第28話


 ダンジョンの外

 スタンピードに備え、アルトを含め本陣にてダンジョン突入準備が完了するまで、待機しているアルト達。


 アルト本人はさっきまでダンジョンの様子を覗いていたけど、今は普通にスタンピードに向けて本陣にて待機している。


 また、ダンジョンの中は丁度俺の獣魔達がダンジョンのドロップを回収した後に【洞窟】ダンジョンの入口に移動中だ。



 取り敢えず現在【洞窟】には魔物の姿はなく、スタンピードと思える状態ではなくなっていた。


 ふむ……魔物は出なくなった。

 ダンジョンは奥まで探索した。

 が、それだけか……。


「ふむ……」

「んっ?どうしたんだいアルト」


 本陣にて俺の隣に座っている第1王子であるオーウェン兄様が声をかけてくれ、アルトはダンジョンの今の様子や疑問を伝える。


「ちょっと待て、アルトお前今ダンジョンの中は魔物が居ないのか?」

「はぁ、最後に何か物凄く強そうな魔物が数体出て来た後は、ダンジョンの中から魔物が湧かなくなりました……それは良いとして、下層に向かう階段等が無かったんです。一階層の中は全て獣魔が探索しつくした筈なんですか……」


 本当に、階段も転移陣も見付けられなかったんだよなぁ……ダンジョンってこれが普通なのかも分からん。


「いや、階層よりも今はスタンピードの事が最優先だよ……物凄く強い魔物……そいつらは君の獣魔とどちらが強いんだい?」


 確かに今はスタンピードの事だよな……。

 あの魔物達か……実際に俺も詳しくは分からないけど。


「獣魔と言わず、ここにいる全員が向かっていって一体倒せるか、倒せないかくらいだと……すみません、直接見てないので、詳しくは分からないんです」


 うちの獣魔があんなになるまで怯えるんだから、相当上位の魔物って想像ができる。が、そこまでなんだよな……。


「そ、そんな魔物が居るのか……その魔物が今もダンジョンを徘徊しているのか……」

「兄上、王都より騎士・魔術師団の派遣を急がせた方が……」

「そうだなケビン。更に早馬の準備を……」

「あっ、兄様達ちょっと待ってください。その魔物達はもういません!」


 あれ?俺の説明が悪かったのか?


「「なに?」」


 あれ?魔物が居なくなったって言ったじゃないですか。

 聞こえなかったのかな?


「失礼する。アルト様、オーウェン様、ケビン様。今よろしいでしょうか?」


 そんな中、本陣にやって来たのは冒険者のギルド長だ。

 そのギルド長は数人の部下を引き連れ、本陣に来たんだが、兄様達の様子に気付きどうしたのか話を聞いてきた。


 俺は兄様達に話した内容より、事細かくなるべく分かりやすく伝えた。

 出て来た魔物に関しては、分かりやすく上質な羊皮紙に絵をパッパッと描いて教える。

 あらやだ、めっちゃ本物っぽく描けたし……。

 これも器用のステータスが高いお陰か?


 で、伝えた結果


「うま……えっ……ブフホォ!」


 最後の小部屋にいたそのまま描いてみた。

 敵だったけど、なんかこうこっちを威嚇する様子がかっこ良く、物凄く印象に残ったんだよね……。

 見せたらギルド長吹き出すし、せっかく描いたのに失礼な人だな。


「ギルド長!だ、大丈夫ですか?」


 部下に心配されるギルド長は、激しく咳を込み、俺の絵を部下へと見せる。


「この絵が最後の魔物達ですね……リッチとキラーアントにビッグスネークそれに、ミノタウロスですか……」


 ふむ、あの魔物達はそんな名前だったのか。


「キラーアントはEランク、ビッグスネークはCランクで苦労はしないですが、ミノタウロスとリッチは共にAランク……ですが、アルト様の獣魔のゴブリンやコボルトにラットラットやスライムそれにスパローと比べたら遥か上位の魔物で苦戦が必死ですね……」


 んーっ、どうだろう?苦戦ってよりも、その魔物と戦っていたら全滅してたんじゃないかな?って、ギルド長まだむせてるし。


「そうか、アルトの話しに出て来た物凄く強そうな魔物ってそいつらだったのか。良かった、安心したぞ!はっはっは!」


 オーウェン兄様?安心したぞって、どっちみち魔物はもう居ないんですって……。


「はぁ、はぁ、はぁ、違うぞ……お前、良く絵を見てみろ……」


 ギルド長よっぽどむせたのが苦しかったのか、顔色最悪に真っ青になってますよ?

 部下にも何か、力がないような声で指示してるし……。

 はて?でも何が違うんだろうか?ちゃんとあのときの様子をきちんと描いたんだけど……あっ!小部屋の、周りの風景が描けていないからか?急いで描いたから、描くのを忘れちゃってるよ……。


「ギルド長?絵を良くですか?……リッチ……。……アント。……スネーク。……ミノ。うーん……確かに何か違和感が出てきました」


 背景ですよね?そこまで詳しく見られると恥ずかし過ぎます。


「ちょっとかしてみな。これが、最後に出て来た……」

「おい、どうした?俺にも見せてくれ。物凄く上手い絵ですね!どれどれ……げっ!」


 隣の部下さんに絵を渡し固まり、後の部下さんが見て、げっ!って酷くね?

 かなり自信作に対して……。


「おいおい、どうしたんだ?絵を見るなり固まってたりして?魔物はリッチやミノタウロスだったんだろ?なら、集めた人員で何とかなりそうにないのか?」


 ケビン兄様、魔物はもう居ないんですって。

 全く、兄様達人の話し聞いています?


「……ケビン様、リッチ?とんでもない……この魔物はリッチロードです……」


 あっ、ギルド長復活したんですね。

 で、リッチロード?リッチと違うんですかね?


「なっ!」


「それだけじゃありません、この容姿はミノタウロス亜種。で、この体躯と目はデススネーク。この大きさと牙はエンペラーアントです」


「リ 、リッチじゃないのか!」

「はい、残念ながら……リッチはもっと質素な容姿をしています。リッチロードはこのように、マジックアイテムを幾つも装備しております」


 質素?じゃ、途中に出て来た奴等がリッチだったのか……あれ?Aランクだったよね?リッチ?……うちの獣魔ったら、めっちゃ蹂躙しちゃってませんでしたか?

 苦戦って感じ無かったけどなぁ…。


「くっ……何て事だ……アルト!王都早馬を!そして、全員で、この町から退避するぞ!」

「オーウェン兄上、俺は避難した住民を、王都に移します!」

「分かった!兵をまとめたら、すぐ交流だ!」

「おめぇらも、いくぞ!各ギルドの護衛をしながら、町を脱出だ!」

「おおっ!」


 ダンジョンの最後に出て来た魔物達の名前が判明した。が、直後から全員慌てたように動きだし始めた。



 うん、ナニコレ?皆話し通じてないのかねぇ……。


 そう思い、アルト1人本陣の机の上に顎肘を付き、ふて腐れたように皆を見ている。


「おい!アルト何をやっている!お前が開拓した町を離れ避難の準備をするんだ!」

「いえ、何をやっているじゃないですよ……兄様達も、ギルド長達も落ち着いて下さい」

「落ち着いて等いられようか!残念ながら、あのダンジョンは封印だ!手に終えない!リッチロード達が地上に出てくるまでに、王都に避難するんだ!」

「うん、だから皆一旦落ち着きましょうか」

「いやいやいや!落ち着けるはずないだろ!」


 駄目だな、落ち着ける状態じゃないなこりゃ。

 仕方ない。


「兄様、皆様すみません」


「ウォーターバインド」


「なっ、何をするアルト!」


 突如現れた水の枷で本陣に居たもの全員が縛られた。

 その魔法を使った犯人をオーウェン第1王子は睨むように声を発した。


「だから、皆様落ち着いて下さい」

「落ち着ける状態ではない。リッチロードにミノタウロス亜種、他にも手に終えない魔物が居るのだぞ!」

「居ませんよ?もう倒されましたって」


「「「「はっ?」」」」


 いやいやいや、何だよ「はっ?」って、兄様達に何回説明したと思ってます?

 それはこっちの台詞なんですが……全く……もう、魔法は必要じゃなさそうだね。


 アルトは水の枷の魔法を解き、皆を椅子に座らせ、リッチロード及びその他の魔物の討伐が終わったことを、再度報告する。

 それで、やっと話が伝わったのか皆の緊張や興奮が解けたようにも見えた。


 魔物は現時点で居ない。

 だが、次の階層に行くための手段が分からない事に再度、本陣にて誰もが悩み始める。


 そこで、ギルド長からリッチロード達のドロップアイテムを確認したい事を言われ、ドロップアイテムが入ったマジックバックを持ってくるように、獣魔に伝える。


 程なくして、マジックバックを入口に持ってきて、いざ地上に転移するときに、獣魔から何やら報告があるみたいだが、残念なことに魔物の言葉はアルトには分からなかった。

 だが、その獣魔の感情を確認すると何となくだが、伝えたいことが分かった。


【洞窟】ダンジョンの入口の転移魔石が、下層に行くためにも使えると。

 アルトは直ぐ様それを兄様やギルド長に報告した。


 ギルド長曰く、何でも珍しいがその様なダンジョンも有るらしいことが分かった。が、もう1つ分かった事はダンジョンマスターの存在も明らかになった事だ。


 ダンジョンマスターはダンジョンの主とされ、様々な種族がダンジョンマスターとして存在しているらしい。

 で、その様な仕掛けをするダンジョンマスターは2つに別れているとも言われ。

 1つは友好的なダンジョンマスターで、もう1つはただ性格がネジ曲がったダンジョンマスターらしい。


 ダンジョンを下層に行けば行く程、どちらかのダンジョンマスターかは判別が簡単との事で、仲間の獣魔達と共に俺達もダンジョンに潜ることになった。


 2階層では、町の警備兵とラットラットやスライムの1割を使い調査にあてる。

 3階層でその数を2割に増やし調査。


 とまぁ、階層移動する度に下に行くにつれ戦力を増やしながら移動していった俺達だったが、6階層目で獣魔の中でも強い、ゴブリンやコボルトにスパロー達を1匹づつ投入していった。


 で、10階層を過ぎ、11階層に進むメンバーは、アルト・ オーウェン・ケビン・ギルド長・ギルド長部下3名にオーウェンとケビンの護衛の騎士10名と、今までの階層より断然に少ない人数で移動することになった。


 本当は護衛の騎士はもっと居るのだが、流石に町の防備と、避難した住民達の護衛等をしなきゃいけないから、町に残してきた。

 他の兄弟の護衛騎士達が居るのはいるが、住民達の護衛や世話でいっぱいいっぱいだろうから、使うことができなかった。


 それは仕方がない。

 最悪、2階層の調査が終わった人員を使えばいいから、取り敢えず11階層に向け転移した。


 今のところどの階層にも魔物が出たと報告は上がっていないが、油断できる状況ではない。


 冒険者のギルド長曰く、このダンジョンのダンジョンマスターは友好的なダンジョンマスターの確率は物凄く高いらしいが、気は抜けないと言われたからだ。


 で!ようやく11階層についてみたら、今までの【洞窟】の雰囲気から一辺し、【神殿】みたいな作りに俺達は困惑した。

 取り敢えず、転移魔石に触れるがどうやらここが、最終の階層らしい。


 そこで、俺達はこの階層の調査に入り、目の前にある物々しい開きっぱなになっている扉を過ぎ、大部屋に突入。

 更に奥に続く開きっぱなの扉を抜け、通路を進む。

 程なくして豪華にキラキラと宝石がちりばめられた扉を開いて、中を確認すると中に誰かの気配を感じ、俺達は一気に戦闘体制に入った。

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