第1話:ミドルフェイズ01

◆ Middle01/Scene Player――イワン ◆



 その後、念のためにそのまま一日検査入院を行った後、イワンは退院した。

 三日もすれば、完全に快復するのだという。彼は、リハビリも兼ねて支部の日常を体験することにした。

 レーラから”お手伝い”をお願いされたのは、そんな折だった。



GM:さて、ミドルフェイズになるんだけど、ここからは皆で交流するシーンにしようと思う。シーンを作成・演出して誰かと話したりすることも許可されるし、交流したいけど特に話題が思いつかない場合は、イベントカードを使ってもいい。


 ここで、GMからPLに対して、イベントカードの説明が行われた。イベントカードは、このシナリオ用に作った特殊ルールだ。

 要約すると、以下のようになる。


 ①4枚のイベントカードから1枚を選ぶ。カードを選んだプレイヤーのPCがシーンプレイヤーになる。

 ②一緒に登場してもらうPC1人を指名し、許可を貰ってシーンに登場する。ただし、指名されたPCは侵蝕が上昇しない。

 ③シーンプレイヤーと指名されたPC2人でイベントカードの裏に書かれた技能の判定を行う。2人の判定の結果を合計し、それを達成値とする。

 ④成否によるデータ的なメリット・デメリットはない。カードはPL1人につき1枚までしか使えない。


 こうして提示されたのは「木材調達」「文化振興」「青空教室」「関係強化」と題された4枚のカード。

 PL間で話し合い、マリアンナに礼を述べたいというイワンの意向もあり、このふたりは「文化振興」のイベントカードを使用することにした。

 そしてカードをオープンすると、そこには「<芸術:>」とだけ書かれていた。


イワン:……芸術?

マリアンナ:芸術……?

GM:詳しいことはすぐわかるよ。とりあえず、イワンだけ侵蝕率を上昇して。

イワン:(ダイスロール)うわぁー……。10点上昇。


 レーラからの呼びかけに応じて、支部の大型ディスプレイ前にやって来たイワンとマリアンナ。

 映像通信を入れると、軍の基地らしき執務室にいるレーラの姿が映し出され、彼女は彼らの姿を認めるとこう切り出した。


「ん、よく来てくれたわ。実は、あなたたちに頼みがあってね」


マリアンナ:「……何の用? 特段、暇というわけじゃないのだけど」

レーラ:「えー、なんか暇してそう、って武蔵から聞いたからこうして呼んだのに」

マリアンナ:「友達かっ!? いや、確かに喫緊きっきんの用事があったわけではないけど……」

イワン:「……それで。私とマリアンナさんのふたりに頼みごとがあると聞きましたけど?」


 ブツブツと不貞腐れるマリアンナを横目に、イワンが問う。


レーラ:「うん。頼みごとって言うのはね……あなたたち、芸は出来る? 歌とか、踊りとか」

イワン:「……」 (【感覚】1、芸術技能無し)

マリアンナ:「……いいえ。別に嗜んだことはないわ」(【感覚】は4あるけどね)

レーラ:「……非番の相手にしか頼めないとは言え、人選間違った気がする……。実はね、避難民向けに催し物をやろうかと思ってるのよ。避難生活も長いからね。ガス抜きがいるわ」

イワン:「多国語で歌ったりしたことなら、忘年会とかで良くやっていました……けど、も……。そう言うのでは、無いですよね」

マリアンナ:「笑いの種にはなるんじゃない?」

レーラ:「別にそれでもいいわよ。普通なら歌手とか文化人を慰問に招くとこなんでしょうけど、ここはレネゲイドの機密がたっぷり詰まった場所だからね。一般人は招待出来ないの。だから、あなたたちが何かやってくれると助かる」

マリアンナ:「ま、いいわ。要は楽しませればいいのでしょう?」

レーラ:「畢竟ひっきょうそういうこと。エフェクトを使った手品とかでもいいわよ」

マリアンナ:「……そう。なら、勝手にやらせてもらうから」

イワン:「うぅ……む、うぅむ……やれるだけ、やってみます」

GM:それでは好きな芸術技能で判定してくれ。ただし――達成値の合計が2~7で不評、8~14で好評、15以上で大好評となっている。

マリアンナ:これは同一の<芸術:>じゃないといけない?

GM:まあね。共同作業だから。

イワン:えぇーどうすれば……本当に漫才でもします?

マリアンナ:私は、<芸術:硝子細工>とかで攻めてみようかと思ってたけど。


 PL間の話し合いの結果、選ばれたのは<芸術:硝子細工>。

 そしてふたりがダイスロールを行ったところ、イワンの達成値が8、マリアンナが1回クリティカルして18。


GM:合計達成値26……大成功だね。

マリアンナ:では、《テクスチャーチェンジ》を用いて、瓦礫を様々な硝子細工へ加工していくわ。


 ――かくして、避難キャンプの一角で執り行われた硝子細工展。そこには、精緻な硝子細工が並んでいる。

 しかし特に人気があったのは、白鳥、果物、魚などを象った――あえて悪し様に言えば、ごくありふれたモチーフの作品だった。

 特段不思議なことではない。いずれもRZでは遠くなってしまった日常の象徴――郷愁きょうしゅうに似た感傷が、彼らの心を惹きつけていたのだ。


 同展示は大好評で、お忍びで訪れるロシア軍兵士もいるほどだった。

 彼らも、こうした娯楽に飢えているのだろう。


マリアンナ:「……ま、こんな所かしらね」

イワン:「……ここは、芸術館か……」

ベロニカ:「あのネーチャンいっつもしかめっ面してる人って印象だったけど、こんなセンスがあったのか……」

イワン:「どれも……凄く、凄く綺麗です」

マリアンナ:「……そんな大層なモノじゃない。モルフェウスなら、誰だって出来そうな芸当よ」

イワン:「いいえ、こんなに澄み切った硝子を作る能力者、初めて見ました」

マリアンナ:「……あっそ」

イワン:「……あなたが、私を助けてくれたのも……きっと」

マリアンナ:「……はい、これで芸はお終い。私は帰るわ。もう十分満足したでしょう?」

 

 強引に会話を打ち切り、踵を返して歩き出すマリアンナ。

 そんな彼女の背に向けて、あの時は、ありがとうございました――と、イワンは頭を下げる。


「ちっ……調子狂うわね」


 聞かれないように悪態を口にしつつ、彼女はその場から立ち去っていった。


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