第3話:ミドルフェイズ01

 ◆ Middle01/Scene Player――アンゲリーナ ◆



GM:ここからは残りのPCによる情報収集シーンです。シーンインどうぞ。

マリアンナ:(ダイスロール)……6点上昇。まずまず。

美裂:(ダイスロール)……3点。冷静さを失ってはいないようね。

アンゲリーナ:(ダイスロール)8点上昇。ちょい高めかな。落ち着け軍人☆探偵。

マリアンナ:軍人探偵って凄い字面ね……。


 エリーゼによる説明を聞いた後、ノビンスク支部の面々はレーラの命で情報解析を行うことになった。

 ラボX-18には、以前入手したもの以外にも情報や手がかりが残されており、それらを解析して敵情を知ろうというわけだ。

 

レーラ:「ま、地味な仕事ではあるけれど……こうしたコツコツとした作業が、実を結ぶのよ。参謀本部情報総局GRUの連中にも人員を出させたから、協力してやっていきましょう」

美裂:「ん~……こういうの苦手なんだけど、やるしかないわよね!」

マリアンナ:「……そうね。大事なことには変わらない」


GM:さて、アンゲリーナがRHOを公開済みなので、ここでは軍情報部の協力を得たという演出でイワンを除く全PCの財産点を+5するよ。

アンゲリーナ:これは美味しい。

マリアンナ:嬉しい……。

美裂:マリちゃん財産点持ってないからね……。

GM:ここからは情報収集だ。情報項目を開示する際、場合によってはそれがトリガーになってイワンの回想に突入する。回想シーンへの突入・復帰時に侵蝕が変化しない。それでは、情報項目を公開しよう。



▼「ノビンスクに潜む”組織”について」 <情報:FH、軍事>難易度10



GM:……もちろん、項目は増えますよ?

美裂:うん、じゃあとりあえず私からやります。失敗したらマリちゃんお願い。(ダイスロール)……じゅ、18?



▼「ノビンスクに潜む”組織”について」

 ノビンスクを拠点に活動している組織の名は、人類革新機関じんるいかくしんきかん(人革機関)という。

 FHの研究機関だが独立性が極めて高く、都築京香個人の出資と伝手で成り立ち、他のセルの干渉を受けない立場にあった。

 複数の研究が同時に並行して行われていたが、内容は大別して2つ。「ジャームの制御」と「人類総オーヴァード化」である。

 舟殳はスカウトを受けて前者の研究に参加していたが、後者の部署の存在を知らなかった。舟殳の部署には他に「ニキータ=デマントイド」と「マルタ・イリイーン」の2名が属していた。


〇新規項目「かつてのイワンの仲間について」追加。



レーラ:「……イワンはFHの研究機関にいたというわけね。とはいえ、これだけで彼を糾弾するわけにはいかないわ」

美裂:「そうですね……記憶が戻ったらきちんと話を聞いてあげたいところです。それからでも遅くはないと思うので」

マリアンナ:「FHの研究所……ね。FHの研究者は狂った奴らばかりだった。私はむしろあいつの体が心配よ」

レーラ:「そうね。何故記憶を失っていたのか。その裏では何が起こっていたのか……私たちは、知る必要がある。解析を続けましょう」


GM:さて、次の情報に行こうか。

アンゲリーナ:では、マリアンナにお願いしてもいい?

マリアンナ:いいわ。じゃ、私が。コネ:要人への貸しを宣言して(ダイスロール)……11、成功ね。



▼「かつてのイワンの仲間について」

○ニキータ=デマントイド

 コードネーム”シンセティック”。ジェムストーン計画の検体であり、限りなく成功に近い”失敗作”。

 幼い頃に誘拐され、ジェムストーン計画の被験者となったが、計画の頓挫と共に脱走して帰郷。UGNやFHと距離を置き、家族と暮らす。

 しかしあるとき、ジャームの暴走で家族を失う。彼はその仇を討つことに成功するものの、繰り返されるオーヴァードとジャームの悲劇に嫌気が差して人革機関に共鳴し、合流する。


○マルタ・イリイーン

 コーカサス出身。とある部族長の娘でオーヴァード。戦闘行動を忌避する。

 独立運動などで激化する紛争にオーヴァードが投入されるようになると、彼女自身も部族長の娘として戦場に赴いた。

 はっきり言えば”お飾り”であったが、あるとき敵の強襲を受け、防衛目的で能力を用いた際に暴走。敵も味方も壊滅させた。

 その後、自身の力の暴走とジャーム化への恐怖に苛まれていたところに都築京香のスカウトを受け、人革機関に合流。

 自身の過去と向き合う恐怖から、記憶処理薬を常備している。



マリアンナ:……まさかの同郷が現れた。

レーラ:「……この計画って、マーリャと同じ……」

アンゲリーナ:「ジェムストーン計画……他にも生き残りが存在していたのね」


 そう言いながら、アンゲリーナは横目でマリアンナを見る。

 彼女は驚き――その中に、怒りと恐怖を淀ませた複雑な表情をしていた。


美裂:「……」 心配そうな目でマリアンナを見てる。

マリアンナ:(一呼吸して)「……”シンセティック”。合成石の事ね。あの計画の犠牲者は、宝石関連のコードネームが付けられる。私以外に生き残りが……ね」

レーラ:「でも、おかしいわ。あなたが見た人工レネゲイドクリスタルは、”成功”だったはずよね」

マリアンナ:「……えぇ」


 イワンの身柄を巡って、”シームボル”と取り合ったとき、彼の体から零れ落ちた人工レネゲイドクリスタル。

 それは、本物と比べても全く遜色のない、輝きと力を放っていたと、マリアンナにはわかる。


マリアンナ「私の知る範囲では、あの計画は何の成果も残さずに頓挫したはず。預かり知らぬ所で、計画が誰かの手に渡ったというの?」

GM:……では、情報開示によってトリガーイベントに移行。再びイワンの回想シーンに入るよ。




 * * *




◆ Reminiscence/2nd Scene――”一人かずと” ◆



 ――都築京香のスカウトを受けて一人が配属されたのは、ロシアのノビンスク市だった。

 その地下には、旧ソ連時代のレネゲイド研究施設が残されており、それを都築京香が受け継いで「人革機関」を立ち上げたのだ。

 FHはロシア政権中枢に浸透を行っており、これだけの研究施設を用意出来たのは、その影響力もあるのだろう。

 

 ――かくして訪れた人革機関の地下研究施設「ラボX-18」。

 自分に与えられた研究室には、先輩に当たるふたりの男女がいた。


ニキータ(GM):「よっ、お前さんもプランナーの口車に乗ってきたタマかい?」


 開口一番にそう告げたのは、肩まで茶髪を伸ばした軽薄そうな男性だ。


一人:「まぁ、そんなところでしょうか」

マルタ(GM):「そんな風に言うのはやめましょう。……ごめんなさいね、フナマタさん」


 と、申し訳なさそうに謝るのは長い黒髪の女性。落ち着いた、品のある佇まいだ。


一人:「いいえ、事実ですので」

ニキータ:「ま、俺らも同じようなもんだがね。俺はニキータ。こっちはマルタだ。しかし、珍しい名前だな。ニホンジン……か?」

一人:「本日付で配属になりました、日本出身の舟殳 一人と申します。武器も持たない一般人ですが、持ち前の頭脳でお手伝い致しますよ」

ニキータ:「よろしくな。ここに来たからには知っているとは思うが、俺たちが行うのはオーヴァードの衝動の制御研究だ」


 そう告げて、彼らは早速資料を示しながら研究について説明を始める。


マルタ:「UGNをはじめとして、殆どの組織はジャームを制御不能な化け物と考えています。現状では、それも正しいでしょう。しかし……ジャームを治療……それが難しくても制御できるようになれば、不幸な悲劇の数を減らせる。私はそう思うのです」

一人:「誰しも持ち得る願いでしょう。私も、ジャーム化する事だけは死んでも願い下げですから」

マルタ:「そう……ですね」 


 彼女は口元を震える手で抑える。それを見たニキータが、言葉を継ぐ。


ニキータ:「……でな。衝動制御に関しては、マルタの能力に可能性が見出されている」

一人:「と、仰いますと」

マルタ:「……私のレネゲイド波長は、他者のレネゲイドと精神に影響を与えられます。このままではジャームには無力ですが、増幅手段があれば、これで衝動を制御できるかもしれません」

一人:「外部からベクトルを操作する、と言う事ですか。なるほど、理屈は通りますね」


ニキータ:「そして、その増幅手段として考えられているのが賢者の石だ。……俺は、賢者の石を人工的に生み出すための実験体でね。ふたりの能力を使って、何か出来やしないかと試行錯誤している最中だったが、ノイマンさんが加わってくれれば、研究は大いに捗るだろうぜ」

一人:「……ええ。私のお手伝いは、役に立ちますよ」


 それが、舟殳一人と彼らの出会いであり、奇妙な研究生活の始まりだった。

 しかし、ある日のこと。

 研究室を訪れた舟殳は、不審を感じた。研究室の扉のロックが解除されているので、頭だけ出して部屋の中を伺ってみたが、人の姿が見えないのだ。

 しかし、誰かがそこにいるのは確実だった。さめざめとすすり泣く声が聞こえる。


一人:「……どうされましたか」 


 声の許へ、その様子を伺いに近づくと、床にマルタが崩れていた。傍らの机には、白い錠剤のビンがある。


マルタ:「……フナマタ……さん。薬……を……」

一人:「……ええ、すぐに」 


 多くは聞かず、麻薬中毒の類でないことだけ確認して錠剤を渡す。

 彼女はそれを受け取ると、すぐに飲み込む。それからしばらく経つと、荒々しい呼吸も落ち着いてきた。


マルタ:「……ありがとうございました。みっともない姿をお見せして、ごめんなさい」

一人:「いえ、すぐに見つかって良かった」

マルタ:「……私、暴走で見境なく人を殺したことがあるんです。敵も味方も……肉親も」


 ――肉親。そう聞いて舟殳が思い出すのは、ジャーム化した父の姿。

 彼にとっては、忌まわしい記憶だが――それを振り払って、言葉を告げる。


一人:「……自身の暴走、でしたか」

マルタ:「はい。幸い、ジャーム化はしませんでしたが……でも、自分が為した惨状を見て、私は死ぬべきだと思いました。そこに都築京香が現れて、私の能力は、ジャーム問題を解決できるかもしれないと言ったんです」

一人:「それで、協力することにした、と」


 彼女は頷き、苦々しい表情で絞り出すように続ける。


マルタ:「口車だとはわかっていました。でも、怖かったんです。いつまた暴走するのか……あるいは、そのまま”戻れなく”なるのか。それ以来、この研究に参加しています。しかし時々、こうしてあのときの記憶がフラッシュバックするので、記憶処理薬を飲んでいます」

一人:「……抗っているのですね。誰よりも」


 力なく首を振って、彼女は自嘲めいた表情でつぶやく。


マルタ:「まさか。逃げですよ。薬に頼ってるんですから……。それに……私は自分勝手です」

一人:「何か後ろめたいことでもあるのでしょうか」

マルタ:「だって、他人や肉親を殺めたことよりも、自分が自分でなくなるほうが怖くて、この研究をしている部分があるのは、否定できないんです」


 俯く彼女に、舟殳は口調を強くして言う。


一人:「それで良いじゃないですか、マルタさん」

マルタ:「……」

一人:「ジャーム化したくない。それでも立派な動機です」

マルタ:「……フナマタさんは、どうしてこの研究に参加を? 元は、UGNのイリーガルと聞きましたが」

一人:「……嘘と誠、どちらを聞きたいですか」


 どこか自虐的な笑みと共に問う。


マルタ:「ロシアには、こんなことわざがあります。甘い嘘より苦い真実のほうが良いЛучше горькая правда, чем сладкая ложь、と」

一人:「では、包み隠さず話しましょう。こんな事を話せるの、貴方くらいですから」

マルタ:「お聞きしましょう」

一人:「……幻滅するかも知れませんがね、私がここにいる理由は、単に自分がジャーム化したくないからなんですよ」

マルタ:「私と、同じなんですね」


 弱々しく微笑むマルタ。


一人:「誰しも持ち得る、普通の欲望です。では、そう思う理由は何処にあるか。……私は……”僕”は、あの酷く腐敗した臭いを漂わせる魂が嫌いなんですよ」

マルタ:「ジャームが大嫌い、というわけですね」

一人:「ええ。ええ、嫌いです。大嫌いです。僕が武器も持たずに誰も害さないでいようとするのは、ジャームの様になりたくないからですよ」


 舟殳は、別人のように声音を変え、誰もいない一点を見据えて呪詛のように呟く。


一人:「……『あんな不穏因子を野放しにして良いのか』『お前の父ちゃんジャームなんだってな』『あなたは、私を傷付けない?』」


 父親がジャームに堕ちて悪事を働いた後、UGNに処理された過去により、舟又は冷ややかな視線と誹謗に晒されることとなった。

 それは、同じ存在であるはずの、オーヴァードからも浴びせられた。

 違う。自分は違う。ただそれだけを証明したくて――超人らしい大仰なエフェクトも、武器も使わず。ただの人間の延長線上のように振舞うようになった。

 貿易会社の社員というカヴァーで、世界各地を転々とするようになったのも、人付き合いを避けるため。そして、自分が傷つかないようにするためという側面があったのかもしれない。


一人:「……今でも鮮明に思い出しますよ。あの化物を見るような瞳。自分も同じなくせして、僕の事を悪魔の子か何かと勘違いするアイツらを」

マルタ:「……」

一人:「僕は人間だ、化物じゃない」


 力強く宣言する。


一人:「僕は誰も害さない。僕は、あの男の様に醜くない。僕は……自分のことが一番好きな、最低の男なんですよ。そんな僕から見れば、あなたはずっと勇敢で賢く美しい」

マルタ:「……いえ。私も――結局は、自分が可愛いだけなんです。死にたくないんです。だから、こうしてFHなんかの施設で研究している」

一人:「誰だってそうでしょう。皆生きたいと思ってる。もう一度言いましょう」


 マルタの顔を真っ向から見据えて、舟又は告げる。


一人:「――良いんですよ、それで。誰しも皆自分勝手だ。僕もあなたも自分勝手だ。だったら良いじゃないですか、ここで理想の世界を作ろうって思っても」

マルタ:「……ありがとう、ございます」


 マルタの頬を、涙が伝って落ちる。

 彼女は、何度も何度も――静かに頷いて、彼の言葉を聞いていた。




 * * *




GM:では、ここで回想シーンを一旦終了。さっきの情報収集シーンに復帰するよ。

アンゲリーナ:はーい。

GM:ここで新しい情報項目「人革機関の2つの研究について」を追加。



▼人革機関のふたつの研究について <情報:FH、軍事>難易度10



GM:まだ情報判定が可能なのは……リーナだね。

アンゲリーナ:はい。アンゲリーナ、参りますッ! 「コネ:要人への貸し」を宣言。<情報:軍事>で判定(ダイスロール)……16。ふう、仕事できたわ。

GM:情報を公開。さらに新しい情報項目を追加。



▼「人革機関のふたつの研究について」

 人革機関で行われていた研究は、二種類に分類される。

 ジャーム化しても理性を失わない方法と、全人類をオーヴァード化する計画である。


 前者に関しては、理性の”代替品”を作り出し、装着することで解決を図ろうとしていた。

 その際に問題となったのは代替品”理性”の判断基準である。当然、他者や機械に委ねることは出来ない。やはり”自分の意思”以外にない。そこで、賢者の石が持つ人格保存能力に着目した。

 具体的には、人工”賢者の石”にジャーム化前の自分の人格を保存して体に埋め込み、

 その人格が強力な変異型ミューズの調べを装着者に使用することで、ジャーム化しても理性を維持できる――というわけだ。


(※《ミューズの調べ》……他者の精神に影響を与え、操作するエフェクト)


 後者の全人類のオーヴァード化研究は、イワンも与り知らないところで進行しており、高濃度レネゲイド領域「レネゲイド・ゾーン」を地球上に満たす方法が考案された。

 しかし、このままでは当然多くのジャームを生む。人革機関が人類の発展を目標に掲げる以上、社会に害を及ぼすジャームは看過できない。

 そこで、ジャームの理性維持技術についての研究も並行して行われていたのである。


 つまり、人革機関とは全人類を暴走しないオーヴァードに進化させるための研究機関であり、二種の研究はその両輪であった。


〇新規項目「人革機関の転機」追加。



美裂:めちゃくちゃなこと言ってるわねこれ……。

レーラ:「”理性”の代替品の開発……そのための人工レネゲイドクリスタル、ね。大それた話だわ」

マリアンナ:「……成程ね。それであの計画が活きてくるわけね」

アンゲリーナ:「こんなことを思いつくのも、あの”プランナー”ならでは、ということなのかしら」

レーラ:「――でも、変ね」


 思考する所作をしながら、レーラが言う。


レーラ:「実際にあなたたちが目にした衝動制御装置は、他者の精神をかき乱す醜悪しゅうあくな生体機械だった。この情報に示された理念とはまるで異なる。研究は、どこかで歪められたことになるわね」

マリアンナ:「……いつだって、そういった計画の目的は歪むものよ。人間は欲望には抗えないんですもの」

アンゲリーナ:「調査を続けましょう。イワンのため、私たちのためにも、真実を知らなければならない」


 アンゲリーナの言葉に、一様に頷くと――彼女たちは、真実の探求を続行する。

 ”彼”の帰還を、最善の状態で迎えるためにも。

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