第76話
「おおっ、すげぇな。まるで人が……」
「ハンス、それ以上は言わない方がいいよ。にしても、物凄い数だね。」
アルト達は今、城壁の上から、町の中を見回している。
「冒険者ギルドに警備の追加依頼をかけないと不味そうだね」
今まで以上に、町の至る所から騒がしい声が聞こえてくるのを見たアルトは呟くように言う。
「では、私が行ってまいります」
「助かるよゼロス。だけど、いよいよだね」
「はい、いよいよで御座いますね」
「毎年……は流石に難しいでしょうが、何年に1回はこれからも続けて行きたいですな」
ゼロスとの会話にそう言って入ってくるクルオラに他の何名かは頷いている。
「……そうだね。準備が大変だから、その準備をする人達をその間に育てようか」
次は、直接自分達で動かず、そう言った部署を作ればいいと皆に言って、目を輝かせたようにミッチェルが近付いてくる。
「良い案ですわね。では、私は今回の問題点や改善点を記載し、次に活かせるように致しますわ」
「流石、ミッチェルだ。頼りになるよ」
「ん?アルトはミッチェルにいつも甘いんじゃないのか?俺達も頑張ってんだぜ?」
「そんな事ないよ。僕の仕事内容がミッチェルと多かっただけだよ。それに、他の人にも感謝してるし、頼りにしているよ」
「へへっ。そお言ってくれるなら、頑張った甲斐があるな」
その後も少し町の幹部達と城壁の上でたわいも無い話をし、これからの事を話し合う。
この時には武道大会開催まで残り1週間となっていて、町には出場者、見物客、商人などで何処も溢れ返っている。
町の外を見れば、町に入るための列が少なからず出来ているが、その列も次第に無くなっては増えての繰り返しだ。
「にしても、何処で鑑定の宝玉を見つけたんだ?初めてあんなにあるの見たぜ」
鑑定玉とは、名前や年齢にスキルと犯罪履歴が分かる魔法道具で、アディではそれを使い、町の入場整理をしている。
普段なら各門て2個もあれば事足りるが、武道大会が近くなるにつれ、それでは足りなくなってしまったので、ここ南門以外にも西門と東門で何十個も使い、町に入る行列を捌いている。
それなりに高価な魔法道具で、それなりに貴重なそれは、限られた所にしか本来は無い魔法道具だ。
「クナイに出して貰ったんだよ」
ハンスにそう答えるが、半分以上は不正解である。
実際にアルトが所持していたが、それでも数が足りず、足りないだろう何個かをクナイに貰って、町に貸し出している。
「クナイか……本当にすげぇよな。あいつが居るおかげで町が、領地が守られてるぜ……」
それは本当だ。
クナイのおかげで冒険者の稼ぐ場所も、鉱石も魔物の素材も今は困ることが無くなった。
まぁ、クナイのダンジョンに出る素材だけだけど、本当に仲間になってくれて良かったな。
そんな会話をしながら、アルトとハンスを筆頭した幹部達は町と、町の外を見ていく。
ん?見られてる?
何処だ?
そんな中、誰かに見られてる様な気配を感じたアルトだったが、この人の多さで何処の誰から見られてるかまでは特定出来なかった。
気のせい?いや、確かに見られていた。
誰に?
気配的に町の外から感じたアルトは、城壁に更により、入場の待機中の人混みを見る。
今感じた気配は、ただの視線ではなくスキルによる気配だ。
つまり、鑑定を受けた時の気配……。
っつ!いた……。
そして、アルトをスキルで鑑定したであろう人物と視線が交差する。
その瞬間に、アルトは冷や汗が流れ出すのを感じる。
なんなんだこの感じは……。
何故か分からないが、目が離せない。
それに、少しあの青年を恐れているのか?まさか、会ったことのない、初めて見る青年を?
御者席に座り馬車を操っている、青い髪の男性の隣に、何気に座る金髪の少年をアルトは見た瞬間に、そんな状態に陥り、その人物等に対して鑑定をするのも忘れ、ただお互いが見つめ合う。
何だかんだ、初めての体験でいっぱいいっぱいなアルトに対し、余裕の表情……しかも、笑顔であまつさえ、アルトに手を振るその少年に少なからず気圧されてしまった。
「……ミッチェル」
何とか近くにいるミッチェルに声をかける事が出来た。
「どうされたのですか……凄い汗……」
「いや、僕の事はいい。あの馬車の情報を調べてくれないか?」
人と会話したおかげなのか、先程よりも大分マシになってきた。
「なに?犯罪者……には見えないですわね。 ……分かりましたわ。また、後で報告に伺いますわ」
「すまない。……アウグとセバスチャンもついて行ってくれ」
最初の感情通りで行くなら、危険な人物なんだろうが、あの見た目だからそれはないとは思う。ので、ミッチェルの他にも2人を一緒に居らせる事にした。
そして、問題の青年が乗った馬車は、町中へ消えていった。
◇◇◇
「本当に凄いな……。コープルなんか目じゃない位の、立派な城壁に門だ。……コープルの領主様は、これを見たら悔しがるだろうね」
その頃、ハンスはアルトの領地の景色を楽しんでいて、御者席へと来ていた。
そんなハンスは、御者席から馬車内話しかける為の窓を開け、そう中に居る人に言う。
「そうだな。確かに悔しいが、本当に凄く、素晴らしい。それに、コープルの領主様は俺だが?」
それに返事したのはコープルの領主で、今回の付添人のトデインだ。
「知ってた。だって、退屈で……。見てよ、この入る為の列の長さ……。これは、大都市メルガイの時みたいだよ」
そう言って過去にメルガイで、学園に入学するため、待ち続けた時の事を思い出す。
「あぁ、あの学園の受験時期の名物のあれか。確か、中に入るのに1日外で待ったって言っていたな」
「案外辛かったんだよ?」
「だが、ここの列は何だかんだ、早く中に入れているみたいで、一日中待たなくて良いみたいだそ?」
トデインは外を見て、列の流れからそう言う。
「え?……本当だ。あれは……鑑定玉を使っているみたい。凄い数の……」
アルトは門兵が持っている物を見てそう言った。
「……流石、王族がつくった町だ。金の規模が違うな」
「王族ね……」
俺が苦手な高圧的な人でないと良いけど、いくら国からの依頼だとしても、我慢には限界はあるからなぁ……。
特に、うちのメンバー……。
案外キレやすい仲間の事を考えながら、ハンスは城壁の上を見ると、こちらを見ている集団を見つけた。
普通なら、衛兵や警備兵だろうとスルーするところだが、1人だけ未成年に見える男の子を見つけ鑑定をしてみる。
そうすると、
名前 アルト・ディオング・アルベルト
と、分かった。
本来ならまだ詳しく見れるんだが、緊急時以外は名前以外は見ない事にしている。
げっ!貴族の子どもかよ……。
だけど、服装は平民と変わらないから、身分は低いのかもな。
それに、傲慢なタイプではなく、大人しいタイプに見える。
手でも振っておくか。
「アルト様、どうしたのでございますか?」
「いや、城壁の上に可愛らしい貴族の男の子が居たんだよ」
「捕獲致しますか?」
「しないよ?ソウシュ、それ犯罪だからその考えはやめてくれ」
「かしこまりました。気を付けるように致します」
「頼むよ?いや、ほんとに」
イケメンで、うちの執事枠のソウシュだが、まだ一般常識が追いついていなく、時々怖い発想をしてしまう。
まぁ、他のメンツも似たようなものなんだけど……。
ある意味、そこら辺はゴータの方が常識はある様な……。
まぁ、言ったら言ったでゴータの悲しい未来が見えるだけだから言えないが。
そして、ハンス達を載せた馬車はアディの町の中に入っていった。
その少し後のこと、門兵の元にミッチェル等が来て、ハンス達の事を聞いている姿があった。
◇◇◇
「……異常だ」
「異常だな」
せっかく借りた宿で寛いでいるハンス達。
宿も少しお高い所に泊まってみたものの、今までに体験した宿等よりも、快適に過ごせるものであった。
ただ、残念なのは宿泊のみで、飲食は近くの屋台や食事処で食べないと行けないところだが、それを抜きにしても、素晴らしい部屋の設備だ。
「これはヤバいな。この生活に慣れてしまえば、今までの生活は苦しくなる……。だが……」
「トデイン様。もう諦めて使おうよ……」
「バカもの。領主トデイン、これしきの我慢は出来るわ!」
「……えぃ!で、ポチッと」
「なっ!おい、やめぇ……おぉぉぉぉ……」
座れば日頃のこりをほぐしてくれる、不思議な椅子に座りその気持ち良さから、抜け出せなくなるトデイン。
その横でハンスも同じ椅子に座り、日頃の疲れをと椅子に座る。
「…………」
「ほぉぉぉぉぉっ……」
変な声を出しながら、こりをほぐされているトデインと違い、全く身体がこっていないハンスはただ首を傾げるだけだった。
その頃、アディで情報収集をと町中に繰り出したソウシュ達は、何処に何があってどの様な物を売っているのかを調べに来ていた。
それは何故かと言うと、これから武道大会が終わる間はこの町にいる訳だから、少しでも主人であるハンスが快適に暮らせる様に調査をしなければならないのだ。
「……ソウシュ。あなたから見てどう見えるかしら?」
人通りが多い道を歩いていると、急にセキメがそう言ってきた。
「そうですね……表面だけ見れば物凄く栄えて、尚且つ色んな技術が進んだ素晴らしい町ですね」
そう、周りを軽く見渡したソウシュはそう言った。
「ふむ。俺はソウシュ程色んな町に行く機会は無かったが、俺でも分かるぞこの異常性はな」
そうコクセキも何かを感じ取っているように木を見つめる。
「確かに異常っすね……」
そこにゴブリンのゴータもいつになく真剣に路上を見る。
「あら、ゴータも分かっていたのね 」
軽く驚くセキメ。
「この位分かるっすよ。至る所に美味しそうな、屋台がある事くらい。他の町にはここまで揃ってなかったっすよ!」
急にそう言っては興奮し、立ち止まるゴータを3人は冷たい目をしながら先に進んで行く。
「あっ、ちょと!ちょと待ってっすよ!置いて行かないで欲しいっす!」
後ろでそう騒ぐゴータを無視する3人は話を進める。
「全く……この町の裏とも言えるこの状況は、確かに異常かもしれませんね」
「あぁ、そうだな。このおびただしい数の魔物の気配は中々味わえないからな。だが、どの魔物も敵意も襲いかかってくる事は無いみたいだが……。誰が何のために、この魔物を放し飼いにしているのやら……」
「ええ、しかも時々見られている様な気配を感じるあたり気持ち悪わね」
「……そうなると、この魔物達は従魔になるのですが、そんな大量に珍しいテイマーが居るとは考えにくいのですよね…… 」
「そうよね。拙い私達の知識でも異常がわかる程なのに、良くこの住民は違和感がなくいられるわね」
「まっ、そういった疑問は教えてくれるんだろ?なぁ」
ソウシュ・セキメ・コクセキの3人は、大通りをそう言いながら町を散策していたが、足を止め後ろを振り向いて、コクセキはそう言う。
「ほっほっほ、気付かれておりましたか。流石に武道大会の参加者で御座いますな。しかも皆様美男美女で、羨ましい限りでございます」
3人が振り向いた先には、見た目はただの老人だが、身のこなしからは只者では無い雰囲気をかもし出している老人が居た。
「御老人、私達に何か御用ですか?この町に入って来てから、ついてきていたみたいですが?」
「ほっほっほ」
老人は尾行に気付かれても動じた様子もなく、ただにこやかに笑っていた。
「とりあえず、敵意が無かったから放置していた訳だけど、本当にこの町といい、あなた達といい何なのかしら?」
セキメは老人の後ろから早歩きで向かって来る、2人に対してそう言った。
「セバス……貴方何処までお馬鹿なの?調査対象の真後ろで歩いていたら、気付かれてしまうだけよ?」
遅れて歩いて来た女性は、老人に向かってそう言った。
「うむ、セバス。俺にはわざとの様に見えたが?何か理由があるのか?」
やって来た男性も老人にそう言った。
「なに、見れば見る程気の良さそうな、若者だったんで直接伺えば良いんじゃないかって思うてな」
「貴方ね……直接聞いて話してくれるんなら、私達は苦労はしてないのよ?今までもそうだったでしょ?」
「今までの者達ならそうだったかもしれんが、これはワシの感じゃが、この若者達はそうでないと言っておる」
この言葉で、男性も女性も諦めたようにため息をつく。
「はぁ、仕方ないわね……全く。この町、アディでの失礼は謝罪致します。私はこの領地の領主で在られます、第11王子アルト・ディオング・ミルフェルト様の部下のミッチェル・ロータスで御座います」
「同じく、アウグ・カダルと申す」
「ほっほっほ、セバスチャン・ブイエじゃ 」
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