第64話
「さて、入るか…って、入れるのか?」
次の日の昼アルトの姿はバルムにあった。
本来は朝一で来る予定だったが、昨日の夜に売り上げた食糧のお金を、財務担当に提出したら、何故か倍とは言わない量の食糧を持たされた。
何でもミッチェル商会に持っていく分もあるらしいので、ついでに渡された感じだ。
全く、ここまで人使いが荒い部下達はこの町以外には居ないだろう。
実際に王族にここまで言える人材はうちの部下たちだけだ。
ここで働いていた兄様や姉様にフランクに接するのは分かるが、父上にも同じ感じで接する部下にたまに冷や冷やする。
……まぁ、父上も満更ではないみたいだから、問題は無いだろうが…。
で、先程バルムに着き、連れて来たメイド達にミッチェル商会の荷物が入ったマジックバックを渡し、1人で冒険者ギルドへやって来た。
だがやって来たのはいい。いいのだが、ギルドの建物周辺には何時まで飲んでいたか分からないが、酔い潰れた人達が道端で寝ている。
何とか避けながら中に入ると、中も同じような状態で足の踏み場があまり無かった。
おいおい、まだ飲んでいる奴もいるんだけど?
みんな仕事はどうしたよ?
アルトはふとまだ酒を飲んでいる人達を横目で見る。
「うぉぅ!だりぇだぁ?おりぇの酒ぇ飲んだやっあ!」
「はいはいはい、飲みすぎよ?そろそろ休んだら?」
「ぐっぷ…うぇ……。酒ぇ飲んだのおめぇーかぁ!」
「…あのね、貴方のお酒はそっちよ。こっちはさっき飲んだコップでしょ?」
「うぉ?そぉうだったか?ん〜こりぇだこりぇ!……ぷはぁぁぁぁっ……オボロロロロォ……」
「ちょ、ちょっと!何してんのよ、汚いわね!」
うぇ……盛大にリバースしだぞ…どんだけ飲んでんだよ…。
にしても、酒1つでここまでなるのか?
まぁ、飲みすぎて吐くやつはいるのはいるが、こうしてみんなぶっ倒れるまで飲むことは無いよな?
…って、でもその位禁酒生活を余儀なくされたんだろうが、冒険者なら他の領に行けば酒は飲めるんだがな……。
「で、殿下!」
ギルド内を見渡していると、ギルド長がやって来て声を掛けてきた。
今日冒険者ギルドに来た理由は、アルトが昨日クエストの完了報酬や報告があるからだ。
だけどこの状況では受付カウンターで完了の手続きは出来るはずがない。
ので、ギルド長はアルトを連れ接待室に移動した。
「アルト殿下、昨日は大変申し訳ございませんでした!」
で、部屋に入るなりギルド長はいきなり謝りだす。
「いや、それはもうイイから。話を進めません?」
ったく、きのうから謝られてばかりで何も出来ずじまい。
そのため少し予定が変わっている。
だが、それからの話はスムーズに運んで行った。
無事、クエスト中の出来事をギルド長に報告する事が出来た。
その際のギルド長の顔は悔しそうな顔をしていたが、元は国の責任だ。
全領主を任命し、そのまま放置していたのだから。
だから、今回のクエスト報酬は依頼主に全額返金を伝え、逆に俺から冒険者ギルドに依頼を出しそのままギルドを出てきた。
次に向かう場所はこの町バルムの領主邸。
ギルドから歩いて行くならかなり時間が掛かるが、次の行先を聞いたギルド長は馬車の手配をしてくれた。
バルムも見ての通り住民も少なく、利益という利益は現在何も無い。
今、領主邸は騎士団が管理はしてはいるが、そんなバルムでの管理と言ってもさほどする事が無いようで、主に町の巡回が中心だ。
町での政策と言えば、何か困った事があったら冒険者ギルドに依頼をしている。
どんな依頼かは、町周辺の魔物の討伐に町の清掃だったりだ。
アルトを乗せたギルドの馬車は、そんな活気の無い町を進み、領主邸へと辿り着く。
領主邸の門には騎士が2人立ち門番をしている様だ。
ギルド馬車を門の前に止め、ここまで連れてきてくれたギルド員に、お礼とチップを渡しここで別れる。
門にいる騎士はアディでも会ったことがある騎士達で、直ぐに上司の騎士団団長に引継ぎし、直ぐに会うことが出来た。
「アルト殿下、先日はありがとうございます。おかげで無事バルムを解放出来、ここまで維持する事が出来て、本当に助かりました」
「いえいえ、そんな。ただ、当たり前の事をしたまでですよ」
本来国…カインド王がやろうとしていた事は、ゲーラ元伯爵がアディを攻め入る時に、騎士団はアルトとアディを守る事を命令されて来た。
だが、騎士団を受け入れたアルトはその騎士団にここバルムの解放をする様に指示をされる。
初めは王命だからと反発はあったものの、国境付近での、魔物の討伐や部隊に布陣を見た団長は、なくなくアルトの命令に従う。
実際に、ゲーラ元伯爵の部隊に対して過剰と呼べる戦力だったのと、カインド王からもしアルトが何かしらの指示をしてきたら、団長の判断で動いて良いと言われていたためだ。
で、アルトの指示に従い他の領主の援護に行く部隊と、バルムに攻め入る部隊に別れる。
その際に、何十匹という従魔を同伴させられたが、これが驚きだった。
道中出てくる魔物の気配を読取り直ぐに知らされ、ついでには戦闘の援護や怪我した騎士治療までこなすのだから。
騎士団は良く演習でも魔術師団と組むことはある。
連携はまだ拙いが、まさしくアルトの従魔は魔術師団のやっていた役割を見事果たしていた。
で、従魔の良いところは1匹1匹が小さく、騎士に取り付く事が出来るラットラットやスライム達で、騎士が攻撃をし、あいた隙に攻撃魔法を放つそんな戦法が可能だった。
おかげで道中、軽いすり傷程度でバルム解放時には残っていた、少ない敵は簡単に無力化出来ていた。
で、本来、騎士団の役割とは主人や領地を守るためのものだ。
領主代理として町や領地を統治する事は普段はしていない。
と言うかしたことが無い。
団長を初め騎士団の皆からは、代理として領地を統治するなど出来るのか?と、思っていたが、完璧とは言えないにしてもやれば案外出来てしまっている。
領民からすれば、間違いなくルェリアが統治している時に比べて、良くはなっているので騎士団に対しては、不満等出てはいない。
まぁ、領民が減り経済も回らない状況なので、生活水準はかなり低くなってしまったが、それでも暴動が起きないのは、バルムに残ったギルド達とミッチェル商会の力が大きい。
アルトとしては1日でも早く、代官や部下をやりゲーラ領を復旧させたいけど、まだ領地を貰っては居ない状態で、大々的に動くことが出来ていない。
ので、アルトがこの領地に行ったことは、ミッチェル商会経由で、騎士団あてに領地に必要な依頼を出す事だ。
ただ、アルト自体この町には来たばかりなので、詳しく依頼を出すことは出来なかった。
ここでどんな依頼を出し、誰が考えていたのかと言うと、騎士団に各ギルドの長や町の重用人物の区長など集めてもらい、そこで何が必要なのか話合い決めてもらっている。
これはアディでも行っている定例会議を模したもので、初めは各ギルドや区長は戸惑っていたが、何度か行う度に政策、統治の成果は出て来ている。
しかし、ここで問題もある。
ルェリアはゲーラ領で搾取したお金はあったのだが、現在は国の管理にあるので当然使う事が出来ない。
完璧に使う事が出来ないでは無く、使うなら国に申請をしなくてはならない。が、そうも言えない状況だったため、いくらかは食糧等に使っているが、全ては使うことは出来ない。
騎士団が国から遠征準備金として持たされているお金もそこまで多くはない。
それは、騎士団が戦争で使う、備品や食糧の調達等の準備資金だからだ。
では、とこから資金提供があっているのかと言うと、ミッチェル商会がメインで後は気持ち程度の各ギルドからの資金提供だった。
とは言っても、アルトの領地自体はゲーラ領を支える程、経済が潤っている訳では無い。
じゃあ何処からその資金が?となるがこれはミッチェルの策で稼ぎまくったお金からであった。
もし、選択肢のひとつだった、ルェリアとの戦争に勝ち、そのままバルムを騎士団を使わず解放したらどうなっていたのか考えると、当然騎士団に動いてもらった方が良かったと思う。
えっ、ゲーラ領を手に入れるのが遅くなるんじゃ?って思うかもしれないが、それは確かにそうだ。
ただ、デメリットもある。
それはどの領主も領地が欲しいもので、俺がルェリアを捕らえたことを周りに広がれば、周辺の領主達が、ゲーラ領のバルム以外の領地に兵を出兵させ、先に村などを解放しゲーラ領も狭くなっていただろう事が予測される。
王族の俺に対して、それは愚策で俺からの反感を買う事にも繋がるかもしれないが、アディでの俺の対応を知っている貴族はもしかしたら出兵していただろう。
その貴族達はゲーラ領の解放を盾に、俺に対しての宣戦布告ではなく、領民が心配だったと言われたら、俺が許してくれると思っている。……あながち間違いではないけどね。
その貴族はチラホラとアディに来ては、面会に来たりしているので、その時に俺の性格を知っている恐れもある。
で、俺のイメージは今『最低限のマナーを守れば笑顔で接してくれる』らしい。
次にルェリアを捕えた後は、何故ルェリアを捕まえ、ゲーラ領に出兵したかを国に報告し、正当性が認められればゲーラ領を手に入れられるのだが、ゲーラ領の貴族の私財もゲーラ領を統治する金品はそのまま国が一旦回収する。
因みにその後のアディの時に貰った、準備金等は発生せず、毎月の国に収める金品もしなければならなかった。
そうなると、困るのは俺達もだが、1番は俺が管理する領民だ。
それを乗り切るのにお金や物が必要だからね。
それをすらるなら正直ルェリアと何ら変わりはしない、ゲーラ領にしてみればそれでも税金は軽くなるだろうが、アディ等にしてみれば税金が高くなり、不評不満が間違いなく出ただろう。…と、考えれば、俺達のやった事は間違いなかった。
この領地を手に入れられるし、統治支度金も貰えるし、国に払う税金の一次免除もあるからな。
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