第3話:ミドルフェイズ04(1/2)

 ◆ Middle04/Scene Player――美裂 ◆



 彼は武器に取り囲まれていた。大はT-90戦車の125mm滑腔砲から、小は歩兵が構えるAK-74まで。

 あらゆる兵器の照準をその一身に集め、それでもなお穏やかな表情で余裕さえ感じる微笑を湛えていたのだ。

 そして彼は、彼らの姿を認めると、その笑みを一層深めた。



シームボル(GM):「どうも。待っていたよ、フナマタ。そして僕の願いを聞き届けてくれてありがとう、武蔵美裂」

美裂:「対話をお望みと聞きましたが、いったいどういうおつもりですか?」

シームボル:「まず、前回の諍いを謝ろう。急変したフナマタの身柄を確保しようと少々強引な手に打って出たことを」

アンゲリーナ:「……白々しい」ぼそっ。

美裂:「えぇ、随分手荒なことをしてくれたおかげでイワンが大変だったのよ」


 言葉こそ丁寧だが、美裂の語気は強い。内心は怒り心頭なのだ。

 それは他の仲間も同様で、マリアンナなど今にも噛みつきそうな形相で睨みを利かせている。


シームボル:「だが、思い返して欲しい。僕は、キミたちを”攻撃しなかった”」

イワン:「”レッドラバー”の勝手な行動を見過ごした責任もありますからね。でしょうシームボル」

シームボル:「その通りだ。レッドラバーとの戦闘で、傷ついたキミたちを倒すのは容易かった。にも関わらず、そうした手段に出なかったのは、僕なりの誠意だ。

それを明らかにした上で、僕は君たちとの対話を望む。ああ、安心してくれ。もうフナマタに用はないよ」


 慇懃だが冷淡過ぎるシームボルの態度。

 マリアンナがジェムストーン計画の研究者を想起し、顔に怒気を浮かべるのも無理からぬ話であった。


マリアンナ:「利用できるだけ利用して、用が済んだらポイね……”嫌い”よ、アンタのこと」


 美裂も苛立ちを隠すことなく、真っ向からシームボルに食って掛かる。


美裂:「まだるっこしいわね。今私は結構イライラしてるの、目的を言ってみなさいよ」

シームボル:「恐らく、君たちはラボX-18のデータを調べ上げたはずだ。人類を導く、その意味が理解してもらえたと思う。無駄な争いを避け、人類の未来のために手を取り合わないか?」

アンゲリーナ:「手を取り合って、全人類をオーヴァードに覚醒させよう、と?」

シームボル:「そうだ。すべての人類がオーヴァードになれば、どれだけ世界が進歩するか」


 滔々と語るシームボルを、美裂がきっと睨みつける。


美裂:「本当に呆れた。それで人類を導く? ふざけるんじゃないわよ! そんなくだらないことのおかげでいったいどれだけの人が涙や血を流したと思ってんの!?」

シームボル:「確かに犠牲は出た。僕としても心苦しいことだ。でも進化のためには必要な痛みなんだよ。そして、その点も可能な限り配慮はしている。僕は人類のダメージが最小限になるように務めた。例えば、実験対象に”孤児”を選ぶなどしてね」

マリアンナ:「……そう。なら、私や”ラヨンヴォロス”の皆の痛みは、必要で、仕方のない事だって言いたいわけ?」

シームボル:「悲しいことだけどね。でも、こう考えられないかな。孤児の皆は、実験の犠牲になることで人類の未来に寄与できた、と」


「黙れっ!」

 辺りが静まり返るほどの怒声。マリアンナが、ついに吠えたのだ。


マリアンナ:「……確かにあそこは孤児の集まりだった。でも、あそこで皆が家族となって、必死に生きてたっ! それを否定して、人類の革新? ふざけんなっ!!!」


 肩で息を整えつつ、マリアンナは静かな声音で告げる。

「……革新だか何だかはどうでもいい。アンタは、皆の敵よ。私は……アンタを殺すわ」


シームボル:「……そうか。君たちは、そんなに今の停滞した世界を守りたいと? 未来に目を向ける気はないと?」

アンゲリーナ:「未来は自分で掴み取るものよ。誰かに押し付けられるものじゃない」

シームボル:「良い言葉だ。感動的だな。しかし、可哀想だね。こんなにも健気な君たちは、その後ろから”人類の愚かさの象徴”に狙われている」


 シームボルの一声に、レーラの顔が青ざめる。その変化を、マリアンナは目敏く見逃さなかった。


マリアンナ:「……レーラ?」

美裂:「一体何を言っているの?」

シームボル:「詳しくは、そこの小さな評議員に聞いてみるといいよ。そして、改めて考え直すことだ。懸命な判断を期待する」

GM:そう告げると、彼の体は周囲の空間に同化するように消えていく。《瞬間退場》。シーンから離脱します。


 彼の姿が消えて、周囲のエージェントや軍人たちがにわかにざわめき始める中、イワンは努めて冷静にレーラに促す。


イワン:「おおかた予想は出来ています。お話下さい、レーラ評議員」

レーラ:「…………言うしかない、か」

マリアンナ:「レーラ……隠していること、騙していること、全て洗いざらい吐きなさい。話はそれからよ」

レーラ:「わかってる。皆、場所を変えましょう。彼の言葉の意味を教えてあげる。その上で、どうするかは自分で判断しなさい」

美裂:「……わかりました」


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