第3話:オープニング02

◆ Opening02/Scene Player――イワン(一人) ◆



 夢を見た。

 こめかみに突き付けられる銃口の冷たい感触。

 その引き金に指をかけているのは、他ならぬ自分。

 額に汗がにじみ、心臓が早鐘はやがねのように脈打つ。


 ――これで、解放される。

 

 指に力を込める。ゆっくりと、だが確実に。そして、かちり、と最奥まで押し込んだ瞬間――夢が、終わる。

 視界に映るのは、無機的な病院の内装。ここ数日は同じことの繰り返しだ。

 だが、それも今日でおしまい。治療が成功するか、それとも失敗するか。

 いずれにせよ、決着がつく。



エリーゼ:「――それでは、”治療”を始めようか。よろしく頼む」

イワン:「ええ。お願いします」

エリーゼ:「事前に書面で確認してもらったと思うが、記憶を取り戻す方法について、改めて説明しよう」


 ――彼女の説明によれば、レネゲイドには、人間の記憶や人格を保存する性質がある。

 それを利用し、イワンの体内にあるレネゲイドに働きかけ、記憶を引き出す試みを行う――というのが、記憶復旧の要諦だ。

 もちろんリスクはある。

 方法の性質上、侵蝕率の上昇と、衝動の刺激による暴走の可能性は避け得ぬ事態であるからだ。


エリーゼ:「コンピュータに例えると、整合性チェックを行い、ファイルを修復することでエラーを直す、というわけだな」

イワン:「なんて分かりやすい」

エリーゼ:「言葉で言うのは単純だ。しかし、実際には大きな負担がかかるだろう。――そのときは、あなたの仲間を思い出せ。彼女らは、待っているのだから」

イワン:「……そうしましょう」


エリーゼ:「では、始めよう。いいな?」

イワン:「はい」


 エリーゼが頷き、イワンに手を翳すと、まどろみと共に彼の視界は暗転した。



◆ Reminiscence/1st Scene――”一人かずと” ◆



GM:ここからは過去の場面で、回想シーンと同じ処理をします。つまりイワン――ここでは舟殳一人と呼びましょうか――は過去の場面ではシーンインをする必要はありません。

……では描写に行きましょうか。


 ――その日は、吹雪だった。

 舟殳一人は、貿易商の仕事で古物などを取り扱うロシアの会社を伺い、そこで豪雪に見舞われて足止めを受けていた。

 しかし、一人はその外聞の良さから取引先に気に入られ、一夜の宿を貸し与えられたばかりか、熱々のガルショ―ク(壺焼き。パンで蓋をされた深い容器の中に、シチューが入っている)でもてなされた。

 その暖かさに感謝しつつ、寝入っていた深夜の時間帯――舟又は、冷たい鋭敏な感覚に見舞われ、冷や水を浴びたような気分で飛び起きた。

 

 《ワーディング》だ。


一人:「……」 場所を探りに、コートを羽織って外へ出ましょう。静かにね。

GM:《ワーディング》の発生場所はすぐ外。ドアを開けてみると、そこだけ吹雪が止んでいて……彼女がいた。

都築京香(GM):「こんばんは。舟殳さん」


 そこにいたのは”プランナー”都築京香――。

 元FH日本支部長にして、現在はレネゲイドビーイングの組織ゼノスの代表として知られる彼女だが、この記憶に出て来た都築京香は妖艶な美女の姿をしていた。

 つまり、現時点から数年前の、FH時代の姿ということである。


一人:「……はて、何かFHの逆鱗に触れる事でもしたのでしょうか。こんばんは、都築京香」

都築京香:「私は、あなたに害意を持って会いに来たわけではありません。その目的を端的に言えば……スカウトです。といっても、FHに引き抜きに来たわけではありません。ある研究に協力してもらいたいのです」

一人:「何時かのあの計画を再びやるおつもりですか、あなたがたは」


 舟又が口にした”あの計画”とは、アダムカドモン計画のことであった。

 ジャームの治療法を探るべく、UGNとFHが呉越同舟で協力し――そしてその理念を失って暴走した挙句、破綻した計画だ。


都築京香:「近いですね。しかし、あのときとよりも、ぐっとハードルを下げた内容ですよ。私はある研究機関を立ち上げましてね。そこでは、”来るべき未来”に向けて、ジャームの衝動を抑制……制御するための研究を行っています」

一人:「……ジャームの治療ではなく、衝動の制御ですか。――して、”来るべき未来”とは?」


 くすり、と都築京香は妖艶に笑む。

 その笑顔に、一人はまるで蜘蛛の巣に囚われた羽虫のような錯覚に陥ったが、もはや後戻りはできない。


都築京香:「もはやレネゲイドは収束しません。オーヴァードはこれからも増加するでしょう。当然、ジャームも。ならば、”上手な付き合い方”を考えていくのが賢明ではないでしょうか?」

一人:「……オーヴァードの世界を目指しての事は、変わりませんか」

都築京香:「ええ。あなたがジャームを嫌っているのは知っています。お父上の件もあるでしょう。恐らくあなたは、衝動のままに生きる姿を嫌悪し、自分もそうなる可能性に恐怖しているのでは?」

一人:「…………さすが、人をその気にさせる事が上手なこと」

都築京香:「褒め言葉として受け取りましょう。して、返答は?」


 見惚れてしまいそうな笑顔。ジョロウグモだな、と一人は思った。

 しかし、蜘蛛の糸を掴むような心境で一人は返答する。


一人:「僕の性格は知っているでしょう。行きましょう、誰も醜い姿にならない世界を造りに」

都築京香:「結構。では参りましょう。”人革機関じんかくきかん”へ」


GM:ではシーンを切りましょうか。

一人:ここから始まったのか……。

GM:はい。すべては、都築京香の教唆きょうさから始まったのです。

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