第57話
「と、いうことで父上から呼び出しが掛かるのはまだまだ先。しかもゲーラ領を賜るのはその後になる」
「私もそう思います」
俺は領主ビルにある執務室にいる。
俺の前には、先ほど別れたサイマラとクルオラが居るわけだが、サイマラは候補生と共に書類の承認作業をしており、クルオラは何か相談があったのか、ここに訪ねてきた。
「で、本題に入る前にクルオラさん、どうしたんですか?」
俺とサイマラが椅子に座って話している状態で、クルオラさんが後から入ってきたが、サイマラの後ろに立ち妙に気になってしまった。
「アルト様、急な訪問失礼します」
「いや、気にしないで。この町では、用事がるあなら直ぐに動くように指示をしているのは僕だがら」
実際にこの国の王子をやってはいるが、しきたりだとか、不要なものは省いている。
正直、俺が王子だから普段は俺と会うなら、事前に何時会えるか等の書類を作らなければならない。
で、その書類が俺に回って来るまでも何日かかかり、その回答書が相手に届くのは更に何日もかかる。
……うん、無駄だな。
っと、王都のギルドがどうしたのだろうか?
「はっ、ありがとうございます。では、先日 王都の商業ギルドから相談がありまして、なんでも再度ゲーラ領にギルドをもう一度かまえるとのことで」
「へぇ、早かったね。それは良かった。で、何か問題なの?」
商業ギルドが戻れば、バルムや周辺の村は生きるための食料や、生活必需品を手に入れられる。
そうなると、住民の暮らしは良くなる。
暮らしが良くなると、住民も徐々に増え、そこの領主に納められる税が増え、その税でより良い町になる。って言うのが分かる。
だが、何が問題なんだろうか?
「はぁ、どうも王都の商業ギルドからアディのキャラバンを貸してくれと要請がありました」
「キャラバンを?勿論断ったんだですよね?」
アディのキャラバンといえば、輸送トラックキャタピラ式で普通の荷馬車に比べ、速度も積載量も段違いな性能を誇る。
この輸送トラックは町中までは大きすぎては入れないが、逆に村の中には町よりも人も遮蔽物も無いから普通に入れたりもする。
積み込むのは少し大変であるものの、村や町を荷馬車で往復していたのを考えると、大分楽に輸送が出来、キャラバン隊の部下からは大絶賛されている。
だが、輸送トラックがあるのはこの世界の中でもここアディが所有しているだけだ。
「無論でございます。……ですが、バルムでの活動を早くするならどうしても、必要事項らしく……」
まぁ、商業ギルドが早くバルムで活動を再開したい気持ちは分かるが、安易に貸し出しができない理由もある。
「キャラバンの輸送トラックは国家機密扱いだし、そもそも運転が出来ないのにね……なら、輸送トラックは無理だけどアイテムバックを持っている、人材を派遣しようか?」
そう、陛下である父上から輸送トラックを作ったときに見てもらったら、頭を抱えながら製法等が即国家機密となってしまった。
……父上?俺が作るものの殆ど国家機密扱いは酷すぎではありませんか?
と、言うことでアディからはマジックバックの貸出しを提案した。
「なるほど……良いかもしれませんね。因みに何方を向かわせますか?」
「えっ?ボクだけど?」
「……えっ」
えっ…って、いやだって、商業ギルドはいち早くバルムで活動再開したいんだよね?
それなら俺が直接行った方が早く終わるよ?
その後、ゼロスから強く引き止められそうになったものの、アディの町から脱出に成功した。
◇◇◇
「殿下自ら大変申し訳ありません!」
「いや良いから、早速荷物を運んでいきましょう」
で、早速王都の城門前に転移し、王都の町に入った記録を残しつつ、直ぐ様商業ギルドに転移した。
そこで、バルムで商業ギルドを任される、バルム商業ギルドのギルドマスターやら、副ギルドマスターにギルド員達と合流し、荷物の場所まで案内してもらい、アイテムバックに入れずに、アイテムボックスに全てを入れ込む。
アイテムバックに入れるためにはわざわざ手に取って収納しないといけないが、マジックボックスなら入れる物と範囲を決めたら、スキルを実行するだけなので、全てを収納するのに5分と掛からなかった。
では何時バルムに行くのか聞いたら、何時でも行けるが、俺の事を気遣ってか明日の早朝に行くらしい。
「て、ここがバルムか……自分では初めて来たけど、大分荒れてるね……。まっ、見てても仕方がない、早速荷物をギルドに運びましょうか」
だが、余り時間もここで使いたくはないので、バルムで働くギルド関係者を集めてもらい、強制転移して来た。
「「「「…………」」」」
ついたバルムにはアルト事態初めて来たが、従魔がここに来たことがあるため、転移するのには問題はなかった……のだが、アルトは後ろに立ち並ぶギルド員達を見ると、皆驚き
固まっている。
いやいや、俺が転移魔法を使えるのはもう隠してないから、皆知っているはずだよね?
何を固まっているんだろうか?
「えっと……ギルドマスター?」
そこでアルトは先頭にいるギルドマスターに声を掛ける。
「…え、……はい!な、何でしょう!」
「いや、バルムに付いたけど、城門潜らないと入場記録出来ないよ?」
アルトは今まで直接町中や、王都の自室に転移していたが、ある日父上からせめて入場記録だけは残してくれと頼まれてからは、それを守るようにしている。
と、言ってもあの内戦以降の話なので、記録を残し始めたのはここ最近の事ではある。
「あ、ああ、そうでした。……アルト様、ギルド登録ですか?」
何やら商業ギルドギルドマスターは、酷く混乱をしているようだ。
大丈夫か?バルムの商業ギルドは。
その後、正気を取り戻したギルドマスターとその部下達……って、ほぼ全員が混乱していたよ。
残りは、目を開けたまま気絶していた。
おかしいな?転移魔法は全く身体や精神に無害なのに……ちょっとふわっってするくらい?
で、正気を取り戻しギルドの引っ越しも終わり、少くないお礼金をもらいアルトは商業ギルドを後にした。
「ここが冒険者ギルドね、王都よりも大分こじんまりしているな」
次にアルトの姿は冒険者ギルドの建物の前にあった。
アルトが言うように、バルムの冒険者ギルドは王都やアディにある建物と違い幾らか小さな建物だ。
「受付は……あそこか」
中に入ると安定の居酒屋が併設されていて、反対側には冒険者に必要な物が売られているスペースもあった。
早朝ではないのであまり比較は出来ないが、アディに比べると冒険者の数は思っていたよりも少なく感じた。
ギルドの中を確認すると、目的であった受付は直ぐに分かった。
と言うか、俺が入ってきた時に受付の視線がずっと俺をさしていた。
「いらっしゃいませ、クエストのご依頼ですか?」
そう満面な笑顔で聞いてくる受付に対し
「あっ、いえ、ギルドの登録に来ました」
と答える。
「登録に…ですか。…分かりました、こちらの書類に記入をお願いいたします。代筆は御必要ですか?」
うん、丁寧に相手をしてくれるが、物凄くがっかりした様子の受付が気になりつつもアルトは手渡たせられた受付表をみる。
「代筆は大丈夫です。…えっと、取り敢えず必要な記入欄は名前だけ…後は形式上なものかな?うん?あぁ、職業欄は必須項目ではないけど、書いていた方が良いって書いてあるな……ふむ、職業、ね……。俺の場合はどの職業を記入しようか……。正直沢山ありすぎて迷うな。……あえて無記入にして、戦闘法の記入欄に回復魔法やら攻撃魔法に、剣等の武器が使えると書いておくか。よし、出来た」
それほど書くことが無かったため、直ぐ様記入も終わり、受付に渡す。
「承りました。……名前はアルト様で、出身は王都…後は無記入…いえ、戦闘法は回復魔法・攻撃魔法・武器各種……ですか。アルト様、すみませんがこの戦闘方法の欄なんですが、自己申告とは言え御自分のスキル以上の事を記入しても、直ぐにバレたり、御自分のためになりませんよ?」
「えっ?あぁ、大丈夫です。問題はありません」
「ぇえ……では、登録しますが、本当に宜しいんですね?」
「はい、お願いします」
その後に出来上がったギルトカードをもらい、それと同時に冒険者についての説明が書いた案内板があるとかで、必ず確認するように言われた。
「これがギルドカードか……ふむ、Gランクか。当たり前だよな、さて次はどんな依頼があることやら……」
次はどんな依頼があるのかを確認するためにクエストボードなる物のところに移動した。
クエストボードは階級毎に分けられているようで、今俺のGランクのクエストボードは一番奥にあるみたいだ。
だがそんな時、ギルドの扉が荒々しく開き冒険者と思われる人達が入ってきた。
「どきなどきな!」
荒々しく入ってきた人に対し、ギルドにいた者達は何事か視線を向けていたが、荒々しく入ってきた事情を察知したのか、一人の冒険者が声をかける。
「何があった!大丈夫か!」
「依頼にしくじった!すまねぇ、回復魔法が使える人かポーションを!」
そこで、俺も荒々しく入ってきた冒険者に背負われた状態の血だらけの冒険者を見て、その人達に近づいていく。
「わ、分かった!おぃ!誰か回復魔法が使えるものか、今ポーションが使えるものは居ないか!」
その間も始めに声をかけた冒険者は、自分が持っている、ローポーションでは怪我をおった冒険者に対して焼石に水だと判断し、直ぐ様ギルド内に声を掛ける。
「大丈夫ですか!……これは酷い、応急処置はしてますが、毒に侵されてますね。……ですが、これなら傷などは良いとして、問題はそれ以外にもあるみたい……」
千切れかけた腕に、足の太ももには何かの魔物に食いちぎられた様子。
ローポーション等で応急処置は終わり、何とかここまでたどり着いた様子が見てとれた。
傷に毒に…一体どんな魔物と戦ったのか分からないが、さっさと治療を開始しよう。
「おい!坊主邪魔だ!…いや、もしかしたらポーションを持っているのか?持っているんなら売ってくれ!」
魔法を使おうと集中をしていると、冒険者の人がこちらへそう話しかけてくる。
坊主って……まっ、確かにまだ子供の年齢だけど、悪い人ではないようで藁にすがるように聞いてくれたのは嬉しいなぁっと!
「『ヒーリングキュア』」
傷を負っていた冒険者の上に魔方陣が現れ、紫の光が優しく降り注ぐ。
光が傷口に当たると更に発光を強めていっており、周りの冒険者は本当に傷が癒えているかは分からないが、アルトが唱えた魔法は初めて聞いた魔法名で、どういった効果があるのか分かっていない。
実際に冒険者の何名かは所持していたポーションを取り出しており、もし魔法が効かなかった時のために近くで待機している人がいる。
そんな中アルトは魔法を唱え終わり、まだ魔方陣から光が降り注いでいるのを見ては、この場を離れようと移動をする。
普通、魔方陣が出ている状態は、魔法を使用している最中だ。
そんな時に集中を無くせば魔法の維持が出来ず、魔法は中途半端で終わってしまう。
そう思った近くにいた冒険者はアルトに声を掛ける。
「お、おい、まだ魔法が!」
「魔法?回復魔法なら問題ありませんが……すみません、針か先が尖っているものありませんか?」
冒険者の側から離れて来た先は、先程冒険者登録をした受付だった。
「えっ……こ、こちらでよろしいでしょうか?」
「針か、うん、大丈夫。……ただ、この針壊しちゃっても?」
貰ったのはギルドの制服を補修するために使われている針だった。
「だ、大丈夫ですが、何に使われるのでしょうか?」
「まぁ、見てて。さっきの登録が嘘じゃなかったと証明も出来そうだから」
そうやって傷が癒え始めている冒険者の近くに戻ってきてはアルトは魔力を針に込め始める。
「『ホーリーライトエンチャント』」
受付から貰った針に聖属性の魔法を付与し、傷が癒え始めている冒険者の影に向かって投擲した。
針が影に刺さると、激しく発光し周りの冒険者も手で光を遮る事態に陥っていた。
そんな時、影から怪しげな悲鳴が聞こえてきては、光が収まるとその悲鳴の持ち主が姿を表した。
その姿は真っ黒く、影そのものの魔物だった。
「ア、アサシンシャドー!」
どの冒険者が言った言葉かは分からないが、その魔物はアサシンシャドー。
影に潜り込むことができ、徐々に体力を吸い取り、対象が弱ってから殺すといった事をする魔物だ。
で、先程のアサシンシャドーの対処法は聖属性の魔法で対処は出来る。
アルトはそんなアサシンシャドーにアイテムボックスからショートソードを取り出し、横に一閃に振るう。
対してアサシンシャドーは何も出来ずに討伐され、魔石を残し消え去ってしまった。
「す、すげぇ……」
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