第32話
財務・経理の面接が終わり、今合格者達は二次面接へと移った。
今回の一次面接の合格者は1259名の内、たったの96名のみだった。
落ちた中には、性格も良い真面目な者も居たが、能力で見たら他の者が遥かに優れていたので、やむを得ず落とした者達もいる。
ただ、鍛えれば、教育をすれば光る原石に見えたアルトは、そう言った者達はある手紙を出していた。
だが、今回の内容とは違うのでその事は横に置いとき、集まった96名の人に向かって挨拶をするアルトだった。
「この度は、遠方より町の財務・経理の担当者応募に来ていただき誠にありがとうございます。私は当町の領主を勤めさせていただいております、アルト・ディオング・ミルフェルトと言います。そして第一次面接を行いました結果、通知いたしましたように一次面接の合格とさせていただきます。ただ、この人数を財務・経理の募集で雇うには多すぎるのです。ですが!どうしても皆様全員が私の町開発や、町の将来には必要な人材だと判断いたしております。そこで、第一次面接の合格通知書と共に同封してました、内容で宜しければ、このまま本日の面接を始めたいと思います。また、同封した職場に不満がある場合は残念ですが、その時点で不合格とさせていただきます。その場合につきましては、入り口の係の者に、合格通知書の提出をお願い致します。では、簡単ではありましたが、挨拶を終わります」
アルトはそう言って、皆を見渡せる簡易ステージを降りていく。
引き継ぎ、約5分の休憩の後に、合格した者へ各部署の担当者から其々の面接となるフロアーに誘導され出ていく。
今日の面接は、合格者が財務や経理の部所だけではなく、町の要の総合庁舎や警備にこれからの開発建設に直接係わる職場など様々な所へ配属される事になる。
それについての簡単な説明と、アンケート記入に、この町の職員になった者へ社宅の場所決めに、何時から働く事が出来るか等、職場環境に合わせた、制服のサイズを伺うだけの簡単な日程だ。
なので、午後からはオリエンテーションを含め、其々の職場に町中の案内などを行って、今回の財務・経理職員募集という名目となってしまったが、面接と入社式が終わる。
「アルトお疲れ様です」
「あっ、カエラ姉様もお疲れ様でした」
共同リビングで寛いでいる所へカエラも現れ、紅茶を準備していく。
「良かったですね。これで各部署の人手不足が解消されるんですね」
「そうですが、実際に人手不足が解消されるのは、新入社員が仕事を覚えてからになりますけどね」
いきなり入った新人が、即戦力になることは稀である。
だがら、大事に育てなければいけない。
「ふふっ、そうですわね。この町は他所で行わないような、取り組みがあるので馴れるまでどのくらい掛かるか心配ですわね」
「……一様、マニュアルは作っていますので、それをしっかり予習してくれる方でしたら、1ヶ月……していない方なら半年でしょうか……。まぁ、そこは本人に期待致しますよ」
そのマニュアルを作るために、物凄く時間が掛かったが、今更作って良かったと実感もわいてくる。
「マニュアル……あれは素晴らしいですわよ?何せ、私達兄弟も職場に配属となった際には大いに助かりましたから。……良く、あんなに思い付きましたわね?」
その話の内容で、前世の記憶のお陰とは言えないアルトは、話をそらすことにした。
「……そうですね、事例などは王都での各部署に聞き込み調査してくれた、ゼロスに感謝ですね。で、どうされました?この時間に此処にいらっしゃるの珍しいですね」
カエラ姉様は今日は面接官の仕事を昨日で終え、今日から自分の仕事へと戻っているはずで、カエラ姉様の仕事は各商会相手の商談や、物資の調整に手配など忙しい部所だ。
何時もなら、町中を馬車で回りながら、商談し物資の備蓄状況など確認を行っている時間である。
「そうですわね……今回の募集を行っている間に溜まっていく、商談や収穫した作物の販売数決めから…避難している訳ではありませんよ?アルトに聞きたいことがあって、探してましたの」
どうやら、仕事から現実逃避中みたいだ。
まぁ、上司としてツッコミを入れないといけないが、いつも真面目にしてくれているので、たまにはそう言うのも良いだろうと、聞かなかったことにする。
なんせ、俺も現実逃避中だから……。
「あぁ、避難されているわけじゃないんですね?で、どうされましたか?」
「はい、面接に使ったこの魔道具ですが、幾つか都合出来ないかと思いまして……」
どうやらカエラ姉様は、今回の面接で活躍した魔道具が欲しいみたいだ。
「あぁ、姉様もですか……実は、今回使用した兄様等からも同じように言われましたが、数が限りがあり、増産が出来ないのでそれは出来かねます……カエラ姉様、申し訳ございません」
だけど、実際にカエラ姉様以外にもオーウェン兄様等からも同じように、この魔道具が欲しいと言われたが、このアイテム自体は転生する前に手に入れた物で、数に限りがある。
アルトは錬金術や鍛冶等が出来るが、魔道具だけはまだ作成することが出来ない。
確かに職業として魔具士なる職業は存在しているが、残念ながらアルトの職業習得欄には未だに発現していないことから、何か特別に取得する方法があるのだろう。
だが、町開発建築運営が忙しすぎて、調べることを後回ししている現状だった。
もし、作れるなら渡したいのだけどと思いながら……。
「お兄様やお姉様もですか……それは、仕方がないですわね……分かりました。アルトご無理を言って申し訳ございませんでした」
「いえいえ、こちらこそ、申し訳ございませんでした」
その後は、十分にサボりと言う名の休憩をし、執務室へ足を運ぶ。
執務室に到着し、報告書やら決済書類を処理していくと、中には嬉しい報告書も中には見受けられる。
『農作物余剰分、販売計画結果報告書』と題名されている報告書を見、アルトは良かったと安堵する。
内容は、収穫された作物の種類に各町にて販売されている値段が書いてあり、実際に商会やギルドに卸した数や値段が報告されていて、備考欄には定期購入まで獲得したと書いてある。
魔物が闊歩するなかの農地経営は常に命懸けになる。
中には、魔物に襲われ経営出来なくなった所も年々出ていくるので、それを踏まえて各町や村では食料不足になっている。
だから、こうもアッサリと定期購入の話しも通る訳だが、これなら農業地区の諸経費の見直しと、畑の拡大をした方が良いのかもしれない。
で、次に各町に人員確保に行っているハンスさんからの報告書で、現在人員の確保した人数が報告されている。
その二つの報告書を見比べて、農地拡大をその人員の一部を使うように指示を書いて、指定された場所に指示書を送る準備をする。
それに踏まえて、開発建設組にハンスさんから報告書が上がっていた、人数の受け入れをするために、開発町や農村での住居の建設を新たに依頼する。
ただ、こちらは町も農村でも人がいきなり増えても大丈夫なように、前もって住居の用意はされているので、今回の建設依頼は予備住宅の部分になる。
ので、そこまで急ぐ事ではない。
で、そこの担当と建物を建てるための材料等を管理している担当者が話し合い、商業ギルドに資材の注文をし、最終的に一括の支払いの請求書やら、其々の担当者から結果報告書が俺のところに届く。
俺は俺で、報告書と請求書が数字に金額に間違いないか確認の計算をし、決済の印に確認の印を押していく。
それが主なアルトのお仕事だった。
人が増えれば、その作業も大分楽になるだろう。
町の開発建設が終われば、その負担も軽くなるだろうと思い仕事をしていくのだった。
「アルト様、本日の合格者に対してのアンケート用紙です。制服や住居等は手配も終わりました。後は、アルト様の確認のサインのみでございます」
うん、うちの執事は有能だな。
ふとした時に、俺がするはずだった仕事を終わらせてしまう辺り、流石と言える。
「ん?何人か社宅希望ではないみたいだけど?」
俺の管理している職場で働いている人には、其々の住居を付けている。
勿論、生活に必要な家電は一通り付いており、家庭用品や布団に食料品を本人が用意するだけで生活が出来るようにしているのだが……。
「はい、こちらの方達は自分の住居を購入するみたいで、現在建っている貴族街の屋敷を選ばれております」
貴族街……今までは貴族でこの町で働いていたり、暮らしていた者はいない。
だが、貴族制度があるこの世界のお陰で作らざる得なかった場所だ。
領主ビルには王族専用のフロアーが存在してはいるが、父上や公爵……つまり従兄弟達のために、貴族街の一等地に屋敷を建設している。
が、父上や母上も来た際は領主ビルで泊まり過ごしている。
用意だけはした屋敷はただ毎日、王都から来たメイドや執事等が掃除や庭の整備をしているだけ……そんな急いで建てなくても良かったんでは?と、思ったがどうやら建てていて正解だったみたいだ。
父上や母上がこの町に来た時に、来客があった際には使うとの事を言われたが……そんな、領主ビルにも接待室や応接間作ってますよ?と言ったら苦笑いしながら「確かに、領主ビルは素晴らしいが、何事にも建前があるのだ」と言われていた。
結局、物凄い範囲のスペースは空き地で、通路により其々敷地を区切っているのみ。
何処か、寂しいエリアでもある。
「ふむ、念のためにオーウェン兄様に言われ、屋敷を建てていて良かったな。なるほど、引越など在るから出勤予定は来月になっているんだな」
前世みたいな世界は交通も便利で家財道具も簡単に運べたであろうが、この世界の陸上の荷物運搬方法は馬車か荷押車しかない。
あぁ、そう言えば、希少なマジックバッグみたいなのもあったな……。
「そうでございますね。貴族の三男だけどキチンと屋敷を与えてくれる、親は流石と言えますね。だだ、気になる点もございますが」
考えをゼロスの話しに集中させ考える。
ゼロスが気になっている点について。
「三男の為ではなく、別荘感覚かもしれないと?しかも、産業スパイかも?ってな感じですか?」
パッと思い付く限りではそのくらいだ。
他の理由を考えるなら、色々出てくるが。
例えば、王族が経営している町だから、好意を装い、ゴマをするためだとか……。
あぁ、その可能性が一番に高くないか?
「そうでございますね。それらが気がかりになるところでございます」
「まぁ、警戒はしていた方が良さそうだな。警備巡回を名目に周辺を警戒強化はしてもいいだろうね」
「畏まりました、指示書をアルト様名義で作成し担当者に渡しておきます」
あらやだ、何て出来る執事なんだろうか……。
頼もしすぎる……。
ここまで有能ならもしかしたら……
「ゼロス、ぼくは君をだいか……」
「無理でございます。私はアルト様の執事として、生涯を過ごしとうございます」
あらやだ、代官の言葉さえ言えなかった……。
誰か、代官候補居ないものかね?
はっきり言って激務過ぎるんだけど?
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