第2話

「速水法時よ…すまなかった……」

「悪かったのよ~」

「申し訳ない……」


 目の前まで来た三人はそう言い頭を下げてきた。


「えっ?」


 ◇◇◇


「成る程……地球での俺は居なくなり、身体ごとここに?で、その原因はある天使だと?」


 地球での俺は存在が無くなり、こっちの世界に来た。

 その原因は天使が関わっており、目に前の三人はお詫びのためにここに呼び寄せた…と……。

 そのわりにはあのダンジョンぽい所で、かなり放置されていたような気もするが……。

 まぁ、そのお陰で色んな事が出来たから良かったな。


「うむ、そうじゃ……」

「地球で死んで無いんですよね?」

「死んではおらん……」

「地球には戻れます?」

「地球での速水法時の記憶が一切残っとらんから、戻っても出来ることは無いんじゃ……」

「ホームレスなのよ……」

「……記憶って。家や農場に土地はどうなりました?私の私物があって…免許書も銀行口座もあるからどうにかなるんじゃないですか?」

「消滅してしもうたんじゃ……」

「……はい?」

「お主の持ち物はみな消滅し無かったことになってしもうた……本当にすまない……」


 成る程…俺が産まれてから今までの事事態が無かったことになるのか……。

 それはそれで悔しいな……。


「で、これから俺はどうしたらいいんです?」

「お主には今の能力、地球で培った能力じゃな、その能力に御詫びとしてプラスした能力、異世界で必要な能力を加え転生してもらうことになる」

「て、転生ですか!」


 どうやらこのままでは異世界には行けないと言うことか。


「うむ、それにお主が失った財産分もどうにかお主に戻したいんじゃが……」

「えっ?家や土地、農場等全部戻ってくるんですか?」

「それなんじゃが……そのままは無理なのじゃ、今から行く異世界にはそのままは持っていても使えぬ。環境が違いすぎるからの……でじゃ、それらを現金に変更なんかどうじゃ?あの世界で最も必要な物じゃからの」

「成る程……よろしいですよ。むしろ助かります!」


 思い入れの物もあったが、異世界では使えないなら諦めた方が良さそうだ。

 確かにお金はあったらあった分だけ助かるしな。


「すまない、助かるのじゃ。そこでその金額が大金で、そのままでは持ち運ぶことはできぬ。そこで、ワシの加護を付けさせともろうとるが、ワシの加護にはスキル【時空間魔法】が備わっておる。そのスキルにはアイテムボックスが使えるようになるから、それに入れ持ちはこにをするのじゃ」

「【時空間魔法】?あぁ、これですね」


 そうか、【時空間魔法】は目の前の人のお陰で覚えたのか。

 結構便利な魔法だから良かったよ。


「なっ!お主、もう使えるようになっておるのか?」

「はぁ、ここに来る前にダンジョンコア?水晶のある所で練習しました」


 いざとなった時に使えないとか、いきなり魔物相手には知らないスキルを使うのはなるべく避けたかったからね。


「!そ、そう言えばお主、一人か?ここに来る前誰かに会わなかったかの?」

「へ?誰も居ませんでしたが……?」


 ん?あそこに誰か居たのか?いや、かなりの期間を過ごしたが誰も居なかったぞ?


「お主…よくここに来れたの……おい、そいつが今何処におるか探すのじゃ」

「はっ!」


 おっ!消えた…三人の中ではこの老人が一番偉い方なんだろうな。


「何方かいらっしゃる予定だったんですか?」

「そうじゃ…ここまでの案内人で、こうなってしもた張本人じゃ。ソイツにここまでの案内をするように使いを出しておったのに……重ね重ね申し訳ない」

「そんな!大丈夫ですよ!中々有意義な時間で楽しかったですから!」


 あの空間事態は他の空間に比べて時間の流れはゆっくりとなっているらしい。

 実際に俺が地球で消滅した日は昨日の出来事らしいが、俺にしたらかなり前の事だ。


「お詫びに何か出来るような事があればいいんじゃが……何か無いかの?」

「困ったことですか……そう言えば異世界の食べ物など地球と同じですか?」

「環境が違うんで同じものかなりあるの……そうか、成る程のお主には鑑定のスキルを御詫びとして送ろう」


 鑑定スキル!あの有名な?本当に貰えるのか?


「いいんですか?」

「勿論じゃ」


 貰えるらしい。

 って、もう貰えたのか…早いな仕事するの。

 どれどれ……


「創造神様!」

「む、名乗っとらんかったの……」

「運命神様……」


 神様だったのね…そんな感じはかなりしていたが、まさか神と会えるなんて……。

 実在していたことにビックリだな。


「ただいま戻りました」


 さっきの人……創作神…この人もか……。

 で、片手で持っているのは?


「痛い、痛い!製作神様力を弱めて~」

「えっと…見習い雑用天使?様?」


 片手で持っているのは神ではなく、見習い雑用天使?なんだそれ?


「むっ!誰だ君は!失礼だな!私は見習いでも、雑用でもあるけど…下界の人間からしたら凄いんだぞ!天使様って敬う存在なんだぞ!」


 あぁ、かなりの性格の持ち主みたいだな。

 片手で持ち上げられた状態で言っても…な?


「……製作神」

「はっ!」

「んぎゃぁぁぁっ!痛い、痛いです!製作神様~」

「えっと……」


 何だ?この残念な人は?


「で、見習いは何処におったんじゃ?」

「私ですか?今日はお仕事はオフなので、ショッピングしていたんですが……?」


 ショッピング?何処にあるんだろうか?神様や天使達が買い物出来るところって……。

 そもそもシフト制なのか?


「オフでショッピングの……。本当に本日は仕事は無かったのか?」


 創造神は溜め息をつきながら質問する様は、呆れた表情をしていた。


「勿論です!この通りにシフトはオフです」

「……。はぁ…本当じゃなその去年のシフトで言えば今頃は休みじゃな」


 去年て、良くまだ去年のシフトを持っていることは逆に凄いな。


「ふぇ!去年!あっ……」


 顔から血が引いたようになる天使。


「見習い」


 少しの威圧を込める創造神。


「は、はい!」


 直立不動の体勢になる天使。

 ただ、未だに創作神に片手で持ち上げられたまま。


「本日の予定は何なのか分かるかの?昨日に伝えたんじゃが……」

「は、はい…え、ええっと…魂の整列でしょうか?いえ、思い出しました!犯罪魂の浄化でした!直ぐ行って遅れを取り戻してきます!」


 あっ、これはあかん。

 創造神様かなりご立腹だな、俺でも分かるぞ。


「製作神」

「はっ!」

「ぐぅぉぉぉつ!痛い、痛いです!製作神様ぁ~!」


 あっ、製作神様も怒ってらっしゃったのね。

 話の流から予想がつくが、話が先に進む気配がないな……仕方ない。


「あの……創造神様その方は……?」

「おお、すまんかった。お主の件じゃが、この見習いが起こした行動が原因だったんじゃ」


 ですよねー。そんな感じはかなりしたから。


「創造神さま…あの…私にはこの下等「ぬ!」い、いえ。この方の事は分からないんですが……」

「そんなことはない、先日地球の魂の浄化の際に起こった失敗はなんじゃったかの?」

「…関係ない魂…身体ごと…消滅させて…しまいました……」

「原因はなんじゃったかの?」

「浄化対象者の…反撃にあい…魔法の暴発が…原因です…」


 ん?一方的に悪い訳じゃなかったのか…それなら許せる部分は出てくるか。


「うむ、そうじゃったな。だが本当に対象者からの反撃が原因じゃったのじゃな?」

「勿論です!」

「じゃ、創作神」

「はっ!当時の映像を見てみましょう」

「なぁ!映像!嘘よ!誰かに見られていたなんて有り得ない!……はずです……」


 えっと何やら雲行きが怪しくなってきたぞ?


「ほっほっほ。本当にそうかな?」


 ◇◇◇


 これはあかん。

 空中に投影された映像によるとあれだ。

 浄化対象に反撃されてなどなかったのだ。

 そもそもこの天使は浄化しに来たのに、浄化対象か誰か分からず俺の土地ごと浄化しやがった。

 あまつさえ、証拠を消すために俺の農場や生きた証になるものの記憶と情報を消していた。


「はわわわわわわっ……」


 因みにダメ天使は顔面蒼白になり、震えまくっている。


「これは言い逃れ出来んの。沙汰を言い渡す。見習い雑用天使、お主は転生刑じゃ」

「そ、それだけは!それだけは御勘弁を!!」


 そう創造神様が言うと駄目天使は光だし、白い猫に変わってしまった。


「ニャギ!」


 そう言って駄目天使…いや、猫は気絶した。


 種族 スターキャット

 産まれは不明。行動原理も定まっておらず、全ての正体は不明の魔物。

 個体によって魔法を操ったり、格闘が得意な者までいるが、発見例が少ないため詳しくは分からない魔物だ。

 唯一分かるのは討伐時に、経験値が高い事で有名な魔物だ。


 鑑定をした結果そう現れる。


 いや、正体も何も元は駄目天使だし……。


「速水法時よ、こやつには罰を与えた。後はお主の好きにしてよいぞ?討伐すればかなりの経験値になるしの」

「いやいやいや!流石に元天使は討伐出来ませんて、罰はそれで十分です!」

「ふむ、優しいのお主は。なら、そろそろ転生の準備にはいるがいいかの?」

「あっ、そうでした。お願いします」


 そうして俺の転生はそのまま進行した。


 ◇◇◇


 ここは……あぁ、無事に転生したのか。


 目を覚ますと俺は豪華な広い部屋に寝かされていた。


 成る程。

 流石転生だ。

 赤ん坊からやり直しとは……。


 取り敢えず鑑定で今の状況を確認しなきゃな。


 名前 アルト・ディオング・ミルフェルト

 レベル 1

 年齢 0 種族 人間

 職業 王子【封印中】

 冠位 第11王子

 犯罪履歴 無し

 スキル

【封印中】

 耐性

 属性耐性 Ⅷ 状態異常耐性 Ⅵ

 魔法耐性 Ⅴ 物理耐性 Ⅰ

 加護

 運命神 製作神 創造神

 体力G 魔力G スタミナG 力G

 防御力G 器用EX 素早さG

 運EX 精神力G 魅力G


 あぁ、其にしても豪華な部屋だなぁ。

 親王かぁ、殿下かぁ、王子かぁ……。

 平民どころか王子様かぁ~。

 あらやだ、派閥争いに巻き込まれなきゃいいけど?せっかくのファンタジーの世界なんで、平穏無事に冒険出来るかしら?

 これはあれか?創造神様の取り計らいなのか?


 其にしても、ステータスは【封印中】って……あぁ、赤ん坊からしたら有り得ないステータスだったからか?

 運や器用はそのままだから可能性はあるな。


「アルト様目が覚めたのですね?どうされました?お腹すきましたか?御トイレですか?」


 回りをキョロキョロと見回したいが、首が座っていなく、目だけで回りを見回してみると、扉を明け女性が入ってくるなりそう言った。


 お腹は…減ってない。

 トイレは…大丈夫。

 うむ、問題無し!


「分かりました!お腹減ったんですね!直ぐに御食事を御用意致しますね!」


 いや、何も言ってないし、お腹減ってないから!行ってしまったか…。

 どうするよ?あまりお腹減ってないんだが……。


 ◇◇◇


 ……。

 ………。

 …………。

 ……………。

 我は無心成。


 まさか食事の用意って言うから、ミルクが哺乳瓶的な物を創造していたんだが、さっきの女性が連れてきたのは違う女性で、乳母から食事を頂くとは思わなかった……。

 どっちみちお腹いっぱいだったから飲むふりをして、アイテムボックスに入れてなかったら良かったものを……。


 ……。

 そう言えば、身の回りの事は自分で出来ないから、排泄物も誰かがするのか?

 恥ずかし過ぎなんだが……。


 ◇◇◇


「カインド様!第11王子出産、おめでとうございます!」


 恰幅のよい男性が、そう言い豪華な箱に入った物をいくつも部屋に運び入れさせていた。


「こちらは出産祝いでございます!」


 カインド様と呼ばれた男は溜め息を着きながら、運び込まれている祝いの品を見ていた。


「すまない、財務大臣。誠に感謝する」

「はっ、有り難き幸せでございまする。陛下…どうされたのです?せっかくの王子が産まれたばかりなのに、そんな溜め息を着いては、王子が可哀想です」


 臣下の礼を解き、財務大臣はそうカインド王に言うが、何処か親しみを込め本当に心配しているようすだ。


「のう、財務大臣…いや、フィリップよ。アルトの件なんだが、他の子より大人しすぎはせんか?」

「はぁ、陛下…またですか?神官に見てもらっても正常と判定されておりました。それに来年の一歳の誕生日に、能力測定をするまでどんな能力か分かりませんが、きっと大丈夫ですよ」


 財務大臣…フィリップはカインド王を宥めるように言う。


「来年か…遠いな……鑑定の儀まで」

「来年なんてあっという間ですよ。今月にまた出産されるではないですか?」

「むっ、そうだが…いや、そうか、そうだな。フィリップすまぬな」

「陛下は小さい時から、心配性なんですから」

「す、少しは成長しておる!」

「ふふっ、そうですな。お互いに成長しましたな」


 カインド王とフィリップ財務大臣は小さな時からの幼馴染みだ。

 カインド王は幼馴染みとて優遇はせず、厳しさと優しさを持った、素晴らしい賢王とまで言われている人物だが、心配性な所は小さな時からあまり直ってないようだった。


 ◇◇◇


 速水法時が転生し、第11王子のアルトとして目覚めてから幾日も日にちは過ぎていく。

 赤ん坊と言うことで、アルトは出来ることは限られ、あまり動く事が出来ずに、今まで生きていた中で、最も退屈な時を過ごしていたのだった。


 現状アルトが出来ることは、魔力の強化と制御訓練と魔法の練習に、魔力量の増加訓練。

 と本の少しの筋トレに、物凄く軽い運動と防御力強化のトレーニング位だ。


 …………。

 その様は回りから見たら異常。

 そんな異常な光景を気にせず、回りに見つからないように実行していた。


 これはただすることが無いからだったり、憧れの魔法に対しての訓練と言うことで、妙に張り切っていた。


 そのおかげでハイハイが出来るようになったのは1ヶ月とかなり早く皆を驚かせた。

 ハイハイが出来るようになり、行動範囲が広まったので、時々部屋を抜け出し色んな所に出掛けようとするが、大抵は途中で捕獲され部屋に連れ戻されていた。


 何ヵ月も経つ頃にあることに気付く。

 それはステータスの隠蔽だ。

 何のスキルの効果かは分からないが、好きにステータスが弄れることが発覚し、異常なステータスを正常に誤魔化すことに成功した。


 そうして毎日平和な変わらない日々は過ぎていき、とうとう鑑定の儀を迎えるようになった。

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