第1話:ミドルフェイズ12

◆ Middle12/Scene Player――アンゲリーナ ◆



 街の中心部へと続く、幅広はばひろ舗装道路ほそうどうろを往く。

 そんなノビンスク支部の一行を阻んだのは、周辺の建築物を破壊して築き上げた巨大な瓦礫がれきかたまりだった。

 この先には、一か月前までUGNが支部を構えていた公園地帯があるのだが――。



GM:次は行くならエリア4か。誰が行く?

美裂:行きましょうか。

イワン:ここからは私が輝く時代だ。行きますよ。そりゃ。

マリアンナ:リーナはどうする?

アンゲリーナ:すごく悩む。悩んでいる。……いいや、出てしまおう。後のことは後で考える。リーナも登場します。


 全員が侵蝕ダイスを振る。この時点でイワンだけが侵蝕率80%を越えた。


イワン:燃えるぅ!

GM:さて、キミたちの眼前には道を塞ぐ巨大な瓦礫のバリケードがある。これを退かす、もしくは飛び越えることでエリア5に行けるよ。

 こちらから提案する瓦礫の突破手段はふたつあるけど、それ以外にもPL側が発想や方法を考えれば、裁定する。


 そして、GM側が提示した方法が以下のふたつだ。

 ①「瓦礫を破壊する」……特殊エネミー「瓦礫」に一定以上のダメージを1ラウンド中に与えて破壊する。恒久的に通行可能。

 ②「飛行状態になる」……「飛行」状態になれるエフェクトやアイテムを使用する。使用者のみ通行可能。

 しかし、残念ながら――誰も飛行エフェクトを所持していなかった。


イワン:……はい、破壊する以外に意見ある人ー。

美裂:体力には自信あります。(破壊に賛成)

アンゲリーナ:破壊には賛成です。うーん……”ここ”なのかなぁ。

マリアンナ:苦しい……苦しい……。破壊に賛成。

イワン:なんて事でしょう脳筋しかいません。

GM:……破壊する、でいいのね?

イワン:飛び越えるにしたって、飛行エフェクトは誰も持って無い。肉体判定で攀じ登るか、支部長に全員投げてもらうとか。

美裂:鳥になってこい!

マリアンナ:案がないわけでもないわ。ジェットスーツを調達するという選択もある。他には、飛行状態になれるヴィークルの調達などね。


 ジェットスーツはサプリメント『インフィニティコード』掲載のアイテムで、飛行状態になることができる。

 また、同サプリには飛行状態になるヴィークルなども掲載されていたが――調達難易度の高さがネックであった。


アンゲリーナ:一応、こちらからも提案できる手段はあります。

マリアンナ:……なるほどね、あれのことかしら。判定を絶対に成功させる名探偵さん?(『マスターズコネクション』のことを言っている)

アンゲリーナ:いや、それではないわ。

マリアンナ:え、違ったの……?

アンゲリーナ:うん。誰もリソース使わずに瓦礫を撤去できるの。アンゲリーナを信じてくれますか?(笑)

イワン:?

アンゲリーナ:ぶっちゃけよう。ここで、アンゲリーナのRHOを公開しようかと思います。


 実は、他のPLたちが方法を議論する裏で、密かにGMはアンゲリーナから相談を受けていたのである。

 突然の提案に、アンゲリーナ以外のPLはさぞ驚いたことだろう。実際、美裂はかなりの慌てぶりだった。


GM:……吹っ飛ばす前に公開する? それとも吹っ飛ばした後に公開する?

アンゲリーナ:じゃあ、ふっ飛ばした後でお願いします。先に演出したいです。

美裂:え? え? 待って!

GM:どうぞ。そちらの演出に合わせる。


 みんなが瓦礫の突破方法を思案する中、鹿撃ち帽のツバを目深に沈めて、アンゲリーナが一歩前に出た。

 帽子の影から覗くのは――覚悟を決めたような真剣な面持ち。

 鋭い目つきが、困惑した視線を送る美裂を見返した。


「……ここを通るには、火力が足りない。そうですね、支部長?」


美裂:「え? まぁ確かに瓦礫を吹き飛ばそうと思ったらちょっと大変だなって感じだけど……」

マリアンナ:「アンタ、何を企んでるの?」

アンゲリーナ:「――ええ、まあ、潮時だと思ったの」 自前の”軍用”通信機を取り出し、直通でかける。

GM:すると、すぐに軍の士官が応答しますね。

アンゲリーナ:「……こちら”ヴァローナ”。巣に帰る、と上に伝えてください」

GM:「……了解。彼女らは、キミのお眼鏡にかなったのだな?」

アンゲリーナ:「ええ。RZ攻略の意志も、平和への理念も、戦う覚悟も、UGNノビンスク支部にはあると判断したわ」

一旦言葉を区切る。「そしてそれは、軍だって同じ。確かに私たちは同じ組織ではないかもしれない。けれど、共に戦う同士になれる――ならなければいけない」

GM:「…………」


 「それこそが、今、”日常”を守るための最善手だと進言します」

 

 ――それが、嘘偽りのない、アンゲリーナの本心からの言葉だった。

 固唾かたずが喉を通る。緊張の面持ちで、”上”からの返事を待つ。


「……上層部から連絡だ。”つがいで卵を孵化させろ”」


 ――……了承、の符丁ふちょう


アンゲリーナ:「では、早速、支援を要請します。ポイントXXに砲撃を。邪魔な瓦礫を吹き飛ばしてほしい」

GM:「了解した。自走砲じそうほうを展開し、間接砲撃を行う。退避せよ」

アンゲリーナ:「全員、安全圏まで下がってちょうだい。説明は、あとでするから」

マリアンナ:「はぁ……成程。”そういう”こと」

イワン:「頼もしいですね」

美裂:「まさかまさかの展開ね」

GM:全員が退避を終えた。あとは、キミの号令ひとつで砲撃が行われる。

アンゲリーナ:「総員、安全圏まで退避完了……放てっ!」


 ――号令と共に、遠くで雷鳴らいめいのような音がとどろき、黒い影が瓦礫に殺到さっとうする。

 身を守るために隠れた厚いコンクリート壁越しにも感じる轟音と揺れ。その正体は152mm自走榴弾砲の一斉砲撃だ。

 アンゲリーナから「もう大丈夫」と言われてひょっこりと顔を出すと、瓦礫のバリケードは、その周辺の建物ごと消し飛んでいた。


アンゲリーナ:「さ、道はひらけたわ」 しれっと。

美裂:「とんでもない隠し玉ね……」

マリアンナ:「……アンタが、私を変に注視してた理由も納得ね。まだ腹立つけど」

アンゲリーナ:「マリアンナは理解したようね。それじゃ、歩きながら説明しましょうか。私の、本当の目的を――……」




 * * *




 ――某年五月九日、モスクワ・赤の広場。

 無数の観衆が集まっている。彼らの視線は、レーニンびょうとグム百貨店を挟んだ石畳の大通りに向けられている。

 軍楽隊が『ソヴィエト陸軍の歌』の演奏を始めると、北西の歴史博物館方面から、赤い旗を掲げて一両の戦車が進入してきた。

 丸みを帯びた鋳造砲塔ちゅうぞうほうとう。鋭い角度で傾斜した前面装甲。七十年前の大祖国戦争で活躍した古い戦車、T-34/85だ。

 その雄姿ゆうしに観衆が歓声と拍手を送る中で、彼は語り掛けてきた。


「アンゲリーナ・ラストヴォロフだね」


 大統領を筆頭にお歴々が並ぶ観閲台とレーニン廟を仕切る大型セットの裏手。人目をはばかるその位置で、アンゲリーナの名前を呼んだのは、胸にずらりと勲章を並べた軍の高官だった。そのすぐ後ろには、軍事パレードの礼服を着たボディガードが控えている。


「失礼します。アンゲリーナ・ラストヴォロフ、出頭しました」

 紺色の制服の胸元にゲオルギーリボンを飾ったアンゲリーナが敬礼する。


軍高官(GM):「うむ。軍でも優秀なオーヴァードであるキミに、ひとつ極秘任務を与えたい」

アンゲリーナ:「は。どのような任務でありましょう」


 うぬぼれるわけではないが、アンゲリーナは確信を抱いていた。

 自分のような秘蔵っ子のオーヴァードを投入する戦場――それは、激戦地に間違いないと。


軍高官:「……ノビンスクは知っているかね。あの閉鎖された街のことを」

アンゲリーナ:「軍のオーヴァードで、知らぬ者はおりません。その街が、何か……?」


 控えていた礼服の軍人――軍高官のボディガードが、マニラフォルダに纏められた資料を差し出す。


軍高官:「くわしい説明はそこに書いてある通りだ。UGNノビンスク支部にイリーガルとして入り込み、内偵を行ってもらいたい」

アンゲリーナ:「カヴァーは……自称名探偵?」「いえ、任務了解いたしました。ノビンスク支部が信頼に足るかどうか、この目で見極めて参ります」


 ノイマンの処理能力を以て、あっという間に資料を読了し、頷く。

 少しばかり引っかかる内容もあったが、命令ならば是非もない。


軍高官:「ああ、任せたよ。……ノビンスクは、存外モスクワに近い。

影響が出るのは十数年先の話だが、いざとなれば計画的に数年をかけて住人の避難も必要だろう。そうなれば我が国の経済と国威こくいは危機的状況に陥る。ゆえに、本件はなんとしても解決せねばならない。しかし、クレムリンロシア政府は、UGNを信用し切れないでいる……理由は、わかっているな?」

アンゲリーナ:「親米的とされるUGNの諸事情に加え、コールドウェル博士の帰還、ですか」


 UGNはその設立経緯から、親米的組織と看做されており、かねてからロシアでは警戒感を持たれていた。

 そしてあの冬の日――世界中のメディアジャックと共に宣言された、UGN創設者アルフレッド・J・コードウェルの帰還とFHへの裏切り。

 各国政府に齎されたUGNへの不信感は如何ばかりか。それがもとよりUGNに懐疑的な国なら、言わずもがなである。


軍高官:「そうだ。そこでであるキミが、UGNに潜入して内偵を行い……実態を調査するんだ。問題がないとなれば、軍も動かしやすくなる。全面協力は難しいが、な」

アンゲリーナ:「UGNは本当に、手を組むに値する組織か否か……この任務の重要性、確かに承りました」

軍高官:「では早速、参謀本部情報総局GRUに連絡して一旦キミの過去を消し、潜入用の経歴を用意させる。行け」

アンゲリーナ:「はっ。それでは、”ヴァローナ”、任務を開始します」


 そう告げると、何食わぬ顔で観閲台に戻る軍高官と別れ、列線兵の高らかな「Ураウラー」の大合唱を背に浴びながら、アンゲリーナは一切の痕跡を残さずその場を去った。

 

 それから数か月の月日をかけて準備を整え、アンゲリーナはフリーランスのオーヴァードという”嘘”を得て、イリーガルの身分でノビンスク支部の内偵を開始した。

 すべては、母なる大地と、そこに息づく人々のために。……親兄弟のいない自分には、それしかないのだから。




 * * *




GM:以上、回想を終了する。RHOを公開してくれ(※リプレイではこのページの最下部に表示)

アンゲリーナ:(RHOを公開しながら)「――というわけで、軍の諜報員としてUGNノビンスク支部を見極める。以上が私の正体と、本当の目的よ」

美裂:「だからあの時、軍のことをどう思うかとか聞いてきたのね……」

マリアンナ:「……私については二重スパイじゃないかと疑ってたわけね。UGNに鞍替くらがえしたと思わせたFHじゃないかと」

アンゲリーナ:「……そういうこと。正体を騙って詮索して、悪いことをしたと思っているわ。許せとは言わないけれど」

マリアンナ:「そうね、私は今でも胸糞が悪いわ」


 憮然ぶぜんとしてマリアンナが言う。何の遠慮もない、彼女らしい正直な言葉。


マリアンナ:「ま、でもそっちは仕事だったんだし、恨みはしないわ」

美裂:「……私、そこそこ軍をよく思ってないとか言っちゃった」(滝汗)


 いつもの仏頂面と大差がないマリアンナとは対照的に、美裂はしどろもどろなって慌てふためいている。


美裂:「ご、ごめんねアンちゃん。決してそんなつもりだったわけじゃなくて、あの、その……」

マリアンナ:「問題ないでしょ。彼女が正体を明かしたということは、そういうことよ」

アンゲリーナ:「大丈夫よ、支部長。正直な意見が聞けて嬉しかったから。それに、両者の関係はこれから変えていけばいい。そうでしょう?」 マリアンナを肯定するように言うわ。

イワン:「ええ。これで双方が協力しやすくなったと言うことですからね」

美裂:「も、もちろんです! これからは両者歩み寄って良い関係が築ければいいなって思ってます!」

マリアンナ:「……私が言うのもあれだけど、手の平返し過ぎでしょ」

美裂:「だって……アンちゃんとは仲良くしていたいし……」

マリアンナ:「ま、互いの目的も合致した事ですし、進みましょう?」

アンゲリーナ:「ええ、でもその前に……」


 皆の前に出て、アンゲリーナが整った敬礼をする。


アンゲリーナ:「改めて……”ヴァローナ”アンゲリーナ・ラストヴォロフ。UGNノビンスク支部のお世話になります」

美裂:「は、はい! 今後ともどうぞ!」

マリアンナ:「はいはい。私はかたっ苦しいのは嫌いだから。いつも通りにいくから」

アンゲリーナ:「それでいいわ。じゃあ、進みましょうか」

イワン:「クスッ……えぇ、行きましょう」

アンゲリーナ:こちらからはこんなところでRPは終了ね。

GM:では、シーンを終了しましょう。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


●PC④用Rハンドアウト

Rロイス:UGNノビンスク支部 推奨感情 P:任意/N:任意

公開条件:PC1、PC2、PC3、レーラにロイスを取得し、P感情を表にする。ただし、あなたは前述した人物に1シーン1回しかロイスを取れない。

初期の固定ロイスの中に公開条件となる人物を含めて良い。


 キミの正体は、ロシア連邦軍の軍人である。

 そしてその本当の目的は、UGNノビンスク支部が信用に足る存在かどうかを確かめることにある。


 UGNは前身組織も含めて、アメリカ人が中心となって立ち上げた組織であること。

 最高意思決定機関である中枢評議会アクシズも、大半がNATO加盟国や日本などの親米的な国々の人間で構成されていること。

 極めつけに、UGN創設者のコードウェル博士の裏切り――。様々な要因により、ロシア政府はUGNを信用し切れないでいる。

 そういった種々の不信感は、ロシア国内におけるUGNの活動の制限という形で現れているのだ。


 キミがUGNへ合流したのも、内偵のため……なのだが、RZを取り巻く状況は日々悪化するばかり。

 ノビンスク支部が信用できる存在であるならば、素性を明かし、緊密きんみつな関係を築き上げて連携するべきだろう。

 そうすれば、軍もより協力的になり、RZ収束の一助となるかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る