第46話

 本日の昼過ぎにミッチェル達が。

 バルム町でゲーラ伯爵改めルェリアの諜報を切り上げて戻ってきた。


 しかも、ただ戻って来るのではなくて、バルムの住民やこの町アディに向かう途中にあった、ルェリアが管轄する村や集落から町人や村人を連れて……。


 どうやら他領に移りたいと希望をしたものを募ってきたとか、その為にミッチェルに預けていた荷車をフルに使い、急ぎこの領を目指したらしい。


 とりあえず、ルェリアからのスパイが混ざってないか、一人づつ鑑定で確認するがそんな人物は紛れていなかった。


 みんな疲れていることもあり、簡単な食事を出し、今日は領主ビルの下層階に泊まらせる。

 明日からは本人達にこの町の住民になるか聞いて、早速働くところを決めてもらう事になる。


 人手不足だったのでこっちはありがたいが、ルェリアは今頃どう思っているかと思うと、笑いが出てくる。


 彼はやり過ぎたのだ。

 民に重税をさせ、領内に入ってくるものまで同じように重税を掛けた。

 普段の税率だって、他領からすれば高かったにも関わらずにだ。

 まぁ、こうなることは向こうも予想済みだろう。

 もし、このような結果になるって分からなければただの馬鹿だ。


 で、町人や村人はメイドに案内され領主ビルに消えていく中、ミッチェル達だけが残り、詳しくゲーラ領で調べてきたことを聞くため、俺達も領主ビルの会議室に移る。




「今回緊急で集まってもらったのは、ゲーラ領で不穏な動きがあるからだ。詳しい説明はミッチェルが行う」


 ミッチェル達がアディに到着し、緊急で会議を行うため、町の主要メンバーが集められた。

 ただ、緊急で会議をしているので農業村等に出掛けている者達が居るので、全員が集まったわけではない。


 そのため、今回の会議のために何人かその部署の代理の者が今回の会議には参加している。


「はい、現在……と言っても3日前ね。その時までの諜報活動の報告をするわ」


 そして始まったミッチェルの報告に、会議に参加している誰もが、苦い顔をしてルェリアに対して怒りを抱く。


「……以上が、私達諜報活動を行った報告よ」


 ミッチェルの報告を集約するとこうだ。


 ・重税の結果バルムの住民だけではなく、近隣の村や集落で飢餓が発生しかけている。

 ・それによりゲーラ領から他領に出ていくものが後をたたず、人口が減りまくっている。

 その結果、働けないものが多く残り、盗賊に落ちるものまで居るのだとか。

 また、他領から逆に盗賊による火事場泥棒が増えている。

 ・物価が跳ね上がり、他領から商人が入らなくなっている。

 ・度重なる代理輸送の失敗で、数多くの者が奴隷に落ち、ルェリアの私兵も数を大幅に減らしている。

 ・その補填で盗賊達を雇い、他領に戦を仕掛ける準備をしている。

 ・集まった物資量から、遠くの遠征は無理そうで、とりあえず隣の男爵領に攻める確率がある。

 ただ、いつ動くのは諜報員達を撤退させた今、残念ながら分からない。


 と、以上だった。

 事前に会議があるまでに聞いていたアルトだが、この殆どは先日の報告書とほぼ同じだったことから、向こうも戦力を集めるのに時間が掛かっているんだろう。


 そして、ミッチェルが追加で話をする。


「で、ここからはこの町に戻る最中の出来事よ」


 それは、バルムの町を出て少し経ったくらいに、ルェリアが雇っている盗賊をゲーボが先導し、襲いかかってきたらしい。

 その数は20名弱だったとか……。


 結果は返り討ちにし、事なきを得たらしいがその20名弱にはゲーボも含め重症を負わせ、半数以下になったら仲間を置いてきぼりにし退却したらしい。


 ミッチェルは捕虜をゲーボだけにとどめ後は放置で来ていて、今ゲーボの身柄はこの町の牢屋に入れてある。

 ゲーボから追加情報はなく、ずっと騒いでいるみたいだ。

 また、ゲーボの処分は父上に報告を兼ねて王城に送る事となった。

 ただ、問題があって今回報告する上で直接俺が王都に戻る事になる。


 ゆっくり捕虜を連れての移動だと戻ってくるまで時間が掛かってしまう。

 時間が掛かれば掛かるほど、事態は悪くなる。

 本当にめんどくさい事を起こしてくれる。


 今回の会議の結果はこの領地の国境沿いに兵を待機させ、被害を最小限に留め更には近隣の領主達の救援部隊をそれぞれ送るための使者や、部隊編成を行う。


 だが、どうしてもこのアディの兵数はまだ少なく、冒険者や俺の従魔を混ぜる事になる。


 そうなると、以前のスタンピード疑惑事件を知っているものは、俺の従魔に対して少からず畏怖をしている。

 見た目が低ランクの従魔だが、その実力は様々で中には高ランクに及ぶ実力の従魔まで複数居るのだから。


 そんな従魔達が約半数国境警備に救援部隊に参加する……数が数だけに慣れているものでも鳥肌ものらしい。


 ……みんな良い子で、仲間思いなのにな。



 その後会議も終わり、俺はゼロスにメイドの2人、それに、ゲーボを連れ早速王城に戻ってきていた。


 そして、ゼロスがゲーボを騎士団に引渡しトラブルもなく地下牢にゲーボを入れた。


「……ト、トラブルもなく?会議の後のアルト様は異常でしたが?」


 あ、うん。

 声に出してしまっていたようだ。


 俺の呟きに執事のゼロスがそう言う。

 ゼロスが言う異常とは、アルトがいきなり会議室でゲーボを連れてこいと、会議室を警備していた兵士に言い。暫くして実際にゲーボが会議室に来た。


 その姿は囚人が着る、質の良くない布の服姿で。

 しかも、身体と腕はロープでガチガチに固定され不自由な状態だった。


 皆何故ゲーボを?と思っていたが、次にこれからゲーボを王城に連れていくと皆に言う。

 当然、会議が長くなり今は昼過ぎだ。

 こんな時間から王城に向かうのは得策ではないので、この事は誰もが反発した。


 が、アルトは自分の護衛とゲーボを引き連れる者を選出した。

 その選出されたのが、アルトの執事であったゼロスとメイドの2人。


 これも当然反発に合った。

 それもそのはず、罪人であるゲーボ1人に対して執事とメイド2人なのだから危険しかない。


 もし、途中でゲーボを取り戻すため襲われたらひとたまりもない人選なのだから……。

 だが、ゼロスは1人冷や汗をかいていた。

 実は2人のメイドはゼロスの部下で、アルトの監視役の暗部だったのだから。


 もちろん、ゼロスはアルトに誰が暗部かはバレてはいるが、その他の人にはそうではない。

 だからか余計に冷や汗が止まらなかった。


 そして、アルトは簡単に今からこのメンバーで王城に行きゲーボを引き渡すと宣言し、自分の秘密にしていた能力を言う。

 それは、《時空間魔法》だ。


《時空間魔法》は主に創造神から加護をもらった者が使える魔法であり、それを使いこなせるものは余り報告されていない。


 その魔法をアルトが使えると発表した。

 しかも、この会議でだ。

 当然誰もがアルトを疑うものはここには居なく、ただ絶句している。


 それは何故か?それは伝説的なその魔法の使用者が、ここにいる全員の上司のアルトで、この国の第11王子だからと言うのもある。

 この魔法の有用せいは多義にわたる。


 戦争では使われたら戦略も関係なくなってしまうほどの魔法。

 商売では人件費等も無視できてしまうほどの魔法。

 犯罪でも誰にも捕まることがなく、どんなことも出来てしまう魔法。

 本当に様々な使い方によって、善にも悪にもなってしまう、しかも最強レベルで。

 他のスキルや魔法等もそうだが、《時空間魔法》はそこらの危険度レベルではおさまらない。

 だから、誰もが絶句した。


 会議に集まったメンバーは、本当に本人の資質に関わる事に少からず恐れさえ感じてしまっていた。

 ……ただ1人を除いては。


「何だ!アルトすげぇーじゃねぇーか!ってかもっと早く言えよ!どんだけ農業地区の運搬が大変なんだと思ってるんだ?よし、アルト。この件が片付いたら、王都に良い店があるんだ、連れてってくれ。なに、しばらくしたら迎えに来てくれるだけで良いんだぞ?なっ?」


 と、1人騒いでいるハンス。

 そう、例外はハンスだった。


「えっ、嫌ですよ。ハンスさんの良いお店って如何わしいお店か何かだよね。手が空いている時なら輸送はともかく……」

「ちげぇーよ!アルト、俺をなんだと思ってるんだ!知り合いがやっている飲み屋だよ!ちょ、みんな違うからな、キレイなねぇーちゃんが居るとこじゃないからな!」

「いや、ハンスさんの言い回し的にそっちの方だったよ?ねぇ?」

「ちょっと、何処に話を振っているのですか……ま、まぁ、ハンスなら行きかねないのは確かでしょうけど……」

「め、女狐!な、何を証拠に……」

「あら、遊郭は私の管轄エリアだったの忘れたのかしら?」

「うぐっ……い、言い返せねぇ……」


 ハンスが机に伏せるように身体を倒す。

 そこで、ハンスのおかげか分からないが、確かにみんなの緊張も解け、いつもの顔に戻る。


 心の中でアルトはハンスに御礼を言い、王城に転移したということがあったのだった。


 ◇◇◇


「ゲーラめ、とうとう本性を現しおったか。前々から、あやつの領地の経営術は気に食わなかったが、あそこの代官はゲーラの横暴な政策を自己犠牲することによって、いくらか緩和させてきておった……こちらからの視察に行った者もそれで大分まいっていたのだ。何かあれば身分の降格も出来たんだろうが、中々尻尾を隠しおってな……」


「代官もグルってことですか?」


 あら、代官だった人物……こっちで保護してるんだけど?しかも有能そうだったからこっちで役職付けようかしたのにな。


「いいや、あやつはただの苦労人だ。領地を良くしようと、ゲーラを更正させようとひたむきに頑張っておった……。だが、もう放置するわけにはいかんな。アルトよこちらからも騎士・魔術師団を出そう」


 良かった、アイツは大丈夫なんだな。

 それに騎士団に魔術師団とは……領主同士の内紛で王城が出ることはあまりないって聞いていたのに……。


「えっ?良いのですか?」

「言ったではないか、アルトの好きにせればよい。それに、力も貸すとな。ただ、はき違えるなよ?お前が民を裏切る行為をしない限りだ」

「重々承知しております」


 ありがとう、父上。

 本当に助かる。


「うむ。では第1から第3騎士団並びに魔術師団をお前に預ける。……だが、間に合うのかアルトよ?」

「大丈夫です。『転移』でひとっ飛びでございます」

「……そうか、お前の秘密にしていた能力を使うのだな……」

「本当ならまだ隠しておきたかったですが、民の命には変えられませんよ」


 そんなに民がすぐ死ぬような事も嫌だし、後悔はしたくないからな。


「ふふっ、それでこそわが息子よ。吉報を期待しておるよ」

「はっ!」


 そのあとアルトは騎士・魔術師団と共に転移するのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る