第49話
「お前ら!そろそろルェリア軍が来る。各員は所定の場所に待機し、後は作戦通りに行くぞ!」
ハンスにルェリア軍が来ることを伝え、ハンスは各員に指示を出す。
と、言ってもハンスが指示を出す場所に集まっていたのは兵は各班のリーダーに任命したもの達だ。
全員が集まってくると行動も遅くなるし、収集もつかなくなるのでリーダー達のみにした。
ルェリア軍の動向はスパローに確認してもらって上空から監視ししている。
流石に相手もバルムを出る前から動向がバレていると思っていないようで、普通に進軍してきていた。
何も取り決めがないまま、ルェリア軍が俺の領地を跨いだ瞬間に、ルェリアの立場が悪くなる。
だって、この領地に侵略をしに来た事になるのだから。
で、はっきりと領境の線などないため念のために結界内部まで進軍させ、この待機場所までルェリア軍の進軍を許す。
まぁこれも、領境に入っていないと開き直れないようにするためだ。
◇◇◇
「ゲーラ伯爵様!」
「どうしたのだ?」
その頃ルェリア達は、少し先行していた兵士によってまもなくアルト王子の領地に入ることを伝えられる。
そして少し進軍させ、何やら魔物がアルト王子の領地前でおかしな行動をしていると更に報告があった。
だがそれは結界のせいだと直ぐに気付き、進軍の邪魔になるなら魔物を討伐するように兵士に言ってやった。
全く忌々しい、先代の王はこうではなかった。
もっとワシの政務もやりやすかった。が、今の王になって考えが甘いのだ。
その証拠にその息子のアルト王子に領地経営のおままごと遊びに、国宝級以上の結界のマジックアイテムをその領地に用意するなど、一体幾ら掛かっているのか分かったもんじゃない。
しかもアルト王子もアルト王子で、礼儀が全くなっておらん!
くそーっ、終いにはゲーボも拉致られその事にも気付かないとは、王子の警備兵は何をやっているのか……。
お陰で男爵領に進軍する日程が大幅にズレたではないか!
と、ルェリアが考えている間に魔物討伐も終え、軍はアルトの領に進軍していった。
それから少し経ち、ルェリアは考えれば考えるほどイライラが収まらず、貧乏揺すりや無駄に馬車内を叩くなどの行動をとっていた。
そんな時、馬車がその進行を止めた。
んっ?止まった?開拓している町までまだ距離はあるはずだ、どうなっている?
ルェリアが思っているようにアディに到着するのは更に時間が掛かる。
それにまだ領地へ入ってそれほど経っていないのだから、そう思うのは簡単だ。
しかも、この軍は歩兵が中心だ。
代理輸送で馬を使いすぎ、軍に回すほど揃わなかった。
ルェリアが乗っている馬車や荷馬車以外に数頭しか馬がいない。
その馬もルェリアが乗っている馬車の護衛に使っているので、進軍スピードは物凄く遅いのだ。
「ゲーラ伯爵様!前方に兵士の集団が居ます。旗的にアルト王子の兵かと!」
何?では領境の野営はアルト王子の兵……か。
「う、うむ。わしが出よう」
とりあえず、わしが話をつけるしかないのが面倒だ。
こうなればアイツは誰だったか、そう元バルムの代官だったわ!そいつは残しとくべきだったと今は思うが、ああなったのはアイツのせいだから仕方がない。
◇◇◇
さてと……ルェリアの軍は見えた。
俺達を視認するなり行軍は止まり、見覚えがある締まりのない体格の男が馬車から降り、護衛の馬をかり、その他数名でこちらに来ている。
ふむ……成る程。
多少は礼儀を覚えていたか。
いくら戦争と言えど、ある程度決まった事項がある。
それは攻め入る理由を事前に伝え、決まった日に戦闘を行う。
他には使者に対しての攻撃禁止と、相手の陣営や領地に使者として送る者は攻撃禁止だ。
その他には自国民の殺傷は厳禁。
等それ以外にもいくつも項目はあるが、正直今回ルェリアが盗賊を集め周りに対して侵略しようと聞くまで、俺もさわり程度しか習っていない。
だが、今回は事前にガッツリと神書で確認したから問題はないはずだ。
まぁ、ルェリアはその殆どを無視してきたので、この使者として来るだけでも俺は驚いている。
まさか、長年伯爵を務めてきて知らないはずがないのだ。
そうこうしている間にルェリアは俺が見える所までやって来いるが、こうやって見ると馬が可愛そうな位ルェリアがふくよかだ。
よく馬が潰れないもんだ。
「これはこれは、何方かと思えばアルト王子ではございませんか」
で、俺の前まで来たのはいいが態とらしい言い方で話しかけてくる。
「ルェ……いや、ゲーラ伯爵。何ようでこの領地に来たのだ?」
「いゃ、我が息子ゲーボがどこぞの人拐いに会いましてな。それを助けるためでございます」
人拐いねぇ、まぁこっちも大々的にスパイを送っていたとは言えないし、ミッチェル達がまだ商人だと思い込んでいるみたいなので、その話は避けて違う話をしないといけない。
「……にしてもかなり過剰な戦力じゃないか?それにゲーボだったか。アイツはもうこの領地に居ないぞ?」
「……それはどういう意味で、でございますか」
俺の言葉を聞いたルェリアは少し睨むかのような表情でそう言う。
「そのままの意味だ。ゲーボは今罪人として王都の牢屋の中だ。ここまでの進軍ご苦労だったな。今引き返すならこの不法な進軍も不問とするが?」
そう、ゲーボは商人が捕らえ、そのまま王都に連れていったと聞いている風に話す。
「罪人だと!くっ。……アルト王子は今ここに居る兵数で、こちらにいらっしゃるのでございますでしょうか?」
「そうだな、最近この領内で盗賊が増えたと報告があり、野営地を転々としながら警備の視察の途中だな」
兵数を聞いてきたってことは、俺達に対してルェリア軍をぶつける気満々だろう。
そうなればこちらも予定通りに次に移らないといけない。
「ほぉ、それはそれは王子自ら視察とはこのゲーラ、感服致します。して、アルト王子に貸しを消化する意味で、我の領地に物資と資金の融通にゲーボの解放を王都へしてもらえないでしょうか?」
で、ルェリアは意味不明な事を言い出した。
「貸し?何の事だ、俺はゲーラ伯爵から貸しを作るようなことはしてはないが?」
「またまた御冗談を、あれでございます。代理輸送の事でございます。どうやっても赤字にしかならない政策を引き受けた件でございます 」
「何を言っている。俺達がしていた時は赤字処か、旨味にしかならなかったぞ?しかも、商業ギルドから依頼があって、ゲーラ伯爵とは別件で再度契約を交わし、輸送をしているが、笑しかでないほど利益が出ている。今となっては、更に交易ルートを増やして前回以上の収益があるが?」
全く、自分が出来なかったからといって変に勘違いをしないで欲しい。
ちゃんと考えればルェリア達も出来たはずだしな。
「なっ!交易ルートを更に増やして、前回以上の収益だと!ありえん!……いえ、失礼しました。では、お互いに貸し借りはないと?」
「強いて言うなら、ゲーラ伯爵に利益が出る政策を渡したのだから、そちらが何かお礼の品等持ってくるのが普通ではないか?」
ふっ、頬をひくつかせているルェリアに、俺から更に挑発を兼ねた言葉を言う。
「くっ……そうでございますか、お礼の品……分かりました、直ぐにお持ちいたしましょう。こちらからのお礼の品を、わしの軍でアルト王子並びに、こちらの兵達、それに王子の領地に対して、略奪というお礼の品をな!……後悔なさらないことですな」
ん、簡単に挑発も乗ってくれ本当に単純な奴だな。
「ふっ、それはこちらの台詞だな。ゲーラ伯爵、いやルェリア。最後に言おう、年齢で人を見るなよ?こちらも最善のやり方で、その侵略を打ち砕く、投降するなら今だぞ?」
まぁ、投降するなら刑罰もまだ軽いが、流石に応じる事はないだろう。
「くっ、舐めた口をヘラヘラと……おい!戻るぞ!」
そう言ってルェリアは護衛達と戻って行った。
やれやれだな。
そろそろ俺も動かないとな、全く忙しい。
「ハンスさん、後は予定通りに頼みます」
「おう、任しとけ!作戦通りなら負ける気がしねぇよ」
俺は後ろに控えていたハンスさんにこの陣営を任せ、王城の自室へ転移する。
「おおっ、ウィードお疲れ、助かったよ。後はゆっくりとおやすみ」
自室に戻ってきた俺は、自室の窓際に置いてある鉢植えから出て来ていたウィードにそう言って、鉢植えに戻した。
ウィードも本当に疲れているようで、土のなかに戻り、養分を吸収し始めた。
その行動を見たアルトは、鉢植えにいくつかの低ランクの魔石を置いて、この部屋に居るもう2人の人物に向け話し掛ける。
「こっちは作戦通りに事は運んでいるが、もう出発出来そう?」
「はい、こちらも準備は整って今皆は騎士団の演習場にて待機させております」
その1人は執事兼、暗部で総括のゼロスだ。
ゼロスには王都に残ってもらい、こっちでルェリア達との戦いの準備をしてもらっていた。
「そうか、ご苦労ゼロス。で、君は引き続きお願いね」
「はっ、畏まりました」
そして別件でその時連れてきていたメイド兼暗部の女性に話し掛け、その後アルトとゼロスは騎士団の演習場に転移した。
騎士団の演習場にて急に現れた二人に対し、集まったもの達がざわざわ騒ぎ出す。
だが、ゼロスが事前に話をしてくれていたんだろうお陰で直ぐに静かになった。
「この度は逆賊ゲーラ捕縛作戦に参加してくれて感謝する。今から戦場へと転移するが、ここに集まった皆には危険がないように、戦闘区域から少し離れた所に待機してもらう。ゼロス、説明は?」
「完了しております」
「なら、皆も分かっていると思うが、今回の皆にはルェリア軍の中で強制的に徴兵された領民の保護と、そうでないものの排除だ。時間が余り無いが質問はないか?」
俺が話している間も心配そうに聞いている人などがいたため、少し不安になりそう訪ねる。
「す、すみません。本当に我々には戦闘をしないでも良いんでしょうか?」
やはり、疑問はあったようだ。
今回集まってもらった人達は、スキル『鑑定』が使えるもの20名。
この中には王城で働いている鑑定官もカインドに借りてきては居るが、足りない半数近い人数を王都の冒険者ギルドや商業ギルド等からかき集めた。
この鑑定が出来る者達は実際に戦闘経験が余りなく、これから行く戦場にかなりびびっている。
「君は……鑑定の担当か。そうだね、鑑定担当は戦闘は無いと思ってもいいが、念のため武装をしておいて欲しい。戦闘は同じく集まった冒険者にお願いをしているから」
「わ、分かりました」
そう言われて少し落ち着いてきた鑑定担当達だった。
「すまねぇ、逆に俺達は良民に紛れた盗賊との戦闘だけか?相手の本陣に特効とか言わねぇよな?」
また、戦闘の経験があり、冒険者ギルドが信頼しているという選りすぐりを集めてもらったんだが、冒険者の戦いは基本魔物が相手だ。
今回のように人が相手になるようなことは、それに比べて少ないし、ましてや戦争の経験なんてしている者はいない方が遥かに多い。
「それも大丈夫。そもそも戦争と言ってもそこまで厳しい戦いではなく、直ぐに決着がつくような簡単なものだから」
「……相手は2000は居ると聞いているが?」
まぁ、ここに集まった冒険者は40人位だから数が違いすぎて不安になるだろうと思い、俺はこれからある戦争に対して、余裕の態度と話で伝える。
「そうですね。相手が何十万と兵がいたら何時間か掛かると思うけど、その程度なら何分持つやら……他には質問はないか」
どうやら質問はないみたいだし、行きますか!
「よし、なら出発だ!」
そうして、アルト達は更に戦場に転移した。
「ここが戦場か……相手は……多いな……こっちの守りは……少ねぇ……ほんとに大丈夫なのか?」
転移で連れてきたものの中には、相手の人数を見てびびっている者もいるし、本当に転移したことにより言葉を失っている者もいる。
全て俺が対応すると時間が足りなくなるので、ここはゼロスに任せる。
「じゃあ、皆さんはここで待機。ゼロス、ここは任せた」
「畏まりました」
時間を稼ぐため俺はハンスの隣に転移しながらもそう言う。
「ハンスさん相手はどう?」
「……ほんとにいきなり現れるんだな、お前……で、相手さんは陣形の変更をしているようだ。こっちはとっくに終わっているんだが、遅すぎだよな?」
俺をあきれた顔で見ながらもそう言うハンスだったが、直ぐに真面目な顔に戻る。
「まぁ、もうすぐ来るんじゃない?」
「ほんとか?……おっ、ほんとだな」
そうして、アルト初めての戦争が始まったのだった。
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