第2話:ミドルフェイズ04
◆ Middle04/Scene Player――アンゲリーナ ◆
”ゾーン”の中層に区分される領域――そこには、自分たちを除いて正気を保った存在はいない。
あの建物の影から、窓から、屋上から。いつ何が飛び出すのかわからないのだ。
美裂が生み出す《無音の空間》で雪を踏む足音を隠しながら、発信源を辿って急ぐ――。
マリアンナ:「はぁ、なんにもないわね……まぁ、当たり前っちゃあ当たり前だけど」
イワン:「何もないというよりも、見れば見るほど
美裂:「何事もないほうが私としてはありがたいんだけどね」
アンゲリーナ:「ヘルメット様々ね……」
そう言いながら、アンゲリーナは横目でイワンを見やり、腰の弾薬ポーチに手を添える。リディア少佐から渡された”レネゲイド鎮静弾”……。
――使わずに済むならそれが一番、か。
心の中でごちる。
マリアンナ:「……アンゲ? どうしたのよ、そわそわして」
アンゲリーナ:「いいえ、何でもないわ。それに、そわそわしてるのはお互い様じゃない? 視線に落ち着きがないわよ」
マリアンナ:「うっさい。地味に私のことを観察してんじゃないわよ、この迷探偵」
毒のある軽口はいつものことだが、マリアンナの表情にはいつもの余裕がない。
それは、皆も同じ精神状態だ。完全な敵地での孤立状態。それだけで、神経が削られる――。
GM:さて、君たちがちょうど建物に挟まれた見通しの良い道に差し掛かったとき――全員<知覚>判定難易度7をどうぞ。
一同:(ダイスロール)。
マリアンナ:なんかみんな成功してる……。
アンゲリーナ:これは、後が怖いパターンね。
GM;おお、素晴らしい。では――。
それと同時、アンゲリーナは
アイアンサイトで必中を狙える距離。目標を見定め――そして、愕然とした。
なぜなら、シルエットの正体は――。
ベロニカ・セーロヴァ。避難キャンプから姿を消した友人だったからだ。
ベロニカ:「
アンゲリーナ:「ベ、ラ……!?」
マリアンナ:「……あいつって……」
アンゲリーナ:「なんで……どうして、あなたがこんなところに……」
ベロニカ:「そりゃー、上手くあのジャームの襲撃に紛れて逃げ出したからに決まってるでしょ」
マリアンナ:「……アンタ、ここが何処だか分かった上でその発言してるんでしょうね?」
アンゲリーナの縋るような質問に、
”ここ”は、既に”ゾーン”の中層。狂ったジャームしか存在しない領域だ。
イワン:「ベロニカさんの状態には仮説が立てられます。《AWF》なら――」
美裂:「だから平然としてられるってわけなの?」
ベロニカ:「そうねー、多分私の登録情報にはそんな風に書いてあるはず。日本人もなかなか洞察力がいい」
《AWF》ならば、”ゾーン”の領域内に進入してもオーヴァード化しない。
それならば、”マインドジャマー”もあるいは――と考えたのだが、
ベロニカ:「でもさ、《AWF》があっても、マインドジャマーの影響下では頭が狂っちゃうの。あれは直接脳に幻覚情報を送り込む仕組みだからね」
わずかな希望に
ベロニカは、その希望さえも奪うかのように、言葉を紡ぐ。
アンゲリーナ:「……ベラ。あなた、何者なの。改竄された避難民登録情報。RZ内でも平然としていられる上に、軍もUGNも知らないマインドジャマーの情報まで」
リディアの着任時、彼女に渡された紙片には「ベロニカの避難民登録情報は改竄されていた」と記述されていた。
避難民に義務付けられた定期的なレネゲイド反応調査では常に陰性を示していたが、それが嘘だった可能性が高い、と。
ベロニカ:「さてね。でも、お互いどういう立場かはわかるはず」
アンゲリーナ:「っ……」
イワン:「しかしそれが事実だとして――どうするおつもりで?」
マリアンナ:「……そうよ。何のつもり? 何でアンタは私たちの前に出てきたわけ?」
ベロニカ:「そうねー、ぶっちゃけ、あんたらの反応が見たくて”我慢できなくなった”わけでー。全く、辛いところよね」
ベロニカの言葉がすべて事実だとして、それをわざわざこのような場で打ち明ける”意味”とは何か。
なにも、利点はないはずだ。
だが、逐一アンゲリーナの沈痛な面持ちを観察して”楽しんでいる”ようなあの姿を見れば、おのずと論が立つ――。
ジャームという、最悪の結論が。
美裂:「大人しくキャンプに戻ってきて欲しいけど……そういうつもりはないんでしょ?」
ベロニカ:「もちろん」
彼女は袖をめくり、前腕に巻いてあったウェアラブルコンピュータを操作する。
――直後。
複数の円盤型ドローンが、彼女の周囲に浮かび上がり、銃口を向ける。
そして、イワンたちの眼前に聳えていた雪の小山――瓦礫に積雪しているだけに思われていた――の中から、戦車のような軍用車両が飛び出してくる。
砲塔の中心上部からオーバーヘッド式に装備された連装機関砲、その両側面にはサーモバリック弾頭のミサイルが並び、箱型車体からは二門の自動擲弾発射機が顔を覗かせる。
いずれも効率的な人間の殺傷に特化した武装ばかり。それが、この車両の禍々しさを際立たせる。
ベロニカ:「少し予定が早いけど……ま、いっか。今は、お楽しみ優先で」
マリアンナ:「チッ……アンタに構ってる場合じゃないってのに! 舌打ちしつつ、応戦の準備をする。
このとき、どう対処するべきかPLは割れており、それを見てGMは<情報:軍事>で判定するように促した。
イワンは《生き字引》を使用して成功した他、マリアンナもダイス三個だったが運良くクリティカルした。
GM:では、現れた軍用車両はBMP-T”テルミナートル”と呼ばれる、T-72戦車の車体を流用した火力支援車両だとわかります。繰り返します、戦車の車体を流用しています。
イワン:はい。
アンゲリーナ:あっ……。
GM:無敵です。
マリアンナ:……勝てないわね。
美裂:この卓の戦車はA.T.フィールド展開してるからなぁ……。
GM:では、ここで選択してください。手近にある地下道入り口から地下を進むか、敵の攻撃に晒されながら正規のルートから目標地点を目指すか。
ここでGMは、ふたつのルートの内容について解説した。
地下道ルートは予定になかったので何が起こるのかわからず、正規ルートの場合は戦闘処理で2ラウンド目クリンナップを迎える必要がある。
ヘルメットの耐久度の問題もあり、話し合いで地下ルートへの移動が決定した。
GM:了解。ではキミたちは、軍用車両やドローンから身を隠すために、地下へ逃げ込む。
美裂:「総員そこの地下道入口へ! まともに相手したら死ぬわよ!」
マリアンナ:「逃げるわよ、アンゲ、イワン!」
アンゲリーナ:「っ……了解。ベラ……どうして……!」
イワン:「……残念です。残念ですよベロニカさん」
連装30mm機関砲の重い発砲音に追い立てられるように、イワンたちは地下道へ身を投じる。
その直後、”テルミナートル”から放たれたサーモバリック弾が四角いトンネル型の地下道の入り口に飛び込み、爆ぜて煙を立ち昇らせる。
サーモバリック弾がもたらす高熱と衝撃波、そして高温高圧のガスは特に閉所で威力を発揮する。まともな人間ならばこれで確実に死亡するが――ベロニカはすぐさま無人兵器群に次の指示を出す。
――彼らは、必ず生きている。
確信めいた表情で、彼女はにたりと笑んだ。
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