事だったりと幅広くいて、何気にスラムの中では裕福だったみたいだ。


 そして北のジジィことセバスチャンさんの所は、さっき聞いた男性の職人が多く、次に多かったのは商人達だった。


 何だろ?王都ってそんなに商人や職人の競争率は高いんだろうか……。

 それはそれで考えものだな……。


 で、東西南北のスラム住人全員で3774名の住人が開拓町に来ることとなる。


 さて、先に職人達に来てもらい仮設住宅の設置をお願いしよう。

 それまでは城壁の中の倉庫を仮設住宅代わりにし、仮設住宅が出来次第住人の受け入れを行っていこう。


 町の開発はスラム住人の家になる建物は、住居地区に造らないといけないから、区画と建物の設計書やら準備しないといけないな……。古参の開発組を交ぜてこの町のやり方を教えてあげないとだな。


 よし!やることはまだまだ沢山あるし、俺も自分の仕事に集中だな。


 そうして、アルトは設計書の準備へと作業を進める。



 そして何日間が過ぎ、本日は各ギルドのお偉いさん達が開拓町に集合していた。

 まだ未完成だが、町の完成図を元に各ギルドの場所や大きさ、どんな建物か決めていく。


 なるべく町の景観に合わせたいからこちら主体で建物を建てたいというのが俺の希望だ。

 勿論、建物を建てる費用は各ギルドに持って貰うが、利益を度外視して建てるのでどうだろうか?


「間取りや内装も町に合わせないと駄目でしょうか?」

「内装や間取りは自由に決めていただいて大丈夫ですよ」

「それなら、冒険者ギルドは問題ありません」

「商業ギルドも問題ありません」

「ちょっと待ってください!町の景観とはこの絵の様になるのですよね?」

「それではなく、それに近い感じにはなる予定です」

「それならば、魔術師ギルドは出来かねます……」

「ああ、鍛治ギルドも無理ですぜ」

「私達のギルドは……」


 ギルドの建物は過半数以上のギルドは、町の景観に合うように了承してくれだが、魔術師ギルドを含めたいくつかのギルドは、どうやら独特の建物でないと駄目なようで、了承を得ることが出来なかった。


 その後には区域事の説明をし、何処の場所にギルドを設置し倉庫を設け、どのくらいの敷地を有するのかを決めていった。


 何分、土地代さえ払って貰えればまだ空白はあるから決めやすい。

 ……まぁ、その分の計画書やらの書き直しは必要になるのだが……。


 だからここで提案がある。

 そんなに敷地面積が必要の無いギルドには、1つの建物に入ってもえないか説明する。


 だが、1つの建物内に複数のギルドが入ると言うことは、それぞれが狭くなるのではないのか?と、そんな説明があったが、実際にギルドが入る建物に案内することで、一旦保留となり了承してもらう。

ギルドの設置場所が無かったところから場所決めを行い、昼食を挟み実際にギルドが入る予定の建物へと移動する。



「はぁ……何なんですか……この塔みたいな建物は……」


 町の城壁にある会議室から町の中心部に向け、馬車を走らせ到着したのは、町の総合庁舎の1つだ。

 その総合庁舎も20階のビルになっており、高さもそうだが、中も相当に広い。

 何階かは町の管理のために使う予定にしているので、完成したフロアを見学し皆の意見を聞いた。


 その結果、広すぎるフロアをまるごと使える各ギルドは喜んでいたが、了承して貰えなかったギルドから、これならとここに来て了承して貰えることになった。

 これで、ここに住む住人はここに来れば大抵の事が出来るようになるので、無駄に町中を行ったり来たりする時間が無くなる。

 そうすれば、住人達の時間にゆとりが出来、様々な利益も生むことになるだろう。


 話し合いは無事に終わり、ギルドの代表者達は開拓町に一泊し王都に帰っていった。


「アルト様」


 彼等は彼等で、間取やこの町に持ってくる物や人選等で忙しくなると言って帰っていったが、各ギルドが入ったらそれなりに賑わうだろうけど、まだ住人は作業員達しか居ないため、利益は取れるのだろうか?


「アルト様」


 未だにこの町の特産品や売りに出す商品も決まってない。

 農耕地区だって今は作って入るけど、実際の稼働はスラム住人が来てからとなる。


「……アルト様!」

「って、クルオラさん。いつの間に……帰えられたんじゃなかったんですか?」


 皆と帰ったと思ったんだが、どうやら1人残っていたみたいだ。


「ギルド長は帰りましたが、私はここのギルド長に成りましたんで、居残りです」

「ギルド長に昇進ですか?おめでとうございます」


 へぇ、と言うことはクルオラさんは開拓町に残って、ギルド開設の準備か……そっちもそっちで大変そうだな。

 いつか差し入れを持って行こう。


「ありがとうございます。……って、違います!このビル?でしたか……その隣のあの建設中の建物ですよ!聞いた話、商業施設だとか……」


 分かります。

 さぞ驚いたんでしょ。

 この世界にあんなに巨大な建物は無いからね。



「はい、そうです。将来この町で作られた物や輸入した物に飲食店等が入った施設になります」

「やはりですか!あの管理はどちらの方がされるのですか?」


 管理は俺達がして、利益分を町の特産品が無い分を補おうという計画だ。


「管理は私達が行います。中に入る商店はテナントと言う形で募集をする予定です」


 ただ、広すぎるから全てを俺達でするには今は無理だから、それが一番利益もだせれるだろう。


「テナント?ですか?それはどのようなものなのですか?」

「商会や個人飲食店に職人等から、出店を募集し販売した利益の一部を収めるやり方で行きます」


 そうか、この世界にはテナントと言う物が無いんだった。


「場所代は取らないんでしょうか?」

「場所代は取りません。売り上げが低かったら払えなくなるでしょうから、利益の一部と致します」


 場所代まで取ったら殆どのテナントで、赤字が出て出店する意味がなくなるからなぁ……。

 まぁ、場所代を安く設定すれば良いんだけどね。


「そんな…それでは出店の争いが始まりそうですね……」

「まぁ、競い合うことは良いことだと思いますよ?因みに、利益が最低ラインを3ヶ月割ったら、テナントを打ち切り新しい所を入れます。再度、テナントに入るには1年は経たないと入れなかったり、色んな制約はします。また、飲食店や雑貨や他の店ばかりにならないように、施設内も区画訳をして似たような店舗ばかりにならないようにするつもりです」

「……そんなやり方があったとは…ただ、既存の町では無理そうな事業ですね……敷地問題に現在の店からクレームが来るでしょうな……」


 王都もそうだが、何処にも広い土地はないからね、やるならかなりの店や住宅を立ち退きしないと無理だろう。

 だが


「あはははは……それは、そうですね……。ただ、ここまで大規模ではなく、小規模や中規模だったら行けるんじゃないですか?」

「と、言いますと?」

「逆に、出店ジャンルを搾って同系列の店舗……例えば、飲食店等です。居酒屋だけ集めた施設や、違うタイプの飲食店を集めて食い倒れ施設なんか面白そうですね。勿論、地域特性に合わせた無理の無い出店でないと、利益もでないから、作るときは十分な市場調査は必要でしょうね」


 広さは確保出来ないなら、カテゴリーを絞れば良いだけじゃないかな?

 それに、もし、鉄骨鉄筋コンクリートが秘蔵されていなかったら、更に簡単に出来るんだがなぁ……。


「!!」

「他は……冒険者を対象にした施設で、武器・防具・消耗品・非常食にその他の道具を集めた施設もどっかの町ではいけるかもですね」


 そう考えると、アイディアがどんどん出てくるな。


「アルト様ちょっとお待ち下さい!メ、メモを!メモを取ります!」


 クルオラは慌てて羊皮紙と羽ペンを取り出し、今話した内容を書いていく。


「そんな大層なアイディアじゃないですよ……後は、衣料品に食品に……まぁ、本当にそこら辺は、市場調査次第ですよ」


 クルオラのために机に座り、話を続けていくが、今の俺には到底出来ないから実行されても問題ないな。


「成る程、成る程……やはりそういった場合もテナント?でしたかそうすべきですかね?」

「安全に利益を出すなら、その方が良いでしょうが、間違いなく利益を出せると思ったら、直営店を作り余ったスペースにテナントを入れてみてはどうですか?売った利益とテナントの利益も入りますよ?勿論、商店は被らせないことが前提ですが……」


 テナントを入れるにしても、どのテナントを入れるかは悩むだろうな。


「そうですね!成る程!いやはや、勉強になります!」

「あはははは、大したことじゃないですよ……本当……」


 その後もクルオラと話は続き、話が終わる頃にはクルオラはホクホク顔で、帰っていきアルトは職務室に移動し、決済書類の確認をする。


「アルト様、話は伺いましたが王子様や王女様の対応はどうされますか?」


 そうだった。

 近々、兄弟達が領地経営の経験を積むため、開拓町に来るのだった。


「……思い出したくなかった……。本当にどうしようか?何処かの役職にはいきなりは無理だろ?かといって何もさせないわけには行かないしなぁ……そもそも、俺が兄様や姉様に指示出すのは問題にはならないんだろうか?」

「どうでしょうか?陛下の命令なら仕方ないのではありませんか?」

「ぅう……分かったよ、後で割り振りを考えておくよ」


 そう言いながらも決済の判子を押す。









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