第55話

 試験は無事に終了した。

 アルトの鑑定をした結果、隠れた才能の持ち主も発見した。

 ただ残念なことに、それに気付いていなく才能が無駄になっているものが多くいた事は残念に思うところだ。


 まぁ、それは仕方がない一般の鑑定石も鑑定紙もそこまでは表示されない。

 因みに、アルトが転成前に使ったそれもそうであった。


 流石は創造神から貰った鑑定は他を凌駕していた。

 では、何が見えているのかと言うと、簡単にその者の成長度と、不得手の魔法属性、不得手のスキル等それに称号だ。


 普通の鑑定をレベル上げていけば称号は見えるらしいが、不得手なものと成長度は見えないらしい。

 その鑑定をフルに使ったアディの町などでは、住民のスキルや能力が上がっており、結果かなりの利益に繋がっている。


 で、ここでもそうなんだが実に勿体無いスキルの持ち主がちらほらと居るわけで、ただ、代官候補としてはまた違ったスキルや能力構成だ。


 このまま遊ばせておくのも勿体無いと思い、そう言った受験者にも第一次面接は合格として受験者達には解散させ、二次試験に挑む者は領主ビルの客室か町の宿に泊まらせ、今回残念だった者達はとりあえず、合格者達と同じように一拍してもらい明日自分の家に帰るであろう。


 そして俺は第二次試験のための準備をしながらも、替え玉受験生がいる一階の待合室に向かう。



「やぁ、お待たせ。で、何か話があるみたいな事を聞いたのだが?」


 俺は待合室に詰め込んでいた替え玉受験生に対して、扉を開けそう話しかける。


「で、殿下…っっ!し、試験は!私どもの試験はどうしたら!」


 替え玉受験生の中でも特に年配者……40歳位の男性がそう言ってくる。


「試験?試験は先程終了したが?」


 何を言っているんだか、そもそも試験が終わったら話を聞くからと言っていたはずだが?

 まだ、試験を受けれるつもりでいるのだろうか……。


「なっ……で、では私どもは……」


 つもりらしい。


「不正行為で不合格だね」


 そう冷たく言い放つ。


「そ、そんな……わ、私は長年、元ゲーラ伯爵領で人事を担当していて…」


 少し慌てたように、自分の今までの経歴を話してくるが、最後まで話させる前に口を開く。


「あぁ、ここアディでは経歴は関係無い。『俺の上司は奴隷』って言葉が当たり前の領地なのに、それを言っていたらやっていけないな」


 と、言うか住民と言っても大半が初期投資の奴隷なので、『俺の上司は奴隷だが、俺も奴隷』ってのが本当だが、コイツらが合格したら奴隷であるサイマラが教育担当なので、あながち間違いはない。


「ど、奴隷が…上司…」

「うん、そうだ。で、君の話は終わりかな?他の者はどうなんだ?」


 中年の男性はその後ぶつぶつと独り言を始めたので、他の人に話をふる。


「私は、必ず合格ようにと…父上から強制的に替え玉を用意され……なので、どうにか再試験を……」


 この人は親に反抗できなかったパターンか。

 確かにこの貴族社会の中、当主である親父の意見などには逆らえるものは居ないだろうが、それならなおさら再試験や合格などあり得ない。


「いやいやいや、無いな。もし、君が役職に就いたとし、君の父上が君が言う強制的に、何かをするかもしれないんだろ?もし、財務の役職なら怖いな…」


 まさにそうである、町の維持費や経費を手にかけないとも言えない。

 まぁ、無いかもしれないが少しでも可能性があるなら難しい。


「え……いえ、流石にそれは……」


 ここはキッパリとそんな事はない!って言ってくるのを待っていたのだが、どうやらきな臭く返事を濁す。


 おいおいおい、心当たりある反応じゃないか……危ない。

 もし合格してれば冷や汗ものだな。


「ま、まぁ、君の話は終わりだな。次は?」


 何処で汚職に手を染めているか分からないが、今は代官候補の雇い入れに集中し、こっちに何か被害があるなら、徹底的に調べよう。


 で、話をそう次の人にふったんだが、どうやらその他の人はやはり親に、無理矢理替え玉をさせられていたみたいだ。


 その後はどうしても合格しないと!と言うことだったが、今回は代官候補募集だったが、これからも似た募集は定期的に行う可能性があるから、己を磨き続け今よりもその役職に相応しくなれば、合格出来るんじゃない?

 と伝えたところ、渋々だが諦めて帰っていった。


 まぁ、今回不正した人達は次の募集でも要注意として合格に難しいがな。とは言わない。

 言うと面倒だからだ。



 ◇◇◇


「失礼致します!マール男爵領、四男、ジャビエ・マールです!よろしくお願い致します!」


 ジャビエは、そう言っては椅子が置いてある横まで来て、姿勢を正したっている。


「はい、分かりました。では、楽にしてよいです」


 俺が座っている両サイドの護衛兵がそう言うと、ジャビエは礼儀正しく椅子に座る。


 礼儀作法が出来た人だな……うちのハンスさんと違って。

 無事に一次試験を合格し、俺が行う二次試験を通過したのは10人とキリが良い数字に収まった。


 って言うか、もうこの10人は全員合格させるつもりでいるが、後は本人次第といったところだ。

 何せ、代官候補以外にも違う方面で雇いたいからである。

 その違う方面で雇いたい第一号はこのジャビエだ。


「うん、ジャビエさん。君は第一次試験も優秀でした。貴方なら代官候補としてもやっていけるでしょう」


 マール男爵は四男のジャビエさんに対しても、筆記の試験結果からみても家庭教師を付けれる位は収入がある。

 マール男爵は領地を持っていたので、そこの運営は順調なんだろう。


 俺は余り時間がなかったが、今回の第一次試験を通過した者の調査を行い、本人や家に問題が無いもののみ第二次試験を合格させた。

 と、言っても後は採用面接で本人にどうするか聞くだけで終わるので、今日はそれほど大変ではない。


 そして俺がジャビエにそう言うと嬉しかったのか、作法を忘れ椅子から少し腰を浮かし身を乗り出してくる。


「え……では!」

「待ってください。話はまだ続きがあります」


 とりあえず、落ち着くように注意するとジャビエはハッとした顔になる。


「も、申し訳御座いません。アルト殿下」

「はい、話を聞いてくれれば大丈夫です。で、ジャビエさんに相談なのですが。今回は私は代官候補を募集しておりました。が、私がみたとこによると、ジャビエさんはその他に素晴らしい能力がおありの様子……どうですか?私の下でその能力を生かしてみては?」


 うん、ただジャビエは代官候補としてもやっていけるが、能力を第一次試験で鑑定したらその他の仕事に就かせたらもっと有用な人材であった事が分かった。


「っ!……な、なんの、能力か……わ、分かりません……」

「そうですか……やはり誰にも伝えていないみたいですね。君の能力……まぁ、隠しているスキルは『操縦』に『御者術』と変わったものがあるね」


 そのどちらのスキルは特段取得に難しいものではない。

 運送など馬車の御者として働けば、3~4年位で取得は出きるだろう。


「はぁぅ……どうしてその事を……?」


 ただ、貴族に相応しくないと本人は思ったのか、そのスキルがあることは誰にも伝えていないみたい。


「すみません、今回の応募者は全員見ましたが、このスキルがあったのはジャビエさんだけでした」

「……そうですか。……貴族には不必要なスキルで、持っていることを隠しておりました……」


 やはり、誰にも話していない。

 ただ、今回はそれで良かったと思う。

 何せおかげでうちが雇いいれることが出来たからな。


「勿体無い」

「え、いや、すみません。も、勿体無い……ですか?」


 ただ、彼の事を思うとちょっとそう思う。


「ええ、そうです。このスキルはかなり有用ですよ?初めから持っているスキルは、努力して覚えたスキルと違い、成長も凄さも違います。で、もし、陛下が君の事を早く察知していたら、直ぐに呼びに掛かったかもしれませんが、僕はあなたを手放したくはないので、陛下には報告はしません」


 もし父上であるカインド王が気付いたらそうなっていたかもしれない事は伝える。


「そ、そんな、まさか……そんな事はない…」

「そんな事はあるのですよ?例えば、他国有効のための、大切な物資を運ぶ時、王族の町の視察や出事様々な移動に対して、あなたが居ればその成功率、安全率はかなり上がる。…ほら、重要でしょう」


 本人は自分のスキルの有用性に気付いていない。

 だが、今分かった事が彼にとってこれからプラスになるだろう。


「し、知らなかったです……」

「ただ、いろいろな所に物や人を運ぶから、大変ではあるけどね」


 まぁ、そうなんだよね。

 物資の輸送は体力に力が無いとキツいからな……。


「そ、そのくらいは問題ありません!」

「うん、ではどうかな?代官候補ではなく、うちの輸送の責任者候補なんかは?他所と違って、商業ギルドを初めとした各ギルドと町が協力しているから、量は多いが安全な輸送だ。詳しくは後日、現在の担当から話をきくといい」

「よろしくお願いいたします!」


 そうやって、1人目の登用に成功したアルトは、ジャビエが部屋から出たあと次の採用者を呼ぶように、メイドに言うのだった。

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