第77話
「流石、御老人ですね!」
「あぁ、本当にだ」
「そうですわね!それは素晴らしい考えですわ!」
「じゃろう!そうじゃろう!ほっほっほ。お主らも若いのに、本当に素晴らしいの……。」
話しが合い、盛り上がるセバスチャンにソウシュ・セキメ・コクセキは、酒を飲んでは話し、食べ物を食べては話しで盛り上がっていた。
「…………」
「…………」
「あは、あははははっ……」
その盛り上がりを他所に、気まずい人達もここには居た。
「えーっと……ようこそ、アディの町へ。僕はこの町の領主のアルト・ディオング・ミルフェルトです。急に誘うようになってしまい、申し訳ございません」
「で、殿下!そんな!頭を上げてください!こちらの方こそ、この素晴らしい料理が食べる事が出来、殿下とも知り合えた事にこれ以上な事はありません!」
アルトの言葉に対し、トデインは慌てるようにそう言った。
「そうです、本当に俺の部下が失礼してしまい、申し訳ございません」
ハンスもソウシュ達を見ながらそう言う。
「いえいえ、トデインさん、ハンスさん。僕の部下も失礼な事をしてるし……あそこで騒いでいるしね」
また、セバスチャンやソウシュ達以外にも、テーブルにはアルトやハンスにトデインには、アルトの部下の幹部達も座り、雑談に花を咲かせ飲み食いしている。
「……俺はある意味勘違いしていたみたいです。貴族や王族の晩餐会はもっと、しきたりが面倒で静かにご飯を食べるものと思っていました」
そしてハンスは更に、周りの宴会とかしたこの場を見てはそう言う。
「ハンス……普通は、マナーを徹底しているのが普通だ」
「あははっ、僕は必要な時はそうするけど、そればかりだと堅苦しいからね」
「失礼ながら、そこは子どもらしくと言ったことでしょうか?」
アルトが苦笑いをしながらそう言うとトデインがそう質問した。
「そこなんだよな……。子どもと扱われないので、いじめか虐待なんだろうかって思っているよ」
「それは、皆様が殿下に期待なさっているからでございますよ」
「期待……ね。僕、何も出来ないのにね」
アルトは天井を見ながらそう言った。
「「「いやいやいや……」」」
が、雑談しながらも俺達の話を聞いていた幹部からツッコミが入る。
「あははっ。本当に仲が良いんですね」
「まぁな。それと、俺とお前はどうも同じ名前らしいが、本物のハンスは俺だからな?」
そんな事をしていると、アルトの幹部のハンスが客として招いているハンスにそう絡む。
見るからにお酒が進み、多少は酔っているみたいだ。
「いやいや…何に張り合っているのさ……」
「はははは……」
これには客として招いているハンスも苦笑いをするしか無かった。
「ハンスさんは名前、ハンス・ハウテンだから、ハウテンって名乗れば良いんじゃない?」
「ハウテン?ハンスさんって貴族なんですよね?」
客として招いているハンスは、酔っているハンスが貴族かもしれない事に、驚きながら質問をする。
「俺か?俺は違うぞ。家名の事は色々あったんだよ。いろいろな……」
「深く踏み込まないようにした方が良さそうですね」
「すまねぇ。思い出したくないんだな……」
聞いたハンスは、酔っているハンスが急に酔いが覚めるように、しんみりしてしまうのが分かり話を深く聞くことをやめた。
「で、勉強が嫌いで家出して、あちらこちらを放浪した人らしき人は何をカッコつけているんだか……」
この話を聞いていたミッチェルはそうハンスにからかいながらそう言った。
「め、女狐!それは!」
「何よ!やろうっていうの?」
そんな、恥ずかしそうに顔を真っ赤にさせ、ハンスがミッチェルに食いかかろうとしているのを、アルトは溜息をつきながら見ていた。
「はいはいはい、2人とも落ち着いて。お客様の前だよ?」
「く……仕方ねぇな……。だが、女狐……それ以上言ったら知らないからな?」
「そんなに恥ずかしい過去なら、飲みの席で暴露しない方が良いわよ?幹部はもとより、部下にまで伝わっているわ」
「……マジか……?」
「マジですわ」
「ぬぉぉぉおおおっ!」
「……出て行っちゃった」
「はははっ、本当に賑やかで御座いますね」
「ははは」
上司であるアルトに止めれた二人は、それ以上に争うことは無かったが、ハンスは衝撃の事実を聞き、雄叫びを上げながら部屋を出ていってしまった。
これを見ていたトデインやハンスは、流れに着いていけず苦笑いした。
「さて、食事も終わった事だし、本題に入りたいんだけどいいかな?」
無事か分からないが、宴会という食事が終わり、メイド達が後片付けをしている中、アルトはトデイン達にそう言った。
「ハンスさん達の武道大会出場は分かるけど、トデインさんはどうしてこの町に?」
「私は、ハンスの付添いに交渉役として我が国の王から依頼があったのです」
「へぇ……直接依頼ですか」
国から直接的に依頼があるほど、その人物は国から信頼され、ましてや下手したらその国の重要な人物かもしれない事に、ハンスはそう思い姿勢を少し正す。
「まぁ、その依頼も半分は達成出来ていますが、後は武道大会次第で御座います」
「どんな依頼か聞きたいけど、普通は秘密ですよね。特に王からの依頼なら尚更」
極秘だったりもするが、聞くこと自体は皆するが、普通は誰か他の人物に教えることは無いので、諦め半分でそうアルトは聞く。
「いえいえ。逆に今ここで依頼内容を伝えた方が、スムーズに事が運びそうに思えたりするのですが」
「そういう事もあるんですね」
トデインの返事の続きが気になるアルトは、一口水を飲み心を落ち着かせる。
「そういう事もあったみたいです……私達の依頼内容はズバリ、ミルフェルト国の王族であるアルト殿下が主催の武道大会で優勝し、先ずは優勝者の祝賀会にて、親交を深める事だったのが1つ目の依頼でございます」
「えっ……」
トデイン達2人の依頼が予想外だったためキョトンとしてしまう。
「そして二つ目は、事前にミルフェルト国に使者を出しておらず、ましてカインド陛下に会うのは一領の領主と平民……となれば、謁見させて頂く事が出来ない現状、こちらの我が国の王から御預かりした金品や書類を渡し、国同士の親交を深める事が最終目標で御座いますが、こちらは出来たらの話でした。もし、武道大会にカインド陛下が来られ、会うことがあったら……と、言った依頼で御座います」
依頼の内容にかなり疑問が残るんだが……。
何故に父上に会って、金品や書類を渡すのは序で、俺に会うのが目的になっているんだろうか?……全く分からん。
「なるほど……確かに普通にしたら難しそうな依頼ですね。そこで、武道大会に出て優勝し、そこで僕と会う流れだったのか……」
「全くその通りで御座います……」
ふ……む。
何が目的なんだろうか?
あえてその依頼を達成させたら、武道大会の出場もしなくていいって話かな?
なるべく、沢山の人に出場して欲しいけど……。
「あっ、でも……その依頼は直ぐに達成される筈だよ?トデインさん達がこちらに宿泊されるならね」
「……どういう事でしょうか?」
「父上… 陛下達は既にここに宿泊しているから、会おうと思ったら直ぐに会うことが出来るよ?」
「なんと……」
今度はトデインがアルトの言葉に対し驚く番であった。
それもそうだ、一国の王である人が武道大会の予選をする前の日……下手をしたらかなり前の日にはこの町に滞在しているのだから。
普通、王は自分の城から中々出ることが出来ないはずで、この町との距離も近いとはいえ、こればかりはトデインも驚かせられた。
「だけど、宿泊しているのは王族専用フロアになるから普通には行けないけど、昼間はは街中や1階のロビーに居ればかなりの高確率で出会えるよ。陛下よく出掛けるから」
「武道大会を見にこんなに前から、居られるなんて……かなり行動的な王様なんですね 」
「頻繁に視察に来るし、……行動的と言ったらそうですね」
良く、街の視察に部下ではなく本人も来る事には、トデインは予想が出来ておらず、次に話す言葉が中々出てこなかった。
こっちの席ではそういった話があっていたが、周りの席は既にどんちゃん騒ぎをおこしているところや、自分の主人に対して熱く議論しているところがあったが、夜も深まった頃合で、食事会という宴会もお開きになった。
各人バラバラになり、自分の家に戻るものもいれば、領主ビルに泊まる者もいる。
そんな中アルトは1人考え事をするために、自室に向かっていった。
その考えとは、今日出会ったトデイン達一行の事についてだ。
トデインは真面目で、周りから慕われている雰囲気の領主さんだった。
武道もしていたらしく、一般人にしては筋肉のつき具合もしっかりはしていた。
だが、残りの人達はどうかと言ったら、見た目は普通の青年達。だが、その部下のソウシュ達は常にハンスを意識し、何かあれば守れる位置にいた。
見た目は物凄く良い人達なのだが、立ち振る舞いを見れば全く隙がなかった。
武道大会に出て、俺に近付くのが理由で来たらしいがそれが本当か分からない。
だが、多分本当だろうと思うが俺に近付いて向こうの国にとっての利点はなんなのか……なのだが、多分この町で作っていて父上が機密扱いにしている物達であろう事は直ぐに分かった。
それも以前父上が、周りの領主や商人それに近隣の他国からの接触者が出てくるであろうと打診されていたし、自分でもそれは薄々分かっていた。
それは機密と言う事で諦めて貰うしかないのだが、問題はあのハンス個人の方だ。
平民ってトデインは言っていたが、全く平民には見えない。
ましてや貴族?と言われたら、まぁ、そういう貴族も居るのではないか?って思わないが、平民にあんなに文武に秀でているっぽい部下が居るのかは不明。
しかも、そのソウシュ達も貴族ではなく平民との事だが、何処で育てばああなるのか分からないくらいに、平民には見えない。
そもそも、俺が話した内容から常識や知識に偏りがあり、人として生きてきた年月に対しての知識量が足りていないように見えた。
まるで見た目は大人中身は子供……まさに俺の逆のように……初め、彼等も地球からの転生者なのかと思ったが、話すにつれそうでは無いことが分かった。
誰もが知っているであろう世界的有名人等の名前を出しても何も反応がなかったからな……。
そう考えながらアルトは自室のスパローが休んでいる窓際の鳥籠を不意に見る。
「!?」
そんな窓際を見たアルトだったが、驚く事に窓の外に1匹の白い梟がいつの間にか居たのだ。
スパローやアルトに気付かれずに……。
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