第72話
「ようこそ、お越しくださいました。ここはアディの領主ビルでございます。辺境伯様御一行で御座いますね?」
「あ、ああ」
俺達は初めて見る、馬鹿でかい建物……ここの人に言わせるなら領主ビル…らしいが、その中に入り、これまた広い玄関…エントランスで、俺達を案内をしてくれると言うメイドより、声を掛けられた。
「大変失礼致しました。ありがとうございます。ご主人様で在られるアルト殿下がお待ちで御座います。御者の方はこちらの者が御案内しますので、馬車の御移動をよろしくお願い致します。では、遅くなりましたが、辺境伯様また、騎士に部下の皆様はこちらになります」
先程の衛兵に言われ待っていたら、何人もメイドがやって来ており、領主…ビルの中に案内され、俺は中の造りにまず驚く。
何せ見るからにしても、俺が知らない建築法で建てられたこの建物何だが、中の設備の素晴らしさは見た瞬間に驚く。
まず、建物の明かりにしても初めて見る。
シャンデリアなのは一緒だが、どうやら蝋燭や今までに見た魔道具の類いではない。
それに建物に入ったら物凄く快適な温度に調整されているのだ。
小さな部屋などに置く、温度調節の魔道具のでは、この広い空間に対応出来ないはずなので、新たに開発した魔道具だと思うが、ここまでの物は、王城にだって取扱が無い。
だが、設備に驚いていると、メイドから更に驚く事を言われた。
「な、何?アルト殿下は既にお着きとな!」
「はい。何やら王城にて午前はお仕事をし来られ、午後に戻ってこられました」
「そ、そんな…まさか……」
我々はまだアルト殿下が休まれている間に出発し、その間に王城で一仕事をやってこられ、既に我々を待っているとは……。
正直、急いではいなかったが後から来るアルト殿下に追い越されなかったのだ。
だから先に着いているとは思わず、逆に我々が待つつもりで来たのに、どうなっているんだ……。
「この部屋にアルト殿下が?」
「こちらはエレベーターなる魔道具の乗り物でございます。こちらで上層階へ移動を致します」
「……初めて聞く名だ…」
エントランスにはここの住民等も自由に入って来ていいようで、職人の姿の人や、商人の格好の人に、冒険者みたいな装備をした人が多く彷徨いている。
そのエントランスの入口の横に設置された、扉の前でメイドにそう言わるたが、最早何のことか分からない俺だった。
密かに思っていた事は、このバカ高い建物の最上階にアルト殿下がいらっしゃるとして、どうやって行くのか……やっぱり階段しかないよな……と、そう思っていた。
「はい、先程町の門より辺境伯様がいらっしゃると連絡があり、既にエレベーターは待機させていましたので、直ぐにご使用出来る状態で御座います。ただ、中はそれほと広くなく。使用人数の制限が御座います。たた、使用人数は20名となっていますが、このエレベーターをお楽しみいただけれるように、3台を使用致しますよう、アルト様より仰せつかっておりますので、どうぞご了承くださいませ。また、高い所が苦手な方がいらっしゃいますでしょうか?その方は、また別のエレベーターを御案内致します 」
幸い、俺達の部下には高い所が苦手な者はいな。
「あ、ああ、分かり申した。おい、それぞれエレベーターなる物の前で別れるのだ」
「「「はっ!」」」
アルト殿下の好意により、楽しむ為にこのエレベーターを使うらしいのだが、扉が自動で開いた事に先ず驚き、中に入ってみて更に驚く事となった。
「なっ!ガラス……」
この町の建物にはガラスが取付られていたが、この様に贅沢に使用している所は町の中さえ見なかった。
「バラード様!」
「な、なんだ!」
「あ、足元もガラスにて御座います……」
周りに気を取られていると、足下もガラスになっている。
「……ガラスだな…」
「失礼致します。これより、エレベーターを動かしますが、宜しかったでしょうか?」
「ちょっと待て!ガラスの床等危険ではないのか?」
ガラス自体は高価ではあるが、王都や色々な都市に町にて扱われている。が、非常に割れやすい為、かなり扱いに細心の注意をしなくてはならない……はずだ。
そんな割れやすいガラスの上に立つなど危険では無いのか?
そう思い、バラードはガラス上から退避しながらそう言う。
「御安心下さいませ。こちらは確かにガラスですが、特殊な加工をされております、強化ガラスになっていまして、その耐久性は馬車が乗っても割れない程強固さがございます」
そのバラードの言葉にメイドが既にエレベーター内に入り、その様に言ってくれるが、バラードは半信半疑になりながら、ゆっくりとエレベーター内に戻ってくる。
「そ、そうか。では、頼む」
「かしこまりました。では、こほん。上へ参りま〜す♪」
先程のメイドからは想像出来ないような、掛け声に、ついバラードはツッコミを入れてしまう。
「何なのだ……その掛け声は…」
「動かす際は、メイド限定でそう言うようにアルト様より言い付けられておりますので」
そう言われては、無理矢理納得するしかないバラード。
「そうか、改めて頼む……」
「では、失礼致します。上へ参りま〜す♪」
再度メイドの掛け声と共に、身体が少し重くなる現象を体感し、慌てるバラードだったが、これはエレベーターに乗ると全員がそうなる様で、メイドからもその説明があった。
徐々に上に上がるにつれ、景色も変わって行く。
エレベーターの上部は流石にガラスで出来ていないが、その他は透明なガラスで出来ている。
左右のエレベーターには、他の部下達が乗っており、何やら騒いでいる様子が伺える。
内心俺も盛大に驚きたいが、俺はこの部下達のトップでもあるので、かなり我慢をしていた。
その間も、メイドが町並みを手の平を向け、重要施設や商業施設等の説明をしてくれているが、正直頭に入ってこないバラードだった。
その中で印象にあるのは商業モールと言う大きな施設と、来年行われる武道大会の会場でもある闘技場だった。
上るにしたがって、道を歩いている人等が物凄く小さく見える頃、町全体を見渡せる程まで上がってきた。
町中を馬車で移動した時には分からなかったが、この町にはまだまだ建物がない部分やエリアがある様だ。
その事をメイドへ尋ねてみると、どうやら町の住民権を得た人の家や、商店や工房まだまだ出来る予定だとか。
で、俺も住民権を得れば、この町に別荘が建てられる、エリアも大分あるようだ。
詳しい説明は、殿下や幹部から聞くか、直接総合庁舎なる建物に行く必要があるらしいのだ。
とりあえず、連れて来たメイドと騎士を派遣するべき案件とし、その場所を聞くと後ほど簡単な地図を用意してくれるみたいだ。
そんな話をしながら、足下をなるべく見ないようにしながら、どんどんエレベーターは上がって行った。
◇◇◇
「到着致しました。扉が開きますので、こし下がられるようお願い致します」
無事床のガラスが割れることなく、目的の階に到着したが、どうやらまだまだ上にも階層は存在している。
「これより上は王族専用フロアになりますので、このエレベーターではこの階が最上階になります」
俺の疑問に直ぐにメイドが説明してくれるが、先程から良く俺の考えている事が分かるメイドと思う。
扉が開けば、違うメイドが待機しており、ここからはこちらの方が案内をしてくれるようだ。
因みに、ここはこの建物のどの辺かを聞くと
、35階だと言う。
この階には、執務室や会議室に接待室等がありるとの事で、アルト殿下はその中の接待室で待たれているらしい。
エレベーターはあの階までだが、今日俺達の宿泊先は、この階の違う所にあるエレベーターから上り41階と言われたが、驚く事に全50階となっているらしい。
最早、どんな建築をしたらここまで高く出来るか、分からないバラードだった。
◇◇◇
「大変お待たせ致し、誠に申し訳ございません!」
「えっ?大丈夫ですよ。僕も一息入れれましたので、逆に助かりましたから」
殿下が待っていた接待室に入り、俺はまず待たせたことによる謝罪をしたら、殿下はメイドを見てながらそう言ってきた。
「で、本題に入ろうかな。従魔を貸出すって言ったけど、どんな従魔が良いのかな?戦士タイプに魔法使いタイプや僧侶タイプ……あとは、探知タイプに補佐タイプに壁役等様々用意出来ますが?」
いきなりタイプと言われても、殿下の従魔にどんな種類の魔物がいるか分からないので、答えがしにくい。
辺境領で今欲しいのは、辺境の魔物に勝てる即戦力になる従魔なのだから。
「タイプ……ですか…」
「そう、タイプです」
「我らは強くて、辺境の魔物に動じない位の従魔をと思っていましたが、そんなにタイプがいらっしゃるとは……」
「なるほど……ね。なら、お任せで選んでみても良いですか?」
それは有難い。
どんな従魔がいるか分からない以上は、契約主である、殿下に選んでもらったほうが辺境で活躍する従魔を選んでくれるだろう。
「そ、そうで御座いますね。主人である殿下でこそ、従魔の事を我らよりお分かりでしょうから、その様にお願い致します」
「よし、なら、後で厳選し明日引き渡せるようにしますね。……で、問題はここからだけど……」
そうしたら明日、殿下の従魔との対面が非常に楽しみである。
俺が予想すると、ワイバーン等を飛べる魔物は是が非でも貸し与えてもらいたいものだ。
なんたって、我々が先に王城を出ても余裕で間に合うその機動力は、素晴らしいの一言だ。
他にはどんな高ランクの魔物を従魔にしているか、非常に楽しみだ。
殿下が言う問題とは、従魔に対する貸出料の事だろう。
それは勿論払う事に問題は無いが、一体幾らにするのか気になる。
なんせ、高ランクの魔物等扱ったことは無いのだから……。
「はい、支払いの件でございますでしょうか?」
「うん、申し訳ないけど、王城でも言ったけどタダでは貸せないんだ。他の領主もタダで!ってなり、そうするとうちの戦力がダダ下がりしてしまうからね」
それはそうだろう。
従魔の件でいち早く、殿下に声をかけた自分に対し喜ぶが、もし、誰か他の貴族が話していたらと思うと、今回の貸出は無かっただろう。
そうならなかったことに俺は安堵していた。
「分かっております。ご無理を言って申し訳ございません」
「で、料金はあえて決めずに、辺境伯が納得出来るように、歩合制にしませんか?」
「歩合制……ですか」
歩合制?……それで、貸出すメリットはあるのだろうか?
いや、魔物を討伐しまくったら、かなり稼げるのか?ただ、その魔物の素材が回収出来れば、だが……。
「そう、従魔が活躍した分だけ。その歩合設定は任せるよ。他の領主から話があった場合は、それを元に金額設定を決めたいから」
「失礼ですが、先程言われた通りならですが、他領に貸出すと戦力が減ってしまうのでは?それに、その条件ですと、月に幾らと決めた方が、殿下の元に来るお金は増えるのでは……?」
「あぁ、すみません。いきなり貸し出すと、ならですよ。僕の従魔繁殖力が激しいから……今は繁殖しない様に命令をしているけど、しなかったら物凄く数が増え、大変になるよ。それに、うちの従魔は常識で測れないくらいに鍛えているし、ちゃんと魔物の素材や薬草に鉱石等の素材も取ってくるし、護衛や追跡も……あっ、追跡は無理かな。言葉が分からないから、護衛までかな……」
その話の通りなら、十分に殿下にお金も払え、双方に困ることは無いだろう。が、逆にそこまで出来る従魔とは?冒険者や兵士の貸出と勘違いするような内容だな。
それに、従魔の繁殖は大変に貴重だから、1度は見てみたいものだ。
ただ、増え過ぎて従魔に指示が出来なく、もし暴れ出したら、国を揺るがす大事件となり得るだろう。
「従魔の繁殖ですか……確かにつがいで従えた者の話では聞く話ですが……そうで御座いますか……殿下の従魔は規模が違うのですね。かの、ルェリア軍を無傷で討伐するほどの、高ランクの従魔……それが、数が増え手に負えなくなるのは、町だけでは無く国の脅威となるでしょう」
「えっ?高ランク?」
「はい、高ランクで御座います」
ここで、殿下の年齢が故の事柄が入るとは……。
まだ、年齢も若く、成人前なので、あまり魔物こランクには詳しくないのだろう。
「あの……うちの従魔って、ゴブリンやコボルトにスパローが幹部クラスで、部下達にラットラットや各スライム達だよ?」
「……ま、まさか……で、では、その低ランクとされる従魔でルェリア軍を……」
物の見事に、低ランクと称される魔物の中でも、特に最弱と言われるラットラットにスパロー、それに毛が生えた位のスライム……。
戦闘経験があり、成人していたら討伐が簡単なゴブリンにコボルト……本気で言っているのか?
「う……ん…。うちの従魔は確かに低ランクの魔物だけど、レベルも高く、魔法やスキルを扱うからね。ダンジョンにも普通に自分を鍛える為に、潜っては日々強くなっているよ」
「そ、そんな……」
勘違いをされている。
それは不可能に近い事だ。
戦闘力が無い魔物の、レベル上げなど何処かの暇人でもやらない事だぞ?
鍛え上げる前に、相手に倒される事がほとんどで、常に全力の戦闘だ。
つまり、連戦が出来ないはずなので、レベルも上がっても一日頑張ってもレベル1がやっとのはず……。
本当に殿下は本気で言っているのだろうか?
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