第75話

「また、騒がしい奴が来たな……」

「何よハンス!そう言うなら寝てる時に、ゾンビやシャドーを送り込むわよ!」

「悪かった。それは、素直に止めてくれ……」


 そんなことされたら、それはハンスだけじゃなく、俺だって嫌だな。


「って、それどころじゃないんのよ!主様!新規の鉱山フィールドがやっとランクアップしたみたいなの!」


 えっと、新規の鉱山フィールドって確かクナイが町のために、新たに作ったフィールドだったよな?

 そこがランクアップした?


「えっ!ランクアップ!じゃあ鉄鉱石など以外にも出るようになるって事?何が取れるようになったの?」

「そうなの!これよ、銀と何かこの黒い石?……この黒い石はあまり分からないけど、これで高山フィールドに新しいフィールドも作れるわ!」


 フィールドのランクアップには、それ相応のダンジョンポイントなり、魔力か神力をDEに変換し、それを使ってダンジョンなりフィールドなりを強化やランクアップさせていくんだったよな?


「新しいフィールド……ねぇ。それって、鉱山エリアの次の階層にまた鉱山フィールドが出来るってこと?」


 それは素直に嬉しい事で、これでより領地も潤いそうだ。

 ただ、鉱山フィールドの次はどんなフィールドが来るんだろうか。

 また、鉱山フィールドでも作業員を増やせば良いだろう。


「主様違うわ、フィールドは鉱山フィールドの前後の階層に好きなフィールドがつくられるの」


 相変わらず、ダンジョンマスターの能力は、規格外の能力なんだな……。

 国がダンジョンマスターを囲んだり、使役したがるはずだよ。


「前後に新しいフィールド……それって、町や村なんかも作れたりはしないよね?」

「可能よ。町や村のフィールドと言っても、私が見た事がある物や建物がフィールド内に建てれるようになるだけだけど。だから、町村フィールドと言っても元となるフィールドは……草原か湖かしら?流石に、マグマや吹雪や墓地に町や村を作る意味がわからないわね」


 最早万能と化した、クナイとダンジョンに会議の出席者は皆声を揃え「「「「でかしたクナイ!」」」と歓喜した。




「いやーっ。これで問題も解決ですね。少しヒヤヒヤしましたよ」

「倉庫の片付けは地獄だからな。ほんとよかったぜ!」

「うぅ……わたしのダンジョンが……」

「すまないクナイ。武道大会が終わればフィールドは戻して大丈夫だから。それに、人が集まれば、魔力もあつまるよね?逆にいい事なんじゃないかな?」


 キャパを超えそうな宿泊施設は、鉱山フィールドの前の階層に設置が決まった事により、城壁を片付ける事が無くなったアルト。

 ただ、ダンジョンの内部に宿泊施設を創るのを少し渋ったクナイだったが、アルトの命令に近いお願いの前には、逆らえなかった。


「!?そっか!人が集まれば、魔力がガッポガッポ貯まるわね……ありかも……ふふふふふっ……」


 そして、集まろうである魔力を餌に、簡単に説得されてしまった。


 町がどんどん発展し、アルトが思い描いた風景が、領主ビルの会議室の外には広がっている。


 ここまで来るのにかなり苦労したアルトは心の中で、絶対にこの年齢ですることでは無い!と、常に思っていたが、部下や領民の為についつい頑張ってしまう。



 ◇◇◇


 カインド・ディオング・ミルフェルトが治める国の隣、サルシウス国のある街道に、見た目貴族が乗る様な、立派だが派手ではない幌馬車が、ゆっくり走っている。


「ハンス様。そろそろミルフェルト国に入る頃合です」


 珍しく青の髪の毛で、目は綺麗な水色、しかも着ている服は青を基調とした、男性がそうハンスと言うものに御者席から声をかける。


「ありがとう、ソウシュ。思ったより時間がかかったな」


 ハンスと呼ばれたものは、話しかけて来た青い服の男性……ソウシュにそう返事をする。


「それにつきましては、ゴータが悪いと思われますが、如何致しますか?罰しますか?」


 ソウシュとハンスの話に入り込んだ女性は赤い髪で赤い瞳、赤を基調とした洋服を着ている。


「いやいや、セキメ。ゴータも悪気はないしそれは大丈夫だよ」


 赤い服のセキメと呼ばれる者は、目的地に到着するのが遅れた理由はゴータと呼ばれる者にあると言う。


「そうっすよ。悪いのはあの盗賊っすよ?自分はあの村人を助けただけっす。で、自分等は何処に向かっているんすか?」


 そんな話の中、1人軽い話し方をする人がそう言う。


「……話を聞いてなかったのですか?」


 それを聞いていた、先程から目をつぶっていた、髪の毛も瞳も洋服も真っ黒の男性がそう言う。


「あの話し合いっすか?主に寝てたっすね」

「このクソゴブリン!」


 軽い話をする人……いや、ゴブリンが話し合い中に寝ていた事に、怒り出す真っ黒の男性。


「ほらほら、コクセキも落ち着いて。この馬車はそこまで広くないんだから暴れない」


 そんな2人に対し、こんなやり取りが慣れているのか、窓の外を見ながらそう言う。


「……失礼しました。ハンス様」


 ソウシュ、セキメ、コクセキ、ゴータの主人だと思われる青年ハンスは、ふと目の前の席 で、顎肘をついては何やら書物をしている、中年の男性に視線を向ける。


「広くないって……優に10人は横に寝て寛げる位広いんだがな。全く、未だに常識が何処に落ちているのかもしれんな」

「……トデイン様?聞こえてますよ?」


 ハンスは、そんな独り言を言っている中年の男性トデインに対し、苦笑いしながらそう言う。


「あのな……お前ら、忘れているだろうが、お前達は国からの依頼で、隣国の武道大会に出場しなきゃならないんだぞ?」

「そこなんだけど、何でわざわざ武道大会に出るんだろう?」


 幾ら国の依頼だとしても、隣国の武道大会に出場しろ。と、中々そんな依頼は珍しい。


「あぁ、何でもその武道大会は王族の1人が主催者で、上位……出来れば優勝し、隣国との繋がりを濃くしたいんだとよ」

「……なるほど……で、何で俺達何ですか?」


 そもそも、俺達は冒険者になってまだそんなに経っていないし、そんなに大事な事なら他にも雇う人はいるはずだ。

 何故に俺達が指名依頼を受けたのか、疑問を浮かべるハンスだった。


「どっかの馬鹿達が、単独でドラゴンも狩れる実力があるって、それを隠そうともしないからだよ。だから、自重は忘れるなと言っていたのに……全く。まぁ、それに、他にも騎士や傭兵、他の冒険者に強者が依頼されているみたいだ」

「あれは仕方が無いですよ。あれを放置すると、トデイン様の治めるコープルの町が全焼したかもしれないし……」


 以前、トデインが治まる領地にて、しかも、トデインが住んでいるコープルと言う町が、複数のドラゴンに襲われた。


 現地の冒険者や騎士に、衛兵等が奮闘し、町の被害は最小に抑えれていたが、空を飛ばれては手も足も出せなく、防戦一方であった。


 急遽ハンスが遠く離れた町から、応援に駆け付け、時間も掛からず複数のドラゴンの討伐に成功した。

 トデインから見たら、ハンスも生まれ育った町のため、自重を忘れるなど色々問題もあったことで、頭を悩ませている。



「まぁ、それは正直助かったさ。だから俺がお前らを、武道大会にまで連れていかなければならないのだがな。問題は、お前が国のトップに知られた事だ。……聖王国が動かなければいいんだがな……」


 全国規模で展開している教会の総本山とも言える国で、その名の通り聖王がトップにいる。

 ただ、トデインが心配しているのは、その聖王国にハンスの事がバレなければ良いと言ってはいるが、ぶっちゃけて言うと、聖王国と聖王について神の信者の集まりで、普通に暮らしていると害はない。

 むしろ、孤児院を管理したり、スラムでの炊き出しをしている等悪い噂はない。

 ただ、神に対して猛烈に熱狂的なだけであらる。


「ある程度位が高くない貴族だと、あちらの王族と顔繋ぎが出来ないかもしれないからね。ただ、聖王国と言っても直ぐに動く事はないでしょ?いざとなったら、拠点に籠るから問題は無いかな?」

「まぁ、お前の拠点は反則級で常識では考えられんから大丈夫……か」


 トデインは馬車の天井を見つめ、ハンスの到底普通の人には作成不可な拠点について考える。


「それにしても武道大会か。ゴータは出れないとして、他にも出れる者を連れてくるかな……」


 ハンスはソウシュ・セキメ・コクセキ以外の誰かを連れて来ようかと考える。


「やめてさしあげろ。お前らの相手する奴が可哀想だ 」

「だけど、他の、特にあの3人は、案外初めてすることには、物凄く興味を持つから多分出たがるかもよ?」


 それを聞いたトデインは、苦虫を噛み潰したような顔になる。


「何とか説得してみてくれ。上位7名が全て身内とは流石に目立ち過ぎだ。自国ならいざ知らず、他国だからな?」


 本気でやめて欲しそうな顔をするトデイン。

 せめて、優勝者1人に準優勝1人が望ましいのだが、それ以上となると友好どころか挑発を相手に送ってしまう事になる。


「国が絡むとややこしいんだな……」

「まぁな」



 そして話が一段落したあたりで、御者席側の窓が開きソウシュがこちらに話しかけてくる。


「ハンス様。そろそろ夕暮れで、お食事の時間になります」


 御者席で馬を操りながら、ソウシュが馬車内に居るハンス、トデイン、セキメ、コクセキ、ゴータ達に言う。


「飯っすね!早く、行くっすよ!」


 そのソウシュの言葉に、1番に反応したゴータ。


「相変わらずだな……お前は」


 そんなどこに行っても変わらないゴータをハンスは見て言う。


「美味い飯は、神と同等っすよ!」

「……お前らしい考えだ。さて、帰るか」


 ゴータの話に呆れながらも、皆に言う。


「おぅ」「「「はっ!」」」


 そんな話が馬車内であり、それからハンス達を乗せた馬車は、突如出来た空間の歪みの中に消えていったのだった。




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