第80話

「やはり、アイツらはただの冒険者では無いみたいだな」


 予選を見ていたハンス改めハウテンがそう言う。


「そうね……見た限りだと、予選では彼等の実力は差程見れないかも知れないわね」

「そうでも無いぞ?どんな実力者でも予選はするからの。その実力者達と当たれば見れるのではないかの?」

「……その実力者の1人をさっき片手で倒していたがな……」

「あれ実力者だったの?」

「と、言いますか。殿下であるアルト様が初めての主催されるこの武道大会、本当に腕に自信がある強者が大陸中から集まって来ていますので、実力が無いものはほんのひと握りぐらいで、何かしらの武勲を立てた者や異名付きの者、何処かの騎士やフリーの傭兵に冒険者、様々な方が出場されております」


 ハウテンやミッチェルにセバスチャンは、進んでいく予選を見てそう言ったが、ゼロスの話を聞いてそうだったのかと考えさせられていた。


「……よって、かなり質が高い武道大会になった訳で……」


 更にゼロスのこの武道大会の話が、なかなか終わらなくなる。

 余程、ここまでは大盛況な武道大会が嬉しいようだ。


「……そもそも、武道大会の景品が有り得ないほど凄いのが、今回の出場者の質を高めてしまったと予想され……」


 かなりの時間話しているようだが、他の人もゼロスの会話を飽きること無く聞いては頷いては質問をしている。


 とは言え俺と来たら、ハンスの内情を知ってしまっているので、彼等の快進撃も当たり前のように受け止めていた。


 こう言った武道大会の醍醐味と言えば、誰が優勝するか分からないので、ハラハラドキドキ観戦するのが楽しみだったのだが、ハンス陣営誰もが余裕で対戦相手に勝利を収めているものだから、武道大会がつまらないと言えばつまらないと感じてしまっていた。


 と言っても、他の出場者やハンス陣営達の魔法にしろ戦闘の技術にしろかなりためになるので、余すこと無く観戦をしていた。


「よっこいしょ。ちょっと出かけてくるね」


 が、つまらないならつまらないなりに、楽しまなくては損だよな?と思い、その場から離れようとする。


「どちらに行かれるので?」


 話や観戦に皆が集中している中、アウグが俺に気付き話しかけてくる。


「ちょっと退屈になって来たので、軽く腕試しにね。アウグも来る?」

「行きたいのもやまやまですが、今回は大会の運営に集中を……出られるのですか?」


 アウグも根っからの武人気質だから来るかもとは思ったが、どうやら彼は今回は運営の仕事を優先してくれるようだ。


「そっか……なら、出場枠を空けてくれ。準備して出場者の待合室に行くから」

「はっ!ご武運を」


 そう言って、気配を消しながら出場者の待合室に移動するアルトだった。


「ありゃりゃ。もしかして出場するのかい?」

「はい、ちょっと退屈凌ぎで腕試しに」


 待合室に入るなり、ハンスに見つかり声を掛けられた。


「これは楽には行かなくなったな……まさか来るとは思わなかった。……で、その格好は何?」


 そこで、今の俺の姿を聞いてくる。

 今の俺の格好は全身黒ずくめの服装に、腰にはショートソードだ。

 勿論顔バレ対策として、目元以外は隠しての出場だ。


「身元がバレると面倒だからね」

「だからって、その凶悪な装備をして来なくても良くないか?」

「……咄嗟に用意出来たのがこれだったから仕方ないよ」


 元々出場する予定ではなかったので、自分の装備は用意していなかったので、元々持っていた物を身に付け大会に挑む。


「それにしても、流石殿下の初主催だけあって出場者のレベルが高い」


 周りに気遣って俺の事を殿下と呼ぶハンス。


「えっ?その割りにはハンス陣営は余裕で終わってない?」

「いやいや、そんじょそこらの奴らならそうだけど、この出場者達相手は中々大変だ。なんせ、手の内を隠したいのに魔法を使ったり、武器を使ったり、スキルを使ったりしてしまったからね……勝った相手もまだ奥の手くらいは残していそうだったし……優勝を目指すのも骨が折れる」

「そうだったとは知らなかったよ。そっか……初めから全力で戦うと、後半にその対策を打たれてしまって負ける恐れがあるのか……」

「普通ならそうだが……その装備を見る限り対策の打ちようがないな。出来ることなら、予選で……アル…いや、えっと…君に当たらない事を祈るよ」

「アルバで登録してるので、名前はアルバで。そうだね。僕としてもハンス陣営とは予選で当たらないように祈らないとね……正直勝てるかどうか……」


 お互いの順番が来るまで2人はそんな世間話をして時間を潰していた。

 ハンス陣営も何名か予選の1回戦は勝っていて、その人等は観客席へ移動している。


「予選の準備をします。呼ばれた者はこちらに来て下さい。モーリスさん、アルバさんいらっしゃいますか?」


 話をしていると、係の人に呼ばれたアルト。

 どうやらアルトの予選が近付いてきたみたいだ。


 今係の人に呼ばれたけど、次の試合は俺達の試合ではない。

 今呼ばれたのは3試合後の試合の準備で、今から待合室から控室に移動をするのだ。


「呼ばれたみたいだね」

「ええ、ではハンスさん、これで失礼します。……すみません、アルバです」

「あぁ、試合楽しみに見てるよ」


「えっと、アルバさんですね?念のために出場札をお出し下さい」

「あぁ、すみません。これですね」

「はい、確認出来ました。では、西の控室3号にお進み下さい」

「わかった」


 係の人に出場札を出し、間違いなく本人かどうか確認してもらい、控室に向かう。


「モーリスだ。札はこれだ」


 どうやら、俺の対戦相手はどうやら魔法使いの職業の人みたいで、灰色のローブに歩く時に、戦闘で使う杖がローブの中から見え隠れしている。


 武道大会に魔法使いが?と、現代では思ったかもしれないが、この世界ではどうもこれが当たり前のようで、武道大会で魔法も弓も使う事は普通のようだ。


「ふん」


 武道大会の事を考えながら、モーリスを見ていたせいか、どうやら対戦相手のモーリスに対し、不快を与えてしまったようだ。

 ただ、対戦相手が決まった瞬間に武道大会のルールの1つとして、〘 相手に近づかない・触れない・話しかけない〙と、決めている為、謝りようもない。


 とりあえず、軽く会釈しアルトは控室に移動をした。


 その後から、モーリスの熱い視線を感じたが、本当に何があったのか分からないアルトだった。



 控室に来てから、前の人の試合を窓から見るがどうやら白熱している様子で、戦っている二人は先程から接近戦で武器をぶつけ合っている。


 片方は農民で、片方は料理人のようだ……。

 って、おい!さっきから戦っていたのはこいつらだったのか!

 何故その職業でこの武道大会に出場したのかは不明だ。


「はっはっは!やるなおめえさ!なら、必殺の鎌投げブーメラン!」

「貴様もやるでは無いか!それなら、鍋蓋シールド!」


 おい、技よ技!職業の農民と料理人にはそんなスキルはそもそも無いはずで……一体何を見ているのだろうか……。



 ♢♢♢


「はっはっは!やるなおめえさ!なら、必殺の鎌投げブーメラン!」


 そう言って農民は腰に付けていた、使い古された鎌を投げた。

 驚く事に、初めは外れていた軌道が変わっていき、料理人目掛けて回転しながら飛んでいく。


「貴様もやるでは無いか!それなら、鍋蓋シールド!」


 それを見た料理人は背中にからっていた大きめの鉄製のお鍋の蓋を構え、飛来してくる鎌に合わせる。


 鎌が鍋の蓋に当たる瞬間に、鍋の蓋を起点に結界が張られ、それに当たった鎌は火花を散らしながら回転し勢いは弱まらずに、両方ともぶつかり続ける。が、次第に鍋の蓋の結界にヒビが入り、結界がとうとう割れるように消えていった頃には、飛来していた鎌も勢いを無くし、地面へと落下する。


「くっ、やるでねぇか……」

「貴様もな……次で決めてやる!」

「こっちも、次で最後だど!」


 お互いの技が効かなく、これまでにもたくさん打ち合ってきた2人には、余り余力が残されていなかった。

 両者とも次の攻撃が最後と思い、全身全霊をかけ力を込める。


「「うぉぉぉぉぉぉぉっ!」」


 2人が雄叫びに近い声を出しながら、 2急接近する。

 お互いの攻撃範囲に入る頃、農民はクワを大きく振り上げ、料理人はショートソード位ある金属の何かを持ち横に構え。


「1発開墾……クワ掘りぃぃ!」

「一振り集中……熱湯湯切りぃぃ!」


 大きく振り下ろすことで起きたクワの攻撃は、舞台を削る程の衝撃波が、料理人の攻撃では武器から大量に出た熱湯が舞台を濡らしながらお互いに喰らい合う。


「「ががががぁぁぁっ!」」


 衝撃波で料理人が派手に吹き飛び、大量の熱湯で、農民が押し流された。

 お互いに大きなダメージを受けたのは、観客一同分かるもので、この時会場の全ての声援が鳴り止む。


 両者舞台に倒れていたが、何とかひどい火傷を負いながらも、農民がクワを杖代わりにし何とか立ち上がった。

 一方料理人は、気絶はしていないがまともに動けないようだ。


「ぐふっ、いい勝負だっ……た」

「がはっ!……あちいだ…体が燃えるようだ……だが、オラの勝ちだ!」


 先の攻撃が最後の決めになったのは誰でも分かり、審判が動く。


「勝者、トンヌゥーラ!!」

「「「わーーーーーーーっ!!」」」


 審判の判定後、会場は予選にも関わらず大声きな声に包まれ、料理人も農民も係員に連れられ舞台を降りて行く、両者とも怪我をしていたのでこれから治療を受け、農民のトンヌゥーラは次の試合に供えるのだった。


 ♢♢♢


 一方、控室にて試合を見ていたアルト。


「……何だこれ?」


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