第2話:ミドルフェイズ01(2/2)

 ビュッフェから料理があらかた消えてなくなり、アルコールもかなり進んだ宴のたけなわ――。

 食堂に、あるものが持ち込まれた。

 台座に乗せられたディスプレイと、二本のマイク――ずばりこれは、カラオケマシンである!


マリアンナ:「何よ……これ」

アンゲリーナ:「あの、評議員。つかぬことをお聞きしますが、これは一体」

レーラ:「なにって、カラオケマシンよ。日本のパーティーではカラオケが定番らしいから、機械を取り寄せてきたわ! 軍用機で!」

イワン・マリアンナ「「職権乱用!?」」


 気持ちと声が同時にハモった。パーフェクトハーモニーである。


レーラ:「えー、なにこの反応。みんなカラオケ嫌い?」

マリアンナ:「別に嫌いってわけじゃないけど……そもそもまともに歌ったことさえないわよ」

リディア:「別に歌のコンクールじゃないんですから、巧拙こうせつに関係なく好きな歌を歌えばいいのですよ」

レーラ:「そういうこと。まっ、下手なら下手で弄れるし♪」

GM:それでは、カラオケ判定について説明します。


 ▼カラオケ判定

 <芸術:音楽>で希望者順に行い、達成値×10点がカラオケの点数となる。

 デュエットを希望する場合は相方を指名し[自分と相方の達成値の合計÷2(端数切り上げ)]×10点が点数となる。

 いずれの場合も、最高得点は100点。がんばりましょう。


美裂:これ下手な数字出したらボエーもあり得る!?

GM:ファンブルはジャイアンです。達成値0として扱います。さあ、まずは誰からさかなになる?

美裂:特に意見がないようならトップバッター行きましょうか。めちゃくちゃ酔ってるはずだし。

アンゲリーナ:いいぞ支部長~!

マリアンナ:お願いするわ。こっちはまだ準備中だから……。


 そしてこのとき、美裂が選択した曲は「カブトムシ」。

 当然ながら歌詞は載せられないが、婚期に焦る女性キャラクターが歌うものとしては、非常に切ない恋愛歌であったことを追記しておく。

 (ちなみに、曲名には著作権がないのでそのまま載せています)


GM:では、ここで<芸術:音楽>で判定してもらおうか。

美裂:あっ、《無音の空間》でスタジオ化して音響良くするとかで補正もらえますか?

GM:ダイス+1D、達成値+1で。

美裂:では行きますか(ダイスロール)補正を入れて達成値は9……90点ね!

マリアンナ:「……何よ。美裂って剣だけじゃなくて歌も上手いのね」

美裂:「まぁ、歌いなれてるからねぇ……」


 顔をうつむかせて寂しげな相貌そうぼうを浮かべる美裂。


イワン:「(何でよりによって選曲がそれって盛大にツッコミたい)」

レーラ:「……なんというか身につまされる歌詞ね……」

美裂:「やめてくださいレーラ評議員……」

マリアンナ:「何で墓穴掘りに行ったのよアンタ……」

リディア:「自分の歌でダメージを受けないでください……」

イワン:「つ、次どうしましょうかね! ね!」


 イワンが必死に話題を変えようとする中で、名乗り出たのは――。


マリアンナ:「……じゃあ次は私が行きましょうか」

レーラ:「まともに歌ったことない割にはノリ気ね」

マリアンナ:「ここで誰かコケとかないと後が辛いでしょう?」


 カラオケマシンを操作し、適当に曲を探すマリアンナ。。


マリアンナ:「といっても歌なんて知らないし――ん? へぇ……よし、これにしちゃいましょう」


 このときマリアンナが選択した曲は「ガラスの鏡 ーMirror Metal Versionー」。

 歌:新時あさ美/制作:ロイヤルクラクションミュージック(http://royal-klaxon-music.com/ index.html)

 サイト:ー 『Fate/Grand order』キャラクター・イメージソング置き場 ー(https://cholineinositol.wixsite.com/mysite)

 上記サイトにて公開中のフリー素材です。素晴らしい曲なのでぜひご一聴を。


マリアンナ:というわけで判定行くわ。(ダイスロール)……8。

GM:80点。結構良い点数ですね。

マリアンナ:うん。普通っ!(ネタにならない)

美裂:80点は普通に高得点なのよねぇ。

イワン:こっちのことも考えて。 ←【感覚】1

アンゲリーナ:悲しみを分かち合おうイワン……(泣) ←【感覚】1


 ――透明感のある歌声が、響き渡る。

 声の出し方など、歌い慣れていない様子は、確かに細部に宿っている。しかしそれ以上に声音と歌詞がマッチングしている――。


レーラ:「誰かコケとかないと後がつらいとか何とか言って、これはどういうことかしら、マーリャ」

マリアンナ:「べ……別に私は悪くないでしょう!? これ! この機械が悪いのよっ!」

美裂:「これは想像通りとも言えるし予想外とも言えるわね。綺麗な歌声だったわよ」

リディア:「はい、私たちが聞いても、良い歌だったかと」

アンゲリーナ:「ほんと、意外な特技だったわ」

マリアンナ:「~~~ッ!! はいっ! これで私は終わり! 次っ! 早く歌いなさいよ!」

レーラ:「マーリャのおかげでハードルが上がったけど、次は誰が行く?」

アンゲリーナ:「……さて、私は軍の皆に挨拶に……」


 アンゲリーナが腰を浮かせた瞬間、マリアンナががしっとその腕を掴む。

 アルコールのせいなのか歌のせいなのかはわからないが、赤みを帯びたマリアンナの顔が如実にょじつに物語っている。

 ――”逃がさない”。


レーラ:「なるほど、次はリーナが行くのね!?」

アンゲリーナ:「えっ」

マリアンナ:「逃がす訳ないでしょ、アンゲ。アンタも死に様晒しなさいよ」

美裂:「逃げちゃダメよ~」 マリアンナの反対から腕を掴む。

レーラ:「上官命令。歌いなさい”ヴァローナ”」

イワン:「またも職権濫用案件……」

アンゲリーナ:「……任務、了解……」


 泣き出すのを堪えるような悲痛さを纏いながら、アンゲリーナが選んだ曲は「Take Me Up Higher」。〇ィガじゃありません。

 そして、その結果は――。


アンゲリーナ:というわけで、判定参ります。イージーエフェクトは……宣言なしで。自分の運を信じたい。

GM:よかろう! やってみせよ!

アンゲリーナ:逝くぞァ! (ダイスロール)


 ――裂帛の気合と共にダイスが回る。


 だがしかし。無情にも、ダイスの女神への願いは届かず……


 晩鐘と一天地十の賽の目は「1」を指し示した。


GM:あっ。

イワン:!?

マリアンナ:(笑)

アンゲリーナ:世知辛い……。

GM:ファンブル……0点


 「ダブルクロス」では、振ったダイスの目がすべて「1」だった場合、ファンブルとなる。

 そして、その判定は自動失敗となり、達成値は0になってしまうのだ。


レーラ:「武蔵、武蔵」

美裂:「はい」

レーラ:「《無音の空間》お願い」

マリアンナ:「……後生だから私も入れてちょうだい」


 他の皆が美裂の作り出した音のシェルターに避難する傍ら、イワンはひとり耐えた。

 自分だけでも味方でありたいと、高い精神力を以て。


アンゲリーナ:「……任務、完了……!」


 『やりきった感』を顔中にみなぎらせながら、アンゲリーナは静かにマイクを置いた。なお自覚はまるで皆無のご様子。


マリアンナ:「……やりきった、って顔してるわね」

美裂:「うん。とっても……こ、個性的(?)な歌だったわね。……機材壊れてないよね? おかしーなー……」

イワン:「皆さんの個性が出ましたねぇ……」

レーラ:「と、とにかく、次行きましょう次!」


 ディスプレイの表示がアンゲリーナに見えてしまう前に画面を切り替えて、レーラが次の標的を定める。


レーラ:「えーっと、ほら、次はイワンなんてどうかしら!?」

イワン:「――――」(ギクゥ)

レーラ:「まだ歌ってないでしょ。評議員命令よ」

イワン:「イリーガルに対するプライベートへの命令権は無いと推測致しますがッ!!  ガッ!!」

アンゲリーナ:「イワン……あなたに託すわ」 と、マイクを渡す。

マリアンナ:「諦めなさい」


 皆の視線が集中する中で、マイクを受け取ってしまうイワン。

 ここでどんな理路整然とした抗弁を述べても、この場には通じないだろう。まるで弁護士のいない不公平な裁判の被告人。彼は世界を呪った。


イワン:「酒の席はどの国も共通で辛ぃ……」(カラオケマシンを操作しながら)

マリアンナ:「日本もそんな感じなのね……」

イワン:《ドクタードリトル》で自動ロシア語翻訳すれば達成値上がりますか。

GM:うーん、達成値+1。


 イワンが選んだ曲は「vivid snow」。

 アンゲリーナと同じくダイス1つしか振れない彼は、10%の確率でファンブルしてしまうが……

 

 ダイスの出目は……「2」。かろうじて、まぬがれたのである。


レーラ:「あら、ディスプレイ画面を見る限り、日本の歌なのに……わざわざロシア語に翻訳してるの? 器用ね」

イワン:「これぐらいしか特技がないので!」

レーラ:「でもさー、それってマシンの点数自体は……」

イワン:「低くなりますね、はい。30点です」

レーラ:「でもまあ、珍しいものが聞けたから私は満足よ」

アンゲリーナ:「ええ、いい歌だったわ」

マリアンナ:「……アンゲ。アンタ一回、耳鼻科行った方がいいんじゃない?」

アンゲリーナ:「え? 私ハヌマーンだし、耳は良いほうなのだけど」

美裂:「コラ! マリちゃんやめなさい!」


 他の面々が必死にアンゲリーナのフォローをする中、イワンはマイクを握りしめる。

 死なば諸共――復讐するは我にありVengeance Is Mine


イワン:「――では、次はレーラ評議員、いかがでしょう」


 まるで首筋へ向けて突き付けられんとする匕首あいくちの如く、レーラの眼前に差し出されるマイク。


レーラ:「……え、わ、私?」


 うろたえるレーラに、イワンはただ微笑を浮かべ、マイクをさらに押し付けることによって返答と為す。

 いつものように線の細い儚げな笑みではない。能面のような、冷ややかな作り笑顔。

 そこから言外に語られるのは”部下やイリーガルに任せといて逃げたら立場どうなるか分かってるだろうな”という漆黒の意思――!


マリアンナ:「いいわね。私もそう思ってたところよ」

美裂:「今日は無礼講ですから。ね?」

アンゲリーナ:「みんな、容赦ないわね……」

レーラ:くっ――こうなれば《完全演技》! 達成値+1!

マリアンナ:ノイマンだこの人~っ!?

イワン:この卓はノイマン/ハヌマーン/モルフェウスしかいないんですか!?

GM:ともかく、最後はレーラとリディアのデュエットで判定行くよ。


 ――結論から申し上げると、レーラとリディアはふたりとも100点を叩きだした。

 評議員ということで能力値を高めに設定してあるレーラと、射撃型キャラであるリディアの組み合わせなのでむべなるかな、である。

 ちなみに選曲はロシア民謡の「カチューシャ」。


レーラ:勝った。

マリアンナ:負けた……。

美裂:「――…………」(言葉が出ない)

リディア:「中佐。目を瞑らなくても大丈夫です。100点ですよ」

レーラ:「えっ、ほんと? ……ふっ、見たかしら! これが私の実力よ!」

マリアンナ:「……なんでよ」(愕然)

美裂:「レーラ評議員が一番の驚きなんですけど……。そんなに上手かったんですか!?」

レーラ:「ええ、当たり前じゃない」


 ふんぞり返って言うレーラだが、《完全演技》で前に見た歌手の真似をして難を逃れていたのは秘密である。


レーラ:「よーし、じゃんじゃん呑んで、もう一周いってみましょうか!」

マリアンナ:「……あぁ、この流れ終わらないのね」

イワン:「ちょっと催してきたのでお花摘んでぇー……」(そそくさ)

マリアンナ・レーラ:ガシィ!


 腰を浮かせて立ち上がろうとソファに両手を付けた瞬間、両脇から延びる腕に絡め捕られる。


マリアンナ:「逃がす訳ないでしょう。アンタも死んでいきなさい」

イワン:「こんな死に方は嫌だ、こんな死に方だけは嫌だぁあ!!」

美裂:「今日は朝までカラオケ大会よ!! もっとお酒持ってきて!!」


 その日、食堂は不夜城の如く明かりが朝方まで絶えることはなく――

 夜通し呑んで歌って、皆が疲労困憊して眠りこけることで、ようやく楽しいクリスマス・パーティーは終わりを告げたのであった。

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