第4話

 鑑定の儀から二週間が過ぎ去った頃、俺は初めて王城を出れた。

 だが、初めての外は残念ながら堪能できる状態ではないらしい。


 今は馬車で移動中みたいだが、俺には姿が見えないように、毛布でくるまれ籠に入れられそのまま馬車に乗せられている。

 いつもと違うメイドが部屋に入ってきたと思ったら、いきなりこんなことになったんだが、今はどういった状況なのか……。


 これが噂の誘拐ってやつなのか?

 で、何処まで連れていかれるのやら……。


 ◇◇◇


 無事に?王都から連れ出された俺は近くの山の中に居る。

 馬車は山の中に入るなり進むことが出来なくなったようで、歩いてここまで連れてこられた。


 相も変わらず俺には毛布がかけられ回りが見えないが、創造神の加護に付いてあるスキル【マップ】により正確な位置が分かる。

 今までは王城内の決まった場所しか【マップ】に表示は無かったが、今はここまでの道までしっかりと表示されていた。


 で、歩いて連れてこられた場所は山の奥にあった洞穴だった。


「おう、無事に連れてこられたみたいだな」


 男の声がするな…気配からして近くには37人は居るみたいだ。


「ええ、かなり緊張したわ」

「だろうな、にしてもお手柄だな」

「当たり前よ、これから得られる報酬かなり期待しているわ」

「任せておけ、依頼主に報酬を上げてもらえるように言っておく。どれ、例のガキを見せてくれ」


 依頼主ね…このプリティーキュートな俺を誘拐するように依頼したやつか。

 このまま黙って聞いていたら依頼主について話すかな?


「どうぞ……」

「んっ?どうした優れない表情で?」

「普通はこう言った赤子を誘拐するときは、大抵泣き叫ぶものだけど…この子は泣く処か一言も喋らなかったのよ?」


 泣き叫ぶ?俺はそんなに柔じゃないぞ?


「ふーん。じゃあ、無事に連れてこられたのはこいつが静かにしてたってのもあるのか……どれ……起きてやがるな…こう見ると大人しいガキに見えるがな」


 何?部屋から出るときに泣き叫んでいたら、誘拐が失敗した可能性もあるのか?

 ……一度王城を出たかった俺には誘拐されて良かったよ。


「そうなのよ、大分楽だったのは間違いないわね。でもね、その子ずっと起きてるわよ?」


 いや、寝ていていつの間にかに殺されたりしたら嫌だからな。

 そこは普通に起きてるだろ?


「ずっとか?」

「ずっとよ」

「緊張して眠れねぇんじゃないのか?」

「そうかもね」


 ◇◇◇


 時は遡り王城では


「アルトは何処にいるんだ!」


 アルトが居なくなったことでカインド王はアルトの部屋で騒いでいた。


「す、すみません。今日の担当のスアラも行方不明で……」


 メイドの一人も行方不明だと…?

 そちらも、心配ではあるが今は俺の子のアルトが優先だ。


「メイドの事じゃない!第11王子のアルトはいつ、何処に行ったんだって聞いているのだ!」

「ひぃ、す、すみません!す、直ぐに調べます!」


 メイドはカインド王の逆鱗にふれ、あまりの恐さに萎縮してしまう。


「おい!お前達も王城の中と王都をくまなく探せ!」


 部屋に居たメイドや執事に城内をくまなく探してもらうよう俺は指示を出すが、俺の嫌な予感では、もう城内には居ないだろう。


「「はっ!」」


「陛下!」


 指示を出したら数名の兵士が部屋に入ってきた。

 だが、俺はアルトの事で忙しいんだ!


「何だ!今は取り込み中だ!」

「すみません…ですが、王城の裏の茂みにて、メイドのスアラと呼ばれるメイドの遺体を発見されました」

「…何?どういう事だ?」


 メイドの遺体だと…どうも話がきな臭くなってきたな……。


「はっ、詳しくは着ていたメイド服を脱がされ、下着姿のまま発見されました!」


 スアラは本日のアルトの担当メイド……。

 担当メイドが居れば、ほぼ誘拐は不可能に近くなる。

 それはそうだ、アルトの部屋に入るためには、世話ががりの担当メイドの部屋を抜けなければアルト部屋まで辿り着かない……。

 他の兵士やメイドに騎士、それに執事等の多くが出歩く王城で、担当メイドのスアラを殺害し、衣服を奪う?

 あり得ぬ。


 フィリップやゼルゲとギルツに目配せを俺はする。

 この三人は俺が最も信頼をしている者達だ。

 フィリップは財務大臣で、ゼルゲは魔術師団団長総括に、ギルツは騎士団団長総括の役職に就いている。

 他にも信頼が出来る者達は残念ながら今は近くにいない。

 他にも信頼をしている者達は多く、ここでは言えない。

 俺に目配せをされた三人は、静かに部屋を出ていく。


「…賊はメイドに扮して王城に入り、アルトを連れ去ったと……門兵はどうした?」

「はっ、門兵は通常業務を行っていたらしく、出入りの用件チェックは行っていたらしいんですが、朝一王城前の通りで住人同士のいざこざがありその時に……」

「持ち場を離れたと?」

「はっ!……すみません、陛下…」


 大分冷静になれてきたな、詳しく話を聞かないとな。


「それも賊による手引きだろうな……で、その争いは何処の誰で原因は何だったのだ?」

「片方は他所を拠点とする商人らしく、商品を盗まれたと直々に犯人を捕まえ、王城の警備兵に渡すところで、犯人と思われるスラム住民の男性が暴れだしたみたいです」

「……ふむ、それは変じゃないか?」

「へ、変ですか?」

「うむ、まず一つはその商人だ。態々王城の警備兵に?町には兵署もあれば、巡回兵も居る筈だ」

「あっ…」

「次に二つ目、スラム住民の犯行は何処で行われた?王城周辺か?王城周辺の貴族街か?商業地区か?一般地区か?何処だろうな。

 王城に貴族街はそもそもスラム住民の立ち入れる場所じゃない筈だ。特に貴族街には貴族の者がそれぞれ警備兵を雇い、貴族街を巡回して居る筈だぞ?いくら商品を盗み捕まったスラム住民でも、貴族街の入り口で事情聴取を受け、ここの警備兵に話が来る筈だ。それはあったのか?」

「そういった話は本日は無かったと……」

「なら、もしかしたらだが、商人もスラム住民も今回の賊の仲間だったのかもしれないな……して、商人にスラム住民の居場所は?」

「!?スラム住民は現行犯だったらしく今は牢に、商人はもう…」

「用が終わればサヨナラ……か、名と商会名は分かるか?」

「商会名は…おい」


 報告をしていた兵士は一緒に来ていた兵士に話を促す。


「は、はっ!商会名は空き馬車。名はハナエイでした」

「空き馬車にハナエイか…直ぐに商業ギルドに確認を取るのだ」

「はっ!」

「へ、陛下ど、どちらへ!」

「牢に決まっとろう!グズグズして我が息子に万が一に何かがあったらどうするのだ!」

「は、はっ!私も御一緒させていただきます!お前らは直ぐに商業ギルドに確認と、その商人の居場所に、メイドのスアラの服を着た者の足取りと、城下の聞き込み、各街門の門兵にそれらが該当又は不振人物がいなかったか聞き取りを直ぐに開始するのだ!」

「「「はっ!」」」


 ほう、この兵士は報告時は少し頼りなかった用にも見えたが、部下や仲間への指示は的確に行っているな……。

 い、いかん。今はアルトが優先だ!


「うむ、では行くぞ!」

「はっ!」


 ◇◇◇


 場所は移り地下牢に着た俺は、商人ハナエイの商品を盗み捕まったらしい、スラム住民の牢の前まで来ていた。


「し、知らねぇ!王子の誘拐なんて知らねぇよ!」

「なら、商人の商品を盗んだのは認めるんだな!」

「うっ、それは……だけども……」

「何だ、申してみよ」

「知らねぇ奴らに騙されたんだよ…俺もまさかこんな事になるなんて……」

「…どういう意味だ」

「俺はスラムに居たんだが、急に小袋一杯の金を渡されて、仕事があるって言われたんだ……だけどもなんか怪しくて断ったんだが、脅されてなくなく言うこと聞いていたらこの状態で……なぁ、出してくれないか?俺は脅されて従っただけなんだよ……」

「ふむ、まぁ今は出すことは出来んな。騙された。脅されてた。それだけかもしれんが、繋がっているのは王子の誘拐だ。もし、繋がっていない場合は直ぐに釈放だが、繋がっていたら覚悟は必要ぞ?」

「そ、そんな……」


 ◇◇◇


 あー暇だ。

 この場所に連れて来られ本当にすることがないな……。

 何時もなら、いろんな訓練をメイドの目を盗み行っている時間なのにな……。

 近くには盗賊がうじゃうじゃ居やがる。

 正直に俺一人ではコイツらには勝てないしな……。

 これならいろんな事に対応した魔法使えるように頑張っておけば良かったよ。

 攻撃魔法なら何種類かは使えるが、果たして盗賊達に魔法が効くかは分からない。

 魔法が聞かない時点で、魔法に頼らないやり方しかないが…今の身体では不安しかない。


 今は待つしかないのだ。


 ◇◇◇


「まだ分からぬのか?」


 カインド王は牢屋での話を聞いた後、玉座に座ること無く、アルトが寝かされていた部屋に居た。

 カインド王はアルトを連れ去った賊の情報が中々集まらなく、焦っていた。

 そんな中、部屋の窓際にふと視線が寄せられる。


「……」


 カインド王は窓際の光景を見て


「!?」


 あるものを発見した。

 それは鳥籠に入れられた五匹のスパロー達だった。

 スパローはこれでも魔物。

 そんな魔物が暴れもせず大人しいのは、第11王子であるアルトが、鑑定の儀で従魔契約を成功させたためだ。

 そんなスパローは窓の外…しかも全匹一点を見続け静かにしていた。


「……も、もしや!お、おい!あの鳥籠を王間に持て!それから皆、招集をかけるのだ!」


「は、はっ!」


 招集をかけてからが早かった。

 カインド王は王座に座り隣にはアルトの母の存在も、アルト以外の王子や王女の姿もあった。


 目の前には続々と集まる家臣一同を見ながら、カインド王は王座を指で叩いていた。

 それから少しの時間が経ち今は夕暮れ時。

 王城に居る重役家臣に各騎士団長、魔法師団長達が立ち並ぶ。


 カインド王は皆が揃うまでに宰相…王妃に内容を話していた。

 宰相は王間を見渡し


「皆揃ったようね」


 そう言葉を切り出す。


「今回のアルト第11王子の誘拐について、これから賊の追跡、討伐を行う!」


「「「!?」」」


 家臣一同を皆驚き、宰相である第1王妃の言葉を聞き逃さないように、静かに聞いている。


「まずは各騎士団と、魔法師団の一部隊から五部隊は追跡・討伐に!残りは王城を厳重警備し、各大臣は部下の聞き込み調査の継続!追跡・討伐又、王城警備は混成部隊の編成をし、追跡・討伐時は混成部隊を一から五まで分け、各部隊にアルト第11王子の従魔スパローを一匹づつつける。アルト第11王子の居場所はスパローを頼りに行動を開始するものとします。又、各王子、王女は食堂に待機よ!」


「「「はっ!」」」


「ま、待ってください!母…宰相様!」

「…どうしたのです?オーウェン第1王子」

「私も…いえ、ケビン第2王子並びにアルベルト第3王子も追跡・討伐に参加したい所存です!」

「ならぬ!」

「…陛下」

「今回の賊は王子の誘拐が目的ぞ?そこに王子であるそなた達を行かせるわけにはいかん。何時もの師団、騎士団の演習とは訳が違うのだ。行かせるわけには行かんのだ。分かってくれ。気持ちは痛い程分かるが、我慢するのだ……」


 俺だって行かせたい気持ちはあるが、まだ未成年の王子達には過酷となるやもしれない。

 そんな事はまだ早いのだ。


「陛下……はっ、分かりました…」


「…なら、各員、行動を開始するのです!」


 其からの行動は余りにも早かった。

 王城の広場には各部隊が既に集結し、王城は兵士のみ。

 それから混成部隊の出発と王城の警備に準備は万端で行われた。

 この時出発した混成部隊の人数は千を超えた。


 混成部隊は各スパローを頼りに王都を出発し、賊の居る山まで到着した。

 到着まで知能の低い魔物の襲撃にあったものの、数が数なので問題はなかった。


 ◇◇◇


 その頃盗賊達は。


「お、お頭!大変です!」

「…どうした?そんなに慌てて」

「王城からの追跡部隊と思われる騎士達が山に近付いていると連絡が!」


 んっ?王都の皆優秀だな。

 俺の居場所はもう分かったのか?


「な、おい!誘拐は成功したんじゃないのか?後を付けられてたんじゃないのか?ええ!」

「そ、そんなはずはないわ!王都から出ても真っ直ぐここへ来ず、かなり遠回りしながら馬を潰しながら着たのよ?それは有り得ないわ!」


 通りでここにつくまでぐにゃぐにゃと道を走っていたんだな。

 ある意味頭良いなこいつら……。


「ぐっ…計画通りに馬車を乗り潰し、交換しながら来たなら何故この場所が分かるんだ!」

「し、知らないわよ!」

「お、お頭ぁ……」

「くっ……仕方ねぇ……この拠点は放棄だ!直ぐに全員で出発し、騎士団に見つからないよう、王都の近くの村に潜伏だ!直ぐに出るぞ!」


 おお、決断も早いことで。

 なら、俺もいつ何があっても良いように、集中をしないとだな。


「「へ、へい!」」



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