第1話:オープニング01
◆ Opening01/Scene Player――マリアンナ ◆
ヨーロッパ・ロシアの一都市、ノビンスク。
ソビエト様式の画一的で質素なコンクリート建造物が、判子を押したように規則的に配置され、ただでさえ無機的だった街並み。
それが人の手を離れておよそ一年。街からは一切の生活感が消失し、寒々しい不気味な空気がたゆたっていた。
マリアンナ・アレクサンド=ライトは、そんなノビンスクのゴーストタウン化した団地を警邏していた。
黒のコートに映える透き通るような銀髪。
今日も相変わらず、
GM:最初のシーン。シーンインをどうぞ。
マリアンナ:7。そこそこホットね。
GM:では最初のシーンはRZ表層。本来、ジャームのいるエリアは軍とUGNの作戦によって封鎖されていて、この層はRZでも比較的安全な場所とされていた。しかし最近になって神出鬼没のジャーム、”オーボロテニ”が避難キャンプ周辺に出没するようになり、今のキミのようにエージェントが警戒を行っている。そして、最後の巡回ルートに行く直前で、キミの携帯端末に通信が入る。
マリアンナ:通信に出る。「……マリアンナよ。なに?」
GM:「……アレクサンド=ライト、定時連絡をお願いします。何か異常はないですか?」支部の事務員からの通信だ。元FHエージェントであるキミが相手であるためか、声が上ずって緊張しているのがわかる。
マリアンナ:「ふん、問題なさそうよ。普段通り、酷いものだわ」
GM:「そうですか。では予定通りに巡回を行い、帰還してください。定期的な連絡も忘れずに」
マリアンナ:「……わかってるわ。一々言わなくて結構。私を誰だと思ってるの?」
GM:「き、規則ですから……それでは」恐る恐る、といった感じで事務員の通信は切れる。
「はぁ……全く。堅っ苦しいたらありゃしない」
うんざりして悪態を呟きながら、マリアンナは携帯端末をポケットに捻じ込み、警邏を再開する。
――そう。普段通りだ。
”ゾーン”から
コンクリート壁にこびり付く、色あせて擦り切れた血痕。
無残な状態で道路に放置されたチェブラーシカのぬいぐるみ。
それらを目にすれば、いやでも様々なドラマが想像に浮かぶ。ああ、すべからく悲劇だ。
だが彼女はそれらに哀れみの視線を送っても、それ以上の感慨を持たなかった。これは、ノビンスクならばありふれた光景なのだから。
気だるさから来るため息を零して、最後の巡回ルートに向かう。これで、普段通りの警邏任務が終わる。そのはずだった。
――不意に、周辺のレネゲイドの高まりを自覚すると同時に、眼前の景色が蜃気楼のように歪む。
「――ッ!?」
マリアンナは、咄嗟に身構える。
”転移”現象――RZで時たま起こる異常現象で、超高濃度レネゲイドの作用により、物体が空間を飛び越える事象を指す。その対象には生物も含まれるが、今まで表層付近で確認されたものは、すべて死亡している。
なのに、彼女の前に現れたのは生きた人間だった。茶色の髪を後ろで結った線の細い青年だ。顔つきからすると、アジア人か。
GM:イワンはシーンインをお願いします。
イワン:侵蝕率5点上昇。……えっと、これは、意識あるんです?
GM:一瞬マリアンナの姿が目に映って、イワンの意識は途絶える。特に行動は出来ない。
イワン:じゃあ、転移時は立ってて、何か呟いたと思ったら倒れたって感じに。
GM:了解した。ではここで、マリアンナは難易度7の<知覚>判定をしてくれ。
しかし、4個のダイスを振って、最高値は6。<知覚>判定は失敗となってしまう。
マリアンナ:……幸先悪い。
GM:失敗か。ではキミは”転移”に気をとられていたのだろう。背後のその異質な存在感とレネゲイドに気付くのには、少しばかり時間を要した。
マリアンナは背後を振り返る。そこにいたのは、人型のシルエットを持つ、灰色の皮に覆われた異質な生物――コードネーム”オーボロテニ”と称される危険なジャーム個体だ。
”転移”現象によって高まったレネゲイドに反応して現れたのだろか。
「……ちっ、こんな所で……」
”オーボロテニ”はまだこちらに気づいていない。先手を取れる有利な状況だが、重傷を負っている人間を放っておくわけにはいかない。
「……こいつを放っておくのは、UGNの主義に反する事ね。はぁ……面倒な奴、見つけちゃったわ」
ぼやいて、”転移”で出現した男を担ぐ。目撃情報以外、何も得られなかったが、この状況では撤退しかない。
マリアンナ:では十分な距離が取れたら、緊急通信で支部にジャームの報告を入れておくわ。担いでいる特異な人物の事も含めて。
GM:わかった。ではキミは安全な場所まで逃亡し、ジャームについての連絡と救護班の要請を行った。この辺りでシーンを切り替えよう。
マリアンナは、赤十字マークの装甲車に彼と同乗し、UGNの支部へ帰還する。
その道中、頬杖を付ながら気絶した彼を眺めていたが、
「……はぁ。な訳無いでしょ」
そう呟いて、考えを振り切るように
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