第50話

「おい!そこの傭兵……アウグと言ったな?自分で言ってきたが、もし負けでもしたら覚悟は出来ているよな?」


 ルェリアは傭兵のアウグと言う者にそう言う。


「問題ない」


 アウグと呼ばれたものは、自分の傭兵団を率いてルェリアの軍に参加した。

 自分の力を認めさせるため、ルェリアの集めた盗賊達との衝突があり、問題なく勝つことで……。

 ああ言っているルェリア本人は、あの強さなら余裕だろうと思ってはいるが言わずにはおれなかったらしい。


 そんなアウグは自分の傭兵団員以外にも、強制的に徴兵された領民を連れ、アルトの陣営に一番槍を入れ大打撃を与え、あわよくばそのまま殲滅をするとルェリアに進言した。


 ルェリアは少し考えるも、見せられた武力を信じ、アウグの進言した内容を許可した。


 他の盗賊達は、その分危険度が減って喜ぶ始末で、アウグとしても大分やりやすかった。


 陣形も整え、兵もきちんと居るか確認し、普段寡黙なアウグと思えない出陣の叫びが戦場に木霊した。


 だが、そのアウグの声も直ぐに回りの兵達の叫びにかき消され、全員武器を構えひたすらにアルトの陣営に突き進む。


「ふん、王子……いや、アルトもこれで……そうしたらわしの邪魔をする奴は居なくなり、アルトが溜め込んでいた資財はわしのもの……ふふふ、はぁはっはっは!」


 ルェリア軍の際奥にいたルェリアはそう呟き、終いには笑いが込み上げていた。




「そのまま突き進め!我を信じよ!」

「「「おおおおおおおおっ!」」」


 一方、アルトの陣営に突撃をしているアウグ達は今まさに全員が歩兵でありながら、粗末な武器を与えられているものが殆どの状況で爆進中だ。


 アウグとその仲間達には今回の作戦は、アルトより言われているので、同じく突撃をかましている強制に徴兵された領民に対し、時折声を掛け不安がないようにしている。

 そのおかげもあり、陣形が崩れることが余りなく、まもなくアルトの陣営にぶつかる。


 後100メートルに迫った両軍だったが、アルト陣営に動きがあった。


 一塊に陣形を展開していたアルト達は、中央から左右に急激に部隊を分け始めた。


「ふっ、愚かなり。両側から挟み込むつもりであろうが、アウグ達の強さと兵数には意味なかろう。所詮子供だったな」


 その光景を見たルェリアはそう回りに聞こえるように話す。

 回りの盗賊達もアルト達を馬鹿だ、意味ねぇと罵り罵倒する。


 だが、両軍がぶつかる瞬間にルェリア陣営には、誰にも予想できなかったことが起きてしまった。


「ば、馬鹿な!アウグ、アウグは何をしているのだ!」


 流石のルェリアもその行動に叫ばずにおれなかったらしい。


 実際にアウグ達が行ったことは、アルト達の陣形が2つに分かれた箇所を通り、そのまま何処かに突き進んで行った。

 その後は2つに分かれた陣形は何事もなく、1つに戻り、ルェリア軍は誰もが驚き固まっていた。


 ◇◇◇


 その頃アウグ達は


「もうすぐだ、あの部隊の所まで行ったら作戦はほぼ終了となる。後は保護をしてもらえる」


 程なくして、鑑定官により盗賊か領民に分けられ、保護をされた。

 領民達は泣くものもいて、さぞ怖かった思いもしたものだろう。

 その後、アウグ達は何かあってはいけないとし、この者達の護衛を務める。


 ◇◇◇


「第一作戦は終了した!陣形を元に戻し、第二作戦に移る!」


 そう割れた部隊の両側からアルトとハンスの指示が飛び、陣形は元の1つに戻って行った。


「あいつらは馬鹿か?虚を突かれたと言っても戦場だよ?格好の的なんだけどな」


 陣形も戻りアルトは大空に向け、ファイヤーボールの魔法を打ち上げ破裂させる。


 その行動に更に動揺したらしいルェリア軍の回りには、堀に隠れていた兵士や従魔が姿を表す。


 まず各方面からスパロー達が飛び立ち、ルェリア軍の上空に来たところで、色々な初級の属性魔法の雨が降り注がれた。


 その現れた兵達は、飛べない従魔を先頭にルェリア軍に接近し、魔法の雨の範囲外まで来ては進軍を止め、さらにラットラットやゴブリンやコボルト、更にはスライム達まで魔法を浴びせ始めていた。


 それを見たアウグが助けた領民達は顔を青ざめ、もし助けられていなかったらああなっていた。と認識し、アルトの陣営に助けられた事を感謝しては、この戦いを見守っている。


 その他にも鑑定官や盗賊の確保で雇われていた冒険者達は。


「すげぇ……」「何なんだ、あの魔者達は……」等感情はバラバラだったが、戦争と言う蹂躙戦を眺めていた。


 元々2000いたルェリア軍は、アウグ達が抜け、約半数近くまで減っていた。

 そして現在はルェリアが居る周りの約20名のみになっている。


 残りは従魔の初級魔法の乱擊により、気絶したり瀕死の重体に陥ったものや、その命が尽きていた。


 ルェリア達を囲んでいる兵事態は500名にも満たないが、従魔の数は何千といる。

 一匹一匹が小さいため、陣形の範囲は狭いがその数は果てしない。


 しかも、以前のダンジョンのスタンピード騒ぎに、ゴミ山の戦いなどで皆レベルは高いので、ルェリアが集めた盗賊なんて全く相手になっていない。


「な、何なのだ……あ、ありえん……我が兵士達が……」


 ルェリアはこの惨状を見て、何やらぶつぶつと喋りながら、周りの盗賊や兵は魔法の攻撃により、叫びどんどん倒されていく。


「がはっ!」


 そして、とうとうルェリアにまで魔法の攻撃が届き始めた。


「ぐぼっ!」


 肩にストーンアローが当たり、腹にファイヤーアローが当たり、頭にはウォーターアローが当たり、そこでルェリアの意識は闇へと落ちていった。



 こうしてルェリアの略奪戦争は終息していった。


 ◇◇◇


「終わったね。ハンスさん後片付けは任せても?」


 ルェリア軍が誰も立っているものが居なくなったのを確認したアルトはハンスにそう言う。


「なんともまぁ、呆気なかったな。おぅ、何でもアルトの手を借りるといけないからな。後はやっておくさ」


 まだ、この戦場でやることは沢山ある。

 気絶した相手とそうでない相手の選別から、生きている相手を縄で縛り引き上げたり、そうでないものは、荷馬車に無造作に積まれ冒険者ギルドにて賞金首の確認。


 そして、アウグが連れてきた領民の保護に、その領地までの護衛。

 アルト陣営は片付け後に退却。

 他領に行った騎士団達にこちらの作戦の完了報告。

 考えただけでも仕事がまだまだ山のようにある。


 普通ならその中で総大将のアルトが帰還するなど有り得ないのだが、アルトのやることはまだまだ残っているので、誰も文句は言わない。



 ◇◇◇


「父上、無事にこちらの作戦は完了致しました」

「うむ、良くやった。こっちはまだまだ掛かりそうだが、無事に終わるだろう」


 アルトは戦場から王城に戻り、カインドに戦争が終わったと報告する。


 だが、カインド達も何かをしているようだが、その何かはまだ時間が掛かるらしい。


「手伝いましょうか?」

「それはならん、いくら王子とは言えアルトはアディの領主だぞ?王都は俺が管理しているんだ、そこは手を出さないようにな」

「分かりました」

「そう不貞腐れるな。情報を調べてくれただけでも十分だったのだ」


 アルトが調べていたのは、貴族の不正とルェリアのより子の貴族達だ。

 より親がルェリアならより子もより子だ、調べれば調べるほど、不正が見つかる見つかる。


 アルトはその情報をカインドに渡し、カインドはその情報を元に貴族の捕縛に向け動いていたのだった。


 アルトはカインドにルェリアも王城に輸送すると伝え、王都に残っていた暗部メイドを連れアディへと帰還した。


 この暗部メイドの王都で頼んでいたことは、アルトがカインドに渡した情報の再確認だった。


 この短時間である程度は調べていたが、やはり時間が足りなく王都に残っている暗部に残りを振り分け、共に帰還した。


 アディに帰還したアルトだったが、当然この戦争に出掛けていったもの達が帰えるのは、早くても明日で、ルェリア達が居るから下手したら明後日になるかもしれないなぁ、と考え次の行動に移る。

と言っても、今回縄で拘束したものを連れてくるために、キャラバン隊で使っている予備のトラックでお出迎えを頼んだくらいだが……まぁ、これで到着の時間はいくらか早くなるだろう。



 で、次に今アルトが来ているのは商業ギルドだ。

 今回の勝利をギルド長のクルオラに伝え、町初まっての凱旋パレードを計画。

 その後はルェリア軍の要らない武器防具や戦争に持ち込んだ食糧に資材の販売を頼み、冒険者ギルドに足を運ぶ。


 やはり冒険者ギルドでも今回の勝利を報告し、一時的に兵として雇っていた冒険者に対して、特別報酬を出すためそのお金をギルド長に預けた。


 冒険者のギルド長も物凄く喜んでくれたが、更にアルトは面倒な依頼もお願いした。

 それは盗賊達の賞金額の確認だ。

 幾つもの盗賊団が参加したことによって、賞金首がかなりいるだろうと判断したのだった。


 そうして戻ってきた自室には、ウィードがおり疲れもとれたようで元気に葉を揺らしては挨拶をしてくる。


 それを見たアルトは「ただいま」と話し掛け、ウィードに魔力を流していく。

 それも、終わった後アルトは風呂には入り晩御飯を食べ、早目に寝たのだった。




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